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『秋の情事』 作者:YT / 未分類 未分類
全角1079.5文字
容量2159 bytes
原稿用紙約3.25枚
仰げば晴天。高二の秋の夢うらら。なんかそこらに生えとる雑草をひとかたまりの団子にして、郵便局員のおっさんが口いっぱいに頬張っとる。気違い気味とる。気違い気味とる。そんな晩秋は割と好いとる。

「先生ね、今日で退職する事になったの。新しい転勤先は鳥取の北の方。とても自然が多い所なの。」
藤沢先生は物憂げな顔をして、天井を仰いだ。教卓の上の学級ノートは生徒達の垢ですっかり汚れてしまって、まるで駅前の古本屋のレジに座る磯ジィみたいに古ぼけて、なんだか汚い。僕は悲しくない。決して悲しくはない。森羅万象どうだってよい。

「今日でみんなとはお別れね。」

終礼が終ると、僕は一目散に階段を駆け降りて家路につく。リュックサックの中からヘッドフォンを引っ張り出して冷たい耳に装着する。曇り空で夕暮れはなかった。

写真を拾った。

藤沢先生と小さな黒い猫が写っていた。

猫は死んでいた。

僕はいつものように古本屋に足を運ぶ。膨大な数の本達を眺めていると、目がチカチカして頭がギンギン痛くなる。あぁ駄目だ。もう死んでしまいたい。もうどうだってよい。でもどうにか陰鬱な夜を乗り越えるために一冊本を選んでおかねばならん。僕は適当に目が写った太宰の『斜陽』を手に取り、磯ジィが座るレジまで持っていく。

「毎度ありがとね。これちょっとしたおまけね。」
すると磯ジィはなんだか丸みを帯た三角形の薄っぺらいものを、僕に差し出した。どうやらギターのピッグのようだ。磯ジィの真意はわからない。そして嬉しくない。森羅万象どうだってよい。

道端にギターが落ちていた。多少弦は錆びていたが十分だった。僕は古本屋でもらったピッグでギターを掻き鳴らし、なんだか混沌とした美しい歌を歌った。曲名は、『ピカレスク』だった。すると黒い猫を連れた、ストレートヘアーの美しい女が来て僕の歌を聞き、涙した。そして優しく僕に接吻をした。僕は彼女の乳首をつねるように強く揉んだ。何度も何度も。日が暮れるまで。



衝動。思春期の童貞。妄想。高二の秋の夢うらら。

もちろん現実ではない。そんな妄想が、頭を駆け巡っただけである。だがその妄想の世界は瞬きもできないくらい眩しく輝いている。ホントに綺麗な女だった。
何だか空しくなって僕はポケットに突っ込んである無必要のその三角形の薄っぺらいものを空き地にめがけて放り投げた。それは弧を描いて、昼寝をしていた猫の頭に命中した。
猫は黒かった。

僕の町で殺人事件が起きた。殺したのは郵便局員で殺されたのは藤沢先生だった。

僕は悲しくない。決して悲しくない。森羅万象どうだってよい。
2004/11/21(Sun)10:40:49 公開 / YT
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