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『Lost Heaven 4- [二章]』 作者:覆面レスラー / 未分類 未分類
全角5917文字
容量11834 bytes
原稿用紙約17.2枚
4

 僕は監視カメラで医務室に寝かされたタキの寝顔を眺めていた。精巧に創られた人形の様に整った顔立ち。それが目を閉じていると、とうに魂は失われて抜け殻だけがここにあるんじゃないだろうか不安になる。
 午前四時――サクラとジンゴがF-lineの探索に向かってから既に六時間が経過していた。ホームには僕とタキ以外に誰も居ない。団長は政府軍の動きを探りに政府軍本拠地A-00地点へ、双子のレンとライは<楽園>の管理作業に出向いている。
 もし、こんな時に政府軍に敵襲を掛けられたら――という問いは僕にとって意味を為さない。僕の<ロスト・ワード>は絶対の盾であり諸刃の刃だ。自分自身の存在を削りさえすれば政府軍如きに突破は赦さない。たとえそれが<神の卵>相手だったとしても。
 念のため、ホーム周辺の様子を赤外線暗視レーダーで確認するが、敵影は認められたなかった。
 その代わり、人影二つ。
 探索行動から帰還したサクラとジンゴの姿だった

「早かったね。エンゲの追跡調査は終わったの?」
 背後でドアの開く音を聞きながら、僕は監視カメラからタキの様子を眺め続ける。ジンゴがソファーにコートを脱ぎ捨てる音がした。
「いや……おそらくF-lineには何も無いよ。憶測に過ぎないがな」
 ジンゴが手近なパイプ椅子に腰を下ろす。僕は、肩脇のソーサーからマグカップにコーヒーを注ぐとジンゴに差し出した。ジンゴは一口つけるとゆっくり溜息を吐きながら「ありがとう」と言った。
「――で、F-lineに何も無いっていうのは」
「まぁ、そう急くな。順を追って説明してやる。お前は確か<インヴィジブル>とか言う殺戮兵器と殺り合ったんだったな」
「あ、うん」
「で、だ。ソイツはお前とサクラに向かって『『蝿の王』が売られている』と言ったらしいな」
「確かに言ってたよ」
「……そうか……つい一時間と少し前に<神の卵>と殺り合ったが――明らかに俺たちのデータを知っている者の動きだった。女で、しかも武器に汎用性の低いカタナを使用するサクラを無視して、銃を持つ俺を先に潰そうしてきたからな。だが、まぁこれは時と場合によっては在り得る話だ。俺がサクラより戦闘能力が上だと判断して攻撃を仕掛けてきたのかもしれないし、俺たちは互いの弱点を補い合うために、こうして集団を構成しているからな――二人以上で組めば大概の問題は解決されるからデータが流れること自体は左程問題じゃない。――問題なのは、俺とサクラ二人を相手にほぼ互角の戦闘能力だ。こちらが掴んだ情報――団長から送られてきたデータに拠ればあれが三体、政府軍に配備されているはず――。という事は単純計算なら、俺たち六体相手に互角に戦えるってことだ。そうなってしまえば――総員戦では――どう足掻いても物量で劣るこっちが不利になる。それを政府軍が既に計算の範疇に定めているとすれば、俺たちの数を一つでも減らしておくに越した事は無い。――エンゲの物量的価値はおそらく――「人質」から「お払い箱」に成り下がったな」
「<神の卵>が……――予定より幾分、孵化が早いね」
「未熟児という訳でもなさそうだぜ。思考レベルはかなり優れている――戦闘に置ける瞬間的判断力は桁外れだったよ。あれはサクラと同等か、それ以上だ」
「僕と同系列の能力者って可能性は?」
「無論、否定はできんさ――俺の<ロスト・ワード>で記録した戦闘状況を解析してから、ひとまず結論は出す」
 パイプ椅子のローラーをスライドさせ、僕の隣のデスクの情報端末に向かうと電源を起動させたジンゴは自走型記憶検索装置をヘッドセットし、スクリーンモニターに向かう。僕は彼の前のスクリーンモニターに映るモーションキャプチャー化された立体画像を暫く目で追っていたが、余りにスローモーな動きに飽きて、見るのを止めた。
 持て余し気味の暇を、こちら側の情報端末を操作して医務室のベッドに寝かせたタキの心拍数、バイオリズムに異常が見当たらないか一通りチェックすることで遣り過ごす。心拍数は105、バイオリズムは骨格破損率、肉体損壊率イエローを除くと全てオールグリーン。予断を許さない状況かと言われればそうでもでもなく、割合小康状態と言える。念のため監視モニターで再度医務室の様子を確認するが、包帯で顔の半分をぐるぐる巻きにされたタキは大人しく呼吸を繰り返していた。
 モニターの電源を切る。
 切って何気なしに僕は傍らの写真立て――『蝿の王』全員が揃った写真の片隅に座る目つきの悪い少年に視線を留める。
「エンゲ……」
 彼はもう――処刑されてしまったのだろうか。
 やけに喉が渇いていた。コーヒーで唇を湿らせると、酷く苦い味がして思わず顔を顰めてしまう。ブラックアウトさせたモニターに映ったその表情は、今の僕の感情を上手く表現していた。
 なんて苦々しい――
 ジンゴの言うとおり彼がお払い箱として扱われてしまっているのなら、彼に待ち受けているのは「死」のみだ。
 そう、「死」のみなのだけれど――少し気になる点がある。
 政府軍は何故<インヴィジブル>がエンゲを捕獲した段階で始末させなかったのか。その頃にはまだ、<神の卵>は孵化しておらず、エンゲに人質としての利用価値があった――? 
 いや――まさか。
数時間後にサクラとジンゴ相手に殺り合えるだけの戦闘力、生まれたばかりの不確定要素を含んだ存在にこなさせるのはあまりに無謀すぎる。
なら――別の可能性。
 お払い箱ではなく――資料箱――所謂、データボックスとして用いるなら、エンゲをその場で処刑してしまうのではなく――生存している状態で、回収する必要がある。細胞に残された情報は、死んだ瞬間から緩やかに失われていくからだ。勿論死んだ状態であっても、四肢の感覚器官に残留している習慣動作、内臓の状況、その他諸々の情報は手に入れられないが、基本的な根幹データの80%は獲得できる。大体、敵陣の中枢に配された存在のデータは50%手に入れられただけでも御の字と考えなければならない。常識として、なら。なのに80%を手に入れて尚且つ、何故残りの20%の補完要素までを必要としたのだろうか。
 そこまで来て、やっと僕は気づいた。
 思いついた言葉が思わず口をつく。
「ああ――ロストチルドレンの能力構造解析(アナライズ)か――」
 そうだ。それなら生きたまま浚っていった事に理由が付く。
ロストチルドレンの持つ<ロスト・ワード(喪失されし技術)>の構造を精密に検査するために、エンゲを身体ごと浚っていった。浚って隈なく解析する(バラす)のが目的だ。ロスト・ワードの構造を知り、利用するなり対策を立てるなり何らかのカタチで僕らの弱点を探る。それが目的とすれば――
「まだ、生きている可能性もある――」
「そうだな――そういう意味も含めてのお払い箱、だ。エンゲは『蝿の王』にも必要は無いよ」
「どうして?」
「俺たちの情報を漏らした。それだけで退団の理由には十分足る。それが本人の意志であろうがなかろうが、そんな間抜けを置いておくような団長で無いことぐらい、お前も知っているだろう」
 ヘッドセットゴーグルを填めたまま、ジンゴは忙しなく解析行動<アナライズ-ハッキング>を続けている。タイプの音だけが無機質にカタカタとコンソールルームに響いた。いつの間にかスクリーンモニターには、ジンゴ視点の情報が実像を伴ってダウンロードされている。
 繰り返し、繰り返し流れる戦闘シーン。
 ジンゴとサクラと――ゴーグルを填めたソバージュ頭の彼。<神の卵>。
 満遍なく、隙が無い。
 動作に構えに思考に。短い戦闘シーンだが――ひしひしと画面越しに伝わってくる。どこをとっても澱みといった類の迷いがほぼ感じられない。
 成る程。
政府軍が<神の卵>――最終決戦兵器と呼ぶだけはある。
「サクラが一太刀として触れられない相手とは、既知外だね。しかもあの至近距離からマグナムの銃弾も避け切れるんだ――」
「すごいだろう。コイツは」
 ジンゴは楽しそうに、口端を歪めて嗤う。
「解析は95%終了――コイツ――お前と同タイプである可能性も万が一には捨てきれないが――幾つか通常の肉体稼動には不可能な動きをこなしている。素直に推測すれば肉体性能増強系の能力者のセンが極めて高い、が――」
 ヘッドセットを外し、スクリーンモニターに映し出された立体構築化された戦闘キャプチャーを見つめながらジンゴは溜息を吐いた。
「政府軍の切り札である限り、ただの肉体稼動増強系というわけではないだろう。肉体増強以外にも何らかのギミックを用いている筈だ」
「――だろうね。コンマ一秒以下の攻撃を避けきれるのは、流石に在り得ないよ。でも――実際問題、ジンゴが戦闘中、戦闘の事後分析、両面から観測して共に肉体増強系だって判断を下したのなら、彼と対峙する状況に陥った場合、僕らもそれ系能力者として策を練るべき――かな」
「そうだな。現状況に置いてはそれ以上の推測は時間的に不可能に近い。俺たちに残された時間は、おそらく皆無だ。相手が三人揃ってしまう前に叩いて置かなきゃならない。そうしなければ――後々苦戦は必死だな。政府側の待ち伏せ――F-lineでの戦闘――全ては時間稼ぎも兼ねた陽動策戦も展開されたことだし――」
「あぁ、F-lineに何も無いって言ってたね。それ、陽動作戦だと判断したから?」
 ジンゴはヘッドセットモニターを外しながら頷き、傍らのコーヒーを口に運ぶ。
「ん……冷めてるな、これ。温くなったコーヒーほど不味いモノはないな――。――俺がF-line上の戦闘を陽動作戦だと判断した理由は、俺が政府軍の立場ならそうするからだ。俺ならもっと上手くやるがな――政府軍は今回、セオリー通りの作戦を効果的に用いていた。途中戦闘に陥った一個小隊のレベルの低さ、<神の卵>の引き際の早さ――共に演出不足――いや、過剰演出なせいで見抜ける穴はあったが、中々良策だ。現時点まで直接的なアクションを避けてきたという前歴がなければ――ほぼ完璧に近かっただろうな。だが――参謀長官の新任でもあったのかもしれないが、今までの消極的な政府軍の戦歴からすれば、今回はあからさますぎる。尋常ではない。なら――敢えて仕掛けてきた戦闘に裏があると見て当然だろう」
「それが時間稼ぎ――ね。残りの<神の卵>の孵化期間――かな」
「別の狙いがあるのかもしれないが――今のところ、それ以外には考えられないな。三体を揃えるまでの時間を、俺たちにF-lineを探索させることによって稼ぐつもりだったんだろう――。逆にその策――利用させて貰う。<神の卵>との戦闘時に罠を一つ仕掛けておいたことだしな。罠の起動は早ければ早いほど効果的だ。さぁ――団長に報告してから早速急襲を仕掛けるぜ。相手側作戦直後――この一番隙が生まれるタイミング、逃しては意味が無い」
「さすが情報処理担当。手際が良いね」
「――ま、策は立てれど策が無くても意味は無いがな。お前の働きには期待してるぜ。俺は、これからタキを見舞うとするよ。それからお前、俺、サクラと――そうだなアイツも連れて行くか……取り敢えず、四人揃った時点で団長に連絡、<神の卵>が移送されたポイント情報を受信すると共に、急襲作戦だ。それまでに俺とお前の会話ログを、全員の端末に送っておいてくれ。纏めていないが、大体の概要は説明できてるだろ。あと、レンとライには拠点守備、襲撃サポートを担当してもらう。ここからは遠いが――衛星経由なら繋がるだろ。ポイントA-07<楽園>に連絡頼む」
「オーケー」
 僕の返事を聞いたジンゴは、ソファーのコートを肩から羽織るとコンソールルームを後にした。
 錆びた蝶番を軋ませながらドアが閉まる。
 ――それにしても、アイツね。僕の予想が間違っていないのなら――いや、ジンゴの性格上、間違ってもアイツ以外には選ばない。確かに、インヴィジブルの情報を政府軍が半分でも信用しているのなら――最前線で一度に最多の『蝿の王(僕ら)』と接敵した彼だ。政府軍も話半分ほどには信用せざるをえまい。
――切り札は確かに有効だ。
 意表を突ける。
 隙も突ける。
 突いて広げた穴から、組織を瓦解させることも可能になるかもしれない。
 少なくとも、急襲地点はほぼ全壊は免れないだろう。
 
 正直、己の力を凌駕する存在相手に罠を仕掛けることを逐一怠らないジンゴには感服する。それはジンゴの性格上、当たり前の事なのかもしれないけれど。
 彼の殺す理由。
 それは――人間の思考構造を識るためだと言っていた。
 人間は嘘を吐くから人間で居られるという話は有名だ。
 確かに、動物も植物も嘘を吐かない。
 人間を人間たらしめるのは、やはり虚構の存在が故、と言わざるを得ない。人間は虚構という鏡に映し出される自己の姿によって、自分の実像を確認するのだ。
 だから、殺す事によって虚構から実在を解き放つ事――記憶デバイス内部に記録、蓄積されていく存在の性質――所謂「魂」といった類のものが、全ての「嘘」という枷から解き放たれる瞬間――に残す篝火こそが、その存在の一片の曇りも無い正しき姿なのだと、彼は言っていた。
 殺す事で初めて相手の真実が見える。
 その思想はこの世に幾千通りかある答えの一つとしては正しいのかもしれない。生きている限り、僕らは肉体というハードを因(よすが)に端末として、世界に触れるしかない。精神というソフトだけでは幾ら足掻こうが、自己の内面に触れることしかできない。
 が故に、自己実現というカタチで、自らの精神を模倣した姿を肉体に映し出しているわけだが――そんなもの――肉体という揺り篭の中で夢を見続けているだけにしか過ぎないとも言える。
 だからこそ、彼は殺すことによってその眠りから魂を覚醒させるのだと――殺して肉体の価値を無くすことで初めて<精神=魂>を目覚めの境地、極楽浄土や神の御許と呼ばれる場所に辿り着く前の有りの儘の姿を見るのだと公言して、頑なに殺し続ける。
 そして、それを自らの内面に記録し、人間の魂を、思考構造を延々と解体し続ける。生まれて初めて玩具を与えられた子供にも似ている子供染みている、ある種偏執的でもあるその行為こそが、彼の殺す理由。

 今回の作戦で、彼は幾つの真実を己の中に刻むのだろうか。
 『蝿の王』のメンバーに会話ログを送信しながら、コーヒーを煎れたマグカップに口をつけるが、いつの間にか飲み干していて、カップは空になっていた。
 また喉だけが、やけに渇いている――気がした。
2004/12/22(Wed)01:50:33 公開 / 覆面レスラー
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■作者からのメッセージ
アップは比較的遅いです。御免なさい。言い訳させて貰えるなら、それはおそらく、新たに購入した炊飯器で毎日温かい御飯を食べられる幸せに浸っているからです。御免なさい、嘘です。一月終盤までには終わらせるよう、頑張ります。お付き合い戴いている方々、どうもありがとうございます。
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