- 『最後の戦い』 作者:Rei / 未分類 未分類
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時折、肌寒さを感じさせる澄みきった大気が周囲に満ちていた。
辺りは薄暗く、厚い雲の隙間から細くそして薄く伸びている陽光は身を潜めているかのように静かにたたずんでいる。
加持翔一はけだるい体に喝をいれ、自転車のペダルをゆっくりと踏み込んだ。
ここ、神奈川の川崎と言えば工業が盛んで”人工都市”というイメージがあるかもしれない。
だけどこのあたりは自然環境と共存する街というコンセプトを元に作られたらしい。
静寂と緑あふれるこの街は住宅雑誌等にもとりあげられ近年ベッドタウンとして注目を集めている。
普段住んでいると何の感銘もないが、友人が遊びに来た時などこんなに恵まれた環境はない。とよく言われるものだ。
この街の静かな環境が与える物なのか、自分はもう何百何千と経験している朝という物にいまだに慣れる事ができないようだ。
ペダルを漕いでも生温い血液が身体に送られるだけ。
いまだに翔一の脳は眠っているかのように活動を怠っていた。
そういえば脳は身体と数時間遅れて目覚めるらしいと誰かに聞いた事がある。
だから試験前の夜ふかしをすると脳が眠ったままテストを受ける事になるとか。
今度からは気をつけねば。
昨日寝たのは確か夜中2時すぎだったか。
好きな女優が出る深夜番組を2時まで見て、それから歯を磨き、風呂に入ったんだった。
母親は歯磨きにうるさい。1年に34回は歯医者に連れていかれる。
歯が悪いと老後苦労するからだとか。そんな事を心配してないでもっと有効的にお金を使って欲しいものだ。
今日起きたのは8時。いつも通り。それから半分寝たまま朝食をたいらげ、歯を磨き、家を出たのが8時20分。
予定時間通り。パーフェクトだ。
翔一の通う中学は授業が九時開始。私立ならではの嬉しい特典だ。まぁ土曜日も学校があるのはかなり痛いけど。
道の向こうから吹いてくる風が肌に心地よい。
風が運んでくる木々の香りがつんと鼻ではじける。
花粉症じゃなくてよかった。と思える瞬間だ。
よし。行くか。と誰にも聞こえないくらいの声でつぶやく。いや、ほんとに声は出ていなかったかもしれない。
翔一はギアを最大速に切り替え、サドルから腰を浮かせ、前傾姿勢になり自転車を疾駆させる。
そして数秒の間最大速を維持し、一気に身体の力を抜き、空気の壁を満面に感じる。
突然、急ピッチで血液を送られた身体は飛び上がり、血管は唸りをあげ、筋繊維が脈動する。脳はフル回転で起動を始めたようだ。
これは翔一なりの目覚まし方法だ。
急に激しく動くのはあまり身体にいいとは思えないが、一番楽でてっとり早い方法である事は自信を持って保証できる。
いや。逆に血管がタフになっていいかもしれない。なんて。
住宅街の外側に近づくにつれ、木々の割合はどんどん減っていき、日本の主要都市、本来の姿が露見してくる。
所詮、流れる時代に逆行しているこの街も、本来の姿から目を背けるための偽りの皮を被っているだけ。気休めにすぎないのだ。
コンクリートに覆われた道路を通り、商店街に入る。
商店街の一角にはこのあたり悪ガキの集まるゲームセンターがあり、その横に地域の安全を守る交番がある。
何とも異色な組み合わせだが、PTAや地域会のいう通り、その威圧感が効果を発揮している事は間違いなく、
最近この辺で不良を見かける事はあまりなくなった。
これは地域会の不良対策で、ゲームセンターと不良を除く、全ての住民から絶大の支持を受けている。
翔一はその二つの建物の間にぽつんと申し訳なさ程度に立っている掲示板の前でブレーキをかけた。
掲示板には地域会の企画やポスターが貼ってあり、翔一はその一枚に眼を引かれた。
『有志ある若者求む!自衛隊に入りこの国を護ろう。』
自衛隊募集のポスター。年齢制限はこの所どんどん下がって15歳。ちょうど自分と同じ年齢だ。
翔一は自分に迷彩の制服を着て、脇に銃火器を持った姿を想像した。なんとも情けない姿だ。
給料も他の公務員と比べると断然高額だし、制限はないも等しい。来るもの拒まず。といった感じだ。
この国はまだ徴兵を行う程ではないが、かなり危険な状況になっているのだろう。
この戦争の中心となっているアメリカや中国はほとんどの若者が軍に召集されているらしい。
日本も憲法や法律等をどんどん改正していっているし、明日は我が身といった感じだ。
翔一も世界が危険な状況にある事は知っているが、テレビや新聞でみてもあまり実感が湧かない。
自爆テロやアメリカの空軍が中東にN2航空爆弾で攻撃を仕掛けたのだって自衛隊の戦死者が1200人を越えたのだって全部全部嘘みたいに感じる。
まるでニュースという物は視聴者を楽しませるための作り話なんじゃないかなって。
実際にはこんな事は起こっていないんじゃないか。なんて。
でもこんな物を見ると急に背筋が凍り付いたような感覚に襲われる。
戦争がゆっくり。しかし確実に近付いてきている事が。
いつまでも来ると思っていた平和な毎日が急に消えてしまうんでないかという不安にかられる。
翔一は急にその場にいるのが恐くなり急いでその場を後にした。
続くぅ!!!!
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2004/10/31(Sun)12:38:47 公開 / Rei
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■作者からのメッセージ
小説書くのは初めてです。
ここの人たちはみなさんレベルが高いので緊張しますね。
これからよろしく御願いします。