- 『無限、交換日記』 作者:千夏 / 未分類 未分類
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全角4253文字
容量8506 bytes
原稿用紙約12.8枚
交換日記をしませんか?主催は私、S.Kです。
この交換日記は普通とは多少ルールが違いますが、決して難しいことではありません。今から説明する事を守っていただければ幸いです。
まず始めに、この交換日記は人数に制限がありません。誰でも参加OKです。参加の人はイニシャル、性別、コメントを記入します。記入した後誰に渡すか、それは誰でもありません。見つかり難い場所にこの日記を置いといて下さい。その日記を発見した人が書くのです。強制ではありませんが、書いてくれることを祈ります。
貴方の僅かな時間を、ちょっとした暇つぶしとして交換日記をしませんか?
:1ページ
「じゃ、明日な。気ぃつけて帰れよ」
「おう。英治もな」
挨拶を交わすのは俺、羽島英治と親友、吉木。
暗いT字路で俺たちは別れる。学校の帰り途中だ。ここら辺は昼間でも暗いので夜になった今は更に暗くなる。点々と不気味に揺らめく街灯が無ければ、きっと何も見えないだろう。
五分程歩いていくと街灯に何かが照らされているのが見えた。その物の前に来ると、何なのか分かった。ノートだ。茶色くて分厚いノート。
俺はノートに手を伸ばした。
家に帰ると自分の部屋に直行し、勝手にあの時拾ったノートをバッグから取り出した。
「なんだこれ」
中を捲ってみると、そこにはこう書かれていた。
『交換日記をしませんか――?』
それは、白いノートに後から説明をパソコンで印刷した感じだった。
俺はバッグから中身の少ないペンケースを取り出し、更にその中から黒のボールペンを取り出した。
どうやらまだ続きを書いた人はいないらしく、説明で終わっていた。俺はその次のページに交換日記を書いていった。
――はじめまして。俺のイニシャルはE.H,性別は男。何も書けばいいのか知らないけど、普通に交換日記のノリでいきます。 今日はなんにも面白いことがなくて超つまんなかった。しいて言うなら、この日記を見つけたことだけが面白いことになるな。 つうか話すこと無いんで、次の奴にバトンタッチ。じゃあな――
「・・・なに書いてんだ、俺。こんなん書く奴いるかフツー」
そう言いつつも、俺はどこに置いとこうか考えていた。
:2ページ
私は木ノ下華。趣味はこの図書室で本を読む事。
シンと静まり返った図書室は、とても本を読むのに適している。微かに鼻につく本の匂いも、人が動く音が聞こえるのも、私は大好きだ。きっと図書室を利用する人はみんなそう思っているだろう。
ふぅと息を漏らし、枝折をはさみ本を閉じた。
さっきまでは気付かなかったが、目の前には一冊の本が置かれていた。茶色くて分厚い本。誰かが読んでいたのだろうけれど、返さずに行ってしまったらしかったので私は本を手にとって本の裏側を開いた。
「あれ?」
裏には本を置く場所のシールがなく、貸し出しカードも入ってなかった。私は誰かのものだと思い、名前が書いて無いかページを一枚捲った。
『交換日記をしませんか――?』
この本は交換日記だったのである。さらにもう一枚捲った。
『はじめまして――』
誰かが書いたのだろう。
説明を見ると参加自由らしいので、私は持って帰ることにした
夕飯を食べて部屋へ戻ると、私は机に向かった。図書室で交換日記を見つけたことを思い出すと、私はすぐさまバッグから茶色くて分厚い日記を取り出した。中を見るとやはり交換日記の内容だった。
まだE.Hとういう人しか書いていない。話のし方は明らかに高校、中学、そこらへんだろう。私はバッグから黄色のシンプルな筆箱を取り出した。最近親に買ってもらったものなので大切に使っている。
――はじめまして。私は高校二年生の女子、H.Kです。これといって書くことはないけれど、最近の出来事を書きます。この前親に黄色の筆箱を買ってもらいました。恥ずかしくてあまり人には見せていませんが、とっても気に入ってます。きっと二年後も使っているだろうなぁと思います。それでは、ここらへんで・・・次の人にバトンタッチ――
私は友達と話しても面白くないような事を日記に書いた。これを書いたのが私だと分かる人がいそうで少し照れくさかったけど、それはそれでいいかなと思う。
電気を消して、ベッドに寝転がった。
:3ページ
「彩ちゃんっ・・・」
泣きながら私の胸に顔を押し当てるのは親友の英美ちゃん。最近、英美ちゃんのお兄さんが亡くなった。自殺だった。
「大丈夫、私がついてるよ」
そんな気休めにしかならない言葉を、これで何回目だろうか。何度も何度も繰り返し言った。その度に英美ちゃんは「ありがとう」と言うのだった。私の胸に何かが刺さる。英美ちゃんがとても滑稽に見えた。
行って来ます、と家中に響き渡る声で私は言った。靴をはき鍵を持って家を出る。外には英美ちゃんが笑って待っている。
「私もうお兄ちゃんのことは気にしないようにする!悲しいけど、ウジウジしてたらお兄ちゃん悲しむよね」
心強かった。私には英美ちゃんがとても強く見えた。
「そうだよ!英美ちゃんは英美ちゃんらしく、ね。学校行こっ」
明るく振る舞う。英美ちゃんはそれに合わせてくれる。
英美ちゃんと英美ちゃんのお兄さんはとても仲が良かった。歳が近かったせいもあるのだろうけれど、どこから見ても仲良し兄妹だった。そしてそれは、本当にそうだった。そんな兄を失って、英美ちゃんはさぞ悲しんだだろうなと思う。だから私はなるべく一緒に居ようと心がける。私には、それしかできないから。
授業が終わり、帰りの学活が終わると私は隣りの英美ちゃんのクラスへ行った。
「英美ちゃん、一緒に帰ろう」
丁度廊下に居た英美ちゃんに言うと、ゴメン今日は用事があって遅くなるから、と断られた。私は無理矢理にでも笑顔を作り、そっかゴメンね、分かったと言ってその場を離れた。私は自分が虚しくてしょうがなかった。
重いバッグを肩にリュックの様に背負い、一人で道を歩いた。ふと見つけた公園で私は寄り道することにした。
ベンチを見つけると、私はベンチの端の方に腰掛けた。人はいなくて、遊び道具も少ない小さな公園。ふと思い出したように私は、公園の主役らしい滑り台の階段を上った。そこには、茶色くて分厚い本が置かれていたのである。
「なんでこんな所に・・・?」
不思議に思ってページを開いた。
『交換日記をしませんか――?』
それは、交換日記だった。
ベンチに戻って、リュックサックから筆箱を取り出す。愛用のシャーペンを出してから交換日記のページを捲った。どうやら私は3ページ目らしい。2ページとも私より年上らしかった。カチカチとシャーペンを鳴らし、芯を2ミリほど出した。
――はじめまして!あたしは中学生のA.N♀です!最近、親友のお兄さんが亡くなってしまいました(泣)あたしにすがる親友になにもできない自分が、スゴイ悲しいです。でも親友は強い子なのでがんばれてます!私はそんな親友のためにも長生きするぞー!でわ、次の人にバトンタッチです(笑)――
まるで私じゃないような私。これを見るのはどんな人なのだろうか、興味があった。
私はその日記をベンチの下に置いて、その場を後にした。
:裏、1ページ
「くっそっ・・・」
風が俺の短い髪をなびかせた。ここは屋上。俺の通っている学校の、一番高いところ。一番、天国に近いところ。俺はガシャンガシャンと柵を登り、顔を下へ向けた。下にはコンクリートで固められた道路と、家の光が点々と見える。俺の家も大体分かる。その家にはきっと、俺の親や妹がいる。
柵の裏側に回り、一歩踏み出すと下へまっさかさまだ。部活で鍛えられた両手が命綱である。
両手を、離した。
その瞬間、俺の身体は下へ下へ落ちていった。風の音だけが耳に聞こえる。コンクリートに体がぶつかった。一瞬大きな痛みがしたが、何も聞こえなくなり、痛みも感じなくなり、そして、考えることも無くなった。
隣りに誰かが何かを、置くのが少し分かった。
俺は吉木勇太。昨日、親友の英治が死んだ。自殺だった。
前から英治は毎日がつまらないと嘆いていた。最近ではヒステリーと起こしたようで、学校に来るのも苦痛で仕方が無い様子だった。全身から、くだらないと叫んでいる様だった。
英治は四人家族で、あまり仲が良くなかったらしい。妹には暴力を振るう寸前だったという。俺はそんな英治に、妹ぐらい大切にしろよなおにいチャンよぉ、と冗談交じりで言っていた。今思えば、英治は本気で俺の言葉をウザイとよく言っていたのだ。
そんな英治が一回だけ、昨日面白い本見つけたんだと言っていたのを覚えている。茶色くて分厚い、交換日記だと。それは自分で見つかり難い場所に置いとくものだと言っていたので、俺は置いた場所を教えてもらった。けれど見つからなかった。英治が言うにはもう、誰かが見つけたのだと言っていた。でも俺は今、そうだとは思っていない。
なぜならそれは、英治の死体の隣りに置いてあったのだから――
:裏、2ページ
僕は萱嶋藤。最近、僕が想いを寄せていた木ノ下さんという女の子が死んだ。
交通事故だった。
学校の近くには小さな交差点があって、何回か事故はあった。その交差点には右から来る人が車からは見えない死角があるらしく、まさにそのパターンで木ノ下さんは事故に遭ったのだった。即死だった。車はスピードを緩めていたのにも関わらず、打ち所が悪かったせいで彼女は死んだという。それでも疑問が残った。
絶対に死ぬような事故ではなかった。
「バイバイ、華ちゃん」
「バイバイ靖子ちゃん」
手を振り、私たちは別れた。私は交差点は通らず、華ちゃんは交差点を通るのである。
別れたその瞬間、耳に届いたのは若い女の悲鳴。
「キャァァァ」
振り向いた時、私は動けなかった。そこには、今さっき別れた、木ノ下華ちゃんの姿が見えたのだ。動けなくなった私の横を、華ちゃんのことなんて知らないであろうおばさんや、おじさん、ギャルっぽい女の子たちが走って行った。口々に「なに?事故?」「女の子みたいよ」「やだー可哀想」という哀れみを感じさせない言葉を耳にした。
やっと動けるようになった私は、今来た道を戻って華ちゃんの元へ駆けていった。
人を掻き分けてたどり着いたそこには、誰かが学校まで知らせに行ったのだろうか、先生が華ちゃんを抱きかかえていた。
バッグの中身が周りに飛び散っていて、中には分厚い茶色の本などもあって、華ちゃんという女の子か一瞬で分かるようでもあった。
(つづく)
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2004/12/30(Thu)14:03:39 公開 / 千夏
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■作者からのメッセージ
コンニチワ!!
気付いたらかなり後ろのほうにありました;;
どうでしたか?
今回は裏2ページを更新しましたvv
もう話すといけない気がするので、ちょっとこれで…(逃
それでは!!