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『風花〜かざはな〜』 作者:冴神瀬那 / 未分類 未分類
全角2803文字
容量5606 bytes
原稿用紙約9.15枚
永遠に離れないと思っていた。確信にも似たその思いは、強く強く2人の心に刻まれていたはずなのに・・・。何故、世の中はこうも残酷でそれでいて、美しいのだろう・・・。

「徹!徹!!」
いつも煩いくらいに僕を呼ぶその声は、クラスメイトの佐久間雪那。ショートカットの髪に、整った顔立ちの彼女は、いつだってクラスの男子の、憧れの的だった。運動ができて、誰にでも  優しい。勉強はどうかというと、中の上といったところか。まぁ、悪くはない。彼女とは、中学からの付き合いだった。1年の時に同じクラスになって以来何の縁なのか、ただの腐れ縁なのか高校まで一緒で、挙句の果てには中学3年間同じクラスだったのにもかかわらず、高校3年間もずっと離れることはなく、同じクラスだった。
そんな雪那と僕が付き合うようになったのは高1の冬の事だった。
「好きだなぁ・・・」
しんしんと降る雪を放課後の教室から眺めて、雪那が呟いた日の事を僕は今でも鮮明に思い出せる。
「雪が?」
そう聞き返した僕に向き直って、少しふて腐れた顔をして・・・。馬鹿と言われたことさえ今では懐かしい。
「雪も好きだけど、徹の方が好きだ」
雪景色をバックに、雪那は僕にそう言った。男勝りな彼女らしい告白。単刀直入で、普通の女子のように、躊躇う様子もなく、透き通った声ではっきりと・・・。
「私と付き合ってください」
頷くしかなかった。その時の雪那が凄くキレイで今にも消えていきそうな彼女を現実に引きとめておくために、僕は首を縦に動かした。
僕らはお互い、運動部に所属していてデートなんて滅多に・・・というか全く出来なかった。
雪那は陸上部。僕は弓道部。どっちの部も、いつも県大会くらいは通過するくらいには強かったから、練習もそれなりに厳しかった。平日はいつも遅くまで練習があるし、土日なんて朝から晩まで部活なのだから、2人でどこかに出かけるなんて事は出来なかった。
そんな毎日が続いていたある日のことだった。祝日だからと、部長が休みを出したのは2年の夏の事。
「やった!!休みだよ!徹!!」
嬉しそうに僕に飛びついてはしゃぐ彼女を僕はあの時必死でなだめた。何かしら嬉しいことがあると、雪那は僕に飛びつく傾向があった。頼むから、教室でそういうことをしないでくれと、3年間で何回言ったかもうそこまでは憶えていない。
「雪那・・・はしゃぎ過ぎだって・・・」
「だって!せっかくの休みだよ!?デートできるじゃん!!初デート!初デート!!」
「あ・・・」
そうか。
「な、な、何処に行こう?買い物に行くのも良いよね!映画は?あ、それともプールとか?ね、徹はどこが良い?」
「そうだな・・・」
そうやって考え込んでいると昼休みの終了を知らせるチャイムが鳴ってしまった。
「あ〜ぁ・・・鳴っちゃった。じゃ、考えておいてね」
それは、それは嬉しそうに、手を振って雪那は自分の席へと戻って行った。
それから、次ぎの時間は集中できなかった。雪那との初デート。彼女が喜ぶ場所に連れて行ってあげたい。何処が良いだろう・・・雪那の好きなもの・・・そうだ・・・。
「海に行こう・・・」
不意に思いついた言葉を、僕は無意識のうちに発してしまっていた。授業中だというのに・・・。
「何が海だって?大城・・・」
「あは・・・はははは・・・」
最悪、その時間は校内で最も恐れられている教師、杉田の英語の授業だった。その後、僕が廊下に立たされたのは、言うまでもない。

「もう、なにやってるのさ」
部活が終わって、まだ少し明るい道を2人で並んで歩きながら雪那は笑いながら僕にそう言った。
「だって、思いついちゃったんだから、仕方がないだろ」
「それにしたって、声に出すことないじゃん」
「授業中だって事、忘れてたんだよ・・・」
「そんなに、真剣に考えてくれていたんだ。嬉しいね〜」
当たり前だろ・・・って、言ってやりたかったけどここは、黙っておくことにした。だって・・・。
「愛されてるね〜私」
満面の笑みでこっちを向いてそう言った彼女を見たら、もう、何もかもがどうでも良くなってしまった。その時、僕らは初めてキスをした。

待ちに待った祝日が来た。僕らは、バスで1時間ほどの所にある海へ向った。
瀬戸内海に面したそこは、水が透き通っていて凄くきれいだった。
「海だぁぁぁ!!」
海に着くなり、彼女は浜辺へ走って行き、履いて来たミュールを脱ぎ捨てて海に駆けて行った。
足を海水に浸して、訳のわからない奇声を発している彼女は普段の雪那からは想像がつかなかった。彼女は、明るい性格ではあるが、少なくとも学校にいる時は、こんな変なはしゃぎ方をするような人間ではなかった。
「そんなにはしゃいでると、こけるぞ?タオルもなんも持ってきてないんだからな」
苦笑いをしながら雪那にそう言って、僕は浜辺に腰を下ろした。
「徹は入らないの?」
「僕はいいよ」
「え〜入ろうよ?気持ち良いよ?」
「いいって」
「こっち気なよぉ」
「いいよ」
・・・しまった。その言葉を発した0・1秒後僕は後悔した。
雪那は項垂れてしまって、顔をなかなか上げようとしなかった。・・・泣いた?
「雪那?」
恐る恐る近づいていくと、いきなり顔を上げるや否や、僕の顔面目掛けて水をかけてきた。
「うわっ!!ちょ・・・何すんだよ!!」
「1人で遊んでいたって、つまらないよ!馬鹿徹!」
「な・・・」
最悪の初デート・・・。どうして、ここまで来て僕らは口げんかなんてしているんだろう。
暫く、沈黙が続いた。それを破ったのは雪那の方だった。
「だってさぁ・・・私ばっかりはしゃいで・・・馬鹿みたいじゃん・・・徹は、嬉しくないの?」
「ぁ・・・」
「1人ではしゃいでなんか、徹ただでさえ口数少ないのにいつもより、喋らないし・・・」
嬉しくないはずがなかった。むしろ、幸せ過ぎてどうにかなってしまいそうなくらいだった。
「ごめん・・・」
「謝らないでよ・・・」
僕は、スニーカーを脱いでジーパンの裾を膝の辺りまで上げると雪那の隣に行って、手を握った。
「徹?」
「嬉しくないはずないだろ・・・僕だって・・・その、緊張することだってあるんだよ」
人より緊張する事に対して抵抗を感じていなかった僕だけど、この時ばかりはさすがに緊張していた。
「そうなの?」
「そうだよ」
「徹・・・何も言ってくれないから、分からないよ」
「ごめん」
「今度は、嬉しいとか、つまらないとか・・・合図してね」
“今度は”という言葉が何故か凄く嬉しかった。最後じゃない。次がある・・・その次も、そのまた次ぎも・・・。ずっと、ずっと続いていくものだと思ってた。
「ずっと、一緒にいたいね・・・」
「うん」
そう囁いた彼女の声はいつものように強さを感じられなかった。今思えば、雪那はもう自分の身に起こる事に気が付いていたのだろう。永遠を信じて止まなかったあの夏の日のこと。
2004/11/21(Sun)23:56:15 公開 / 冴神瀬那
■この作品の著作権は冴神瀬那さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
いきなり季節はずれなこと言ってますが、多めに見てやってください^^;読んでいただけたら、とても嬉しいです。
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