- 『石の花』 作者:ten / 未分類 未分類
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原稿用紙約5.15枚
退屈で退屈で溶けて無くなりそう。
かわりばえのない日常に面白味のない学校。
もちろん自分が特別な人間だと思っているわけではない。
だからきちんと理解しているのだこういうモノなんだって。
しかし人生とはこうもむなしいものなのかと時々泣きたくなる。
背中を丸めて両肘をつく。そしていつものように黒板を眺め、カツカツと流れる
白い文字を追う。その内容が決して頭に入る訳もなく、ただ静かに黒板を眺める、
それだけ。
窓の外に目をやると青く澄んだ空が広がっていて、それは冷たくて気を抜くとど
こまででも吸い込まれていきそうな空だった。その遙か下のグランドではサッカー
をする男子生徒たちの姿が見えた。けど、そんなに熱心な授業態度ではないと思
う。そういう私も人のことを言えないけれど。
私は一番後ろの一番窓側に座っていた。今この状態での救いは窓際だということ
だけだと思う。教室の中を見回すとさっと見ただけでも半数近くが眠りについてい
た。起きてるふりをしているのも会わせればゆうにそれを超えるだろう。でも、そ
れも仕方がないと私は思う。あの先生の声はちょうど眠りへと誘う低くて弱々しい
声で、聞き取りにくいしゃべり方をし、おまけに授業中のほとんどの時間後ろを向
いたまま黒板ばかりを見て過ごす。つまり自分一人だけで授業を行っているのだ。
この状況で寝るなというほうが無理な話だ。それを自分でも知っていたからこそ彼
は決して怒らないし、眠った生徒らを起こそうとしないのだろうと思う。これでも
し彼が怒ったとしても、逆に彼が生徒たちに反発されかねない。
「ふわぁぁ」
なるべく小さいあくびをしようと思ったが結構大きなあくびが出た。しかしその
ほとんどが眠りについている御方たちには気になるものでもなかったらしい。それ
もそうだろう。自分自身は寝てしまっているのだから。他の生徒だって何の反応も
ない。強いていえば教壇で黒板に向かう先生の頭がピクリとしただけだ。何か言お
うとしたがやっぱりやめたというような動作に見える。だとしたらこの教師にも少
しは教師らしい心が残っていたのだろう。しかし彼を見直すことはしない。彼はそ
の行動を起こせないのだから。
あくびをして少しだけ潤んだ瞳で右ななめ前方に目をやると、こちらを向く顔が
一つ合った。顔を斜め後ろに向けただだったが、明らかに私と目が合い、それにも
かかわらずじっと目を離さない。思わず私もじっと見返したが、耐えきれず目線を
下に外してしまった。彼の名前は河野。河野……何という名前だっただろう。一年
のころから同じクラスだった気がするが、まともに下の名前も覚えていなかった。
彼はそこそこ目立つ方ではあったが、人の名前を覚えられない私には彼の名前を覚
えるというまではいたっていなかった。
少しだけ目線をあげ右ななめ前を見たがまだ彼はこちらを向いていた。私は彼に
少し不審な気持ちを持ったが、思い切って小声で聞いてみた。
「何?」
聞こえるのは寝息と、わずかばかりのノートとシャープペンのこすれる音だけ
だ。そんな中でもほとんど聞こえないくらいの音量で私は言った。ほとんど口の動
きでしか判断できないだろう。しかし彼は答えた。同じく小さな声で。
「何って何が?」
ふざけているのかとムッときたが、彼の顔は無表情でふざけている様子ではなか
った。河野の意味のわからない返答に私は彼を疑惑の目でしか見られなかった。
「…………」
「あぁ、なんで見てるのかってことか」少し経ってから急に言い出した。
彼は右手で頭を触り少し考えた風だったが、まもなく「何でもない」と言い前に
向き直った。
何だったのだろうと目をパチクリしてしまったが、すぐに授業の終わりのチャイ
ムが鳴り、委員長の「きりーつ」で、のそのそ生徒が起き出し、「礼」で簡単に授
業が終わった。私は河野に質問したいことがあったが、その日は結局何も聞けなか
った。
**TO BE CONTINUE**
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2004/12/24(Fri)19:04:52 公開 / ten
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■作者からのメッセージ
はじめまして。未熟者ですが読んで下されば幸いです。よろしくお願いします。