- 『桜吹雪の舞うここで… 完』 作者:ニラ / 未分類 未分類
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全角8020文字
容量16040 bytes
原稿用紙約23.85枚
――薄い赤で染め抜かれた花びら…
――それは、人々に活気を与え、癒しも与え…
――この世で一番美しいと言っても良いかもしれない…
――だけど…
――時によっては憎まれる存在にもなった…
〜〜〜〜〜〜〜第一話「現実から…」〜〜〜〜〜〜〜
この町で一番長生きをする大木があった。それは、毎年毎年、鮮やかなピンクで染め抜かれた桜を吹雪のように舞い散らせ、薄茶色で塗られた地面を、綺麗に塗り替えていた。
そんな有名な大木の前に、一人の青年が立っている。黒々とした髪は、日の光で光沢があり、さわやかな印象がある。顔は、普通に見れば、確実に女性と見間違えられそうな程綺麗である。
青年は大木を、虚ろに開いた目でじっと見ている。そして、左手を前に出して、木を触ると、右手をしっかりと握り締め、殴りつける。バシバシと小さい衝撃音は、鳴り続けている。気がつけば、青年の右拳は鮮やかな真紅で染まりつつあった。木も同様に、同じ場所に真紅の液体がこびり付いている。
目には大粒の涙が一つ、また一つと流れ、落ちていく。顔はもうぐしゃぐしゃで、さっきまでの真っ白で綺麗な顔はなく、あるのは憎悪で満ち溢れ、怒りで頬が真っ赤になった恐ろしい顔であった。
青年の周りを通る者は、時々それを見て、目を合わせないように通りすぎていく。青年は、そんな事なんてお構いなしに大木を真っ直ぐ見て殴りつづける。痛みは感じていない。やはりあるのは満ち溢れる憎悪と怒り。
「何をしている!! 止めるんだ」
その時、薄暗い青の制服を着た男性が止めに入る。腰の辺りには棒と拳銃がさしこまれている。警官だ。
「止めろ!! 止めろ!!」
警官は、青年を羽交い締めにし、次々と飛ぶ拳を一時的に止める。が、青年は警察の腕を簡単に振り払い、再度大木を殴り始める。警官は呆気に取られていた。
――何故、この木を殴っているんだ?
青年は、だんだんと拳の痛みがきはじめたのか、拳を震わせながら大木によりかかる。
――この木のせいで…、俺の大切な人は…
町中に大きな咆哮が響き渡る。目からは、滝のように流れる半透明の液体。それは、首筋まで伝わり、服をじわじわと濡らして行く。手は血だらけで力なく下ろされている。
その時、突然雨が降り始める。大木に咲いている綺麗なピンクの桜は、その時だけ、静かな暗い印象を強め、青年を見て悲しんでいるように、いくつかの花びらが落ちていった。
――神谷君、桜が舞うのって、綺麗だと思わない?――
青年の頭の中では、綺麗な女性が今いるこの大木を見ながら、にこやかに微笑んでいる姿が現れ、そして静かに記憶の奥底へ沈んでいく。
青年は沈んでいく記憶を、再び浮き上がらせようと、頭を抱え、そして大声で叫びつづけている。警官はすぐに我に戻ると、頭を抱えしゃがんでいる青年の肩を抱きながら、近くの交番へと連れていった。
「君は何をしていたんだ・・、手が血だらけじゃないか」
「…」
雨で濡れた頭をタオルで拭きながら、青年に聞く。しかし青年から帰ってくるのは、無言だけだった。
警察はしばらく質問を続けていたが、帰ってきたのはそのうちの一つのみだった。
「神谷了…で良いんだね?」
青年はうつむきながらも、静かに頷く。警察は、それをクリップボードに書きこむと、頭をぼりぼりと掻き毟る。容赦無く降る雨は強さを増し、外は青い世界で包まれる。青年は、それを虚ろな目で見つづけている。交番の入り口から見える青いカーテンの向こうには、上手く見えないが、ピンクで覆われた大木が見える。しかし、警察は再び殴りに行くのではないか、と思い、開けていた交番の戸を閉める。
「何があったのかはもう聞かないが、あの大木を殴っちゃ行けないよ」
「…何でですか?」
「それは…、やっぱりこの町を見つづけているらしいからね」
「貴方は、この町の者のようにあの桜の木を神だと思っているのですか?」
答えに困る質問が警官に向けて発せられる。青年―神谷―は警官に冷たい視線を浴びせながら、じっと返答を待っている。警官は、少し黙るが、少し経った後、口を開ける。
「僕は、この町に編属されたばかりだから分からないけど、あの木は立派だと思うよ」
交番の窓から微かに見える桜の大木を見ながら、警官は尊敬するようにそう言った。神谷は、やっぱり・・、と呟くと、冷たい目線を再び桜の大木へと向ける。
「僕は思いませんね。何故町の人の大体が神様が宿るなどの事を言うのか分かりません。第一、神様が宿ると言うのなら、僕が殴っている場面で止めに入る物がいてもおかしくないはずです」
神谷は冷たい声でそう言う。だがしかし、言っている事は確かであった。神と思うのなら、何故誰も止めに入らなかったのかは、不思議である。警官が止めに入るときを考えて見ると、神谷が殴っている所で、周りの者は、関わらないようにしようと考えている顔であった。
気がつけば外は明るく、青いになっていた。太陽も、しっかりと辺りを照らしている。神谷は交番の戸を開くと、晴れている外へ出ていく。
「心配しないで下さい、僕はもう殴りませんから…」
神谷は交番から出ると、晴れた空の下、ゆっくりと歩いていった。はっきりと開いた茶色い澄んだ目に浮かぶのは、怒りだけであった。
〜〜〜〜〜第二話「過去から…」〜〜〜〜〜
――あれからどれくらい経ったんだっけ?
神谷は一つの曇りも無い鮮やかな青空の下を歩きつづけている。この町は、意外と広く、町中を回るまでに、一日を使うと言われている。神谷は相変わらずに真っ黒な目を虚ろに開けながら人ごみの中を歩いていく。時々見える町の者の笑い声は、神谷に聞こえる事は無い。
町の中核まで来た頃、神谷は足を止めて、町の中心点にある噴水を見る。そして、噴水の周辺にあるベンチに座ると、自分の手を見る。
――何故、あの時俺は、救えなかったんだろう?
神谷の目からは涙が流れ出す。必死にその涙を拭い去ろうとするが、拭いても拭いても涙は止まることを知らない。遂には、呼吸も苦しくなってきた。
――どうして…俺は、彼女を・…
神谷は、桜が嫌いになった日の事を思い出していた。
三年前の夏、この町はまだ小さく、有名な物と言えば、長寿の桜の木しかなかった。しかし、その木は、この町に来る者を魅了し、そして町に活気を戻し始めていた。
その日、神谷は自分の心に決めていた事を告白した日でもあった。
「俺は、ずっと前から貴方の事を思っていました!!」
下がる頭と共に、上がる一通の手紙を持った両腕。その先には、浴衣姿の女性―百夜 吹雪―がいる。桜をイメージした桃色の浴衣に、誰もが見とれるほどの白く、綺麗な顔をし、薄い栗色の髪の少女であった。神谷は、この彼女に数年前からひとめぼれしていた。しかし、やはり彼女と自分がつりあうはずが無いと考えていて、告白する決心がつかずにいた。しかし、告白しようと考えたのは数日前だった。
『神谷君、突然だけど、一緒に今度のお祭行ってみない?』
明るく、栗毛の髪を振りながら、吹雪は神谷を誘った。神谷は、心の中で号泣しながらも、冷静にOKを出していた。
「別に良いよ・・、予定も無いしね」
「じゃあ、決まり!! 打ち合わせは後日電話するから!!」
何故彼女が神谷を誘ったのかは分からなかった。しかし、神谷はその時に決意していた。
――今度こそ、俺は彼女に告白をする!!
電話での会議はそう長く続かなかった。色々と話し合ったが、祭の開催場所の入り口で待つ事になっていた。
祭は盛大に盛り上がっていた。一年に一回の物という事もあり、楽しまない者など誰もいなかった。神谷は、その騒ぎの入り口で、吹雪を待っていた。
「ごめんね〜〜!! 準備に手間取っちゃったぁ…」
一瞬だけ、神谷はどきりとした。いつもは、高校の制服しか見た事が無かったが、今回は、始めての浴衣であった。少しぐらつくが、すぐに体制を立て直すと、「よっ」と手を上げながら吹雪を迎える。ずいぶん焦ったらしく、息は絶え絶えになっていた。
やっと息切れが治り、すぐさまに祭の中へ入っていく。神谷の服は、いつも通りの半そで短パンの普段着であった。自分も身だしなみを整えようと思ったのだが、そんな事をして、笑われるのが怖いので、こうなったのだった。しかし、ポケットには決意を込めた一通の紙がしっかりと入っていた。
祭も終盤に差し掛かった頃に、花火が一つ、また一つと天へと上げられる。それは、大きな音と共に、鮮やかな金や、銀、そして、赤などと、綺麗に空に咲き誇っていった。そして、最後には町の者全体が驚く物が打ち上げられた。
ひゅ〜〜んっ どぱぁぁん!!
最後と思われる一粒の玉が炸裂し、周囲に最も大きな音の打撃を与える。それと共に、辺りを桃色が包み始める。
「これは…、桜?」
神谷は驚きながら目の前に降る桃色のものを取ろうとする。しかし、触ってみると、高熱を発していた。驚きと、綺麗さに、呆然とした。
「火薬・・」
桃色の物体は、火薬に混じっていたらしい何かだった。それは、神谷にもわからなかった。しかし、その偉大さは、身にしみていた。
ふいに、涙が出ていた。悲しみではない。「桜」と言う物の凄さでだった。もちろん、これは桜ではない事は重々承知である。
「良かった…、桜吹雪が見れて…」
「これ、桜吹雪って言うの?」
「この花火もそうだけど、こっちの桜吹雪も凄いわよ。今年は中々舞い落ちなくて、どうなるのかと思ってたけど、花火の音で、やっと見れた」
吹雪は皆が花火「桜吹雪」に見とれている間に、皆と反対の方を指差す。見ると、花火で驚いたはずなのに、また驚いた。
それは、綺麗と言うに等しいほど鮮やかだった。舞い落ちていく華麗で柔らかな桜の花、そして、季節はずれだというのに、春の季節がそこにはあった。数千幾万と言う多大な量の桃色に染められた花が、地面を埋め尽くし、やがてそこに桃色のカーペットを作る。
「凄い・…」
「いつも見てるんじゃないの?」
「いや、俺は祭りの日はいつも何故か風邪引いてんだ…」
「じゃあ、良かったじゃない!! きっと見れるようになったのは運命だと思うよ!!」
神谷はへへへ、と笑う。そして、右のポケットから白い紙を出す。そして、一気に頭を下げた。
「・…」
神谷の行動を見て、一瞬吹雪は黙る。紙の中は、自分の告白が入っていた。言うのは恥ずかしいので、やはり、渡そうと思っていた。これを、誘われた日から一生懸命考えていたのだった。
吹雪はクスリと笑うと、こちらに近づいていく。神谷の心臓は、今にも破裂しそうな勢いで動いている。
「先に言われちゃったかぁ・・」
「え?」
手紙を受け取ると、その場で吹雪は開いて目を通す。そして、一気に赤くなっていく。その後、手紙を落として、神谷に抱きつく。
「私が神谷君を誘ったのも、告白したかったからなの…」
「それって・…」
「好きです!! 神谷了君…付き合ってください!!」
その時、今とは比べ物にならないほどの笑顔が彼を包んでいた。涙なんて物は姿をあらわさず、幸せと言う物が、彼らを包んでいた。
〜〜〜〜〜第三話「桜と吹雪」〜〜〜〜〜
神谷は緑のシャツに青の短パンと言う姿でいる。手には一切れの地図を持っていて、古くなって変色しているその地図の中には、大きな文字で「桜」と書いてあった。そして、その場所が現在神谷のいる町「桜町」であった。
神谷は、桜町の中心、あの桜の大木がある所に立っている。誰かを待っているが、待ちきれないのか、大木の周りを回ってみたりしながらうずうずする気持ちを抑えていた。
そこへ、白いワンピースを来た少し背の高い少女がこちらへ走ってくる。照りつける太陽の光に当らないようにする為に被った麦藁帽子は、彼女の顔を隠している。
「ごめん!!」
少女は神谷を見てすぐに謝る。両手を合わせて頭を下げている。しかし、神谷は怒らずにその少女の頭をポンポンと叩く。少女は手を頭に添えながら、ありがとうと笑いながら言った。
「さてと・…、これからどうする?」
神谷は桜の大木を見上げながら少女―吹雪―に聞く。吹雪も一生懸命考えているが、なかなか良い場所が出てこないらしい。せっかくの夏休みなので、めったに行けないような所を神谷も探して見るが、中々見つからない。
その時、どさっと言う音が後ろから響いた。何が落ちたのだろうと神谷が振り向くと、そこには倒れた吹雪がいた。口から血を流していて、白いワンピースはだんだんと赤く染まっていくのが分かる。それを見た神谷は驚き、すぐに抱きかかえる。「吹雪!?」「吹雪!?」と何度も声をかけてみるが反応は無く、帰ってくるのは絶え絶えになった呼吸の音だけであった。周りの町の人は、その事に気づくと、すぐに神谷を見てから吹雪の安否を確かめ始める。その中には、119のボタンを携帯で押している姿もある。涙を流しながら神谷は何度も吹雪に声をかける。
暫くするとサイレンが聞こえてきた。音はだんだんと大きくなっていき、最後には耳に響くような大音響となっている。白いワゴン車のような車に、赤十字が塗られているその車は、後ろのドアを開けると、運転席からヘルメットを被った男が二人現れ、吹雪の状態を見る。そうしてから、男は担架を出すと、その上に吹雪を乗せて、後ろへ担ぎ込む。当然、涙を流しながら状況についていけない神谷も一緒に乗車する。吹雪には呼吸器が付けられ、心拍数の状態も見る事になった。手には点滴をつけられている。心拍数は限りなく上下に線があり、危険な状態なのだろうと神谷はすぐに分かった。再びサイレンが鳴り出し、車は発車をする。普通の車の倍以上のスピードは出ている。それだけ、一刻を争う状態だと言える。
数時間経つと、車は急停止する。そして、扉が開けられて吹雪が外に出される。神谷も一緒に出た。そこは真っ白で包まれている大きな病院であった。五階前後はあるだろうと思える病院に、吹雪は入っていく。神谷は吹雪の親がいないかを確認する。いたのならばすぐに状況を説明するためだった。しかし、親と思われる姿は見えない。神谷は、そう確認すると、病院の中に入っていく。
中は清潔感が溢れていた。消毒液の匂いが充満していて、少し吐き気に襲われたが、吹雪が何処に言ったのか分からなかったので、受付に焦りのこもった気持ちで聞いてみる。
「すみません!! ここに今担ぎ込まれた人は何処に!!」
「ああ、緊急手術室ですよ」
少し戸惑いながら神谷はそこに走っていく。途中途中に「走るな!!」と声をかけられたが、耳に入らなかった。神谷の心の中では、もう吹雪のことでいっぱいになっていて、手術室に向かうしかなかった。
――神様はなんで、俺達をこんな運命に導かせたんだ…
だんだんとわき上がっていくどうしようもない怒り、それは、手術室に近づくたびに増していく。怒りによってかかったエンジンは、ブレーキもせずに速度を上げていき、顔は真っ赤になった。
しかし、ついたときにはすぐに怒りが悲しみへと移り変わり、速度が落され、愕然とした。目の前にあるのは鈍い光を放つ大きな鉄板のような扉、その先に吹雪がいるはずなのに、どうしようとも出来ない。この扉が、吹雪と神谷を遮断するかのように立っている。神谷はその扉を思いきり叩くと、すぐ近くの椅子に腰掛けた。
「やっと・・気持ちが伝わったのに…何で、こんな事に…」
頭を抱えながら椅子の上で上半身を屈める。そして、涙が着ている服をにじませる。真っ白に包まれた長い廊下の一番奥の隅で、神谷は静かに涙を流していた。
〜〜〜〜〜最終話「夢見てた奇跡」〜〜〜〜〜
気がつけば、泣いていた。何故悲しいのか分からなかった。単なる記憶の探りをして、彼女の事を思い出していただけなのに、無償に悲しくなった。
午後のオレンジ色に満ちた夕焼が後ろで輝いている。周りは目も覚めるような鮮やかな緑が大量に生い茂っている草原で、神谷はそこに一人立っている。何故ここに来たのか分からない。ここが何処かも分からない。気がつけば、知らず知らずのうちに彼女の事を思い出しながら歩きつづけていたようだ。神谷はそう思う事にする。
――きっと、この草原にはなにか特別な事があるに違いない
神谷は静かなこの草原で、静かに笑う。微笑む。しかし、神谷はその場から1歩たりとも動かない。ふいに見た目の前の状況に気がついたからだ。
目の前には、白いワンピースを着た女性である。それを見た瞬間、神谷は目を大きく開け、涙も枯れ果てたボロボロになった目で彼女をしっかり見据える。
「吹雪・…、何でここに来てくれたんだい?」
そう聞くと、彼女は一言も返さずににっこりと笑う。そして、一歩、一歩と神谷に歩み寄る。近くに寄って来る毎に、だんだんと彼女から香りがしてくる。香りは、どんな匂いなのかわからない。この謎の香りがだんだんと神谷の周りの草原を変えて行く。
オレンジ色に輝く夕焼はだんだんと時間が撒き戻るように青に変色し、雲一つ無い青空へと姿を変えた。緑の草原はじゅうたんを一気に敷かれたように桜の色になる。そして、彼女の側には大きな桃色で包まれた大木が一本。
「これは…!?」
――お久しぶりです。了君
頭に直接声が響いてくる。何故だか、綺麗に澄んだ水のような懐かしい声が聞こえる。吹雪の声だった。
「吹雪、君は死んだはずじゃ…」
――そうです。死にました…でも、私が死んだ事で貴方が変わった事が、悲しくて…
彼女の口は開かないが、少し下にうつむく。神谷は、今度はゆっくりと歩み寄る。彼女に近づいている。あと三歩、二歩と近づき、とうとう彼女の前に来る。そしてうつむく彼女の頭に手を置く。神谷は気がつけば笑顔は戻っていた。
「俺は、お前が死んだ事で桜を憎んだ。何故かって言うとさ、彼女がいつも一番に見ていた桜吹雪が、今では君が一番じゃなくなってたから…でもさ、今ここに来るまでに考えたんだ…」
――何をですか?
神谷は少し恥ずかしそうに胸に手を置く。彼女はハテナのついた表情でそれを見ている。桜が散り始めている。数多の花びらが、周りの景色を桃色に変え、不思議と神谷の表情は柔らかくなっている。
「俺は、憎む事を考えるのはいけないんじゃないかってさ・・」
――…そうですね、私は、正直言ってあのような君を見たくなかった。真っ直ぐに生きたあの頃に戻って欲しかった。
「大丈夫・・だと思うよ。だって、俺はもう一度吹雪に会えたんだから」
彼女が死ぬ前に見せていた笑顔を≪今ここにいる彼女≫に見せる。彼女は、ほっとしたように神谷を見て、微笑んだ。気がつけば、桜吹雪は散り終わり始めていた。草原に敷かれたようになっていた桃色の正体は、桜の花びらだと言う事も気づいた。神谷は、振っている桃色の花びらを一片取ると、彼女の手を掴み、しっかりとその花びらを握らせる。
「これが、俺がもうこんなようにならないって言う印!!」
――…ありがとう。これで、私も安心で―――
神谷はハっとする。目の前の彼女はいなくなり、周りの桜吹雪も無い。大木も消えていて、空は夕焼に戻っている。
「俺、寝てたのかな?」
草原に寝転がっていたようで、体中に付いた緑の草を取っていく。ふいに、一片だけ、花びらが見つかった。ピンク色である。その鮮やかな花びらは、神谷の目に強く止まった。
「夢じゃ…無かったのか」
フフフ、と小さく笑い、立ちあがると、輝くような目で空を見上げる。そして、大声で叫んだ。
――約束、絶対に破らない!! 桜吹雪の舞うここでしたこの約束だけは絶対に、忘れない!!――
神谷はそう言うと、花びらをポケットにしまい、草原を歩いていった。
終了
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2004/11/15(Mon)21:13:18 公開 / ニラ
■この作品の著作権はニラさんにあります。無断転載は禁止です。
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■作者からのメッセージ
忙しくて、結局、半端なように終わってしまいました。これからは、こんな風にならないよう、反省して、次回作に望みたいです。
今回アドバイスをくれた皆様、そして、感想を下さった方々、ありがとうございました!!これからも、一生懸命作品を作り、成長目指してがんばりますので、アドバイス等等、よろしくお願いします!!