- 『spellbinding〜呪縛の世界〜』 作者:鏡夜 / 未分類 未分類
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第1話『破邪の巫女』
ザァァァァァァ…
雨。雷が鳴り、怪しい漆黒の雲が空へ広がっている。
『St,サムエルダ学院創立千二百年記念日』――――…そんな日に。
「ねぇ!神宮寺サン!お願い。お願いだからっ」
そんな声があたりに響いた。
土砂降りの雨の中、二人の少女が外にいる。
此処は『St,サムエルダ学院』
雨に濡れた校舎は、より一層邪悪さを増した。
とんがった四つの塔が角に置かれ、天辺では旗が靡いている。
侵入者を阻むかのように建つ何十メートルもある鉄格子の柵。
創りは古びた西洋づくり。どことなく雰囲気が感じられる。
壁は白いはずなのに何年も経ったがために、黒く濁っていた。
この学院は東塔、西塔、南塔、北塔に分けられ、各塔に神聖なる守護神の像がある。
今少女等が追いかけあっているのはその中央。地面はキレイにレンガで造られ、大きい噴水が雨と共に透明な水を噴いていた。
この学院の守護神はそれぞれに、東:蒼龍 西:白虎 南:朱雀 北:玄武とされ、この学院の生徒達に幸福の神のごとく崇められ、親しまれてきた。
しかし皆仲がいいという訳でもなく、四つの守護神達はお互いに対抗し合い、今でもその伝統が続いているのであった。
「何度も言っているだろう。断る」
『神宮寺』と呼ばれた少女の本名は『神宮寺 姫乃』。
姫乃は後ろから来る少女に言いかけた。
身なりは此処の制服だろう。青色中心にできたチェックのスカートに白いブラウス。深青色で作られた長いブレザーは、胸までボタンを締め、雨風に乗っている。シャギーの入った茶色いミディアムヘアー。真っ黒な瞳。誰もが絶世する美女とも言えよう。
「神宮寺サン…どうしてです!?貴方ならできるはずなんですよ!?」
周りに生い茂る木々がざわめいた。雨が少し強まる。
「私が三十五代目『破邪の巫女』?勤まるわけがなかろう。私は特別霊力も強くない。魔法もそこそこで、成績も普通だ」
姫乃が口にする『破邪の巫女』…それは名前のとおり邪気をも破壊する巫女。
破邪の巫女が流通するのは『蒼龍』のクラス。青の制服は蒼龍。別名『聖者蒼龍』とも言う。
この巫女の役目は『聖者蒼龍』への侵入者を防ぎ守ること。
この時代に、またもや昔のような戦争が起きそうな予感がするからだ。
先代は百年も前に途絶えている。
今更と思うかもしれないが、今にとっては重大な事となるのだ。
例の戦争が巻き起こるかもしれないからだった。
『例の戦争』については、後に知ることになるだろう…
「神宮寺サン…」
そう寂しげに言うのは同じく『聖者蒼龍』の制服をまとう者。
『伊集院 雅』…漆黒の髪は左右に三つ編みを長く垂らし、黒い瞳。この学院の理事長である。
姫乃を今回『破邪の巫女』に推薦した理由は、先代の子孫であることからだった。
先代は計り知れないほどの霊力を持ち、戦争を止めるさいに、自分を犠牲にしたという……
「とにかく、ありがたい話だがあり得ない話だ。私は断る」
そう言って姫乃は『聖者蒼龍』の塔、東塔へと姿を消した。
「神宮寺サン……………どうしてですか…」
雅は去り際に呟いた。
風が吹き、何時の間にか雨は止んでいた。辺りは静かで、雅1人が佇んでいた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
第2話『天空の呪い師』
先程の嵐は嘘だったかのように晴れ晴れした天気となった。
地面に広がる水溜り。太陽が反射して辺りを程よく照らす。
「里見―!」
誰かが名を読んだ。
此処は西塔の『神聖百虎』のクラス。制服は緑色。
その男子が、何やら興味深い話をしている。男子寮の中にある談話室で。
ソファが木製のテーブルを囲むように円をかいて置かれ、洒落た暖炉。
この世界に季節というものはなく、寒いと思えば寒くなり、暑いと思えば暑くなるのだ。
『神聖百虎』男子のリーダーシップをとるのが『里見』と呼ばれた男だ。
「んー?何だ?」
本名を『里見 葉』といい、緑のズボンに白いYシャツ。深緑のブレザーは屋内で着る必要もないため、ハンガーにかけてあった。濃茶の短い髪に黒い瞳。成績も優秀、スポーツ万能。誰も文句の言いようの無い天才という奴だった。
「おいおい!聞いたか?里見が三十五代目、『天空の呪い師』だとよ?」
葉と肩を組み、どっかりとソファに座るのは『崎田 優人』。葉とは昔からの悪友らしく、そう思っているのも優人だけらしい。服装は葉と変わらず制服で、黒と白が入り交ざった風変わりな髪型に黒い瞳。
「…ふ―――――――ん?」
葉は返した。口元で笑みを浮かべて『当たり前だ』という顔をしている。
きょとんとした顔で優人は葉の顔を覗く。
一呼吸置くと、ソファから立ち上がった。円にかかれているソファの周りを腕組みして歩く。壁にかけてある絵を度々見て、またソファに座った。
二人は向かい合わせに座り、じっと見合った。
木製のテーブルには、さっき注いだハーブティーが湯気を出していた。
「何でそう言うのかなぁ、お前は」
熱そうなハーブティーを口にして言った。
彼は甘党なのか、砂糖を三つ程入れてかき混ぜている。
長い沈黙が流れ、葉は一言口にした。
「だいたい『天空の呪い師』とか、どういう基準で決まってるんだ?それが気になる。それ以外はどうでもいい。」
葉は懐からタバコを取り出して言った。そして口にして火をつける。何故彼がタバコ等を口にしているのかと言えば、この学院では法に縛られること無く自由にいられる。常時身の危険があるために。
そしてもう一つ。蒼龍『巫女』、百虎『呪い師』、朱雀『巫女』、玄武『呪い師』という風に、『巫女』や『呪い師』を決めており、各塔は全て共学でなく、男女別となっているのだ。一つの塔に人数は十二人。
「あぁ、基準ね。教えてやるよ。『巫女』や『呪い師』の選ばれる基準は、理事長及び先生方々の推薦。で、そいつが選ばれる理由は、先代の子孫であったり、特別な能力を秘めていたりと…まぁ色々だな」
優人はそう言うと意味ありげな顔で笑うと『頑張れよ』と一言言って部屋に入って行った。
寮内はシンプルで左右4ずつ部屋がある。その左一番最後が優人の部屋だ。
一人残された葉は物思いにふけた顔をしてソファに寝転がった。
緑色の布地に金の糸で出来た十字架の刺繍が点々とある。埃すら無く、とても人が使っているようには見えない物だ。テーブルの上にあるハーブティーは冷め、半分辺りまで飲みきっていた。
「特別な能力…か。俺は我がままで身勝手だからな。正直『呪い師』には合ってないと思うが…」
葉はそう言うと、タバコの吸殻を捨てて立ち上がった。
背伸びをしてリラックスすると、葉は部屋へと戻って行った。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
第3話『結界の巫女』
南塔の窓から美しく凛とした音色が聞こえた。
『朱雀』は通称『聖霊朱雀』。
その中にある音楽室からは、ヴァイオリンの音。
太陽の明るさが増し、水溜りも乾き始めた。
音楽室の中は白い壁で、白い床。そこらへんに楽譜が散らばり放題散らばっている。
楽器はレパートリーが多く、ヴァイオリンからバス、ドラムまであった。
電気は白熱電球一つだけというレトロなムードだ。
音楽室は窓がたくさんあるのにも関わらず、中々光が入ってこないため、薄暗くなっている。
「羽子!またヴァイオリン弾いてるのか?好きだよな」
空元気に少女は言った。空元気というより『男の子』のようだ。
「うん。好き☆」
他愛もない会話が此処での娯楽。この学校は外出もおろか、校庭へ出る事さえもままならない。この世界は『スペルバインディング』と言い、『呪縛の世界』なのだ。この学院に暮す人々はいずれも宿命から逃れられない者達の集まり。
少女は『奏出 羽子』。『聖霊朱雀』の中で最も楽器演奏に長けている者だ。
髪は長く、ほどよいキャラメル色に染まっている。その髪は余りにも長いために、ポーニ―テールにしていた。
赤、橙色中心にできたチェックのスカートに白いブラウス。橙色で作られた長いブレザーを身につけ、ヴァイオリンを片手に持ち、譜面を読んでいる。羽子は三十五代目『結界の巫女』。彼女はそう伝えられ、承知していた。全ては例の戦争を再び起こさぬために。
此処に来る侵入者とは『妖怪』や『悪魔』などという邪悪な力を持つ者達。その頂点に立つのが『魔王』だという。
「今日はこの辺で止めておこうかな」
羽子はそう言うと片付けをしはじめた。
「何。もう止めちゃうのか?」
そう聞くのは『松野 千華』。彼女もまた、フルートを巧みに操る演奏者である。
金髪のショートヘアーにくっきりした黒い瞳。制服は『聖霊朱雀』のもの。
「うん。今から勉強」
「ほぉ、熱心だな。なんの勉強?」
近くにある華奢な椅子に座って千華は聞いた。その言葉を耳にすると羽子はニコッと笑った。
「『例の戦争』についてよ!」
そう言うと手を振って音楽室を出て行った。
「―――――――――――羽子…」
何処か心配げな顔で呟き、羽子の後を追った。千華が心配するのも無理はない。
何せ『例の戦争』について調べるということは先生の目をも盗まなくてはならないからだ。つまりこの学校では全面的に『例の戦争』の情報について触れることは許されない。
――――図書室。
木の香りがほのかに漂う。本棚がびっしり並び、何万冊あるかも分からない。丁度良い所に来たのか、先生はおろか人一人いなかった。
大きく、長い机が中央に置かれ、椅子が並ぶ。そのまわりに本棚がある。
年代順に並べられ、羽子はすぐに一冊の本を見つけた。
『例の戦争』百年前に起きた戦争には名称がついておらず、『例の』となっていた。
「羽子!」
心配して追いかけてきた千華は息を切らしていた。そんな心配をよそに、羽子は本を開き、声に出して読み始めた。
「…今からおよそ百年前に起きた『例の戦争』は『魔王』がこの呪縛の世界を支配しようとしたことから始まった。『魔王』がこの世界にやってくると、空は黒く染まり、嵐が巻き起こった。その時有力者だった四人の『巫女』、『呪い師』が盾とされ、学院は守られた。当時その四人の中で最強の霊力を誇る『蒼龍』の巫女は最後まで残ってしまった。四人の『巫女』、『呪い師』の内、二人はすでに息絶え、世を去っていた。
第4話『真理の呪い師』
残るのは『蒼龍』の巫女と『玄武』の呪い師。二人はこの戦争が起きている中、お互いに愛し合い、分かち合っていたのだ。しかしそんなことも長く続かずに時は訪れた。戦争が始まって一年。とうとう『玄武』の呪い師も『蒼龍』の巫女を残してこの世を去った。その時、『蒼龍』の巫女は悲しさのあまりに霊力を暴走させ、自分を犠牲にし、『魔王』を殺し、学院を守った……」
読み終わると羽子は本を棚に戻しに行く。その時に一つ疑問が浮かんだ。『魔王』は殺したはずなのに何故今更『巫女』や『呪い師』を決めるのだろう…と。
その事実も、また後に知るであろう。
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第4話『真理の呪い師』
玄武。そう、此処北塔は『聖心玄武』。此処での武道技術はさかんで、学院一だった。
『聖心玄武』は特別に武道館が与えられ、毎日のように練習をしている。
とは言っても目に見える場所にはなく、『地下』にあるため、『聖心玄武』の階段を下りて行かない限りは絶対に見つかることはないだろう。
「善司!もう稽古始まってるぞ!先生カンカン!首が危ないぞ〜」
黒色の半そで半パンの拳法着を身に付けた少年はやってきた。
彼の名は『薬師丸 桐』。『聖心玄武』の呪い師であって、本人はその事実を今だ知らされていない様子であった。呪い師の名称は『真理の呪い師』。
薄い茶髪は後ろに束ね、黒い瞳。好青年のような雰囲気がある。
「ん?あぁ桐〜おす!」
黒いズボンに白いYシャツ。それと芝生の上にたたんである黒色の長いブレザー。
『聖心玄武』の制服は黒色だった。
此処は地下ではあるが、整備が整っており、丸で本物のような人工芝が地面一杯に敷き詰められ、その先にドームのような武道館がある。
生徒数十二人と少ないのため、そんなに大きくはない。
言い遅れたが彼は『聖心玄武』一面倒くさがりの生徒『薬師丸 善司』。
見た目はおろか発する声までも桐と瓜二つ。この少年善司は桐の双子(弟)。こう考えると桐は兄となる。
「本当にお前って面倒くさがりだよな――…僕とそっくりなくせに」
ふぅっと呆れたようにため息をつく。
「あー聞こえない聞こえない」
善司は耳を塞ぐ。
しかしこの二人は見た目や声は瓜二つだが、成績、性格は全く別。
兄の桐は温厚な好青年といった感じだろうか。成績も中々なもの。
それに比べ弟の善司は気が短くピアスを耳に付け、パンク少年。成績は何時もドベである。
「それで?何。桐。『魔王』復活のことはわかったのか?」
善司は寝たままの状態で髪をかきあげた。
しばらく黙ると桐は話を始めた。
「そこそこね。今更何で『巫女』や『呪い師』を決めるのかと思って調べたわけ。そしたらさ、なんと!『魔王』には強度の再生能力があるらしいんだ。結構な怪我を負っても、たいがいその能力ですぐに治るらしい。けど、百年前にあった『例の戦争』。その時に『破邪の巫女』が膨大な霊力を『魔王』に直撃させたたんだって。『霊力』は『邪気』を浄化する力を持つために、『邪気』で成り立っている『魔王』は体の四分の三はチリと化し、再生能力まで衰えたらしい。それで百年という長い年月をかけて、また復活を遂げようとしているみたい。それで、そのことに強く恨みを持つ『魔王』は、またこの『呪縛の世界』を支配しようとしている…と、この位かな」
桐は満足げに笑うと善司の横へと座った。
地下はひんやりと冷たく、寒気もするが、芝生がそれを補うように温かくしてくれた。
日差しは無いが、『人工太陽』という装置が明るく照らす。
「お前の情報は何時何処から、誰に何に教わって、どういう風に入手するんだよ」
苦笑いをこぼしながら善司は言う。
「ん?知りたい?秘密。僕新聞委員だし、この位楽勝!」
ガッツポーズをとって自慢げに言った。
しかしこういう会話をしている中でも、『魔王』は徐々に復活する方向へと向かっている。
魔の手は何時現れ、この学院を消しにやって来るか分からない。そのために『巫女』や『呪い師』が強制的に準備されるのだ。
さあ、〜spellbinding game〜の始まりだ。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
第5話『空への航海』
「えー…君達に集まってもらったのは他でもない。『巫女』『呪い師』の諸君」
上質のソファがガラス張りのテーブルをはさみ、向かい合いに彼等彼女等は座っていた。そして目の前にあるのは学長の椅子と机。面積の広い机には大きな松の盆栽がある。周りには歴代学長の写真や大会で優勝した旗やカップ、賞状。カーテンは締め切っていた。
St,サムエルダ学園の現学長『堤 武徳』。黒色の長袖スーツを着用し、目は何時も笑ったような顔でベージュ色の少し長い髪。普段は見えないが紫色の瞳というハーフ交じりの彼は古臭い喋り方だが歳は若く、中々気前のいい人である。
一体此処は何処なのだろうと思うかもしれない。『学長室』というのは確かだが、問題は場所。この学長室は『空』にある。魔法という能力を使い、もう今日で千ニ百年も空に浮きっぱなしだ。そして何より気になるのが『どうやって此処に来たのか』。それはとても簡単で、各塔の屋根裏まで自力で登ると彫刻が美しく彫られた扉がある。そこで『mystery,world』と唱えるだけで来ることができる場所だ。しかし入ることの出きる者はわずかで、学長、理事長と生徒会、『巫女』『呪い師』のみだ。ちなみに伊集院 雅は理事長と紹介したが、ああ見えても崎田 優人は生徒会長で松野 千華は副生徒会長。さらに何と推薦で薬師丸
善司が書記。会計は穴埋めで神宮寺 姫乃。結局皆、顔見知りなのだ。
「待って下さい。私はやりません。引き受けた覚えはありませんから」
ブレザーを片手に持ち、帰ろうとするのは『破邪の巫女』神宮寺 姫乃。険しい顔をしてこちらを向き、ドアの前で突っ立っている。早く帰りたいと急かすかのようにドアノブに手をかける。
「そうか、姫乃君。君はこの学院を見捨てるんだね?」
学長は笑ったままの顔でさらに『クスッ』と笑った。ほの暗い部屋の中で、姫乃は学長を睨む。これも学長マイライフを充実させるための作戦なのだろうか。姫乃はより一層強くドアノブを握った。すごく馬鹿にされたことに腹が立ち、同時に自分のプライドを傷つけられたという気持ちが込みあがってくるのだから。
「だって?そうじゃないか。君にしか『素質』はない。しかも、『先代の子孫』という大きな素質をね。姫乃君。さあ、どうする?」
学長は回転椅子をくるりと一回転して机に頬杖をついた。姫乃はドアノブに手をかけたまま立っている。
時々学長と視線を合わせたり反らしたりしてついに一言を言った。
「………………分かりました。引き受けましょう」
そう言ってまた座った。学長は自分の予想通りに事が進むと、また話を進めた。
「…『先代子孫』の姫乃、『特別能力者』の葉、『癒し音色演奏者』の羽子、『拳法上段者』の桐」
指を指しながら一人一人名前を呼ぶ。学長の声も段々重くなってくる。しばらく沈黙が続く。此処にいる全ての者に、理由は分からないが緊張が走った。
「え?僕『真理の呪い師』だったわけ?」
桐は声を上げた。天然と言うか鈍感と言うか、始めに『えー…君達に集まってもらったのは他でもない。『巫女』『呪い師』の諸君』と言ったはずなのに余りにも気付くのが遅い。これでどんなに桐がこのことについて興味が無いことが分かる。
「そう。君は『真理の呪い師』」
学長は繰り返すように言った。書類のような物を引出しから取り出し、パラパラとめくる。『重要丸秘書類』と乱雑に書き込んであるたが、多分学長しか見ることが許されないのであろう。
「で、だ。本題に戻ろう。いいかい?『魔王』やこの『呪縛の世界』について、諸君はある程度知っていると思う。『魔界』については知っているかな?」
書類を閉じると、その笑った顔で真っ直ぐ四人の方を向く。向かい合っていた四人も学長に顔を向けた。学長の質問については四人全員が首を横に振る。本当は知っているが学長の機嫌を損なわせないために『社交辞令』というものを上手く利用していた。
「知らないのか。ではこの場をかりて簡単に説明をしよう。『魔界』は『魔王』の住む世界だ。行き方は後に伝えるとして、そこは誰も立ち入ったことは無くてね、行っても帰ってくるものは居ないんだ……」
「それで?俺達にそこへ行けというんですか?」
葉は聞いた。そう言うと学長は驚いたようにニコッと笑って続けた。
「察しが良いね。その通りだ。余りこの学院に負担をかけたくはない。何せ今日で創立千二百年になるんだ。それに『魔王』にはこの学院の仕組みや構造など、警備までも知り尽くしている。何より『例の戦争』のように犠牲を増やしたくは無い。なので『魔界』でかたをつけて欲しい…君達になら出きるはずだ」
学長がカーテンを横に引っ張ると、多くの光が部屋に注ぎ込まれた。窓の向こうに見えるのは空に浮かぶ一艘の大きな船。丸でカリブ海に泳ぐ海賊船のような船がそこにいた。
「いくら『巫女』や『呪い師』でも心細かろう。この仲間達と共にこの船で『魔界』へ行きたまえ。『魔界』への地図は仲間に渡してある。荷物はすでに積んであるぞ」
船に乗っていたのはあの『生徒会』の面々だった。誇らしげにこちらを誘っているようにも見れる。
「さあ行け!宿命を背負った若者達よ!」
学長は大きく横に腕を広げた。この学長の思い通りになっている等と思ってしまうと気が引けるが今となっては引き返しようの無い『危険で危ない。さらに命の保証も無い』大変不満足な旅行への船へ足を踏み込んでしまったのだ。
「分かりましたよ。精々死なないように努力はします。死んだ時は小さな墓でも建ててやって下さい」
姫乃はほんの少し笑って言った。先程脱ぎかけたブレザーをしっかりと風に靡かせて。
「本当に人使いがあらいですね学長は。まぁ期待はしない方が良いんじゃないですか?俺達我がままで身勝手ですからね」
葉は最もなことを言うと気に食わない笑い方をして船に乗り込んだ。どうも彼の後姿だけは妙に大人気に見え、緑色の制服がそれをもっと強調させた。
「任せてください!!『魔王』をぶっ殺して来ますから!!!」
羽子は額に手をかざしてニカッと笑った。太陽の光と空の煌きが彼女を良く見せる。
「僕も頑張るよ。だから此処にやって来る『妖怪』や『悪魔』に負けないようにそっちも精一杯頑張ってよ」
桐は言った。流石好青年。『この男に不可能は無い』と思ってしまうかもしれない。色んな意味で。
こうして八個の駒はゆっくりゆっくりマスを進んで行くのであった…
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
第6話『白紙の地図は@』
広大な空は太陽が乱反射し、船に乗る者達の視界には光だけが目に焼き付いていた。
こげ茶色の良い木材で出来た船には大きな帆が風を受け、一番中心となる帆には学院の象徴として小さな星を三日月が負おうような模様があった。船室の上は何も無く、舵は魔法のおかげで勝手に動いている。この船の名は『聖船・浮亜離亜(せいせん・ふありあ)』
『呪縛の世界』から出れば『季節』は生まれ、今は丁度『夏』の時期であった。
「私は乗り気ではなかったのに…」
はぁっとため息をついて文句を言う姫乃。実際制服では動きにくい。なにより目立つために敵に見つかり易いといった不便な点が多々あるため、私服へと着替えた。まさか異性の前で素っ裸になって着替えるほど度胸も気もないため、船室を使って交代で着替えた。数人の男子が血まみれになっているが理由を説明しなくても分かるだろうし、説明したくもないので放って置こう。ちなみに血まみれになっている男子は優人と善司。日ごろの行いが悪いものばかりである。
姫乃のスタイルはラフな感じで白色のサブリナパンツにゆるめにしめた茶色のベルト。とはいっても普通のベルトではなく斜めに垂れ下がった方に『ハンドガン』が備えてあった。本人いわく『念のため』だそうだ。
彼女の着る黒色のチューブトップはというと、服の全ては学長が決めたので気に入っていないらしいがこの服しかないので仕方なく着ているとかなんとか…頭には日光除けのために紺色のバンダナが巻いてあった。
「まぁそう言うなよ」
葉は魔法で勝手に動く舵をあたかも自分で操縦しているかのように持ち、タバコを吸いながら言う。彼の格好は灰色のちゃらちゃらしたチェーンベルトのついたダボダボしたズボン。上は黒い半そでの上に白の網目状に作られたタンクトップを重ね着。これも学長のチョイスであって本人が選んだわけではない。
「姫乃さん!大変ですよ!!」
着替え終わって船室から出てきた雅は血相を変えて飛び出してきた。
彼女は黒色のジーンズで出来たスカートと白色のタンクトップ。首には十字架のネックレスといった『清潔感』を感じるものであった。三つ編みの髪がそれを引き立てているようにも見れる。
「どうした?」
姫乃が言う台詞の筈なのに優人が答えた。格好は黒色の半ズボンにボタンを三つ目辺りまで広げた白い半そでシャツ。程よく小麦色に焼けた肌の腕には銀色で出来たブレスレット。そしてあのヘンテコな頭ときたらどう見ても『ギャル男』と呼ばれても仕方が無いだろうと、此処に居る全員思ったに違いない。
「それがさ、私も見て拍子抜けしちゃったんだけど…見てよこれ」
後から出てきた羽子は片手に地図を持ち、極度に短いジーパンに黒と白のしまで出来たタンクトップ。そして頭には大人びたサングラス。髪は左右にだんごにして縛っている。サングラスについては『オプション』のようだ。
「どれ。見せろ」
羽子から地図を取り上げたのは早く着替えの終わった千華だった。黒いジーンズ地で作られたオーバーオウル。中には白いTシャツ。赤色の『42』と書かれたキャップをかぶり、いかにも『悪』のような雰囲気が彼女を取り巻いている。
「地図がどうした…………は!?何これ。どうしたわけ?」
右隣りから覗き込み驚きの顔を見せたのは桐。黒色の足首まであるズボン。ベルトのような飾りがあちこちにあり、上に着ている白いYシャツにも同じような工夫がほどこされていた。
「わーこの地図白紙じゃん。何で?」
更に左隣りから覗き込むのは善司。服装は桐とほぼ同じで、ズボンとYシャツの色が逆になっているだけだった。
此処で気付いた人も居るかしれないが八人が着ている服にはある特徴があって『黒』『白』この二つの色を中心とした服が多い。『黒』は『中立』『白』は『正義』を表すのだ。けれどこの八人はそれに気付く様子もないので黙っておこう。
「地図が白紙って一体…」
姫乃は唖然とした。船は南に向かう一方で実の所『魔界』は北にあるのだ。しかしこの先教えない方が面白いことになりそうなのでこのままにしておくのが一番良いのではないかと思う。
そしてこのまま後編に続くのであった。
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2004/10/17(Sun)19:54:35 公開 / 鏡夜
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■作者からのメッセージ
自分でも何ともいえませんが、何かご注意や感想などありましたらどうぞよろしくお願いします。では、乱文にて。