- 『JUNK 〜時空冒険者〜 第1話 [時空冒険者]』 作者:あすか / 未分類 未分類
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全角12015文字
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≪*Finder of The World*≫
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「何で、納得いかないよ。ねぇー、聞いてるクラブ? 何でこんな名前になるのさ」
広大な草原にある、牧場の柵に寄り掛かりながら、少年に話している少女がいた。
「あやも・・・、俺に言われても非常に困るんだが・・・。全く、文句は機械に言ってくれよ」
少年は、“クラブ”と呼ばれ、紅い眼をしており、髪は青混じりの色である。黒いベストを着て、長く黒いズボンをはいている。腰には、拳銃とその弾薬を入れるホルスターを身につけ、背中には大きな剣を持ち、その剣に合わせた入れ物にしまい、それを背負っている。
拳銃は、最大24弾装填出来るリボルバータイプで、ベストには、弾薬の他に拳銃を修理する工具や、予備の弾薬などを入れるポケットが6つあった。そして、背中に背負っている剣は、持ち手が剣と一体化しており、長さは2メートル弱程在るだろうか。その剣は大きな牙のようなイメージを思わせる。
少女は“あやも”と呼ばれ、灰色の眼をしており、髪は少し薄いピンク色で、緑色のリボンで結び、ポニーテルにしている。少年と同じベストを着て、薄灰色の半ズボンをはいている。彼女も腰にホルスターを身に付けているが、少年とは違い、両脇に二丁の拳銃を収納することが出来るようになっている。
拳銃は、装弾数30発のハンドガンタイプと、赤外線レーザーで照準を合わせて撃つことが出来る、装弾数68発のスナイパーライフルだ。
「何で、私の元いた“世界”の名前が『レッドシャーク』なんて名前だなんてさー」
少年は少女の言葉を聞いて、黒いバイクを指差した。それは、割と大型のバイクで、彼が所持しており、サイドカーが付いている。そして、バイクの先頭部分から立体映像が出ていて、下にはキーボードがあった。キーボードは、収納が可能なようになっており、立体映像も、キーボードのエンターキーで展開を自由に操作出来るような仕組みなっている。
少年は、その立体映像を指差したらしく、その立体映像にはバイクのエネルギーの残量や、現在位置(ポイント)を特定する座標(スピア)など、いろいろな計器が表示されており、その画像の中に、『World Name “Red Shark”(レッドシャーク)』と記されていた。
「“世界”に名前を付けるなんてさ、誰が何様のつもりでこのシステムを造ったのさー」
「あの“マッドサイエンティスト”どもが造ったシステムだからな・・・」
そういうと、少年は少し暗い顔をした。
「・・・それって、君が元いた世界で所属していたっていう組織・・・? 『MADICK』だっけ?」
少年が暗い顔になったのを、少女も察し、少し控えめに質問してみた。
「あぁ・・・そもそも、“世界”に名前を付けるってこと事態間違っているってのに、自分達の世界は“God(神)”って名乗ってるんだからな」
「そんな!だったら私の“世界”が『レッドシャーク』だなんて、本当は別の名前・・・」
「だが、あの“マッドサイエンティスト”どもの造ったモノだが・・・アイツらの科学力は本物だ。あやもの元いた“世界”に付いている名前、自分でも心当たりが在ると思わないか」
「・・・それは・・・そうかもしれない」
そう言って、あやもは少し黙り込んだ。
「でも、どっちにせよ“世界”に名前を付けるなんて、間違っている」
黒いバイクが広大な草原を走っていた。クラブが操縦し、あやもはサイドカーに乗っていた。
あやもが、サイドカーから双眼鏡を使い遠くを見ると、目には大きな街が飛び込んできた。
「何か見えてきたー!街だ、街があるよー。割と大きいね」
「今日はあの街の宿に泊まることにするか」
「おぉ〜、“東京”ほどではないけど、割と進んだ街だねぇ〜♪」
双眼鏡で見た時は、集落の様にしか見えなかったが、近くで見てみると、ビルや、ホテルが建っており、店もたくさん並んでいた。人もたくさん住んでいるようだ。
「“東京”、何だソレは?」
「あぁ、私が元いた“世界”の国の都心だよ。この街より、ビルとかがあって、人もたくさんいるんだ。私もそこでお買い物したことがあるよ」
「そうか」
「クラブの元いた世界は?」
「・・・さあな」
二人がこの街に着いたのは、夕方頃。街頭がオレンジ色の光を灯し、店も閉店まで売上を上げようと、外で人を呼びかけている。それはごく、普通の風景に見える。
「どこかに宿はないか・・・」
「あ―――!」
あやもは何かを指して、大声を上げた。
「なっ、何なんだいきなり!それから、指を指すな」
「旅館だー!」
指していたのは、街の中に一つだけ在る旅館だった。外には『健康に良い温泉で有名です』と客寄せの為の看板が立ってあった。
「行こう、行こう!ねぇ、いいでしょうー」
「まぁ・・・俺はどうでもいいが」
「え―――!」
「大きな声を出すな!何回言ったら分かるんだ」
旅館のカウンターで話をしている二人、どうやら、この旅館のオーナーともめているようだ。
「何度も言いますが、事前に電話でご予約を入れていない方以外の、6時以降の来客はご遠慮させて頂いているんです。」
「今、6時5分じゃないか!五分位気を利かせてくれたって・・・」
「当館の規則なので。お帰り下さい」
クラブは、どこでもいいから早く別の場所行きたそうだが、あやもはどうしても納得できない。
「どうしても・・・っていうなら・・・魔法で何とかししてやる〜」
「ガシッ!」
クラブは、あやもの後ろの襟首を掴んだ。
「スミマセン・・・コイツ興奮気味なので・・・。コラッ!魔法をやたらに使うな」
「分かった、分かった。だから手を離してー。苦しー、苦しいってば〜」
「ズル ズル ズル ズル」
あやもは、クラブに襟首を掴まれながら、旅館の玄関を出て行った。
「お騒がせしました」
「離して、離してってばー!こんちくしょ〜!」
夜の8時頃だろうか、街の店もほとんど閉店してしまった。人もほとんどいなくなり、寂しげに街頭の灯りだけが、ポツン、ポツンと灯っていた。
「他の宿やホテルも、6時以降の来客ご遠慮とはー。今日も野宿かな」
「誰のせいだと思ってんのさー!」
あやもはクラブのことを睨み付けた。
「ははは・・・まぁ、しょうがないだろ・・・な?」
「責任、取ってもらうからね!」
「???」
「はぁ〜、気持ち〜」
先程の旅館内、その旅館の名物、温泉の方からあやもの声がした。
「おいおい、あやもさんよ、忍び込んでまで風呂に入りたいかね?」
「風呂じゃなくて“温泉”だよ〜。それよりこっち向くなー!ちゃんと私の護衛!」
温泉は大きな岩で囲まれており、クラブはあやもの方を見ないように、岩を背にして周りを見張っている。
「誰がお前の裸なんて見るか!それよりも、見つかった時すぐ脱走出来るんだろうな!?」
「・・・ヤバッ。もし見つかった時、裸だから逃げられないよ〜」
「何も考えてなかったのかよー、あやも・・・」
クラブは“ハァ〜”とため息をついた。
「ダダダダダッ――――!」
突然、カウンターの方から大きな音がした。
「なにこの音・・・?もしかして見つかった!?」
「・・・いや。あやも、様子を見てくる。さっさと服を来て“アルデバラン”のメンテしてろよ!!」
「えっ!ちょ、ちょっとクラブ!」
そういって、クラブはカウンターの方へ行った。
「ヤツはこの旅館内にいるハズだ!徹底的に捜せ――――!」
クラブは、カウンターの近くの大広間にいた。クラブは、大広間を支えている大黒柱の後ろに隠れ、様子をうかがっている。カウンターやフロントにいる人々は、全員倒れていた。睡眠薬のようなモノで、眠らせているようだ。
「近くに時空転移(キャスパー)システムを搭載している機械があるハズだ。それも抑えろよ!ヤツはまだ見つからないのか!?」
旅館は武装集団に占拠されてしまった。武装集団は、それぞれゴーグルを付け、頑丈なヘルメットを被り、黒い防弾チョッキを着ていた。武器は、ハンドガンタイプの拳銃と、銃弾から自分達の身を守る、縦2メートル、横1メートル弱の分厚い鉄製の盾を所持している。
しかし、拳銃は普通のモノではなく、エネルギーを充填することによって、そのエネルギーを一点に集中して放射することが出来る『レーザーガン』と呼ばれるモノだ。
「いるのは分かっているんだ!出て来い『クラブ・マクスウェル』!!」
「この声は・・・まさか・・・」
クラブのことを、大声で叫んでいるのが、どうやら武装集団のリーダーのようだ。
彼は、眼は灰色、髪の毛は薄紫色で、小さめのメガネを掛けている。黒い防弾チョッキを着て、長い黒革のズボンをはいている。腰にはホルスターを身に付けていた。コレも、あやものと同じく二丁の拳銃を収納することが出来る。拳銃は、二丁とも他の武装集団のモノと同じ『レーザーガン』だ。
すると、クラブは大黒柱の後ろから、ゆっくりと武装集団のリーダーの方へ歩き出した。
「相変わらず生意気な口調は変わらないようだな。声を聞いて、しばらくしたらやっと思い出すことが出来た・・・なぁー?“ルドルフ”」
「その声は『クラブ・マクスウェル』!やっと姿を現したか!!」
二人は、数秒間互いに睨み合った。
「・・・久しぶりだな。昔は役立たずのお前が、今はこのテロリストをまとめ上げる首領になっているとは」
「テロリストではない!!我々は時空警察(ゲート・キーパーズ)だ!お前、分かっていて俺をからかったなぁ〜!!」
「ああ、分かっているさ」
「・・・どんな状況下でも・・・、その自信満々のその態度・・・!ムカツクなぁー!!」
彼の名前は“ルドルフ”と言うらしい。激怒しているルドルフは、手を挙げた。そうすると、旅館内にいた武装集団が、物凄い勢いでカウンターに集まって来た。そして、クラブの周りを、それぞれが所持している鉄製の盾で囲み、包囲した。
「逆ギレかよ」
「ハーハッハッハー!これなら絶対に逃げられないだろう?」
クラブはホルスターにあるリボルバーを抜こうとした。
「無駄だよ、この分厚い盾には、君の旧式の銃なんか通用しない、しない。それに・・・」
武装集団達はレーザーガンをクラブに向けた。鉄製の盾には、拳銃の先端を通す穴が空いており、ただ自分の身を守る為ではなく、攻撃も可能な攻防一体の盾だったのだ。
「さて、君にはもう抵抗するスベがない・・・諦めて我々と共に来るんだ!」
「何故行かなきゃならない?」
クラブはルドルフに問い掛けた。
「もちろん、我々時空警察(ゲート・キーパーズ)、あるいは行政府間の承認もなしに、他の“世界”へ逃げて行った!コレは“別世界逃亡”ならびに“時空違法滞在”ということになる」
「それだけか?」
「いや、どちらかというと・・・コレが一番大きな問題かもな。お前に一番来て欲しい理由は・・・」
「『MADICK』の連中のことか」
「分かっているのか、だったら素直に我々に連行されるん・・・」
「何をやらかした?」
ルドルフの言葉を無視し、クラブは真剣な表情で質問した。
「それは来れば分かる」
そうルドルフが言うと、武装集団達は、更にクラブに鉄製の盾を近づけた。穴から顔を出す、レーザーガンの銃口も近づく。
「・・・あいにく、それは無理な相談だな!!!」
クラブは背中の大きな剣の持ち手を握った。
「背中にまだ武器を持っていたか!」
ルドルフが手を挙げた。それと同時に、武装集団はレーザーガンのトリガーを引いた。
「ブラストル――――!!」
クラブは、背中の入れ物を破きながら、左手で剣を取り出した。目の前に迫って来る、紅いエネルギーの光。その大きな剣を持ちながら、片足を軸にして急回転した。急回転により、クラブの体を中心に出来た少竜巻の風のエネルギーが、レーザーガンのエネルギーに反応し、エネルギーを分散させた。
分散したエネルギーは、あちこちへと飛び散り、大黒柱や天井、大広間などに当たり、飛び散った部分には紅い炎が立っていた。
「こちらが銃を撃つより早くその大刀を抜いて、更に攻撃にまで対応するだと!」
「それだけじゃ、ないんだよ!!」
「ガッガッガガガガ――――!!」
クラブは剣を振り下ろした。激しい轟音と共に、武装集団が持っている鉄製の盾が、数十枚も真っ二つに切り裂かれた。
「バカな!厚さ150ミリの・・・強化金属の盾だぞ!?斬られるハズが・・・・・・」
「まだまだぁ―――!!」
クラブはしゃがみ込み、片手で持っていた剣を、両手で持ち直し前方へ向けた。そして、剣を武装集団目掛け回転させながら突進していった。
「『ウェーブ・ドライバ―――』!!」
「スギャアァァ――――――――!!!」
また、激しい轟音が聞こえた。突進しながら、クラブは全体を回転させながら飛び込んだ。それはまるで、意思を持った竜巻が突進していくように見えた。
クラブは、ルドルフの方へ近づいた。
「さーて、俺は銃がなくても、この『ブラストル』で充分対抗出来るぞー。ルドルフ、今の内に降参するんだな。」
「クッ・・・・・・、何を・・・!」
ルドルフは、今までクラブに対して強気だったが、急に弱気になった。
その理由は、周りを見れば一目両全だった。
鉄製の盾は、クラブの『ウェーブ・ドライバー』と呼ばれる攻撃により、ゴナゴナに打ち砕かれ、武装集団の半分以上が気絶していた。旅館のカウンターや玄関は、まるで竜巻が通ったのかのように破壊されていた。
「返事はまだか?」
「フッ・・・少しぐらい有利になったからって、調子にのるな!“B班”から“G版”!こちら総隊長、『カイ・ルドルフ』だ。ターゲットを発見した。至急応援を頼む!」
ルドルフは、ズボンのポケットから通信機器を取り出し、街にいた残りの武装集団に応援を頼んだ。
「ダダダダダッ――――!」
旅館の近くにいた“C班”と“E班”が直ぐ様駆け付けた。そして、一斉にクラブを包囲した。
「頭数だけはかなりそろえているんだな。お前らしいなルドルフ。」
「いくらでも攻撃してくればいいさ。もし、この“世界”にいる隊員が全員倒れても、こちらにはまだまだ増援の手はある。お前が力尽きるまで、相手をしてやるよ。」
ルドルフがそういうと、武装集団は一斉にレーザーガンを構えた。
「相変わらず、汚い手しか使わないな」
「何とでもいえ!我々時空警察(ゲート・キーパーズ)はお前を捕まえるなら何でもする!絶対にお前を連行してやるんだ!全員、急所は避けて発砲しろ!!」
増援も合わせ、武装集団の数は約60人。その人数に、クラブも退いた。武装集団はレーザーガンのトリガーを引こうとした。
「ちょっと待ったぁ―――!」
突然、遠くから大きな声がした。
「この声は・・・」
「クラブ――!助太刀しに来たぞぉぉぉ―――!!」
その声は、あやもだった。
あやもは、左手に蒼い革製の手袋をはめていた。その手袋の甲には、白色のダイヤルが付いており、周りには五つの“エンブレム”が描かれている。
「『マジック・ダイアル』セット!『エレメント・マジック』、『エンブレム “Fire(ファイアー)”』!」
あやもは、ダイヤルを回し、『火 “Fire”』のエンブレムを『セット・コンタクター』にセットした。
「自然よ! 火の精霊よ! 地と闇の境門を護りし者、我の力となり遣えよ!!」
あやもは、左手の手袋をかざした。そしてしゃがみ込み、手袋を地面に付けた。
「“召喚”!『フレイムマスティコア』!!」
手袋から魔方陣が描かれ、その魔方陣は紅く光り出し、光の中から“魔獣”が召喚された。
「ガオォォォ―――――!」
「うわぁ―――――!」
召喚されたのは、ライオンによく似ている姿の“魔獣”だった。しかし、黄色い眼で、大きな牙を持ち、全体の皮膚は黒い。鬣は紅い炎を立てながら燃え、同じく足の周りや尻尾にも、炎が鎧のように燃えていた。
魔獣は武装集団の方へ突っ込んで行き、何人もの隊員が吹き飛ばされた。
「何だ、この生物は!我々の世界にはいない、ありえない生物だ!」
「お前達の世界だけが偉いわけじゃないんだよ。他の“世界”だって、お前達を上回る“世界”があってもおかしくないハズだ!」
クラブは剣を振り落とした。そうすると、物凄い風が吹き、武装集団を吹き飛ばした。
「他の“世界”も、同じ“世界”には変わりないんだ!」
「うるさい!お前は黙っていろ!全員ライオンなどに怯えているな!一斉に発砲しろ!」
「ただのライオンじゃなぁ――い!この子は“魔獣”だよ―」
武装集団は、レーザーガンを魔獣に向け、一斉に発砲しようとした。
「仕方がない・・・。これは使いたくなかったけど・・・いけっ、『フレイムマスティコア』!」
あやもが魔獣にそう言うと、魔獣は口に球体エネルギーを溜め、それを炎のエネルギーに変換して放射した。
「なっ、何だと―!口から炎を吐くのか!!」
クラブの剣と、あやもの召喚した魔獣で、武装集団に応戦した結果、最初にいた武装集団と、応援に来た部隊のほとんどを倒した。
「ダダダダダッ――――!」
しかし、街にいた武装集団“B班”と“G班”が、また新たに増援として来た。
「フフフフフッ・・・。いくらでも倒せばいいって言っただろ。コイツらが倒れたら、また次の増援が来る。果たしていつまでもつかねぇ〜?」
「・・・これじゃ、切りがないな」
「クラブ、ここは私に任せて!」
あやもは、左手の手袋のダイヤルを回し、『水 “Water”』のエンブレムを『セット・コンタクター』にセットした。
「『マジック・ダイアル』セット!『エレメント・マジック』、『エンブレム “Water(ウォーター)”』!」
あやもは、左手の手袋をかざした。
「自然よ! 水の精霊よ! 湖に住みし善良なる心清き者達、その心今ココに集え!」
そしてしゃがみ込み、手袋を地面に付けた。
「“召喚”!『ブルーフェアリー』!!」
手袋から魔方陣が描かれ、その魔方陣は蒼く光り出し、光の中から“妖精”が召喚された。
「『ブルーフェアリー』、ゴォ――!」
妖精は、四本の薄い透明の羽を背中に持ち、青い服を着ており、体の周りは蒼白い光で包まれていた。あやもは、数え切れない程の妖精達を召喚し、その妖精達は武装集団の方へ飛んで行った。飛んで来る妖精達は、まるで大津波のようで、武装集団は妖精達の波に飲み込まれてしまった。
「クラブ――、こっち!こっち!」
あやもは、旅館の外で手を振っていた。そこには、スペアの剣の入れ物と、黒いバイクが用意されてあった。
「待ってろ、今行く!」
クラブは、妖精達の波から抜け出し、波に埋もれている武装集団の体を台にして、飛び移りながらあやもの方へ向かった。
「えーい、体制を立て直すんだ!ヤツは『時空冒険者』、ただいくつもの“世界”を放浪しながら逃げ続けるだけの“ゴミ”なんだ!」
そのルドルフの言葉を聞いた瞬間、あやもの元へ向かっていたクラブの動きが止まった
「何だ・・・?そうか!“ゴミ”と呼ばれるのが苦痛なのか!?だったらもっと言って・・・」
「・・・ルドルフ、“オーバーデリート”されたいか」
クラブは、ルドルフのことを凄い目付きで睨んだ。
「ヒッ・・・・・!」
クラブは、あやもの元へ着いた。
「行くぞ、あやも」
「分かった。さっさとこの街を出よ〜!」
クラブは黒いバイクの操縦席に、あやもはバイクに付いているサイドカーに乗った。
「マヌケな声を出すな」
「いいじゃないかー。クラブはいつも“ムスッ”とした顔で―、スマイル、スマイルだよ!」
「この顔は生れ付きだ」
旅館を後にし、クラブは剣をしまい、バイクのアクセルを踏み、街を出ようとした。
「待て!お前達をここから先には行かせない!」
街全体を包囲していた、残りの武装集団“D版”と“F班”は、旅館に向かっていた。
しかし、二人が街から出るとルドルフから連絡を受け、二人のバイクの進行方向に、全員鉄製の盾を持ち“バリケード”を造った。
「全員銃を構えろ!前方の目標を捕らえるんだ!」
指揮を取るのは、“D班”と“F班”の班長のようで、班長の命令通り、武装集団はクラブ達にレーザーガンの標準を定めた。
「全員、発砲し・・・」
「突っ込め―!クラブ、ゴォ――!!」
クラブは、バイクを最大加速させ、武装集団に突っ込んで行った。
「うわあぁぁぁ―――――!」
武装集団は、突進して来るバイクから逃げだした。その結果、簡単にバリケードは崩れた。
「道、空けてくれてアリガトね―――!」
あやもは、たじろぐ武装集団の方を向き、手を振った。
「バイバイ〜!」
「うるさい」
「もう、別にいいじゃないかー。さっきも同じこと言ったよー」
二人は、武装集団を振り切り、街を出て草原の彼方へと去っていった。
一方旅館、あやもが街を去ったので、妖精達も自然に消えていった。
「やっと、身動きが取れる・・・」
ルドルフは、“フゥー”とため息をついて、旅館の外へ出た。そして、街の周りを囲んでいる草原の方に、クラブ達の姿が見えた。
「コレが・・・『ガウリスソーディアン』 『ディファレント・アイズ』と数々の二つ名を持つ、伝説の双剣士の力・・・」
ルドルフがそう言うと、ボロボロになっている各班の班長が寄って来た。
「隊長!次の指示を・・・。目標(ターゲット)が、追跡不能になる前に・・・」
「いや、一旦本部に引くぞ。全員この状況じゃ戦闘は無理だ。負傷者を確認し、医療班に頼んで応急処置の手配を!それと、時空転移(キャスパー)システムのスピアセット(座標指定)の準備を!」
ルドルフの命令で、各班の班長達はそれぞれ行動を始めた。
「『クラブ・マクスウェル』・・・伝説を打ち破り、次こそは!・・・そういえば、後もう一人いたような気が・・・?名前は・・・」
「ヘクシュッ!」
「うるさい」
「クシャミだよ!それ位カンベンしてよ〜」
街から大分離れた草原に、黒いバイクを一旦止め、クラブとあやもは一休みしていた。
「大変だったんだから〜。唯でさえ、デカくて、重〜い“アルデバラン”を、あの武装連中の目を盗みながら旅館の前まで持って来たんだからー」
「ご苦労様」
「それだけ!もう少し感謝の言葉はないのかぁー!」
クラブは、全くあやも相手にしない。その様子を見たあやもは、下を向きながら、控えめに質問をした。
「あの人・・・『ルドルフ』だっけ?大声で話すから聞こえたんだけど・・・。君の元いた組織・・・『MADICK』っていうのが何をしたの・・・?」
「さぁな。俺には全く解らない」
「本当にそう!?」
あやもは、真剣な表情でクラブに問い掛けた。
「本当は・・・本当は解っているんじゃないの?私・・・、いろいろな“世界”で、君の噂を聞いたことがある・・・。君は『ガウリスソーディアン』 『ディファレント・アイズ』っていくつも二つ名を持つ、伝説の双剣士・・・いやっ、伝説の殺し屋(ハンター)だって」
クラブは、“殺し屋(ハンター)”という言葉を聞いて立ち上がった。
「突然現れた放浪者を殺し、その放浪者を殺すと、どこかへ去って行ってしまう・・・。この“突然現れた放浪者”って言うのは、多分、私達『時空冒険者』のこと・・・つまり、君は『時空冒険者』を狙う殺し屋(ハンター)ってことになる・・・」
あやもは、下を向いていたが、上を向き、クラブの眼を見た。
「眼を逸らさないで!君は、昔一体何・・・」
「スッ・・・・・・!」
クラブは、突然あやもの首元に、大きな剣を向けた。
「それ以上喋るな」
「何・・・?力で人を黙らせようとするの・・・?私はそんなのに屈しな・・・」
「黙れ!!」
クラブは大きな声で叫んだ。あやもは、クラブがこんなに大声で叫ぶのを始めて見た。
「君は、“逃げていない”だから他の『時空冒険者』とは違うって言っていたよね。私も、自分の“世界”から・・・逃げて来たんじゃない!私は、新しい“世界”を見つける為にこの旅をしているんだ」
あやもは、もう一度、クラブの眼を見た。
「クラブ、君と一緒に」
あやもは、何回もクラブの眼を見ようとした。しかし、クラブは、何回も目を逸らす。
「君は、君の世界から逃げているだけじゃないんだよね!!」
「いいから、今は黙っていてくれ!!!」
あやもは、首元に触れている剣を、とても冷たく感じた。けれども、あやもは堂々としていた。全くそれを恐れていない。クラブを真っ直ぐな眼で見つめていた。
「時が来たら・・・、ちゃんとお前にも話す・・・。だから、今だけは、そのことは問わないでくれ・・・!」
そう言って、クラブはあやもの首元に向けていた剣を、元の入れ物にしまった。
「・・・分かったよ・・・」
あやもは、少し悲しい表情をした。クラブは、暗い顔で下を向いているままだった。
「ルドルフが、また増援を呼んでいるかもしれない・・・。あやも、スピアセット頼む」
「OK!任せといて!」
クラブは黒いバイクの操縦席に、あやもはバイクに付いているサイドカーに乗った。
あやもは、サイドカーに付いているキーボードを取り出し、エンターキーで立体映像を展開した。
「時空転移(キャスパー)システム起動!『スピアセット』 『セントラルナンバー“108(ワン・オー・エイト)”』 『デルタナンバー“+α(プラスアルファ)” “−ι(マイナスイオタ)”』」
あやもは、別の“世界”に行く(ダウンロード)の準備をしながら思った。
「『スピアセット』完了 『タイム・ゲート』オープン 『スピア』、並びに全システム、計器の最終チェク完了! 『ダウンロード』開始!!」
いつか自分にも、話してくれたらいいなと。
「よし、行くぞあやも」
「うん!レッツ・ゴォー!」
クラブの、心の奥に抱えているモノを、私にも話して欲しいと思った。
貴方の、クラブの力になりたいから。
(終)
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〔〔補足〕〕 本編で、分かりにくい部分を説明します。
『アルデバラン』 → クラブが所持している、大型の黒いバイクの名称。このバイクには“時空転移システム”、通称“キャスパーシステム”が搭載されており、他にも予備の時空転移装置など、色々便利な機能が備わっている。
『最初に旅館にいた武装集団』 → A班です。
『オーバーデリート』 → 別の“世界”で死んでしまった人間が、元の“世界”へ、死体のとなって戻って来ること。つまり、クラブはルドルフに「死にたいか」と聞いたのです。
『スピア』 『スピアセット』 → スピアは“座標”のこと。スピアセット“座標指定”のことです。このスピアセットをすることによって、別の“世界”へ自由に行けることが出来ます。
他にも、この物語の専門用語がありますが、それは物語が進むに連れ、分かってきます。
下にある[プロローグ]も見てくださいね。
皆さん、ご意見ご感想、お待ちしています。
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≪*Finder of The World*≫
Still Download [Prologue]
私達の存在する“世界”とは違う、別の世界。
その世界の、非公開科学組織『MADICK(メイデッィク)』が時空転移システムを完成させた。
そのシステムは、時空間(タイム・ホール)と呼ばれる空間にその物質の情報を転移(アップロード)させ、時空間からシステムの座標で指定したポイント“世界”へと、物質の情報をまた転移(ダウンロード)させる。それで別の“世界”で存在することが出来る。
このシステムは一気に世の中に広まった。我々の別の“世界”とは一体どんなものなのか、人々は希望を持ちながら別の“世界”へと旅立っていった。
彼らは、“世界”へ大きな希望を持ち、高く、高く羽ばたき、新しい“世界”を目差した。そして、その者達のことを『時空冒険者(Finder of The World)』と呼んだのだ。
けれども、これを善意で利用する者もいれば、悪意で利用するものもいた。
罪を犯し、別の“世界”へと逃げて行く者(別世界逃亡)、自分の世界のモノを、別の“世界”で在り得ない程高い値段で売り、その“世界”で生きていこうとする者(別世界詐欺)、ホームレスなど経済力のない人々が、金銭の要らない、そんな自分の理想“世界”へと行く者(非理想現実逃亡)、システムを悪用した様々な犯罪や社会問題が起こった。
この様な問題を鎮圧させる為、『MADICK』と連携を組み、時空警察(ゲート・キーパーズ)を設立しこの様々な問題に当たった。そして、少しずつ沈静化し始めた。
しかし、衝撃の事件が起こった。別の“世界”へ旅立った人々が、無残な姿となって空から降って来た。その屍の雨は止まず、その死体を焼却しようとしても、次から次へと死体は空から降って来る。このシステムの唯一の欠陥は、別の“世界”で死んでしまった人間は、元の世界へ、そのままの姿、つまり死体となって戻って来るのだ(オーバーデリート)。
そうして、月日は流れ、この屍の雨は止まず、システムを悪用した犯罪も減らない。
この様に、悪いイメージで『時空冒険者』は世の中に伝わっていったのだ。そうして、しだいに彼らは理想世界(アルカディア)だけを求め、自分の世界を受け入れず、別の“世界”に逃げて行く者達・・・『時空冒険者』は人々から『ゴミ』と呼ばれるようになった………
Next Download [Finder of The World(時空冒険者)]
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2005/01/02(Sun)01:12:04 公開 / あすか
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