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『眠る悪魔』 作者:孤高 / 未分類 未分類
全角9399文字
容量18798 bytes
原稿用紙約29.3枚

        「プロローグ1」


 ここはロミキア平原。フィミリア国から派遣された兵士が“ある人物”を抹殺するためにやってきて、返り討ちにあった場所。
 見回せば、そこは正に地獄絵図が視界一体に屍が広がっている。そこらには見るも無惨な右手のない死体、左手のない死体。いくつかの修羅場をくぐり抜けてきたものでもこの惨状を見れば気分が悪くなることは間違いなしだ。空には暗雲が広がり、次第に雨が降り出した。そんな惨状の真ん中に1人少年が立っていた。少年は黒い髪に色黒の肌で上半身裸だ。
 少年の黒い髪と黒い肌は、夜の闇とどす黒い血のなかでとけ込んで見えた。外見は見るからには普通の少年なのだが、体のある一部が決定的に普通ではなかった。そう、少年の背中には黒い、とても黒い羽があった。
「まだだ……まだ、殺し足りない……」
 少年がつぶやいた。通常、この惨劇の中で少年が1人立っていれば『1人の少年が生き残った』と考える。しかし、少年の言葉を聞くと、『少年が周りの人を殺して生き残った』となる。
「バ、バケモノめ!」
 少年の背後から震え上がった声が上がった。どうやら生き残りの傭兵のようだ。白銀の甲冑に身を包み両手で剣を構えている。声と同じく、その体も震え上がり、鎧がこすれ合って高い金属音を発している。
「まだ……生き残りがいたか。おとなしく屍の中身身を潜めていれば良かったものを……」
 低くとても威圧感のある声。とてもその外見からは予想も出来ない声だった。
「う、うるさい! こ、これだけの仲間こ、殺されておいて、黙っていられるか!」
 これだけのことを言うのにも、全体力を絞り出したような感じだ。そんな勇気ある男に対し、少年はあざけ笑っていた。
「まぁ、俺にとっては獲物が自ら名乗り出てくれて嬉しいがな……」
 容赦なく発せられる言葉。目からは空気をもふるわす殺気がでていた。
 その殺気で大抵の大人をその場に釘付け出来そうだった。
「う、うぉおおおおおお!」
 意を決して男が斬りかかった。しかし、元々は手練れの傭兵だったのであろうが、恐怖で隙がありすぎだった。
 もっとも、その少年にはそんな隙が無かろうとも、意味はなかったのだろうが……。
 一線。
 男の上半身と下半身が離れる。
 屍が、平原にまた一つ増えた。
「チク……ショォ」
「ククク……フハハハハハ!」
 辺りに高笑いが木霊した。





   「プロローグ2」
 

 武器大国フィミリア。
 ここは名の通り武器屋や鍛冶屋がどこの国よりもある、正に武器大国なのだ。田舎から出てきたお上りさんが何も知らずにこの街にはいると、商人達の格好の餌食となる。
 今日は、このフィミリアの城下町で、町民でなくても参加出来る決闘大会が行われる。そのため、街の至る所にいかにも「大会に参加します」と言う感じを醸し出している輩が居る。
 とあるカフェテラスのショウウィンドウからは街のメインストリートが見え、大会に参加するいろいろな人が見え暇をつぶすのには格好の場所だった。
 そのカフェテラスのショウウィンドウのど真ん中に、壁から床まで白く塗られたお洒落なカフェテラスには、少し目立ちすぎる服装の少年が居た。少年は緑の髪をし、サファイア色の瞳、おまけに赤いマントに青い服ときたもんだ。目立たないわけがない。道行く人が、店内の客達が少年のことをちらちらと見ている。
 この少年の名前はフィル。とりあえず食いっぱぐれないように国々を旅し傭兵をしながら金を稼いでいる。フィルが荷担した国には必ず、幸運か不幸がやってくる。それは戦の大勝利だったり、国の壊滅状態だったり、その運は両極端なのだ。そのため『気まぐれのフィル』としてちまたでは少し名の知れた傭兵なのだ。
「ねぇプロト。何でみんな僕のことばかり見るのかなぁ?」
 少年がふと口を開いた。その言葉にさっきよりも視線が集まる。
「当然だ。お前の服装は目立ちすぎる。自覚無いのか?」
 プロトと呼ばれた男はあきれたように言った。この男はフィルと比べると明らかに地味で、おそらくそこら辺の人と比べても地味なかっこだろう。スキンヘッドに白い袖無しシャツ。それにズボンはジーパンだった。何とも地味な格好だろう。
「そうかなぁ……。あっ! ねぇあそこ!」
 ちらりとメインストリートをのぞいていたフィルが、何かに気づいたようにガラスの向こうを指さす。
 見ると黒服をまとった男達が5、6人ほどで女性を囲んでいる。
 ……穏やかではなさそうだな。
「大変だぁ〜。どうしよう……助けなきゃ」 
 テーブルのそばでおろおろと右往左往している。
「放っておけばいいじゃないか。わざわざ厄介ごとに首を突っ込むこともあるまい」
「でも、放っておけないじゃないか!」
 そう言うとはじけたように走り出し、レジに代金を放り投げ女性に向かっていった。 
「やれやれ……。私を置いていきおって……」
 深いため息をついた。
 全く、コイツという奴は……。






    「第一話 大会参加?」

「まったく…。この私をおいていくとは何事だ!」
 男達を始末し、女性を家に送ってきて私のことを思い出し、カフェテラスに戻ってきたフィルを一括する。いつもは少しの説教だったが今回はなんか怒鳴りたくなったのだ。怒鳴るのに剣のままではまずかろう。しかし、会話の内容に少々違和感を覚える者もいるのだが……。
「ごめんって。盗まれてもないし、女の子は無事だったし良いじゃないか」
 フィルが笑いながら私をなだめるように弁解する。
「ったく……。よし。私をおいていった罰だ! 明日開かれる大会で優勝して賞金を得ろ!」
「ええ!!」
 フィルが驚愕する。まさか少し私を忘れたくらいでそこまで面倒な罰を受けるとは思っても見なかったのだろう。
 当然だ! ……と、言いたい所だがそうではない。最近、フィルが怠けていて傭兵の仕事をさぼり気味だったので、少し金を稼がせようと思ったのだ。ついでに言えば、優勝するとフィミリア国兵士総隊長ヘルヤ・フェズルと手合わせが出来るのだ。そこで認めて貰えば兵士として雇って貰えるかも知れない。そう考えて私はフィルに大会に参加させようと思ったのだ。
「……本気?」
「当然だ! 今お前の総資産はいくらだ? 後何日こうしてのうのうとやっていける?」
 痛いところをついたようだ。フィルがぎくっとして私から目線をそらす。
「え、っとぉ〜。2日も怪しいかな?」
「ハァ〜……。たわけめ」
 あきれて者も言えなくなる。まったく。コイツは貯金という言葉を知らない。フィルの長所は優しいところなのだが短所でもある。優しいが故に、貧しい人についつい恵んでしまう。
「わ、わかったよ。参加登録しに行くから」
 観念したようにうなだれる。
「言っておくが。参加だけじゃ許さないからな。優勝だ。いいな?」
「うう〜〜。わかったよぅ」
 いじめられたようにとぼとぼとレジへ向かう。ついでに参加登録の場所も聞くことにした。
「あの〜。決闘大会の参加登録ってどこでやるんですか?」
 フィルの質問に店員が目を見開いた。無理もない。噂ではこの大会は相当の猛者が集まる。そこへ派手な外見をした標準的な体型の少年が参加登録しようと言うのだから。
「え? 本当に参加するんですか? 祭りと違って……遊びじゃないんですよ?」
 冷たく言い放った。この言葉に流石の相棒もむっと来たようだ。
「失礼な。これでも僕強いんですよ? よけいな詮索しないで早く教えて下さいよ」
「……そうですか。ではこのメインストリートを――――」


 カフェテラスを出て、メインストリートを先ほどの店員に教えられたように進んでいく。
「えっと。ここは右で」
 進んできて最初の十字路を右に曲がった。
 さっきの道とはうってかわってこの道は正に武器屋の連続だった。
「んで、次は左に行って左側に見える緑色の屋根っと」
 店員から貰ったメモを復唱しながら進んだ。
 曲がってから6件目に緑の屋根に赤い煉瓦の大きな家が見えた。
「あ! これこれ!」
「ふむ。間違いはなさそうだな。方向音痴のお前にしては上出来じゃないか」
「ひ、ヒドイこと言うなぁ」
 しょげるフィル。しかしそう思われても仕方がない。なぜなら、いつものフィルはあり得ないほど方向音痴で、右、右、と言いながら左に曲がるほどだ。おかげでこれまでにどれだけ無駄足を踏まされたことか。
「まぁいい。とにかく入るぞ」
 そう言うとフィルを置いて建物の中に入る。
「あ! ま、待ってよ!」
 フィルも私の後について入っていく。


 建物の中はいわゆる煉瓦造りで、寒い地方でよく見られる感じだった。
 中にはいると、正面に受付が見え、右手には丸テーブルが5、6個並べられていてそこで大会参加者と思われる男達が杯を交わしていた。私が入ると私の方に視線が集まった。と言うより、私の後ろのフィルに集まったという方が正しかった。本人は気にしないと言うか気づいていなかった。
 ――やはり目立つよな……。フツウ。
 などと思いつつも受付に向かう。
 受付の前に立つと受付の男が顔を上げた。
「ん? 何だお主達は」
「俺と、コイツを大会に参加させて欲しいんだ」
 親指で後ろにいるフィルを指さす。
「大会? 決闘大会か?」
 怪訝な表情でフィルを見た。プロトは強そうに見えるがフィルは外見では判断出来ないらしい。まぁ、当然だろう。
「ああ。そうだが? 何か……問題でも?」
「あ、いや。止める訳じゃねぇが……遊びじゃねえぞ? そりゃ、賞金は出るが、ほとんど名誉を賭けた大会だぜ? お前さんはともかく、後ろのガキは無理なんじゃねぇか? くたばるのが落ちだな」
 テーブルの付近にいた男達があざけ笑った。
 自分がバカにされてるのだとようやく分かったフィルは少しむっときた。
「失礼な。これでも僕は――」
 フィルの言葉はプロトの左手で制される。
「今、コイツをバカにした奴らに言っておこう」
 男達をずいっと見回す。

 「コイツは私より強い」

 プロトの言葉にはわずかだが殺気がこもっていた。
「そ、そうか……。ま、まぁいい。登録するからお前らの名前を教えてくれ」
「私がプロトで、コイツがフィルだ」
 !!
 建物の中がざわめいた。プロトも腕利きの傭兵として有名だが、フィルの方がもっと有名だったようだ。
「フィル……だと? あの『気まぐれのフィル』か? そ、そりゃぁつまらねぇことを言ったな」
 驚きつつも男は紙に名前を書いていく。
「噂通りの結果を期待しているぞ。はははは」


 建物を出たフィル達は大会に向けてひとまず武器屋を探していた。愛用の武器がだいぶ痛んできたので大会ということもあって武器の手入れに来たのだ。
「ふん。何が期待してるだ。名前を聞いてから急に態度を変えたな」
「まぁいいじゃない。勝てば良いんだし」
 フィルが少し苦笑いをしながら言った。
「ほう。ようやっとやる気が出たか。バカにされて、少しはむかついたようだな」
「まぁね〜。 あ! これじゃない?」
 しばらく歩いていると剣と斧が交差をしている看板を見つけた。恐らくこれが武器屋だろう。
 フィルが先に入る。武器屋は壁という壁に剣やらフレイルやら飾ってあった。中には装飾専用だと思われる金メッキで出来た武器もあった。
「あの〜」
 フィルがショーケースの中武器を手入れしている女性に話しかけた。
「あら。いらっしゃい。何かご用?」
「あ、えっと。今度僕たち大会に出るんですけど、そのために武器の手入れをお願いしようかなぁと」
「え? 大会に出るの?」
 女性は少し驚いた風に言った。
「知らないの? 大会に使う武器は、不正がないように国の認定を受けた武器屋に登録して、申請をしなきゃいけないのよ」
 頬に手を当て困ったように言う。普通にしているだけで美人な女性は仕草の一つ一つがとても美しかった。フィルは思わず見とれてしまう。
「私の店は一応認定は受けているけど……どうする? 私の店で登録しちゃう?」
「あ、じゃぁお願いします」
 フィルはすぐに決めた。同じ武器を使うのならどの武器屋に登録しても同じだろうと考えたのだ。
「はい。じゃあこの紙に名前を書いて。それだけで終わりよ」
 手早く名前を書き込むとプロトを探しに行くことにした。
 プロトは何を思い立ったのか他の武器屋に登録すると言って先ほど出て行ってしまったのだ。
「さって……。どこを探そうかな」


 日が完全に建物に隠れてしまい部屋の電気をつけなければならないほど暗くなっていた。大通りの街ゆく人たちも今朝のような人通りはなくポツポツと人影が見える程度だった。
  結局あのあとプロトを見つけることが出来なかったフィルは取りあえず宿に帰り、プロトが帰るのを待つことにしたのだ。フィルが帰ってきたのは日がまだ空に見え、きれいな橙色を見せていた頃だったのでもう2、3時間は待っている事になる。流石に少し心配になってきたフィルは窓越しにプロトの姿を探っているのだ。プロトに限ってムダな心配だとは分かっていても何かあったのではないかと思ってしまう。フィル達が止まっている宿は6階というこの辺りでは一番高いところにある宿なので探すにはもってこいだった。ふと、窓の正面を見ていると一つ向こうの通りにプロトの姿が見えた。だいぶ遠いところにいるがフィルはずば抜けて視力が良く、10M先ぐらいなら目の検査で2.0の大きさが見えるという。
 取りあえずあの距離ならすぐに帰ってくるだろうと少し安心したフィルはプロトには悪いと思ったが、一足先に寝ることにした。
「明日は大会だもんなぁ〜。優勝しなきゃプロトにどやされるだろうし……」
 そのまま少しずつ、深い眠りへと落ちていった。

 フィルが寝入ってから30分ほどした頃、ようやくプロトが帰ってきた。プロトは何も言わずフィルの隣のベットに潜り込んだ。プロトはその日、眠りにつくことは無かった。


大会当日。昨日よりも遙かに人通りが増えていた。と言っても、周りを見ても明らかに大会参加者と思わせるような人の姿は見えない。どちらかというと観客の方が多い感じだ。
闘技場の方まで来るとより一層人が増え身動きがとれなくなるほどだった。参加者が身動きがとれなくて遅刻になることを配慮し、参加者専用通路が設けられた。
 フィル達もその専用通路を通り闘技場の内部に入った。外見はコロッセウムを思わせる外見だったが、中身も煉瓦造りの砂が多く入っていて本当にコロッセウムが再現されている感じだった。入ってすぐは狭い通路が続いていて、控え室までのびていた。
 控え室の中は病院の待合室のような感じで長いすが並んでいて、装飾品は何も見あたらずただの部屋、と言った感じだ。ふと、ここでフィルは疑問が浮かび上がった。
「ねぇ……プロト」
「うん?」
 プロトの方も見ずに言った質問に、同じくフィルの方を見ずに答える。
「この控え室……全員は入らないんじゃないかな。さっき後ろ見たらもっと入ってくる感じだったよ?」
 確かにそうだ。ここにある椅子はどう見積もっても5×6にしか満たない。どう考えても全員を収容するには無理があった。
「ふむ。何かありそうだな。用心しておけ。フィル」
「うん。そうだ――」
 フィルの言葉が言い終わらないうちに辺りの景色が無くなった。視界が完全に見えなくなり平行感覚が無くなった。
「なるほど。そう言うことか!」
 フィルは全てを察知した。
「ここで、篩を掛けるのか!」
 刹那。
 背後から恐ろしい蹴りが飛んできた。それを体をのけぞらせて回避する。 
 素早く体を反転して相手の姿を確認する。
「――っ!」
 黒い袖無しシャツにジーパンに、それにスキンヘッド。背後にいたのはプロトだった。しかし感じが明らかに違う。とにかく瞳に生気が感じられない。
「なるほど。おきまりのニセモノって訳ね」
 そうと分かると、姿勢を低くし恐ろしい速度で突進する。並の人間なら何が起きたのかも分からずに吹っ飛んでいるところだろう。しかし、それは並ではなかった。突進してくるフィルを事も何気にわし、その背中に追い打ちをかけるように蹴りを加える。
「ぐっ!」
 思わず悲鳴をわずかに上げた。地面?に手をつき一転。反撃のために振り返るともう眼前にそれはいた。右手には剣を構えて貫こうとしてくる。それを、を右にずらしかわす。勢いのあまり前につんのめった所へ渾身の力を込め後頭部に拳を繰り出す。さすがにこれはかわせず完全にヒットした。
 フィルの渾身の一撃を受けたそれは攻撃を食らった状態で静止する。そして、足からだんだんと消えてゆく。完全にそれが消えたときフィルの体は元の控え室に戻っていた。そこにはもうプロトがいた。しかし他には誰もいない。
「遅かったな。フィル。俺ぁもうだいぶ前に戻ったぞ」
「プロトと一緒にしないでってば。それより、他の人はみんな?」
 辺りに誰もいないのを不審に思ったフィルが聞いた。
「いや。俺たちが早すぎたのだろうな。その証拠に、ホラ。続々と戻ってきたみたいだぜ」
 確かに次々と参加者達が戻ってきた。中には無傷の者から片腕を失うほどの重傷な者もいた。やがて係員らしい人物が奥から出て来て、椅子に座るように言ってきた。
その係員は白い何とも不気味なお面をし、マントで全身を覆っている。
「適当に座って良いのかな?」
 とつぶやきつつも勝手に適当なところへ座る。
 時間が経つにつれ、椅子が満員になってきた。実際ここにいるよりもたくさん戻ってきた者も居たのだが、重傷のため強制的に病院送りとなった。
「そう言えば。プロトは向こうで誰と戦ったの? 僕はプロトだったのだけど。びっくりしたよ。でも、全然弱かったね。本物の半分以下の実力じゃない?」
「ああ。まあ。そうだな。おっ。それより、椅子が満員になったようだぜ」
 フィルが後ろに振り返ると椅子には参加者でいっぱいになった。
 先ほどの係員が椅子の満員を確認すると、ここにいる全員に話しかけた。
「え〜。当初の規定人数を遙かに超えましたので軽く予選を行わせていただきました。ご了承下さい。予選により規定人数に絞ることが出来ました。これより決闘大会本戦のトーナメントを行います。順番にこちらに来ていただいてクジを引いて下さい」
 一息に言い終えるととこからか箱を取り出す。
「んじゃ。俺から引きますかねぇ」
 そう言うとプロトがスッと立ち上がり一番クジを引いた。引いたクジを係員に見せた。係員の後ろにあったトーナメント表の5番の所にプロトの名前を書く。
 次にフィルが引いた。昔からクジの苦手なフィルはおずおずと、しかし手早く引いた。引いたクジは1番。
「やっぱりクジ運最低……」
 落胆するフィルを傍らに次々と参加者達がクジを引いていって、とうとうトーナメント表が埋まった。
「お前ぇ。ホントに運がねぇな。初戦じゃねぇか。ま、頑張れよ」
 他人事だと思いプロトはすたすたと行ってしまう。
「なんだよ。自分だって3回戦だから僕と余り関係ないくせに」
 ぼやきつつも係員に従い会場へと入場する。闘技場の中にはいると耳をつんざくような
歓声が上がった。恐らくこの歓声はフィルにではなく対戦相手にかけられた物だろう。フィルの対戦相手は前回の準優勝者らしい。しかし、そんな物フィルには関係のないこと。
リングに上がると背中に背負っていた愛用武器を取り出す。この日のために手入れされた武器だ。相手は飛び入り参加者と甘く見ているようだった。
「貴様なぞ武器を使うまでもあるまい。先にうたせてやろう。ま、もっとも。初手で失敗したら俺様の勝ちだがな」
「ねぇ。独り言終わった? 初めて良いかな?」
相手の顔に明らかに憤怒の形相が見える。
「おのれ貴様! ぶっとばして――」
「あっそう」
彼はその言葉を言い終えることが出来なかった。もう、彼の上半身と下半身は別々になっていた。
 その瞬間大歓声が上がった。中には武器の不正だ!と言う物もいたがあっという間に本物だと納得させられた。更に、例によってまたプロトによってフィルが『気まぐれのフィル』であることが暴露された。その歓声から逃げるように戻ってきたフィルはプロトを一にらみする。プロトは軽く笑うと2開戦がもうすでに終わっているリングへと上った。
「お前ぇは。俺を熱くさせてくれるんだろうな?」
 プロトが挑発行為にでる。しかし
「クヘヘヘ。イヒッ」
 いったい何を考えているのか分からない奴だがプロトは決して背を向けない。
《始め!》
 その言葉と同時にプロトの懐に相手が潜り込んできた。
「ッハ〜!」
 その男にはおかしな点が2点あった。一つはそいつの精神が完全に壊れてしまっている。2つめは奴の剣だった。明らかにしゃべっている。
「ギョギョギョ」
 恐ろしく、この世の物とは思えない外見だった。
「こいつぁ……。倒すのに一苦労って奴?」
 プロトの読みは当たった。剣が生きているかのようにうねりながらプロトを襲う。
プロトはそれを腰にあった剣で力ずくで押し返した。しかしニッっと笑える余裕がなかった。すぐ後ろに意志のある剣が襲いかかってくる。
 これを観戦していたフィルが疑問に思った。
「なんか……動きが悪い」 
 なんかあったのかな?
 しかしこれであっさりと負けるわけがない。これでもフィルと同様に凄腕なのだから。さっきまでの一方的な攻撃から、プロトの攻めへと転じ、今度はプロトの剣戟の嵐が奴の動きを封殺していた。だんだんとプロトの剣戟について来れなくなった奴の顔に、少し焦りの色が見えた。そして、大きく咆哮を上げた。
「オオオオオオオォォォォーーーー!」
 そう上げたかと思うとまたプロトの視界が暗くなった。何かの術かと思ったがそうではない。自分の足を見ようとすると下半身までしか見えない。そう、プロトは剣に食われているのだ。明らかな武器の反則にブーイングが飛ぶのかと思いきや、それどころか歓声がひどくなる。
「くっそぉ! 今助けるぞ! プロト!」
 しかし、フィルが神速で行っても間に合うことはなかった。たどり着いたときにはプロトの姿はなく、奴の剣の先からプロトの物と思われる血が付いている。その血に流石のフィルはぶち切れた。
「クソガァァァァァァァァァ!!!!!!!!」
 目にもとまらぬ斬撃が奴を襲う。まさに、見えない剣。フィルの理性は完全に飛んでいた。相棒を食われた。ただ、それだけがフィルの頭にはあった。数分後フィルは数十人の係員によって止められた。もっとも、奴を殺し終えてからの話だが。
「くそぉ……プロト……」
 悲しみだけがあった。相棒を失うのは辛い。フィルにはもうそれが嫌と言うほど分かっていた。
『おい』
「!!」
 ふと、頭の中にプロトの声がした。幻聴ではない。明らかに聞こえた。
『ここだ』
 フィルは辺りを見回し声の主を捜す。
『ここだと言うのに』
 もしや、いや、まさか。と思いつつも奴の剣を持ち上げる。
『やっと気づいたか』  
 プロトが食われた剣の中にいた。
       
2004/11/13(Sat)01:00:23 公開 / 孤高
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お初です。小説は難しいですね。ちょっと長くなると思うんですけど、頑張るので最後までおつきあいお願いいたします。
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