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『ぼく。』 作者:hiko / 未分類 未分類
全角1746文字
容量3492 bytes
原稿用紙約5.95枚

「ぼくってさ。 何したいんだろうね」
 
 こんなこと考えたことないかな。
 自分のことでありながら自分自身に対して、他人のような意見をすること。
 別に、カッコつけているわけじゃない。
 素直に、ただ素直にぼくってどこに向かってるんだろうと思うとき。
 少なくともぼくは思っている。
 あれはずいぶん昔、ぼくが君たちと同じ高校生だったかな。
 人生で初めて彼女に振られた後の話だ。
 ぼくは振られるのなんて初めてで、すごく傷ついていた。
 一晩中、泣いたなんて事もしていたな。
 馬鹿みたいだね。
 でも、そのときは本気だったんだ。
 当たり前だけど彼女と付き合っていた頃、僕はとても幸せだった。
 勉強にしろ、部活にしろとてもうまくいくんだ。
 不純だ、って言われちゃうとお終いなんだけれどね。
 何もかもうまく行っていたな。
 一ヶ月に何回か電話なんてしてね。
 今思うとびっくりするけど、四時間なんて普通にしていたな。
 後で電話代見たら血の気が引いたね。
 彼女もすごいよね、なんて笑ってたっけ。
 ああ、思い出すとつらいからこの辺で昔話はやめるよ。
 そう、だから、そんな楽しい思い出が一気になくなったわけだ。
 彼女に振られることによってね。
 この先ずっと続くと思っていたことが、次の日からはありえない。
 これってつらいんだよ。
 ほんとうにね。
 君たちの中にもそういうことを知っている人が何人かいるかもしれないね。
 だからぼくは思ったんだ、本気で好きになると無くしたときにこんなにもつらいんだなってさ。
 あまりにも自分の中で彼女が大きくなりすぎて、自分よりも大きくなっていることに気づかなかったんだ。
 情けないね。
 だから、彼女がいなくなったときは大変だったよ。
 大きな穴があいたというか、心が空っぽになったんだ。
 その後というものは、何もなかったね。
 何をやるにもやる気なんて出なくて、成績も下がっていった。
 自分は女がいなくちゃ何もできないのかと空しくなっていたね。
 それから日にちが経って、さすがに彼女のことは吹っ切れたんだ。
 で、気づくんだよ。
「いったい自分はどこに向かっているんだろう」てね。
 女の子のことばかり考えていて、自分のことをおろそかにしてきたことにやっと気づくんだ。
 自分の時間ができたんだな。
 そうなるともうとまらないんだよ。 
 考えれば考えるほどに、自分の人生ってどうにでもなるんだってことに気づくんだ。
 うれしかったね。
 女の子のことばっかり考えていた頃では、まず無理だったろうね。
 自分の先のことなんて。 
 なんたって、自分より彼女だから。
 ああ、本当に情けないよ。
 だからぼくは思うんだ。
 学生時代、彼女だっていたっていいと思う。
 ただ、お互いに自分で立っていられないといけないと思う。
 一人一人がしっかり立っていて、その上で互いに助け合う、これがぼくの彼女から学んだことさ。
 

 教室に少し高めのぼくの声がひびく。
 
 大体の生徒たちは聞いて、何人かは居眠りをしていた。
 中には僕の話を茶化す生徒もいたし、注目を浴びる生徒もいた。
 同じような立場にいるのかもしれない。
 悪いことをしたと思った。
 時間が大分あまり、生徒たちが何か話をしろというので説教とも取れるような雑談を教壇の上でぼくはしていた。
 聞いてくれなくてもいいようなことなので寝ていてる生徒を起こる気はない。
 しかし、ぼくの話した話はこの子供たちの興味を引いたらしい。
 ぼくは国語科の教科を受け持っているが、今までこんなに集中して聞いてくれた授業は経験したことがないほどだ。
 この年頃の子達はしょうがないか。
 と思うので「何だお前たち、今日はずいぶん集中しているなぁ」なんていって笑いをとる。
 大人の話は子どもたちにとって昔話でしかない。
 しかし、その昔話は自分の人生の容量をより大きい物にしてくれる
とも思う。
 まぁ、それに気づいたのはこの教師の仕事についてからだが……。
 ともかく、こんなどうでもいいような話が、子供たちにとってぼくの国語の授業より興味があるということは変わらないわけだ。
 
                           ぼく。【END】
2004/10/13(Wed)01:03:18 公開 / hiko
■この作品の著作権はhikoさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
僕シリーズ第二段!
一気に年取ってみました。教師です。
この僕シリーズ、別につなげて作っていません。
「僕」が主人公なだけです(苦笑)
でも、かってにつなげて一つの人生にしてみてもいいかもしれません。
なんて思っています。
これからもよろしくお願いします。
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