- 『朧月』 作者:時里 / 未分類 未分類
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全角604文字
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原稿用紙約2.2枚
「弥玖、ピアノひいて」
弥玖は微笑むと本棚から数冊の楽譜を抜き出した
『 朧月 』
手元の明かりだけがぼぅ、と光っている
静かに紡がれていく音と、滑らかに動く指先だけがこの空間で生きている物だった
持ってきた楽譜のほとんどを弾きつくした今、それはほぼ弥玖の即興だった
様々な曲をつなぎ合わせて、桜散る朧月夜に似合う静かな曲ができあがっていた
窓の外を見下ろす流が何を思っているのか、弥玖にはわからない
もうかれは自分のピアノの音など聞こえていないのかもしれない
それでも弾き続けるのは彼に求められたからにほかならない
昔、といっても4年前のことだけど、2人で連弾をしたことがある
あの時は中々流が弾けるようにならなくて
それで、彼は泣いてしまって
僕は泣き止むまで一人、自分の旋律を練習していた
きっと彼が隣に座ってくれる、そう信じていた
その曲を弥玖はふと思い出し、自分の旋律に指を走らせた
今はもう、いとも簡単に指が動く
何度も何度も、君の泣く声を聞きながら弾き続けた曲
つられて泣きながら何度も何度も弾いた曲
旋律に高い音が加わる
鍵盤から目を離して傍らを見上げると、あの時とは違う静かな涙を流す彼がいた
彼の指はたどたどしくも鍵盤をたどり、曲を紡いでいく
テンポは遅いが、それは確かにあの時2人で作り上げた曲だった
顔を見合わせ微笑みあう
彼がひとつ、音を間違えた
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2005/01/01(Sat)23:36:58 公開 / 時里
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■作者からのメッセージ
お久しぶりです。こんな短いのいいんでしょうか・・・(笑)人名は『流』と『弥玖』のふたつで、回想シーン時の年齢は8歳です(このくらいの歳ならまだよくなくかな、と)あまり深い設定は考えずに読んでくださると嬉しいです。三人称から一人称への転換をもうちょっと自然にしたかったです。ご指摘、ご指導お願いします。