- 『海賊オンライン 〜団結・船出編〜』 作者:空鶴 / 未分類 未分類
-
全角17186文字
容量34372 bytes
原稿用紙約56.35枚
「郁哉おじいちゃん! 昔話してぇ!」
久しぶりに孫が家にやっきた。
この子は昔から私の昔話を聞くのが大好きで、私の膝の上に座り手焼きせんべいをかじりながら私の話を聞くのが、私の家に来たときの何よりの楽しみなのだという。
「おお! 来たか智也。来ていきなり昔話か? ばあさんにはもう会ってきたのか?」
「うん! 早くお話ししてぇ!」
私の周りをぴょんぴょんはね回りながら急かしてくる。
「わかったわかった。座りなさい」
そういうと智也は素直に私の膝に座った。
「そうだなぁ……。私の人生成功の話をしてやろうか?」
「え〜! やだ〜! もっと楽しそうなのが良い! ゲームとかさ! おじいちゃん子供の頃やらなかったの?」
「ゲームか。ふむ…。私が若かった頃の話でもしてやろうか?」
「うん!! してして!」
ばあさんが入れてくれたお茶を一口飲み、一息入れて私は話を始めた。
「あれは私がまだ高校生に入学した頃の話だ……」
当時2xxx年 このころの最新の技術を搭載し、世界を震撼させたオンライン ゲーム『Sorsais−ソーサイス−』
超リアル電脳世界を創り、そこに人間の体そのものをうつし、外見を変え てプレイする。
というまさに遠未来の技術を使用したRPGゲームなのだ。
現在全世界でプレイ人数は5億人。
どこの国へ行っても『Sorsais』と言う単語は何なのか分かり合えてしまう ほど有名なゲームなのである。
これはその『Sorsais』を舞台とし、世界の命運を分けることになった物語 …………。
「結集編」
今日は矢倉高校の入学式の翌日。
郁哉がこの高校で入ることになったクラスは1-D。
ガヤガヤと騒々しい音が教室中に広がっていた。
それは話し声であったり、椅子を引きずる音だったり、ドアを開け閉めする音でもあった。
そんな中教室の中心で男女問わず群がり、ある1人の男子の机を囲んでいた。
その群がりの中心にいたのが大沢 郁哉だ。
「おい! 郁哉! お前『Sorsais』のID教えろよ。やってるんだろ?」
――え?『Sorsais』? 名前しか知らなかった。
確か……世界最大のオンラインゲーム…だったような。
「管理人の主催のイベントでさ、最初からLV1の状態で3人パーティーを組んでプレイしようっていくイベントがあるんだよ! それにクラスみんなで参加しようってことになったんだ」
それってやったことのない俺が一番不利なんじゃないか?
と、ささやかな疑問を持つものの、まだ続く友達の会話に専念することにした。
「もちろん1週間ごとにレアアイテム数、LV、総資産で1番のパーティーに商品が貰えるんだ。どうだ? 面白いイベントだろ? どうせならクラスみんなでやろうって感じでさ!」
友達の説明が終わるとみんなの目線が僕の体に集まった。
「あ〜…。悪りぃ。『Sorsais』って名前を聞いたことしかないんだ」
!!!!
全員の目が見開いた。中にはポカンと口を開けている奴もいる。
「ま…マジで?」
さっきの友達があり得ないと言う顔で聞いてきた」
「この学校でまだやったことがない奴が居るとは思わなかったよ」
まだ驚きを隠し切れていないといった状況だ。
「悪いな。そういうのうとくて」
友達がハッとしてまた話してきた。
「あ、ああ。いいって。みんなLvは同じなんだし。パーティーを慣れてそうな奴と組むと良いよ。やろうぜ? な?」
もはや強制的にやらせるらしい。
「う〜ん…努力してみる」
「うっし! これでクラス全員誘い終わったな! んじゃ、お前帰ったらすぐアカウント取れよ。んで、最初に始まる街の東のはずれに7時に集合な。あ、サーバーストーリーは『海賊』な!絶対来いよ〜!」
「あ、ああ」
友達のかなり強引な勢いに少し飲まれ気味だった。
サーバーストーリーとは、サーバーごとに物語りが違って。
『海賊』サーバーは読んで字のごとく、海賊になって略奪や冒険などを体験するサーバーだ。
「っと。 ID教えとけよ。登録だけすませるから」
IDを「シェニス」とだけ伝えると友達は足早に去っていった。
――ちなみに名前の由来は特にない。
今日最後の授業が終わり、鞄に荷物を詰め込んでいるとふいに後ろから女子が話しかけてきた。
「ねえ」
――? 誰だろう?
自慢ではないが、郁哉の異性関係のうとさはクラス、いや、この地域一帯の高校NO.1だと思う。
そんな郁哉が女子の方から話しかけてくるなど、何かの行事や役員などでしかなかった。
――今回もそうだろう。
そう決め込んでいた郁哉の耳に入ってきた言葉は役員でも行事のことでもなかった。
「郁哉君も『Sorsais』やることになったんでしょ? 大変だねぇ。あれってほとんど強制的じゃなかった? ホントはやりたくなかったとか?」
――!!
声の主を見ると体の活動が一時停止した。
声をかけてきたのは学年一可愛いと噂されている(本人には全く自覚はないが)相沢 麻矢(あや)だった。
「ソ、ソンナコトネェヨ」
初めて普通に声をかけられたのが相沢だったせいもあって郁哉の声はカタコトになっていた。
「アハハ。どうしたの? そんなにやりたくなかった? 郁哉君なんか頼まれたら断れないタイプ・って感じだもんねぇ。 あ、何なら断ってきてあげようか?」
「あ! い、いいよ。やりたくない訳じゃねぇから」
「そう? んじゃ集合場所にあたしだって思ったIDがあったら「ヤホッ☆」って声かけてね? あ、強制だからね! 出来たら一緒にパーティー組みたいなって思って。んじゃじゃね〜」
ものすごいポンポンとしたマイペースな感じで帰って行った。
――はっ!
思い出したように時計を見上げる。
5時30分
時間を食いすぎた。
役員の仕事もそこそこに、郁哉は全力で家に帰った。
《登録するIDを入力してください》
――ん〜…。何にしよう?
帰って来るなりパソコンに向かってタンタンとキーボードをたたいていく。
流石にパソコンの扱いだけは慣れたもので、あっという間に画面に打ち込まれていく。
――そうだなぁ…。名前で良いか…。
次々と個人情報が入力されていく。
五分後
《ID ikuya》
《パス ****》
《キャラ名 シェニス》
《性別 男》
《職業 細剣士》
《サーバーストーリー 『海賊』》
《以上でよろしいですか? Yes.No》
Yesをクリックした。
――ふぅ。登録完了っと! 何時かな?
6時50分
――えっと。約束の時間は……7時!!!
速攻で「安全第一」と書かれてそうなメットをかぶる。
このメットは帰り道に、買って輸送して貰う時間がない・と、いうことで友達に貰ってきたのだ。
その友達は弟がやっていたが飽きたらしく、やめたのでくれるということだった。
辺りが真っ暗になった。
五感が完全に途絶えた。
初めてだった郁哉はパニックに陥りそうだったが、陥る暇もなく超リアル電脳世界(いわゆる別次元)についていた。
五感が戻る。
視界が急に戻ってもの津ごくまぶしく感じた。
足下にある水たまりで自分の顔を見てみると、青い髪に青い瞳に青いマント。という青ずくめだった。
辺りを見渡すと、辺りには港と、そこに停泊する海賊船と普通の船。
中には1000人は乗れよう超大型船があった。
どうやらここは港町のようだ。
その証拠に看板が立っていて【港町 アリアクア】と書かれている。
よく見ると看板の端っこがすり切れて、直線的なものが感じられない。かなりリアルに作られている。
ふと、何かを思い出した。
もう時間がなかったのだ。
――確か…集合場所はこの町の東のはずれだったような。
とりあえず東に進んでいく。途中、通りがかりの人に肩がぶつかった。
本当にいたかった。
ゲームなんだからそうは痛くないはず…。
そう思っていた郁哉だが、完全に別次元に 体ごと 移すわけだから痛みを感じないわけがない。
冒険の時には怪我なんて絶対にしないよう心に堅く決めた。
「遅いぞ郁哉!」
集合場所に着くなり誘ってきた友達が呼びかけた。
その友達のキャラクターネームはランスだ。
――本当にリアルに聞こえるもんだなぁ。
そう思いつつもランスの所に駆け寄る。
「お前で最後だよ。もちっと早く来ようぜ?」
ランスが苦笑しながら言った。
「ごめん。アカウントの取得に手間取っちゃった。それより何で僕か郁哉だと?」
「点呼取ったから、来てないのお前だけだったからな。それより、イベント開始まで後30秒ってとこ。 開始時にスタッフが来るはずだから…っと!」
言い終わらないうちにランスの目の前にいきなりキャラクターが現れた。 全く持って外見を変えていないただのキャラのようだ。
――まあ、変える必要はないんだけどな…。
「はい! 『Sorsais』始まって以来の大イベントの開始時刻となりました! 『海賊』サーバーイベント責任者「ランス」様ですね? 今回のイベント参加者の名簿をお見せ下さい!」
タンタンとしたリズムで話を続ける。
ピッ ガーーー
「はい! 責任者登録が終わりました! これよりルールの説明を始めます! イベント参加者の皆さんはよおーく聞いてくださいね?」
そう言うとスタッフはぺらぺらとルールを説明しだした。
@イベント『海賊』サーバーの到達目標は全部で一千万以上ある街のどこかにある“何か”を一つの海賊団で7つ、手に入れること。
A入手手段は街の【略奪】海賊団同士の【争奪】でしか認められない。
B“何か”の数は参加海賊団の数の三分の一しかない。
C制限時間は無し。“何か”を手に入れた海賊団が一定数になった時点で終了。
Dまた、残りの海賊団が1つになった時点でも終了。
E一週間ごとに‘賞金’財力’団員数’プレイヤー撃破数’のトップに有益な商品が与えられる。
F開始から一日目からの戦闘は禁止する。
「はい! 大体はこんな感じです! 何か質問のある方はメールでサーバー責任者にお伝え下さい!」
そう言いながら消えようとしたとたん、ピタ、と止まった。
「あ、……重要なことを忘れていました! 私どもの会社は、不正行為はこの世で最低行為だと認識しております。発見次第 苦痛を伴って ユウザー消去させていただきます。ご了承下さい。では『Sorsais』開設以来の大イベントこれを持ちまして開始させていただきます!」
プレイヤー達に何とも言えない不安をよぎらせる台詞と残すとスタッフは足の方からスーッと消えていった。
「にしても、まさか「ランス」がサーバー責任者とは…。驚きだな」
スタッフが消えた直後、何をしたらいいものかと悩んだ末に「ランス」に話しかけていたのだ。
「へへっ! まぁな。これでも結構やり込んでるんだよ。イベントのルールでLV1になってるけど、元々はかなり高いんだぜ?」
少し自慢げに胸を反らしながらそう言うと、誰かを誘おうと歩いていった。
――…やっぱりハナから俺を誘う気なんてさらさら無かった訳か。ま、経験のない奴なんてただの足手まといにすぎないからな。
「さて、どうしたのものか」
早々にどこかはいる海賊団を決めてしまわないとはぐれものとして完全に独立してしまう。
――それだけは避けなきゃな。
ふと、あることを思い出す。
「そういや、相沢さんが話しかけろって言ってたな。ちょいと探してみっかな」
集合地点とは少し離れた場所にある酒場「マイトス」を見つけた。
こんな感じのちょっと酒場とはかけ離れた名前は、大抵プレイヤーが情報収集のために作った場合が多い。その証拠に外見から酒場とは認識出来ても酒場のマークはなく、やけにこぎれいだ。
‘情報収集はまず酒場から’というもはや定番になったことをとりあえずやってみることにした。
中に入ってみると結構繁盛しているらしく、扉を開けたとたん熱気をむわっと感じた。
――げぇ。蒸し暑い上に酒臭い。こんなとこに女子の相沢がいるものなのか?
確かに一理ある。
相沢は女子からも男子からも人望が厚いのでもう仲間を見つけて行動を開始しているのかも知れない。
「わっ!」
中に入ろうと一歩前進した瞬間、ちょっと小太り気味の男のPC(プレイングキャラクター)がシェニスに向かって飛びこんできた。いや、飛ばされて来たのほうが正しいのかも知れない。
飛んできた方向を見ると、この酒場の持ち主らしきPcが今し方投げ終えた・と言うような格好でこちらをにらんでいた。
「失礼した。怪我はありませんか? その男が急に暴れ出してましてな。周りのPCに迷惑がかかりそうだったので追い出すことにしたのだよ」
そういうとシェニスの足下で床に突っ伏しぴくりとも動かない男をあごでしゃくった。
おそらくコントローラーが痛みで気絶しているのだろう。
「あ、いや。大丈夫っす」
そうだった。
これはいかにゲームと言えどもPCがダメージを受けるとコントローラーも怪我を負うのだ。
――何もそこまで精密にしなくても……。
「それより情報が欲しいんだが…。いくらぐらいするんすか? 始めたばかりなもんで全然金ないんすけど…」
とりあえず相沢さんの情報を聞くことにした。
いちいち金を払わなくてもこの街を端から探していけば、そのうち見つかるだろうが、いかんせん。時間がない。
「ふむ。初心者か……」
右手をあごに当て少し考えると、
「では、こうしましょう。先刻は大事な客であるあなたに怪我を負わせるところでありました。怪我になれていない分、少し怖い思いをさせてしまったようです。初回サービスと言うことで少しぐらい負けてさしあげよう。何の情報ですかな?」
――律儀な人だ。
そう思いつつもとりあえず聞いてみることにした。
「えっと。人捜しなんだが…」
「人捜し?ただの普通のPCですかな? その程度の情報は安いものです。そのくらい無料で教えましょう。取引コマンドを開く必要もないですからな」
「えっと…………あぁ!」
「? どうかしましたかな?」
――しまった! バカか俺は!
そう、シェニスは相沢のPCの特徴を全く知らない。何せあったことがないのだから。
「あ、いや、その。特徴がまだ不確定なんすよ。わかったらまた来ます」
大あわてで良いわけを取り繕う。
「ふむ? そうですか? では、またのご来店をお待ちしていますよ。出来ればプレイス登録よろしくお願いします」
ぺこりとほとんど90度まで腰を曲げ深々とお辞儀をする。
「あ、はい。わかりました。失礼します」
こちらも負けじと深々とお辞儀をする。
プレイス登録
ワープするアイテムなどを使ったときに選択出来るようにその場所を登録することが出来る。街が広いときなどに便利。
くるっときびすを返し、仕方なくしらみつぶしに探す事に決めた。
――どうしたものか……。
深くため息をついていると後ろから甲高い声で話しかけられた。
「郁哉君、はっけ〜〜〜〜ん!」
振り向くと自分の腰ぐらいの身長しかない女のPCがこちらを指さしていた。
――? 何で俺の名前知って―
シェニスの思考は目の前に現れた4人組によって止められた。
「お手柄! ミーヤ!」
その4人組の先頭にいてにこやかに笑っているのは、紫の髪をポニーテールにし褐色肌。両脇に少し長めの短刀がぶら下がっている。
相沢だ。直感的にそう思った。
恐らく・この笑顔で大抵の男を虜に出来るのではないのか・とうかんじの笑顔でシェニスに歩み寄ってきた。近づくとそのPCの上に「ハルヒ」と、名前が出てきた。それが相沢のPC名らしい。
「一応確認! ホントに郁哉君?」
「ああ? そうだけど?」
「信じられないなぁ。ホントの顔ゲーム内じゃわからないから」
――ああ。そうか。これを言って欲しかったのか。
「『ヤホッ☆』だっけか?」
放課後に相沢に聞いた合い言葉を即座に思い出した。
「へぇ〜。覚えてくれたんだ?」
「ま、一応ね。俺、初心者だし。相沢さんみたいな経験者が仲間にいた方が良いと思ってな」
「ま、何にしても見つかって良かったよ。開始と同時にみんな一斉にスタートしたから郁哉君を見失っちゃって」
「あれ? 探してくれたの?」
にやっと少し含みのある笑いをする。
「え!? そ、そんな別に? 放課後一緒に組むって約束したでしょ? だからよ!」
顔を朱に染めて慌てて言い訳した。
「はいそこ〜〜! 二人の世界作らないでくださ〜〜い!」
さっき郁哉のことを見つけたPCが会話に割り込んできた。
「ばっ! 二人の世界なんて作ってねぇえよ!」
シェニスも慌てて反論する。
「も、もういいでしょ! そんなこと!」
「それより、これで郁哉君含めて5人。初期メンバーはこれくらいにしてあとは引き抜きにしましょ?」
半ば強引に話を本題に戻した。
「5人? 紹介して貰えるか?」
――どんな奴かも知らない奴と初期メンバーなんてごめんだからな。向こうも当然いやだろうし。
「は〜い! 私が説明するよ!」
ミーヤがずいっと前に進み出た。
「最初は私。名前はミーヤ。職業は水使い。風見高校で、ハルヒの塾友達だよ! んで、こっちの緑の髪の方がセイン。戦士であたしの級友だよ!」
セインはシェニスの前に進み出て握手をする。
「よろしく。きみ、いい人そうだから仲良くやれそうな気がするよ」
にこっととてもさわやかな笑顔で挨拶を交わした。
「こっちの赤髪がコウジ。大剣士でさっきそこの酒場で知り合ったんだよ」
「おうっ! よろしくな!」
コウジもあくしゅをした。
すごく可愛いハルヒに、すごくハイテンションなミーヤに、さわやか系のセインに、どう見たって体育会系のコウジ。何ともまとまりのないパーティーだろうか。
「じゃ、改めて海賊団結成しよ!」
とりあえずみんながシェニスに船員申し込みをした。
視界の左上に、
《ミーヤさんが入団しました。》
《ハルヒさんが入団しました。》
《セインさんが入団しました。》
《コウジさんが入団しました。》
と表示された。
「おし、入団完了。5人に達成したら船が支給されるんだっけ?」
ハルヒに確認を取ってみた。
「うんそうだよ。と言っても一番ちっちゃいのだけどね。とりあえずそこでLv上げしなきゃ。弱い海賊団だと引き抜きなんかはなしになんないよ」
肩をすくめて言った。
「そうですね。僕もその意見に賛成ですね」
ちょっと遠慮がちにセインが言った。
――結構消極的な人だな。あ、そうだ。
「なぁみんな。みんな俺に入団したから俺が船長扱いになってるぞ?」
「あん? 良いじゃねえか別に。俺は船長で指令出してるより戦ってる方がゲーム的に楽しいだろ?」
頭の後ろで手を組んでコウジが事も何気にそう言った。
――なんか、想像そのままって感じだなコウジって。
「あたしも〜。船長ってなんか柄に会わないって感じ」
少し苦笑する。
「あたしやったら〜。命令も何も無くなっちゃいますよ?」
――確かにコイツは命令なんて忘れて、みんな頑張れみたいになるだろうな……。
「えと、僕もちょっと遠慮したいですね。なんか荷が重そうですよ」
顔の前で両手をブンブンとふってみる。それでも笑顔が絶えないからすごい。
「……それは何か?面倒ごとを押しつけられてるって感じなんだが?」
「そ、そんなことないよ〜。ただ、郁―シェニスが適任だと思ったんだよ」
ネット上であまり本名を呼ぶのはまずいと思ったのか、郁哉と言いかけて良いなおす。
「ま、良いか。そんな面倒くさそうじゃないしな」
あきらめて船長になることを承諾する。
「そうと決まったら、早速港に行きましょ? お金無いから装備も何もないしね」
「そうだな、行こうか」
「れっつごーです!」
そういうと、最初にログインしたときの場所から見えた港へと向かった。
空を見上げると、とてもゲームとは思えないような鮮やかで美しい青空がある。雲のあの不思議な形さえも忠実に再現されていて、同じ形など一つもない。
――まったく。相変わらずすごい技術だよ。21世紀の技術とは比べものにならないな。
シェニス達は支給された船を探しに港まで来ていた。
「うし、んじゃぁ手分けして船探そうぜ?」
港に来て最初に口を開いたのはコウジだった。さっきまでいた酒場の前からここまで、何も話さなかった訳ではないが、それでも口数は少なかった。
「そーだね! 手分けした方が早いしね!」
5人はそれぞれ別々に船探しに行った。港があまりに広いため固まって行動していたら見つからなかったからだ。
見つけたら団員メールで知らせることにした。
団員メール
読んで字のごとく、団員だけでやりとり出来る簡易メールのこと。
とりあえず港に泊まっている船に片っ端からそばに寄ってみることにした。
船のそばによると船の上に、
《これはあなた様の船ではありません》
と、表示された。
――なるほど。これは便利だな。
そう思うと走りながら、メッセージが表示されない船を探すことにした。
「ハア、ハア」
恐らく、港の5分の1ぐらい走ったのだろう。ものすごい息切れを感じる。
――ほんとうに疲れるもんなんだな…。でも、俺も運がない。これだけ疲れても見つけられなかった。
そのとき、頭の上にポーンという機械音を発して手紙マークが浮かんだ。
団員メールだ。
差出人はコウジ。どうやらお目当ての船を見つけたらしい。しかし、残念なことが一つ。
――……反対の端っこ……。
ここから急いでいかなければならないと感じて走るが…。
「し、死ぬ…」
「遅いぞ! 船長!」
やっとの思いで船のあるところまで着いたがもう、へとへとだった。
「しか、た…ハァ、ねぇ、だろ」
息も絶え絶えに言った。
「こちとら、反対側から走ってきたんだ」
「アハハ。災難だったねぇ。んじゃ、今日も遅いし、船は見つかったし、なにより…」
ハルヒがちらっと俺を見た。
「船長が疲れて死にそうだから今日は落ちようか?」
苦笑しながらみんなに提案した。
落ちる
ネット用語でログアウトのこと。
「た、助かる」
膝に手をついたまま息を整える。
「だらしねぇなぁ。んなに走るこたぁねぇのによぉ。まぁ、いいぜ。俺も眠くなってきたところだ」
「そうですね。では皆さん、今日は解散と言うことで」
「じゃあみんな! また明日!」
「ばいばーい!」
「さよなら」
「んじゃな」
それぞれが挨拶を交わし、消える。
・・・・
――消えない。
「え? なんだ? 落ちないのか?」
「え? ログオフしようとしてるのに、あれ?」
ハルヒがうろたえている。
「俺もだ! 消えねぇ! どうなってやがる?」
「僕も…です」
セインの声は今にも消えそうだった。
「あたしも〜〜!」
「なんだなんだ? 5人ともそろいもそろってバッグたのか?」
シェニスがちょっとからかう。
「そんなっ。5人が一斉に? バグってるならこうやって話も出来ないはずだよ?」
ハルヒはとまどうように言った。確かにそうだ。バグってしまっているのなら、会話も出来ないはずだ。
「き、君たち!!」
「「「「「?」」」」」
五人が一斉に振り向く。見ると、話しかけてきたのは先ほどの酒場の持ち主が大あわてで走ってきた。
「あれ? さっきの。どうしたんです? こんなところに? 酒場は放って置いていいんすか?」
落ち着いて聞いた。
「そんなこと言っている場合じゃない。君たち、ログアウトは出来ますか?」
!!
みんなの目が見開いた。
「あの、どうしてそれを?」
ハルヒも落ち着きを取り戻して聞いてみる。
「みんな出来ないんですよ! さっき酒場で暴れてた客も、パーティー全員がログアウト出来なくてパニクったんです! 精神病だったらしくて心が弱っていたところに元の世界に戻れなくなったと勘違いしたんです!」
一息に説明した。この主人(PC名はマイトス)も相当混乱している。
「みんな出来ねぇだと? 管理人にメールは送ってみたのか?」
コウジが怒ったように言った。
「駄目だ。メールアドレスを変更された」
頭をうなだらせて首を振った。
「まじっすか? からかってるんじゃなくて?」
シェニスの目が見開いた。シェニスも混乱寸前なのだ。
この辺の顔の表情もリアルに出る。
当然だ。
・・・
別次元に体ごと移っているのだから。
ログアウト出来ないのは、元の次元に戻れないことを意味する。
「ど、どうなるの? あたし達?」
ハルヒも当惑している。
「最悪の場合……もう二度と…」
「それ以上言うな!!!」
マイトスの言葉を怒鳴って遮る。
「そんな絶望……口にするんじゃねぇよ…」
――何が何だって言うんだ? 誰か…誰か説明してくれ……。
「船出編」
「とにかく、この現状どうすっかね? 船長さん?」
シェニス達はとりあえず落ち着くためにマイトスの酒場の管理人室に来ていた。管理人室は実に素朴に出来ていて、入り口がある以外、窓すら何にもない「部屋」というより「木で出来た空間」のほうが正しい感じがする。
6人で円を描くように座ってシェニスとマイトスは腕を組んで対処策を考えていたところだ。と言っても、所詮シェニスは初心者。何か良い考えが浮かぶ可能性は限りなく低い。それでもシェニスは何か奇抜な対処法を考えるかも知れないと、マイトスが考えてみるように言ったのだ。
「どうするもこうするも、体ごとこっちに来ちゃってるんだろ? だったらどうしようもないさ」
ため息混じりに半分あきらめたように言う。確かに、これが通常のゲームであればコンセントを切ったり、コントローラーを手放すといった対処法がある。しかしこれはもはやワープと言っていい。郁哉の体は姿を変えてここにある。
「でもさ」
ふいに、今まで頭を埋めていたセインが声を発した。セインもハルヒとミーヤと同様、完全に心を閉ざしてしまっていると判断していたシェニス達は驚いて視線をセインに集める。
「管理人はメールアドレス(以下メルアド)を変えた。これは管理人が関係してるとしか言いようがないですよね?」
――そうだった。管理人はメルアドを変えた。それは管理人が・抗議のメールを避けようとしたと、考えるのが普通だろう。
「管理人からのメールを待つか…。待つってのは、どうも性に合わないぜ」
コウジが舌打ちしてごろんと寝転がる。
「そうですな。これはもはや通常的な対処では不可能と考えた方がいいと、私は考えますが」
「そうですね。とりあえず今後の変化を待ちましょう。行動はそれから」
そう言いながらもシェニスの視線は体操座りの状態でうつろな目をしたハルヒを見つめた。
ハルヒはログアウトが出来なくなってから完全に心を閉ざした。ここへ来るのにもマイトスがおぶさってきたのだ。
「ハルヒさんが心配ですかな? シェニス殿?」
シェニスの視線をとらえたマイトスがシェニスに問いかけた。
「まあ、当然ですよ。俺たちみたいな男子ならともかく、か弱い女子のハルヒさんには耐えられたかったようですね」
「当然でしょう。大の大人もパニックに陥る人も多々いますしね」
「ですよね………」
「………」
沈黙が続いた。どれだけ続いただろう。
このまま一晩過ごしてしまいそうな、そんな静かさだった。
管理人室から出てきたシェニスはちょうど朝日が昇る場面に出くわした。
朝。
それは現実なら朝日が東から昇り、小鳥がさえずる。それはとてもさわやかで、気持ちが良いもの。
これはゲームというのにもかかわらず、現実のように、本当に現実のようにとてもさわやかで、なんだかとてもむなしかった。
プログラム上に作られたさわやかな朝だというのに、そのさわやかさを感じてしまって…本当に体がそのまま別次元に来てしまったという実感を与え、とても……やるせなかった。
「とても……さわやかな朝ですな」
シェニスの隣にマイトスが立っていた。
「はい…本当に…。ここが、ゲーム内だと言うことを…忘れさせるぐらい」
それはとても穏やかで、自分のそんな落ち着いた声を聞いて驚いた。
「俺は、友達に誘われてこのゲームに参加したんです。『イベントがあるから』と」
なぜか、本当に自分ではわからなかったが、マイトスさんに自分のことを話さずには居られなかった。
なんだか、人に話さずには居られなくて。マイトスさんは受け止めてくれそうな気がして。
「イベント…ですか。とんでもないイベントになってしまいましたな」
期待道理何も聞かずに、なぜふいにこんな事を話し出したのかも聞かずに、俺の話を聞いてくれた。
「もっと…楽しいものかと思ってた…。ゲームってそういうもんすよね?」
「楽しいですよ。ゲームは。本来は、ですがね。この通り、中年の私ですらはまってしまっていますから」
――でも。本来どう楽しかろうとこれが現実。
「助かり…ますかね?」
不安と期待が入り交じったような声で問いかける。
「大丈夫ですよ。貴方はとても強いですから」
――え?
「僕が…強い?」
ものすごい疑問だった。
――僕が強い? なんで? 今にも狂いそうなのに?
「強くなければ、貴方はこうして立っていられない。元の世界に戻れないという不安。来なければ良かったという後悔。これも全部あいつのせいだという憎悪。これらの感情が入り交じって、みんな壊れてしまう。強がっては居ますが、おそらくコウジさんも」
――え? ちょっと待て? あいつのせい? 俺を誘った奴…。
マイトスの言葉にあることを思い出した。ゲームルール説明時にスタッフが発した言葉。
『何か質問のある方はメールでサーバー責任者にお伝え下さい!』
――サーバー責任者! ランス!
急いでランスにメールを打つ。
その迅速な行動に驚いたんだろう。マイトスが不思議な顔をして問いかけた。
「どうか、なさいましたか?」
「管理人が駄目でもランスが、サーバー責任者がいます! 俺の友達なんです! きっと、力になってくれるハズだ!」
メールの送信が完了した。
「あとは、祈るばかりですな」
「はい。あいつが、グルになるとは考えづらいんです。だから、今は信じるしかないんです」
「左様ですか」
それ以上は何も話さなかった。話すこともなくて、ただずっとその場に立ちつくして、ランスからの返信を待つ。
電子音
それと同時にシェニスの頭上に手紙マークが出てくる。
――ランスだ!
そう思い、急いで開く。
このとき俺は何を期待していたんだろう。対処法か、あるいはどこかで会おうとか、そんなことを考えていたのだろうか。ランスだったら、あいつだったらこう返信してくれる。そんなことを頭に思い浮かべていた。
メールを開いた。それは……あまりに無情なものだった。
《このメールアドレスは変更されています》
日が完全に登り切っていた。
「さて。今日もこのまま向こうに何か動きがあるまで待つのか?」
昨晩のように円を描くように座り、今日の行動について話し合っていた。
「まぁね。それ以外どうしようもないしね。何か出来ることがあるなら聞けど?」
皮肉を込めた返事をしてみる。そうでもしなきゃなんだかやってられなかった。
「八つ当たりすんなよな。お前の気持ちはわかるがな」
「あ…。スマン」
――八つ当たり…。そうだよな。八つ当たりしたって何の意味もないんだ。ただ、協力し合える仲間との信頼を失うだけ。バカだ…俺は。
六連続の電子音
その音に全員が顔を上げた。心を閉ざしていたはずのハルヒも。
メールを開く。予想道理、差出人は管理人。そこには弁解の言葉や、謝罪の言葉はなく、こう書かれていた。
《昨晩9時頃。不正行為によるデータハックが発見されました。それにより管理中だった我が社の社員が千人余りが意識不明となりました。我々はこのゲーム開始時から、今回のイベント開始時にも再三申し上げてきました。不正行為は我が社の中で最低最悪の行為だと。それにもかかわらず、不正行為を続け、あまつさえ社員に被害を与えました。我々は絶対に許しはしない。しかし、犯人は未だにわかりません。ただこれだけは言えます。犯人は『海賊サーバー』にいると。そして、ある人物のたれ込みから不特定ですが数団に目星がついております。その数団のログアウトプログラムも破壊させていただきました。ですが、我が社ももしかしたら犯人ではないかも知れないお客様を無条件で閉じこめたりはいたしません。機会を与えましょう。今回のイベント目的であった“何か”を規定道理7つ入手出来たら交渉権を与えます。交渉で犯人ではないとわかりましたら元の次元に戻すことをお約束いたします。例外で、犯人が名乗り出たのならばその時点で全員元の次元に戻しましょう。ご武運を。》
読み終えたとたん周りの顔に当惑が走った。
そのとき、ものすごい衝撃音とともに管理人室の壁の一部が砕け散った。コウジが全力で壁に拳をたたきつけていたのだ。その音に全員が音のする方を見る。
「やっろう!! くだらねぇハッカーのせいで俺たちが巻き添えでこんな目にっ――!」
その後数発拳で殴りつけるのを止めようとするものは居なかった。コウジの気持ちが痛いほどわかったからだ。関係のないことで俺たちは元の世界に戻れなくなってしまった。
「…とりあえず、海に出よう。“何か”を探さなければ光も見えてこないんだ。戻らなきゃ、元の世界に。楽しいはずのゲームを楽しむんだ!」
――俺は決意を固くした。絶対に戻ると。そして、犯人を見つけてやる。俺たちをこんな目に遭わせたことを十分に謝罪させてやる。そう、心に決めた。
「ああ。そうだな。なんかしら行動を起こさないと元に戻るも犯人を捕まえるもクソもねぇもんな」
やっと怒りが収まったのか、壁を殴っていた拳を押さえどっかりとシェニスの隣に座り込む。
「そうね…。あたし頑張る。元の世界になんとしてでも戻る! 落ち込んでる場合じゃないもんね!」
相沢さんらしい元気を取り戻す。その顔には学校のアイドルとしての笑顔があった。
――ハルヒの方はもう大丈夫そうだな。
安堵の息を漏らす。そっとしてはいたが、心配で心配で仕方がなかったのだ。
「僕も、精一杯頑張りますよ。このままぬれぎぬを着せられたままでは居られませんから」
セインも立ち直った。対処法が見つかったことが何より元気づけたのだ。
その顔に会ったばかりの頃に見せたさわやかな顔が見えた。
――セインも大丈夫か。もともと頭が良さそうだもんな。とりあえずは大丈夫てことは理解出来たんだろう。後はミーヤだけだけど…。
ミーヤは未だに心を閉ざしていた。会った頃はものすごいハイテンションであったために今のこの姿がとても暗く見える。
――傷つきやすい性格なんだな。そうだよな、か弱い女の子なんだから。
ミーヤはハルヒがいくら話しかけても答えようとはしなかった。揺さぶられてもされるがまま揺れているだけだった。
「仕方がない。歩くことは出来そうかな? ミーヤ?」
シェニスがそう優しく話しかけると、すっと立ち上がった。
「大丈夫そうか。じゃ、行こうか」
船に乗るためため一同は港に向かっていた。
少しだけ元に戻る希望が見つかってミーヤ以外のみんなは普通に振る舞っていてコウジやセインとなんかの話をしている。ハルヒなんかはミーヤと同じ女の子なのに遙かに立ち直りが早かった。
――気丈な娘だな。下手したらそこら辺のおじさんよりしっかりしているかも知れない。
ハルヒを見ていたシェニスはそう思った。
「気丈ですな。ハルヒさんは」
横で歩いていたマイトスが言った。
「同じ事考えていましたか。すごいですよ。俺、自分が女の子だったら今のミーヤみたいになっていると思いますよ」
苦笑いしながら言う。マイトスも微笑している。現にそうだっただろう。今しっかりしていられるのは船長としての責任感だ。
――あれ? そう言えば…
「て、いうか。なんでマイトスさんまでLV1になって俺たちについてくるんすか?」
ふと疑問に思った。確かにそうだ。マイトスとは団員登録した覚えはないし…というか絶対無い。
「どうやら私の海賊団も目をつけられているようですな。先ほど我が船長からメールがありましてな。少し、遠出をしていたところにLV1にされてしまいましたでしょう? ですから合流が遅くなるので一度脱退してお互いに海へ出ようと考えたのですよ」
ため息混じりに一気に話す。それほど苦に思っていないようだ。
――この人も、相当気丈だな。はたまた絶対に帰れるという確信があるのか…。
「そうなんですか。お互い災難ですねぇ」
世間話をするように砕けて言った。少しでも緊張をほぐそうと考えたのだが、難しいものだ。
「コラ! シェニス! こんなに大変になってるのに災難で済ますな!」
前を歩いていたコウジがくるりとこちらを向いてシェニスを指さしならがら言った。どうやらこちらの会話が聞こえていたようだ。
「災難だった。とその程度に思わせられるように俺、頑張るから」
意気込みをコウジ達に言ってみた。
「……」
みんな黙りこくってしまった。
「マイトスさんも一時的とはいえ仲間になるんですね? よろしくお願いいたします」
沈黙を何とかしようとセインが礼儀正しく深々とお辞儀をする。それにならいマイトスも酒場で見せた腰を90度曲げる挨拶を返した。
「こちらこそ。誠に勝手な話ですがよろしくお願いします」
《マイトスさんが入団しました。》
挨拶の後すぐにシェニスに向かって入団した。
相変わらずアリアクアの港は半端じゃなく大きい。港の真ん中に出たシェニス達はぐるりと港を見渡す。昨日はいろいろありすぎてぬ音の場所を忘れてしまったのだ。ここの時点で慎重にどちらに行くかを決めなければなるまい。間違えれば昨日のようなヒドイ目にあう。
幸い駆けつけたときにマイトスが船の位置を覚えていた。その方向は今、みんなが行こうとしていた方向の逆だった。
――人の記憶力って怖い…。
船の所につくととりあえず船に乗り込む。船の大きさは漫画とかに出てきそうな海賊船をそのまま小さくしたような帆船で、必要以上にリアルに作られているため自らの手で操縦しなければならない。なんともまぁめんどくさいものだ。
船に乗り込むとメニュー画面が出てきた。
《船員の役割を決めて下さい。操縦するためのプログラムを入力します》
――役割、かぁ。どうしたものか。
シェニスが必死に考えていると、後から乗り込んできたハルヒが言った。
「役割? だったら航海士をやってみたいな! なんだかカッコイイじゃない?」
とても楽しそうに言う。昨日の様子がまるで嘘のようだ。女の子の心境の変化というものはよくわからん。
「航海士かぁ。ま、いいんじゃない? んじゃハルヒはそれで決定、と」
メニュー画面のハルヒの隣に「航海士」と入力する。
「私は料理人がいいですなぁ。すばらしいものを作って差し上げよう」
「え? 料理人? ふざけてる? 真面目にやりましょうよ」
いきなり話しかけられても反応は出来たがよく分からず、思わず聞き返してしまった。ゲーム内で料理なんて食べるのか?
「真面目ですよ。当然でありましょう。体ごとこちらに来てしまっているのですから。本来なら、お腹がすいたらログアウトして家で食べるんですが、いかんせんそのログアウトが出来ません。ですから、料理人は必要ではないかと?」
納得した。
――そりゃそうか。まさかゲームの中でご飯を食べるハメになるとは…。
メニュー画面のマイトスの隣に「料理人」と入力する。
そしてコウジが安易に「戦闘員」に、セインが「船医」まだ心を閉ざしたままのミーヤはコウジと同じく「戦闘員」になった。
「これで役割分担はおしまい! 出発だ!」
「「………」」
出発だ! と言った瞬間コウジとハルヒがつまらなそうな目でこっちを見ていた。
――あれ? なんかおかしな事言った?
「いーや? シェニスは何もおかしな事は言っちゃいねぇよ」
――じゃあなんだっつうんだ?
「たださぁ。味気ないなぁ」
みんなに聞こえるようにぼそりとハルヒが言った。
「はいぃいい?」
全然分からなかった。何が味気ないんだ? というより、この状況下で味気もクソもないと思うのだが。
「そこはもっと、こう。『野郎ども! 出発だぁ!』みたいな?」
――みたいな? じゃねぇ!
「遊んでる暇無いだろ!」
あきれた。この状況で遊び心とは。真面目にやらないコウジとハルヒになんだか怒りを感じだ。
――こちとら脱出に向けて一生懸命だというのに!
「そう怒るなよ。あんまり気ぃばっか張りつめてたらもたないぜ?」
「そうよ。シェニスは1人で頑張りすぎだよ。あたし達をもっと信頼してよ。こんな状況下だからこそ楽しんでやろう? ピリピリしたままだと出来るものも出来無くなっちゃうよ? シェニスは船長だからって気をおいすぎだよ」
コウジとハルヒが口をそろえて言う。
――俺の…事を思ってくれたの…か? 神経張りつめすぎの俺を心配してくれたのか?
嬉しかった。船長としてみんなを助けなきゃ。と、そう強く思っていた俺に『信頼して』と言ってくれた。俺に任せるのではなく『頑張ろう』と、言ってくれたのだ。
目から何か熱いものがこみ上げてきた。
「泣くな! シェニス! みんなで頑張ろうぜ! お前1人で背負い込むな! 船長ったって俺たちが押しつけただけだしな!」
コウジが声を張り上げて言った。心に響くような声で。
「ははは! そうだな! ありがとう!」
負けじと声を出し礼を言う。今までと、これからを全部含めて。
「よおし。野郎ども! 出航だ!!!」
「「「「おおおお!」」」」
絶対に“何か”を見つけてぬれぎぬを着せた犯人を訴えてやる!
“何か”はまだ分からないけれどそれでも、力を合わせて頑張ろうとみんなで決心した。
-
2004/10/20(Wed)02:33:07 公開 / 空鶴
■この作品の著作権は空鶴さんにあります。無断転載は禁止です。
-
■作者からのメッセージ
なんだか無理矢理な展開になってしまいました。後半情景が全然浮かんでこないし…。なにか良いアドバイス下さい!!