- 『紺碧の空 序章』 作者:夷檻 / 未分類 未分類
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全角2239文字
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原稿用紙約8.65枚
■紺碧の空■ =THE DEEP BLUE SKY=
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■第一部 『アオ』■
□序章 「堕テンシ」□
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「かったりぃ…。」
灰色の息(けむり)を吐きながら、両手を広げ、仰向けになった態勢で、
少年は、右手に煙草。
左手に飲みかけのビール缶を持って、
校舎(ここ)で、いちばん空に近い処(ばしょ)、屋上に居た。
無造作に跳ねる髪に、耳に空いた無数の穴。
指に食い込む銀色のリング。虚ろいだ黒い双眸。
狭い世界に囚われた、愚かで無知な少年少女。
少年は空を仰いだ。
缶を口元へ運び、一気に飲み干す。
苦い後味に軽く唇を噛み締めながら、
空っぽになった缶の中に、吸い終えた煙草を捨てた。
缶から立ち昇る煙が、青い空へと舞い上がる。
咳き込んで滲む視界に、色褪せない空色(アオ)。
残酷な程鮮明で、皮肉な滄海を舞う鳥(てんし)。
俺は、滑走と空を目指す。
「久遠 空」(くおん うろ)。それが俺の名前だった。
別に嫌いじゃない。(書くの簡単だし)
…まぁ、読み方はどうかと思うが。
成績は「worst no.one」。いや、待て。「two」かも。
(確かアイツよりは馬鹿じゃなかったハズ)
…まぁ、大して変わらないか。
高校生活の大半は、「サボり」と云う俺のprideで片付けてきた。
馬鹿げた話だろ。俺が学校(ここ)に来てるのは、空を見に屋上に行く事。
もちろん雨だって、嵐だって、雪だって構わない。
ただ、其処に空があれば。
それで良かったんだ。
テレビなんて滅多に見ない俺が、
唯一好きだったescapeドラマ「platina(プラチナ)」。
主役の「溝口 雄大」(みぞぐち ゆうだい)の最終回の台詞には、さすがにヤラれた。
企画・脚本担当兼ね「ハヤモト コウジ」役の彼は、
自分の全身全霊をこの作品に費やしたと云う。
放送が終わった後(のち)、「platina」についてのインタビュー特番で、
彼が口にした話を、誰もが疑っただろう。
「この話には直接関係して無いんですが、僕、天使に逢った事があるんです。
こんな話すると引かれちゃいそうな気がするんですけど、
髪の両脇から羽根が生えてる聖女の様な小さい女の子が、
『空は何処に在るの?』って、僕に聞いてきたんです。
もちろん僕は驚いちゃって、しばらく混乱していました。
その時僕は大学の帰りで、空は目の前に広がっているんですよ。
いや、その前に彼女に羽根が在ることに驚くべきなんですけど、
僕は何故か彼女に羽根が在る事より、
すぐ傍に空が在るのに『空は何処に在るの?』って云う
彼女の思考回路に驚いたんです。」
インタビューしていた記者は、あまりも非現実的な彼の話に唖然とした。
無理も無い。天使に逢った事があるなんて真面目に云われても、
返す言葉が見つかる訳が無い。
それでも彼は記者の反応に気付いていないのか、更に話を進める。
「少し考えてたんですけど、答えが出せなくて。
だから彼女と約束したんです。僕が君の空を造ってあげるって。
今、僕の目の前に広がる空は偽装かもしれない。
空じゃないのかもしれないって思って。
それから四年経ってから造った物語が「platina」なんです。
云い方を変えれば、「platina」は彼女に宛てた物語なんです。
彼女は自分の翼で空を飛びたかったんじゃなくて、
自分の瞳で空を見たかったんじゃないかって、
今、思うんです。あれからずっと逢ってないから、
彼女は空を見つけられたのか判らないんですけど。」
其処まで云って、彼は手で弄んでいた丸く折れ曲がった脚本を開き、呟き始めた。
「最終回に入れる予定だった言葉です。
なんとなく、違う気がして外したんですけど。どうか聞いてください。
『君が空を求めるのなら、
どうしたら僕はずっとココに立って居られるだろう。
君が帰って来るまで。』
…今まで「platina」をご支援頂いた方々に、感謝の意を込めて。」
彼は脚本に目を細め愛らしく優しく微笑みながら読み上げた。
顔を上げた彼の笑顔は消えず、
静かに画面が白く淡く消えて行く様子に呼吸を止めた事を覚えている。
あの特番の後、たくさんの手紙が彼の会社に送られたらしい。
彼の話を信じる人はほとんど居なかっただろう。
いや、少数はいるかもしれないが。(俺も含めて)
身体を起こし、右手を腰に当て、大きく後ろへ反る。
頭上を飛び交う鳥に、一際目立つ鮮やかな色。
左手に持った缶を、宙に投げ、左足で蹴り上げた。
高く舞い上がった空き缶が、遠い空の彼方へ消えて行った。
世界がどんなに色褪せ様と、染まらないでいようと、
必死にもがく俺は愚かで、無力かもしれない。
立ち竦む事を繰り返す俺に、空だけは純粋に、世界の穢れを包み込む。
生きる意味が不要だと感じるのは、世界に失望したからじゃない。
俺に失望したんだ。
風を受ける圧迫感に、息を凝らし目を細めた。
何かが可笑しい。
直感した瞬間顔を上げ、鼓動が跳ね上がった。
風は頭上から吹いていて、そして、更に強い衝撃を受けた。
身体に圧し掛かった感覚に、その重さが鳥では無いとすぐ判る。
「見っけ。」
「……。」
俺ノ目ノ前ニ天使ハ舞イ降リタ。
イヤ、
堕チテ来タ。ト、云ッタ方ガ妥当ダロ。コレハ。ドー考エテモ。
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2004/10/17(Sun)22:20:42 公開 / 夷檻
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■作者からのメッセージ
初投稿させて頂きました、
夷檻(いおり)と申します。
この物語は最近書いた詩をもとに書いた小説なんですが、
具体的にいうと空に憧れる少年とアオイツバサを持つ少年の物語です。
まだまだ未熟者ですが宜しくお願い致します。