- 『peaceクラブ 一話』 作者:桃蘭(トウラン) / 未分類 未分類
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原稿用紙約11枚
「フワァァ。あぁ、眠い。」
開口一番、実沙はそう言った。
ここは、虹風市立風波中学校の『peaceクラブ』の部室だ。
午後1時30分。peaceクラブの部員は部長を除き、全員集まっている。
全員といっても他の部活に比べると格段に人数が少ない。
部長1名、書記1名、部員3名という総勢5人の、この学校ではめずらしい
人数の部活だ。
「水森。お前その言葉、部長が聞いたら怒るぞ。」
「だって、仕方無いじゃん。今日は土曜日だよ?休みなのに部活あるなんて
最悪。部長は真面目すぎるんだよ。嵐もそう思うでしょ?」
嵐が答えようとした時、背後から嫌な気配が漂った。
「誰が真面目すぎるって?」
「ゲッ。ぶ、部長……」
嵐は内心、ホッとしていた。答えて、部長の雷が落ちたら大変だ。
実沙の方を見ると「アハハ」と笑って誤魔化している様子が目に入った。
「まぁ、いい。それより、今日から新しく部員が入った。」
「えぇ!?部長、それ本当?あれだけ募集してて入ってこなかったのに?」
「本当だ。今月から、この学校に転入してきたそうだ。」
へぇ。と実沙が1人で納得していると、ガララと部室のドアが開いた。
こげ茶色のショートヘアにサラサラの髪。長いまつ毛は瞳に影を落とす。
太陽の光が眼に反射し輝いているように見える。
入ってきたのは、そんな見るからに女の子という感じの子だった。
「初めまして。3年B組の『森村 真』と言います。」
「初めまして、森村さん。ね、森村さん、男子にもてるでしょ?」
実沙が質問すると、いかにも不愉快そうな顔をして、真は答えた。
「……俺、男なんだけど。」
「えぇぇ! お、男!? 信じられない。そんなに綺麗なのに。」
「それ以上言うと……呪うよ?」
満面の笑みで真にそう言われ実沙は金縛りに合った様に動けなくなった。
背中に冷水を浴びせられた、そんな気分になったのだ。
「え〜……。では、皆にも自己紹介をしてもらう。」
「やっぱり、自己紹介はお決まりのパターンなんだな……」
「空青。何か言ったか?」
「いえ、何も。」と嵐は答え、実沙達の方へと移動した。
「部長の『阪蔵 大和』だ。因みに3年C組だ。」
「書記の『藤街 奈美』です。2年D組です。」
そこまで言うと、突然紹介が途切れた。
残りの3人が、どの順番で言うかもめているようだ。
「いいから、さっさと言え!」
部長の怒鳴り声に圧倒され、実沙がおずおずと口を開いた。
「3年A組の『水森 実沙』です。」
実沙に続き、嵐が口を開いた。
「同じく、3年A組の『空青 嵐』。」
「2年E組の『深橋 遼平』です。」
全員の自己紹介が終わったところで、真が質問をした。
「ねぇ。peaceクラブって何すんの?」
その質問に、皆は一瞬、自分の耳を疑った。
真の口から、信じられない言葉が発せられたからだ。
「え。もしかして、何やるのかわからないで入部したの?」
「まぁな。人数、少なかったし。」
皆は、どんな顔をすればいいのかわからず、苦笑を浮かべている。
「仕方無い。説明してやる。」
「さっすが、部長。ただ、偉そうにしてるだけじゃないんだね。」
真の言葉に、大和は実に不快気に顔をしかめた。
「peaceクラブは、困っている人がいたら助けたり、何か依頼をされたら、
事件を解決したりするんだ。」
「ふ〜ん。それって、ようするにボランティアだろ?」
真の言った事に実沙が言い返した。
「違うよ! しっかり、報酬も取るんだか……痛ぁ!」
話していたかと思うと、いきなり実沙は頭を抑えて、叫んだ。
隣には、拳を握っている大和が立っていた。
「水森ぃ。俺達は、金を取らないんだ。」
涙目になりながら、実沙は反抗した。
「部長! グーで打つなんてひどいよ! それに、お金取らないから、この
部活、部費少なくて貧乏なんだよ。」
「うるさい」と大和は一言、言って実沙を黙らせてしまった。
「自己紹介が終わったところで、本題に入る。」
さっきのが本題じゃなかったのかと実沙は思ったが、また大和に何か言わ
れそうなので、あえて口に出さない事にした。
「ペットの猫を探して欲しいと依頼が入った。」
大和はそう言うと、続けて写真を見せた。
写真には、真っ白な長毛種の猫が写っている。首には、首輪の変わりに
水色のリボンを付けている。
「うわぁ、綺麗な猫ですね。一体、誰からの依頼ですか?」
遼平の問いに大和は答えた。
「3年C組の白鳥(しらとり)さんからだ。」
「白鳥さんって、あの白鳥財閥のお嬢様ですか?」
「あぁ。何でも、最近この猫が姿を消したそうだ。」
大和達が話している中、実沙は1人でニヤニヤしていた。
「水森。金なら、いらないと白鳥さんに言ったからな。」
「えぇ!?なんで! お金持ちだから、報酬ぐらいくれるかと……」
ギロッと横目で大和に睨まれ、実沙は黙ってしまった。
「では早速、捜索開始。」
皆は2人一組となり、それぞれ街の中へ散らばった。
実沙と真、嵐と大和、奈美と遼平に分かれたようだ。
「探すって言ってもなぁ。俺、この街の事知らねぇし。」
「大丈夫だって、真。この私がいるし。」
「よけい心配。しかも、お前いきなり名前、呼び捨てかよ。」
「いいじゃん、別に。気にしたら負けだよ?」
何が負けなんだよ、と真は思ったが、実沙と言い合っても意味が無いと思
い、特に言い返さなかった。
「なぁ、ここって駅前通だろ?いつも、こんなに人少ないのか?」
真の言うとおり、駅前で、しかも昼時だというのにも関わらず、通行人は
いつもの5分の4ぐらいしかいない。
「いや。いつもは、もっといるはずだけど……」
実沙がしばらく考えていると、急に強い風が吹いた。
ゴォという音と共にビルの間を吹き抜け、街路樹の枝を揺らす。
地面の砂とゴミ袋が舞い上がる。
そして、本当に、ほんの微かに人の声と音楽が聞こえた。
「ねぇ、さっき何か聞こえなかった?」
「別に聞こえねぇけど?」
「聞こえたって! たぶん、こっちからだと思う。」
実沙はそう言うと真の服の袖を引っ張り、自分の勘を頼りに走り出した。
途中、何度も人にぶつかり、地面に転びそうになりながら。
「ちょっと、待てって!」
「善は急げって言うでしょ!」
絶対、使い方違うだろと真は心の中で突っ込んだ。
「なぁ、部長。水森と森村でペア組ませたけど大丈夫かな?」
「……大丈夫、と言いたい所だが自信が無い。」
「だろ?俺達も水森達の所に言った方が……」
「空青。お前、そんなに心配なのか?」
大和の言葉に、嵐は言葉が詰まってしまった。
「お前、水森が森村と仲良くなったからヤキモチ焼いてるんだろ?」
大和がニヤつきながら嵐に話しかけた。
「……っ。」
嵐は、顔を赤くして俯いてしまった。
正直な奴だなと大和は思いながらも、嵐をからかい続けた。
「まぁ、仕方無いか。水森、可愛いからな。」
「なっ!?何言って……」
「ゆっくりしてると、誰かに取られるぞ。」
嵐は、「わかってる」とだけ言うと、また黙ってしまった。
空は雲一つ無く、晴れ渡っている。
初夏の日差しはまだ強くないとはいえ、顔に少し汗が滲む。
先程の会話から何分か経ち、大和と嵐は街の広場に差し掛かった。
「部長、あれって……」
「サーカスだな。」
広場には、大きな紫色のテントが建っていて、周りには人が大勢いる。
「行って見ようぜ。」
「おい。空青、待て……」
大和の言葉など無視して、嵐は広場の中に行ってしまった。
続く
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2004/11/22(Mon)19:54:38 公開 / 桃蘭(トウラン)
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■作者からのメッセージ
初めまして。
初投稿なので、とても緊張しています。
「peaceクラブ」という題名なのですが、
少し、推理物っぽい感じの作品になるよう
目指しています。
呼んでいて、面白ければ良いなと思っています。
ちなみに、この話に出てくる街の名前や人物名は
すべて実際の物とは関係ないです。
では、宜しくお願いします。