- 『ある夏の日。』 作者:深海 / 未分類 未分類
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枕もとに立つ君は悲しげに微笑んで一つ涙をこぼした。
落ちてきたしずくは僕を窒息させるのには充分すぎて
僕はもがき立ち尽くす君に助けを請う
けれど君は笑いながら泣いていて…
僕は惨めに屍になるのを待ちながら夜の深さに恐怖を覚えた。
深く
深く
僕は
一人
光を求め
夜に落ちる
惨めな蝶は
光に翅を焼かれ
醜く
アスファルトに落ちる
朝が来ていた。
太陽は一周してまた僕を照らす。
隣では君がうなされていて
苦しそうに低く唸る…いつものことだ。
うなされてもがきながら助けを請うように僕の名前を呼ぶ。
その時
僕は必要とされていると確認できる。
だから
僕は君が苦しそうにうなされている寝顔が愛しくて堪らない。
別に異常だとは思わないしサドでもない。
誰だって必要とされるのは嬉しいことだ…自分の存在価値を確かめることができるから
少なからず僕はそう思う。
側にて
抱きしめて
僕の名前を呼んで
弱いから
僕の存在を認めて
必要として
僕を…
必要だと言って
しばらく、君の寝顔を見つめていた僕は妙なことに気づく。
時計はとっくに12時をまわっているのに君はいつまでも
眠り姫のように眠り続けている。
いつもなら僕よりも早く起きていることのほうが多いのに…
それでも僕は君を起こそうとはしなかった。
少しすると
君の長い指達が君の細い首を絞め始めた。
苦しそうに眉を寄せる君の顔
妙な気分だ。
このままでは君が死んでしまうかもしれない…
それでも僕はないも声にすることができなかった。
ただ、黙って覗いていた。
汗が額からこぼれて
今日がすごく暑いことに気づいた
本当に暑い。
それなのに
きちんと足の先まで布団をかぶっている君は
暑くないのだろうか…
そんなことを遠い世界の僕が考えていた。
君はますます苦しそうにうめいている
後二分も持たない
冷静に僕が僕に語る
僕は僕に君の死が近いことを教えられる。
妙な気分だ
僕が僕で僕が僕じゃないような…(もちろん君は君で君以外の君は君じゃないのだけれど)
時間が経つのがすごく遅くて、汗だけが休まず流れてくる。
君を起こすべきか否か僕は悩む。
僕は愛する君を死なせたくなくと
そして
僕は愛する君の最期がみたいと…
僕は僕だから僕は僕に従う
まったくもって理解できない…それも僕だ。
顔のない僕
君を愛したのは僕
君を愛するのは僕
君にキスを捧げたのは僕
君に愛を捧げたのは僕
初めまして僕
こんにちは僕
顔のないトランプは姫を守るためジョーカーに立ち向かう
僕は結局
何もできなかった
何もしなかった
何もしたくなかった
僕がどこかで泣いている。
胸が苦しい…そんな気がする
僕がどこかで笑っている。
口元が緩む…そんな気がする
涙がこぼれた
僕のものじゃない僕の涙
君の白い頬にしずくがこぼれおちた。
君の唇が動いて…呟いた…小さなうめきと一緒に…
それは小さすぎて見失ってしまいそうな程
それでも僕にはあまりにも大きくて押しつぶされてしまいそうな程重かった。
僕は笑った
なきながら
笑った
君は
最期に
僕の名前を呼んだんだ…。
助けを請うように…愛し合った僕の名前を…
そのまま君は塊になった。
少しずつ、もがきながら。
太陽の光がやけに目に焼きついて離れなかった。
裁判官!!
僕は愛されていたのです
僕は彼女を愛していたのです
だから
どうか
僕を裁いて下さい。
愛していたから
愛されていたから
どうか
僕を裁かないで下さい。
裁判官!!
裁判官!!
どうか
正しき判決を!!
僕は夢を見ていた
汗がだらだらとこぼれてくる…いつものことだ。
涙の乾いた痕が夢の恐ろしさをあらわしていたけれど
夢の内容はおぼろげでハッキリしない。
あたりを見渡しても僕以外いない。
セミの声が耳にまとわりつく。
僕は押入れをみて笑う…
愛した君の名前を呼んだ
愛している君の名前を呼んだ
「愛」と…呼んだ。
そして僕は、また眠りにつく。
君の香りが侵食する部屋で…。
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2005/01/05(Wed)01:34:36 公開 / 深海
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