- 『本当の想いを』 作者:柊 / 未分類 未分類
-
全角2470.5文字
容量4941 bytes
原稿用紙約8.4枚
「好きです。付き合ってください」
放課後の教室で目線を正面から捕らえられ、言われた言葉。
窓からは夕日の光が差し込んで、オレンジ色と影の部分で放課後の教室はできあがっていた。
真剣な目で私の目を正面から見つめている人は、同じクラスで隣の席の、保居君だった。
やけに敬語が似合わない人。
少し茶色の瞳。
あの人に似た少し茶色の瞳で見つめられ、私の頭の中では幼かった八歳の頃の私とあの人との別れが映画の様に流れていた。
優しくしてほしくって、行かないでほしくって、ずっと傍にいてほしかったから、幼かった八歳の頃の私は、夕方家の近くの空き地に生えていた秋桜の花を一輪地面から力一杯引き抜いた。
一番綺麗に元気に咲いていた、薄紫色の花弁の秋桜。
落とすまいとし、両手で握る。
家までダッシュで帰り玄関で靴を脱ぎ捨て、自分の部屋まで階段を駆け上がる。
机の上に広がっていた赤い色の折り紙を1枚手に取り、焦っていた心と上がる息に負けないように、震える手で丁寧に秋桜の根を包んだ。
不格好で一輪だけ包んだ、花束とは呼べない秋桜の花を持ち、ダッシュで駆け上がった階段をダッシュで駆け下りる。
玄関で、ついさっき脱ぎ捨てた靴なんかには見向きもせずに、進行方向に向かって並べられていた履きやすそうな靴に、ダッシュしてきた勢いに任せて足をつっこんだ。
そのままの勢いでドアを開ける。
辺りはだいぶ、いつもは外に出ちゃいけないぐらい暗かったけれど、何も躊躇わず、空が完全に暗くなっていない事だけを気にして飛び出した。
【空が完全に暗くなったら、俺、もう行かなきゃいけなくなるんだ】
こう、あの人が言ってたから。
悲しそうに遠くを見ながら、肩を小刻みに震わせて。
「まって・・・・・・まって・・・・・・もうすぐだから・・・・・・」
願い事を叶えて欲しい時みたいに、何度も何度も繰り返し呟きながら、何度も何度も空を確認しながら走ったのを覚えてる。
空の藍色が濃くなって、少しでも黒に近づく度に、泣きそうになったのも覚えている。
一番星が空に顔を出すのより少し遅れて、あの人の家の前についた。
家の前に立っていたあの人は、悲しそうに自分の家を見つめていた。
激しい息づかいの私が立っているのに気がついて、目線をこっちにやってきた。
私よりも一つ年上で、私よりも身長が高かったあの人は、無理矢理な笑顔をつくる。ゆっくりと、時間を稼ぐみたいに開かれた口から、あの人の声がでた。
「どうしたの」
そんなあの人の質問が終わると同時に、車のエンジンがかけられた。
ぶるるぉおん。
静かな辺りに大きく響く。
あの人が遠くなるまでのカウントダウンみたいに聞こえた。
呼吸があがっていて言葉を口にできなかった私は、あの人に駆け足で近づいて、両手でしっかり握っていた秋桜の花を無言で差し出した。
軽く、あの人の身体に秋桜を持った突き出した両手が当たった。
あの人は驚きもせず、悲しそうな瞳を更に無理矢理笑わせて声を明るい声に装って、少し茶色い瞳で私の瞳を見つめて言った。
「ありがとう」
堪えきれなかった涙を流したのは私の方だった。
視界がどんどんと歪んでいく。
だいぶ整ってきた息が、涙のせいでまた苦しくなった。
「泣くなよ、亞依利」
私の名前を呼んで、頭を軽くぽんぽんっと叩いてくれた。
「俺まで泣いちゃうだろ」
あの人は、最後の方は涙声になっていた。
今まで突き出しっぱなしで強く握っていた私の両手から、優しく秋桜の花をうけとってくれた。
秋桜の根を包んでいた赤い折り紙は最初よりもぐしゃぐしゃになっていて、秋桜の葉は元気なく萎れてしまっていた。
「もう出るわよ。時間が無いの。早く車に乗って頂戴」
私たちの上から声が降ってきた。
あの人のお母さんが、あの人の袖を引っ張る。
車の方に引っ張られていくあの人。
何度も何度も私の方を振り向いた。何か言いたそうに口を開きかける。けれど、その都度その都度、声が音になる前に袖を引っ張られていた。
道を数で数える事ができない程の距離があいてしまう事を現実としてうけとめた瞬間だった。
「行かないで! 行かないで! 嫌だよ・・・・・・」
叫ぶ私の声は、涙で小さくなる。
車に乗る瞬間に、あの人はあの人のお母さんに手を合わせて、「三十秒だけ」と言った。
袖から手が離された瞬間、あの人は、私の方に走ってきて私の手を握る。
真剣な表情で、目を潤ませ、
「絶対に絶対に、会いに行くから」
それだけ言うと、手を離し行ってしまった。
車に乗るあの人の姿と、行ってしまう車。
あの人が握ってくれた手に、微かに残る温かさを感じながら、叫ぶ事もできず見送った。
「・・・・・・原?」
真っ直ぐに見つめられたまま、苗字を呼ばれる。
いつの間にか俯いていた自分に気がついた。
「あっごめん」
「やっぱり、駄目・・・・・・?」
少し茶色がかった瞳は不安の色を浮かべる。
そんな瞳を見たとき、なんだか嫌だった。
「ごめん。返事・・・・・・待ってもらえるかなぁ・・・・・・」
「うん」
迷いもなく答えてくれた保居君は、自分の席に行って鞄を持ち上げ、
「うっわ。俺部活遅刻だわー。放課後に引き留めてごめんなっ。じゃあ、返事考えといて」
そう言っていつもの調子に戻り、ドアを開けて、じゃあなーと残していった。
脱力してその場に座り込む。
体育で全力疾走した後みたいに、心臓が鼓動を速めていた。
教室はだいぶ影が多くなってきていた。
好きなんだけど・・・・・・それは、ただあの人と似ている保居君を、あの人と被せてしまっているだけなのかもしれない・・・・・・そんな不安が大きくなる。
暗くなってきた教室が、更に私の不安を大きくする。
それに、
「私、まだあの時のあの人の言葉を信じてる自分が居る・・・・・・」
そんな事を考えると、
『絶対に絶対に、会いに行くから』
この言葉が頭に浮かんで止まらなくなった。
立ち上がり、鞄を持って、教室をあとにした。
部活は今日はお休みだ。
続く
-
2004/12/23(Thu)19:28:52 公開 / 柊
■この作品の著作権は柊さんにあります。無断転載は禁止です。
-
■作者からのメッセージ
初めまして!
へたくそな文章ですが・・・(汗
読んでくださった方がおられたら嬉しいです!!
このお話は、書いてある通り続きます・・・はい(何。
もっともっと文章が上手くなりたいので、感想、アドバイスなどなど!
お待ちしております。
宜しくお願いします!!