- 『人間界外1』 作者:吟鼠 / 未分類 未分類
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人間界外
人間がいる世界を、人間界と呼ぶならば、彼らが住む世界は獣界であろう。
それは人間界の中にある野生動物の暮らす世界だ。
だが、それが人間の多くが勝手に創造する世界だとしたらどうだろう?
もしかしたら、獣たちも人間並みに進化しているのかもしれない。
文明を築き、人間以上の発展を遂げているのかもしれない。
っと、いうのは、作者の想像だ。
もしかしたら、そうかもしれないという創造である。
まあ、今回はその「創造」に浸ってみてください。
人間界で都会と呼ばれている場所にいるのは当然、人間である。
もし、動物がいても、犬や猫、ねずみや虫といった類の動物たちであろう。人間に飼われているかは関係ない。どのみちこの街に暮らしていることには変わりないのだ。
そして、この街に暮らす者は他にもいる。人間のあなたでも、眼を凝らせば見えるかもしれない。
「ん〜、しょっと、ないかなぁ・・・」
店の影にあるゴミバケツから、ふさふさとした一本の尻尾が、ゆらゆらとゆれて見えた。
「あっ!あったあった」
声と尻尾の主はバケツから勢い良く飛び出した。その際、ゴミのかけらが少し飛び散った。
「へへっ、今日は運がいいな」
バケツから飛び出したのは一匹の野良猫だ。だが、しゃべっている点に注目していただきたい。
猫は口にアジの開きをくわえていた。ゴミバケツの中から見つけたようだ。
「さて、早いとこ、チビタたちにところにかえるか」
猫はすぐさま、狭い通路を通り、早足で駆けていった。あさっているところを人間に見られないようにするためだ。
野良猫がゴミをあさり食料にしている光景を見ても、当然いい気はしないだろう。しかし、こんな場所で野良猫が生きていくにはこれしかないのである。これは別に猫に限ることではない。
この街にだって野良犬は存在する。野良犬も同じ状況である。
だが、猫犬の仲と言うのか(そんなものないが)やはり仲は良くない。
当然、エサの奪い合い等もめずらしくはない。うわさをしてみれば早速。
「オイッ!そこのチビ!」
猫の目の前に現れたのは、一匹の野良犬。雑種の犬である。牙をむけ、猫をにらんでいる。
首輪をしているが薄汚れ、書いてある文字が見えない。首輪をしたまま飼い主に捨てられたのだろう。
「その食い物をよこせ。よこさないと酷いことするぞ!」
犬は猫の加えているエサをよこすように要求した。多く野良たちの住むこの町。エサは駆け引き無しで手に入ること無いと言える。
「ふ〜ん、魚好きの犬ってのは珍しいな」
「うるせえ!とにかくよこせよ!」
エサが少ないこの街、魚の干物も犬にとって貴重な食料である。
だが、猫はあえて従わない。動揺せずに平然としていた。
「この野郎!痛い目にあいたいのか!」
「・・・犬ってのは、高いところは苦手なんだよね」
「はっ?」
「じゃあ」
すると猫は勢いよく塀にジャンプした。
「なっ、!」
猫は犬が上れない塀の上へ上がった。
「悪いけど、このエサは僕よりチビのやつらにやらなきゃいけないんだ。君にあげるわけにはいかないんだ」
そう言うと猫は塀の上を器用に走って行った。
「くそっ・・・」
犬は舌打ちをするように、その姿を見送った。遇えあて追わないのはなぜだろう。
そのころ、猫は塀しばらく歩いた後、安全な場所に下りて、住処へと走った。
猫の住処は廃墟になった工場倉庫である。捨て猫というと放浪しているという感じがするが、彼らは違う。
そして、「彼ら」とはこの猫の家族である。
「みんなぁ!帰ったぞ!」
猫は倉庫に入って大声で叫んだ。
「フレディ兄ちゃん!」
「フレディ兄ちゃんだ!」
「あっ、ごはん持ってる!いいな!いいな!」
暗い倉庫からかわいらしい声と小さい子猫の姿が現れた。その子もまだ、小さくややおぼつかない足取りだ。
「おお、フレディ。戻ったのか」
今の声は倉庫の荷物置き場から声がした。此処の長老の「祭(まつり)」と言う名の猫である。
「アジの開きが取れたよ」
「食べよ、食べよ!」
小さくとも子供たちは食べ盛り。食欲は旺盛である。
「あれ、チーマはまだミルクがいいんじゃないの?」
「僕もう大人だよ!」
「僕しっぽがいいな!」
「はいはい。ちゃんと三人分するから、喧嘩しない!」
やんちゃに騒ぐ三匹をフレディは苦笑いしながらなだめた。
「おい、待てよ。エサを食うのはチビどもだけか?」
これはフレディの声ではない。
倉庫の奥で金色の目が光った。その猫は近づいてきて、ようやく姿がわかった。黒猫のアスクである。もっとも、フレディは声でアスクだと分かったが。
「いくらガキだからってよ、エサをチビどもだけにやんのはどーかと思うんだが」
「何言ってんだよ。こいつらはまだ小さいんだ。ちゃんと食べないと大きくなれなんだぞ」
「俺はガキん頃から野良だ。しかも、生まれてすぐに捨てられた」
「だけど・・・!」
フレディは言葉に困った。
「アスク、いい加減にしねえか」
また別の声が聞こえた。やや太く低い声だ。
「口喧嘩に過去の話を持ち出すのは卑怯ってモンだぜ。ここにいる奴らはみんな捨てられたやつらばかりだ。つれえのはおめえだけじゃねえんだぜ」
声の主は此処のナンバーツー的存在である「鋼(こう)」である。
祭がゆっくりと立ち上がった。
「アスクよ。気持ちが分かるが、この坊主たちはわしよりも若い。その若い世代には、どうしても生きてもらわなければいけないのだよ」
「ちっ・・・」
二人の言葉にアスクはしぶしぶあきらめた。
「アスク兄ちゃん。おなか減ってるの?」
「僕らの分けてあげるよ」
「えっ・・・?」
アスクは子猫の言葉に驚いた。
「フレディ兄ちゃんいいよね?」
「まあ、取ってきたのは僕だけど、どう食べるかはお前らの自由だよ」
「やったぁ!一緒に食べようよ」
「お前ら・・・・」
三匹の猫の言葉にアスクは胸が熱くなった。
その様子をみてフレディは微笑んだ。
「何とか治まったな」
鋼がぼそりとつぶやいた。
「アスクは悪いやつじゃないんだ。ただ口が悪いだけなんだよ」
「食欲グセもな」
「あっ、そうだね」
鋼の付け足しにフレディは笑った。
「だけど、ちびたちが生まれて変わったなぁ」
「そうだな・・・」
フレディの見るアスクは子猫たちとエサを堪能していた。フレディの見る限りでは、アスクは幸せそうに見えた。
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2005/01/04(Tue)06:58:02 公開 / 吟鼠
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■作者からのメッセージ
初めて投稿します。
猫が主人公ですが、とりあえず読んでみてください。
よかったらコメントください。