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『オムライス』 作者:かづき / 未分類 未分類
全角1602.5文字
容量3205 bytes
原稿用紙約4.85枚
「……もうやだ」
 どこを開いても全然面白くない教科書も、ノートの隅に適当に描いた先生の似顔絵も砂糖が底に固まっているコーヒーカップも、全部投げ出してしまいたい。
 両親が寝室へ引き上げた事を確認してから、財布だけ持って家を出る。ぽつぽつと続く街灯は星よりも明るくて、それでいて不安をそそる色をしていると思う。
 夜中に外出するのは初めてではない。初めは近くのコンビニで何か買って帰るだけだったのだけれど、次第に足を延ばすようになり、この前24時間営業しているファミリーレストランを見つけた。
 いつも学校へ行くとき通る道からは二本逸れたところにある店でまだ入ったことはないけれど、いつ見ても駐車場には何台か車が止まっている。普段なら素通りするその建物を、今日に限ってじっと凝視してしまう。おなか空いたし、なんて自分に何となく言い訳しながら財布の中身を確認すると、漱石さんが一人きり。今夜使ってしまったら間違いなく月末まで文無しで過ごす羽目になる。今月もあと少しとはいえ、それは厳しい。頭ではそう考えるのに、体は勝手に自動ドアの前に立っていた。

 ドアが一拍置いて微かに軋みながらスライドする。白々しい灯かりと薄っぺらなウェイトレスの歓迎―イラッシャイマセーェ、一人が言えば残りも唱和する、感情も何もないアレだ―明るいつくりものの光に少しくらりとした。
 いざ入ってしまえばこっちのモノで、何故あんなに外で迷っていたのか不思議にさえ思える。
 ことり、と目の前に置かれたガラスのコップには随分前から水が汲まれていたのだろう、白く曇って見えるほどにびっしり水滴がついている。
「ご注文はお決まりですか?」
「あ、オムライスください」
 不自然なくらい黄色くて、毒々しいほど赤いケチャップの掛かったオムライスください。なんて、勿論そんなことは言わなかったけれど。
 ソースはどうなさいますか、デミグラスとケチャップと御座いますが。スープはコンソメとポタージュとどちらになさいますか。ご一緒にドリンクは如何でしょうか・・・マニュアル通りのお決まり文句に、ケチャップ、コンソメ、要らないと返して、眠たげなウェイトレスをやっつける。
 さて、と暇つぶしに辺りを見回すと、他にはテーブルの下で手を繋いでパスタを食べるカップルが一組だけ。それでも店員を入れるとそれなりに人数は居るはずなのに、深夜特有の妙な沈黙がフロアー全体に垂れ込めている。誰も一言も喋らずに、水を小さく啜る音すら耳障りなくらい大きく響く。
 たっぷり30分後、食べ終えたカップルが器用に手を繋いだまま席を立ってテーブルを後にしたとき、ようやくオムライスが到着した。
 イタダキマス、いつもの習慣で手を合わせた後、スプーンを取る。ケチャップはやっぱりケチャップの色で、卵もやっぱり卵の色で。ごくごく普通のオムライスをスプーンですくい取り、口へ運ぶ。
―ふぅん、こんなものか。
 すくっては食べ、すくっては食べ、ところにより水。
 予想に反して存外ふんわりした卵と予想通りにパサパサとした食感のチキンライスを同時に食べるのは、その質だけじゃなく量の差の関係もあって至難の業で、油断したらチキンライスだけ食べる羽目になってしまう。悔しい。

 どうにかこうにかバランスよく食べていたら、半分くらいまで食べ進んだところでそこにあるはずのないものを見つけた。くしゃくしゃに小さく丸められて、ケチャップにまみれた紙。
 左手の人差し指とスプーンの背を上手く使って破れないようにそっと広げてみると、5×5センチくらいの大きさにさり気なく文字が書かれてあった。



あたり



 何コレ、訳が分からない。
けど、やった、当たった。何が当たったのか分からないけど、当たった。久し振りにいいことあった。

 来て良かった、深夜のファミレス。あたしは取り敢えず、小さくガッツポーズを決めておいた。

2004/11/02(Tue)21:24:08 公開 / かづき
■この作品の著作権はかづきさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
初めまして、かづきと申します。
投稿の要領がまだよく分かっていない部分で読みにくいところもあるかも知れませんが、ご容赦くださいm(__)m
これから精進していきたいと思います。
よろしくお願い致します。
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