- 『孤独な少年と少女と』 作者:フタバ / 未分類 未分類
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全角10232文字
容量20464 bytes
原稿用紙約32.85枚
序章
絶望の中の絶望に落ちたら人はどうするのだろか。あきらめてどこまでも落ちていくのか?
それとも最後まで光を探して無駄なあがきをし続けるのだろうか?
しかしその少年は違った。何もしなかった。
絶望したわけでもなく、けれども何かを追い続けていくわけでもない。
ただ待っていた。気の遠くなるほどの歳月を経て少年は待ってのだ。
─誰を?
彼女を
─なぜ?
約束したから。僕は彼女を『待ってる』って
嘘かホントかもわからない、あいまいな約束を。でも少年は待っていた。
─ずっと『待ってる』って約束した。
─僕は…
第一章
ここはキリス帝国の中心都市とされている街。ハンカーダ。にぎやかな街でなにかと品揃えがいい。なによりも活気があふれている街だ。
そして魔法としての研究も一番進んだ街であった。
魔法を教えている学校はいくつかあるが『第一聖徳魔術学園』は古くからある長寿学校だ。そこに少女は通っていた.。
エイミス。金髪赤眼の少女。黄金色で美しいほど輝いていて癖がない髪。彼女を始めて見た女性は必ずうらやましがるだろう。見た目は、おっとりとしていて落ち着いた少女にも見えるが・・・
「どぇ〜〜い。意味がわからん!」
見た目とは想像もつかないほどの暴言を少女は連発していた。今は応急手当用の簡単な〈白魔法〉を習っているところだった。
だが、エイミスは何度もケガした実験用のハツカネズミを使って試しているのだが、逆にネズミはケガが増えてきている。
「まぁまぁ、エイミス。そんなに焦らないで。落ち着いてやればちゃんとできるもの……」
イラついているエイミスにのんびりとした口調で声をかけたのは隣の席に座っている黒髪青眼の少女フェイだった。角がないまん丸としたメガネをかけている。そのまん丸としたメガネは印象に残る。
「だってさー、フェイ。これなんども集中してやってるのに、全然治らないんだよ」
ネズミを指差しながら文句を言いつけているエイミス。その指に反応しているのか、それとも自分に対して怒っていることに理解してか、は分からないが、ネズミはどこか震えている様に見える。
「だから、エイミスは焦っているから悪いのよ。普通のテストでは満点を取ってるのに、実施テストじゃいつも赤点だから、ほんとおしいのよね」
自分のことの様に残念がりながら手を頬に当てるフェイ。
フェイの言う通り、エイミスは天才の中の天才と言っていいほどの知能を持っている。生まれて三ヶ月くらいで話せるようになったという噂がある。また、小学三年ではもう、中学生レベルの問題をスラスラと解いていた。
っが。やはり完璧な人間とは存在しないものだ。どれだけ天才だの、秀才だのと言われてもやはり一つは欠点があるものだ。
エイミスは落ち着かなく、うまくいかないとすぐにやめる癖がある。そのせいで魔法などをやると必ず失敗してしまう。二十回中二回の割合で成功する。なので魔法実施テストのときはもう運にまかせている。そのせいで魔法学の成績は後ろから数えた早いとか…。
「だぁ〜。どうしよう!このままじゃまた宿題だ〜」
頭を両手で何度も書きながらイラだちを表している。
「う〜ん。ここままじゃ退学?」
当然のような口調でフェイはにこやか笑顔で言ってきた。
「変なこと言わないでよ。だいたい魔法がすべてじゃないんだから」
「でも、ここ。魔法学校よ」
エイミスの考えは一気にくつがえされた…。魔法文学の学校ゆえ、いくら成績が良くとも肝心の『魔法』が成り立たなければ意味がない。
元々『第一聖徳魔術学園』に入学するのはとても難しい。百人受けても十人しか合格しないほどだ。
エイミスが合格できたのは魔法文学で優秀な成績を取れたのと、エイミスには魔力が非常に強い。それが理由で合格できたことは過言ではない。
「エイミス。軍並みの魔力があるんだから勉強しなくちゃね」
おっとりとした口調でフェイはエイミスを見ながら言った。
先ほどにも言ったように、エイミスには生まれながら魔力が強い。ちゃんと魔法学を勉強していれば最高クラスの軍に入れるほどだ。何度が軍から話がきている。
だが、三日坊主の性格のエイミスの魔力は、宝の持ちぐされと言ってもいい。それに、エイミスはあまり『戦い』は好きじゃない。ただ、普通の生活を送っているだけで満足だと彼女は主張している。
「はぁ、めんどくさ〜い」
エイミスが面倒じみた声で言うと同時に授業が終わった。
放課後。エイミスは女子寮で先ほどの授業の宿題をしていた。何かというと、ネズミのケガを治す〈癒しの魔術〉をしようとしていた。授業中でできなかった場合はその日のうちに習得しておかなくてはならない。エイミスはいつものことだが、夜更かしが続いてしまう日が多い。いつもなら、フェイが手伝ってくれるのが、今回は独自の研究があるとかでエイミスを手伝うことはできないとか。
「だぁ〜もう最悪〜」
顔を机に伏せたままエイミスは疲れ果てていた。何度もやっているのだがネズミのケガはいっこうに治らない。友達に頼んで変わりにやってもらおうと思ったが、さすがにいけないとエイミスの良心が止めた。
「どこがいけないのかな?」
頬をかきながら授業の内容を思い出していた。
『いいですか。癒しの魔術は愛情をこめてやるのです。』
先生の言葉をふと思い出し何か考え込むような姿勢を少しすると、エイミスはポンッと手を叩いた。
「笑顔でやればいいんだ」
よくよくクラスの様子を思い出してみれば皆。エイミスの様に怒った顔ではなく笑顔というか普段の表情で魔法をしていた。「自分もそうすれば上手くいくのではないか」と考えた。まぁ確率として言えばかなり低が・・・。
「祖の傷つき体 光と共に無にする」
エイミスは呪文を唱えるとネズミの体は光始めた。今度こそ上手くいく。と思ったが光は突然消えネズミの傷は少しも回復していなかった。
「どぇ〜〜い。やってられるか!」
見た目とはとても似合わないエイミスの声が部屋中に響いた。
学園には二つ図書室がある。一つは普段から生徒に利用されている大部屋の図書室。そして地下室にある生徒たちに利用されている図書室よりも二、三倍は広い図書室がある。
地下室は電気をつけても薄暗く、それが理由でいくつかの怪談話がある。置いてある本もかなり古いため滅多に利用されない。
しかし、地下室には人影があった。金髪赤眼の少女エイミスだ。
「暗いなぁ〜」
電気はついているものの、薄暗いため片手にはランプを持ちながら本を探している。ちなみに探している本は『精神の極め』という本。どうも自分には精神の集中が欠けていると思ったエイミスはその本を借りようと思ってきてみたのだが…。
「お金だして買うほどでもないし、でもなんでここに置いちゃったのかな」
つい最近までは図書室に置いていたのだが、誰も借りなく人気がないため自動的に地下室へと移動させられたのだ。
地下室で本を探すのはかなり困難だと言える。薄暗いという理由もあるし、かなり広いため入って二、三日くらい行方不明になった生徒さえいるのだ。
なので、入る時は図書委員に許可してもらい地図をもらうという仕組みになった。
「あれ、行き止まりだ。おかしいな〜」
ちゃんと地図を見ながら探していたはずなのだが違う道を歩いていたようだ。壁には大量の箱が積み上げられている。物置として利用しているのだろう。
「ホコリまみれ。汚〜い」
箱の上には何十年も置いてあるのかということを推測できるほど大量のホコリが積もっていた。もう箱の側面が見えない。
「おろ?」
エイミスは引き換えそうとしたが何か一瞬光ったような気がした。気になり光ったところを探していくとペンダントが落ちていた。今落ちていたかのようにホコリは少しも積もっていない。貴族が身に着けるような高級そうな輝きを持っていた。
「誰か落としたのかな?でも、すっごく綺麗……」
水色の玉には何か模様が彫ってあり模様は虹色に光っている。あとは金色の糸でつながれている。
ペンダントは人を誘惑することができるほど何かひきつける物を持っているようだった。
「う〜ん。ちょっとぐらい付けてもいいよね」
自分に言い聞かせながらエイミスはペンダントのホックを外し、自分の首の裏に再びホックを付けた。
「鏡ないからわかんないけど、似合ってると思うんだよね」
自己で満足しながらエイミスは再び引き返そうとしたが…。
「………?」
何か光がでている。ペンダントからだった。
そしていきなり周りが光始めた。いや、周りが光っているのではなくペンダントから光が周りに飛び散っているのだ。
「なっ何?」
エイミスは慌てるが眩しいほどに光は強くなっていく。もう目を開けていられなくなりエイミスは、とっさに強く目を閉じた。
目を閉じて数秒たったほど光は消えた。いきなり目を開いて視界がぼやけないようにエイミスはゆっくりと目を開けた。
そこには壁と大量の箱だけがあるだけだと思っていた。
っが。そこには人が立っていた。十歳くらいの、もしくはそれ以上に幼い少年が一人。満面の笑顔でエイミスを見つめていた。
「待ってたよ」
「はっ?」
「僕、ずっと待ってたよ。フィアナ!」
少年はエイミスに向かって飛びついた。エイミスは突然の出来事に一瞬では頭が整理しつくされなかった。
「えっ?ちょっと待ってよ。あんた誰?ていうかどっこから出てきたの?」
エイミスは自分に抱きついてきている少年に戸惑いながら質問したが、少年は答えず、ただ喜びの声を上げながらひたすらエイミスに抱きついていた。
第一聖徳魔術学園には女子寮と男子寮が設備されている。自宅から通っている生徒もいるが、ほとんどの生徒は寮生活を送っている。長期間の休みが来るとだいたいの生徒は自宅に帰るが、数人くらい家に帰らず留まっている生徒もいる。帰るのが面倒だという理由でいる生徒もいれば、勉強をするために留まっている生徒もいるのだ。
エイミスとフェイは寮で私生活を送っていた。
そしてフェイは寮の廊下をノロノロとしたスピードで歩いている。
エイミスの宿題が完了したかを見に来た。フェイは仕草そのものこそ、ナマケモノを想像させるような動きでエイミスの部屋を探していた。
「えっと〜エイミスの部屋は……」
一指し指でドアの番号を見ながら歩いていた。
「あっ。ここ、ここ」
見つけただけで幸せ〜っとでもいいそうな笑顔を浮かべながらフェイはドアを開けた。
「エイミス〜。宿題終わった?」
「だから私はその『フィアナ』じゃないって言ってるでしょ!」
入っていきなりエイミスが幼い少年に怒鳴りつけているところを見てフェイは少し戸惑ってしまった。
「僕。待ってたんだよ。」
幼い少年は瞳を潤ませながらエイミスの言葉を否定しているようだった。
「あの…エイミス?」
フェイは少しも顔を変えず幸せ顔で怒鳴りつけているエイミスに声をかけた。
「あれ、フェイ。いたの?」
今気づいたかのようにエイミスは驚きの顔でフェイを見た。
「エイミスったら…」
「あっ。これには事情があって……」
今にも泣き出しそうな子供に怒鳴りつけていたらどちらが悪いか一目でわかる。自分が悪くないことをフェイに説明しようとしたが……。
「エイミスったら。罪に置けないわね。いつの間に子供なんか作ったの?」
「はっ?」
「その前に父親は誰?もしかしてエディン?彼カッコいいものね。でも、エイミスってあーいうのがタイプだったのね」
「違ーう!」
何を勘違いしているのか、フェイはエイミスが隠し子を産んでいたと思っているらしい。
ちなみにエディンとはエイミスとより一つ上のイケメンである。だが金使いが荒く、浮気ばかりしている最低な男と言われている。
「この子は私の子じゃない!」
「エイミスったら。自分の子を否定するなんて……」
手で口を押さえ片足を一歩下げて潤んだ目でエイミスを見た。
「あ〜もう。話を聞いてよ〜」
両手で頭をかきながらエイミスはフェイに訴えた。
「冗談よ。っで、この子は何。迷子?」
ケロッとさっきまでの潤んだ目を消して普段の表情に戻った。
「う〜ん。迷子なのかな?地下室の図書室にいたんだけど…」
「あ〜。地下の図書室でこっそり育ててたのね」
両手をポンと手を合わせて再びフェイは笑顔で言った。
「だからー。違うっつーの!」
結局。最後まで話を終わらせたのはそれから二十分後のことだった。
ようやく話し終え、エイミスたちは少年のことについて話あっていた。
少年の名前を聞き出しても『知らない』としか返ってこなかった。なので、名前は〈シルス〉とつけた。ちなみに名前の由来はフェイが昔飼っていたネズミの名前らしい……。
「ねぇ、どうする。シルスのこと」
今は学園の食堂室で二人はシルスのことについて話し合っていた。
「そうねぇ。やっぱり親ならちゃんと育てないと…」
言いながらフェイは頬に手を当てならが首を傾げる。
「ねぇ。いい加減に……つーかさ、キレていい?」
額に血管を浮かべながらエイミスはフェイを睨む。それに気づいてか、さすがのフェイも少し身を引いたようなしぐさをしながら手に持っていたスプーンのスープをゆっくりと口の中に入れた。
「やっぱり、孤児院にいれるのが一番ね。でも…」
「でも?」
一瞬ためらいながらフェイは再び話を続けた。
「でも、あの子。あなたを待ってたって言ったんでしょ?なら無理やり離すのは可哀相よ」
「違うよ。だってあの子私のことをそのフィアナって人と間違えてるんだよ。私に似てるのか、それともただそう見えちゃってるとか」
スプーンを片手で左右に揺らしながらエイミスは言った。
エイミスがフィアナに似ているというのならそれは仕方ないのだが、見えている─となれば話は別だ。なぜなら、見えてしまっている、となれば他の人でもフィアナと勘違いしてしまう可能性が高い。周りの人にも迷惑だし何よりもシルス自身によくない。かと言ってこのまま、学園に置いとくのも良くないだろう。
「じゃぁ。明日はわたし街にでかけるからそのついでに孤児院に手続きとっておくわ。二、三日後には迎えがくると思う」
「ありがと」
食べながらエイミスはおじぎした。少々行儀が悪いともいえるが。
「あと、私調べてみるわ」
「何を?」
きょとんとした顔でエイミスはフェイに聞き返した。
「そのペンダントのこと。地下室で調べてみる」
エイミスが着けているペンダントを指差しながらエイミスは言った。
「迷わないようにね」
エイミスは念を押すようにフェイに言った。おっとりとしたフェイがあの地下室に入ったら一生でてこないのではないかと一瞬そんな気がしたからだ。
「大丈夫。エイミスとは違うから」
「なんか、ムカつく」
フェイの言葉に嫌な気分になったエイミスは再びフェイを睨みつけた。
フェイは『可愛い』とニコリと笑いながら食器を片付け始めた。
シルスがエイミスの元に現れてからすでに三日たっていた。フェイが孤児院に連絡して今日の昼過ぎにでも迎えにくるという。最後に別れの言葉を言うついでにシルスと散歩することにした。
学園のとても広い庭にエイミスとシルスは手をつなぎながら歩いていた。最も二人の背丈は違い過ぎるためエイミスはシルスに合わせて歩いている。
「フィアナ。どうしたの?」
ぼんやりとした顔で歩いているエイミスにシルスは不思議そうに尋ねた。
シルスと過ごした数日はとてもあっという間だった。深夜に叩き起こされては『遊ぼ』とにっこりとした笑顔で頼んできて断ると涙ぐみ、エイミスを困らせていた。
っが、今思い出してみると何となく懐かしい気がする。このまま別れるのは寂しいという気持ちが心のどこかで思っていたりする。
そんなことを考えながらエイミスは歩いていた。
「ううん。何でもない。でも…」
「でも?」
よくよく考えてみればまだ、シルスには孤児院のことを話していなかった。想像はつくが言えば必ず駄々をこねるだろう。
しかし、エイミスは学生。ましてや育児などできるわけがない。今のうちに話しておいたほうがいいと前々から考えていたのだが、シルスの泣き顔を想像するとどう説明すればいいか困っていた。
「ねぇ、シルス」
エイミスは膝を曲げシルスより少し顔を見上げる姿勢をした。もう別れの言葉を言おうと思ったのだろう。このままだと、本当に別れる時がシルスにとっては辛くなると考えたからだ。
「私とは今日でお別れなの。つまり…『さよなら』ってこと」
シルスの表情は拒んだ顔をした。さっきまでの明るい笑顔が一瞬にして消えてしまった。
それからシルスはすぐにエイミスの言葉がわかったのか、『やだ…やだ…。』と目を涙ぐませながら拒絶した。それでもエイミスは孤児院に行くことをシルスに打ち明けた。
「シルスには私じゃなくてもっと必要な人ができると思うんだ。別れがあれば出会いがあるもんなんだよ。私との別れは一部に過ぎなくてこれから素晴しい出会いがたくさんあると思う」
シルスには少し難しい言葉で説明しているとエイミスは思いながらも話を続けた。
「僕…フィアナと別れるの…」
エイミスは人差し指を立ててシルスの言いかけた言葉を中断させた。
「それに私はフィアナじゃなくて、エイミスだって。エ・イ・ミ・ス」
シルスは呆然とした顔でエイミスの顔を見た。彼女はフィアナという名前ではなくてエイミスということがやっと気づいたようだ。
「エイミス…?」
シルスはエイミスの顔を震えた眼で見ながら言った。
「そう。よくできました!それで……」
…………?
一瞬。何かがエイミスの顔を横切った。一秒もたたない間にメキメキという何かが切れて倒れかかる音がする。
エイミスが後ろを見てみると庭にある巨大な一本のが斜めにずれて倒れたのだ。鋭い刃で相当な力が無い限り、切り倒すのは不可能だ。だが、木は静かに倒れたのだ。
しばし今の状況を理解するのに時間がかかったが、前の方から切り倒されたということがエイミスにはわかった。
「その子を渡してもらおうか」
大人びた少女の声が静寂だった空間に入ってきた。
エイミスは声のしたまえの方を見てみると、いつの間にかエイミスの目の前には鋭い目つきをした少女が立っていた。歳はエイミスと同じくらいだが無表情の顔には大人びた形がある。
「はっ。あんた誰?」
「その子を渡してくれればいい」
エイミスの問いに無視して少女は二度同じ言葉を告げた。
エイミスは軍人などではないが少女からは殺気が感じる。いや眼が恐ろしいほどに怖いのだ。
それに気づいたのかシルスはエイミスの後ろに恐れるように隠れている。
「やだ」
エイミスは子供のわがままな口調ではっきりと言った。
「ほう。ならばあの樹木ようになりたいと言うのだな」
少女は切り倒された木を目で指す。エイミスと同じ小柄な少女があの横太い木を一瞬で倒せるだろうか。エイミスが考えたが切り倒すには相当切れ味がいい武器を使わない限り不可能だろう。
少女は両手を後ろにまわし取り出す仕草をする。おそらくそれが少女が使った武器であることがエイミスにはわかった。
──そして
「ふっ、フライパ!?」
少女が取り出したのは二つのフライパンだった。
見たことのないすごい武器がでてくるのかとエイミスは少々期待していたようだがフライパンを見てエイミスは目が点になった。
「例えフライパンでも、馬鹿にするな」
少女は無表情のまま手にしたフライパンを構える。
このフライパンがあの樹木を切り倒したというのなら油断はできない。世の中には自分なりに工夫して武器にしている人もいるとエイミスは聞いたことがある。
眼の前の少女がその例えだろう。
何しても、ここは逃げならければ命が危ないだろう。少女は平気で人を殺すような眼をしている。
エイミスはシルスの手を引いて少女の前から立ち去ろうと走り出した。学園に入り助けを求めれば何とかなるかもしれない。
そうエイミスは考えていた。
だが。
「うわっ!」
エイミスの足に何かが当たりそのまま転んでしまったのだ。
少女が持っていた一つのフライパンをエイミスに投げつけ足に当て転ばせたのだ。
そしてフライパンはブーメランのように少女の手の元に戻っていった。
「今のは助言だ。次はお前の体を切り裂くぞ」
フライパンをエイミスに向けたまま少女は言った。無論それは冗談ではないだろう。この少女のことだ。エイミスを殺しかねない。
「その子を渡してくれればいい事だ。なぜ渡さない?無関係だろう」
「だって…」
少女はただ当然と言うようにエイミスに告げた。
シルスとは偶然出会い、ただ世話をしていた。
それだけ事のことで少し一緒にいただけなのだが…。
「だってあんた、見るからに意地悪そうな顔してるじゃない!そんな奴にシルスを渡せるわけがないでしょ」
おびえている子を無理やり連れて行く。エイミスにはそれが許せなかったのだろう。
しかも人を殺しそうな奴にシルスを渡したら一体どうなるかわからない。
人間とは時に、無関係のはずなのだが情を入れてしまうところがある。しかし、それが命を落とす時もあるものだ。
「『死』を選んだか…」
少女は無表情に、だが、額には薄く血管を浮かべている。エイミスに悪口を言われたせいか、それとも図星だったのか、それに対して怒っているのだろう。
そして少女はフライパンを投げる構えをする。それに気づいたエイミスはシルスに顔を向けた。
「シルス逃げ…」
しかし間に合わない。投げつけられたフライパンの先端には刃先が一瞬光った。フライパンはエイミスに襲いかかってきた。
死ぬ…。
自然とそんな考えがエイミスの脳裏に浮かんだ。
ガシャリッ
半透明の薄い青が架かった光がエイミスを包んでいた。その光はフライパンを跳ね返して再び少女の手元に戻った。
エイミスを守った光は防性用魔法〈鋼の盾〉。軍として正式採用されている防御魔法の一つだ。そんな魔法を使いエイミスを守ったのは……
「あらあらエイミス大丈夫?」
この場とは全く合わない、のんびとした声が聞こえた。そうフェイである。
「フェイ・・・。なんで?」
驚きを隠せずにただ呆然としたエイミスはフェイに問いかけた。
「エイミス・・・」
しかしフェイはエイミスの問いに気づいてないかのように話始めた。
「友達とケンカしちゃダメじゃない」
「ケンカちゃうわ〜〜!」
本当に今のこの状況がわかっているんだか。思わずエイミスは突っ込みを入れてしまった。
「だいたいねぇ、どこの世界にケンカごときで殺そうとする友達がいるのよ」
しばし考えこむような仕草をして、フェイは何か気づいたかのようにのんびりとした口調で言った。
「だって・・・世の中にはいろんな人がいるし」
もうエイミスは突っ込みを入れる気力すら無くしていた。ただガクンと顔を地面に当てたのだった。
まっ、ある意味フェイの性格はすごいのかも知れないが・・・この状況では誰もそんなことを考えていなかった。
「貴様・・・。何者だ?」
少女は睨みつけフェイを見た。いきなりの出来事にほんの少しだが驚きの表情が見える。
「私はこの聖徳魔術学園に通うごく普通の女の子でエイミスの友達ですけど?」
妙に詳しく説明しているフェイであるが『ごく普通』という所にエイミスは心の中で「どこが!」と思ってもいたりしていた。
「そんな事を聞いているのではない!なぜお前が軍用魔法を使ったのだと聞いているのだ」
少女は手を横にさっと振り否定の意味を表してフェイに怒鳴りつけた。この点ではエイミスも不思議に思っていた。フェイのような呑気(のんき)な性格がなぜ軍用魔法を?元々この聖徳魔術学園ではそんな魔法は教えることなどない。覚えるには軍に入らなければならないはず・・・。
「友達が危なかったから使っただけですけど・・・」
少女は再度口を開け、何か言いたそうだったがやめた。フェイに何を言っても無駄だと思ったのだろう。そして再びフライパンを構え始めた。
「邪魔をするなら貴様も死んでもらうぞ」
「なぜ。シルス君を連れて行こうとするのですか?」
フェイはまじめの顔を――と言ってもいつもと変わらず幸せ顔なのだが、少女にたずねた。
「貴様には関係のないことだろ?」
フェイの質問を無視し再び少女はフライパンをフェイに投げつけた。
ものすごいスピードでフライパンはフェイに向かってくる。しかしフェイはそれをさらりと体を横に動かしよけた。
「それで終わりと思うな・・・」
しかし少女は動揺せず勝利を確信したかのような笑顔を浮かべる。フライパンは木の周りを軸にしてフェイを後ろから襲おうとした。
「フェイ危な・・・!」
エイミスが咄嗟に叫ぶがフライパンは目にも止まらぬ速さでフェイに襲い掛かる。そしてフライパンの先端から刃先が出現する。このままいけばフェイの背中に突き刺さり致命傷となる。
先ほどのように避けているヒマはない。
確実に『死』がフェイにせまり……。
―続く―
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2005/01/05(Wed)18:10:44 公開 / フタバ
■この作品の著作権はフタバさんにあります。無断転載は禁止です。
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■作者からのメッセージ
この話はまだ続きます!(ていうかネタが思いつかない?)
これは頭に浮かんだことをそのまま書いた話です。
あと謎の少女の武器がフライパンというのはどうでした?フライパンがブーメランのように返ってくるのはありえません!!
文章書くのへたなんでその点はお許しを!!
皆さんの感想をものすごくお待ちしています!!