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『無題』 作者:悠来 / 未分類 未分類
全角2089.5文字
容量4179 bytes
原稿用紙約7.9枚

 いつから、強くなったの?

 いつから、弱さを感じたの?


 どうして、本当の自分を忘れてしまったの?






 いつもの様に教室でぼんやりと過ごす。

 高校生活にも慣れて、美希には緊張感もやる気も全く無かった。

 隣で友人が、何やら昨日のバラエティ番組の話をしているが、片っ端から右から左にスルーしていく。

「ちょっと、美希ぃ。聞いてるの?」

 友人の夕菜が言った。

「あー、ごめん。聞いてなかった」

 美希が正直に白状すると、夕菜はぶうと頬を膨らませた。

「もう!だぁかぁらぁ……」

 また昨日の番組の話をする。

 とはいえ、夕菜の擬音語だらけの言葉を理解するのは、通常の完成の人間にはまず不可能だろう。

 美希はまたしても話をスルーしつつ、適当な相槌を打った。


 気が狂いそうな程マトモな日常。

 美希には、ただの牢獄に思えた。





 学校の一日が終わり、美希の一日が始まる。

 家に帰り、すぐにパソコンを立ち上げる。

 開いたのは、とある小説投稿サイト。

 とある漫画の二次創作小説を投稿するサイトだ。

 美希はその漫画にはまっていて、さらに文章書きもどきをしていた。

 そこの雑談板で、美希はクラスメイトの1人に偶然出会ってしまった。

 そいつのネット上の名前は「風伯(フウハク)」

 本名は風城龍(カザシロ リョウ)。驚くことべきことに、幼稚園からの腐れ縁だった。

 とはいえ、学校ではほとんど……いや、全く話さない。

 龍にそんな一面があるとは思っていなかったので、美希は驚いていた。

 美希のネット上の名前は「miki」

 ひねりも何もなく、テストを理由に投降を休んで居たりしたので、ばれてしまった。

 まあ、感想を送ってもらえるように、メアドを載せたのが運の尽きだったのだけれど。

「あ、新作」

 美希は思わず声を上げていた。

 風伯の新作。悔しいが、龍の描く小説の世界は、とても素晴らしいものだった。

 ダークファンタジー物を題材に、あそこまで人を泣かせる展開にできる彼は、とても尊敬できる。

 今回も、すごくいい出来だった。

 悔しいけど、レス入れといてやるか。

 ……評価はもちろん満点で。





 翌日、放課後に何故か、龍が話しかけてきた。

 美希は、不思議に思いながらも、市立図書館に向かった。

 龍の姿を見つけて、そちらに近づいていく。

 外に出て、歩きながら話すことにした。

「何?話って?」

「……お前、この間のアレ。何?」

 龍が唐突に言った。

「アレって?」

「あの“詩”だよ」

 美希は納得した。

 あの詩は、成す術もなく死んだ者達を描いたもの。

 我ながら、荒んだ詩だと思う。

 でも、書きたかった。

 ……いや。

 絶望しか感じないから、希望を描けないだけかもしれない。

「……今、生きてて楽しい?」

 龍が言った。

「さあ。どうだろうね」

「はぐらかすな」

 美希の言葉に龍が返す。

 それから軽くため息をついて、美希と目線を合わせる。

「昔に比べて、随分冷めたな」

「そりゃ、大人になるって……強くなるってそういうことでしょ?」

 美希はそう言って、皮肉っぽく口の端を吊り上げて笑ってやった。

「昔から強かったから、あんたにはわかんないだろーけどね」

「……強さと冷め具合は関係ないだろう」

 美希の皮肉をあっさり流し、龍が言った。

「お前が弱くなったよ。……本当の自分を忘れてないか?」

 美希は、痛いところをつかれて黙り込む。

 だが、やがて感情のままに声を上げた。

「……龍に本当のオレがわかるのか?本当のオレって何だよ?」

 美希の思いのほか激しい口調に、龍が驚いてその切れ長の目を少し丸くする。

「お前は本当の自分わかんのかよ!本当のオレって何なんだよっ!!教えろよっ!!」

 言うだけ言って、美希は一気に走り出した。

 完全文科系の龍に、元体育会系の美希を止められるわけがない。

 美希は家まで、止まることなく走り抜けた。





 部屋に閉じこもって、美希はベットにうつ伏せで居た。

 自分が嫌で仕方がない。

 あんな言葉で怒って、龍に八つ当たりして。

「最悪だ……」

 そう言って、美希は視線を横にずらした。

 パソコンが目に入った。

(見てみようかな……?)

 美希は起き上がって、パソコンを起動した。

 いつものサイトを立ち上げる。

「あれ?珍しい……」

 風伯が二日連続で投稿していた。

 迷うことなく開き、読んだ。


 悔しいけど、泣けた。

 いつもより、さらに派手に泣いた。

 ボロボロに泣いて、それでも止まらなかった。

 作者のコメントを見て、さらに涙が増えたのを感じた。

『mikiに贈ります。また小説書いて下さい。待ってます』

 心配して、メールは気恥ずかしくて、それでこんなことをしたのだろう。

「こっちの方がハズいっつーの」

 美希は言った。

 涙が出ていても、少し笑えた。


 僅かに光が見えて来た気がして、美希は風伯の小説にレスを入れた。

 ほんの少しの、感謝を込めて。


                        Fin
2004/12/22(Wed)23:16:23 公開 / 悠来
■この作品の著作権は悠来さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
久しぶりに書きました。

死神天使は今度まとめなおして投稿します。

では、今日はこの辺で。
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