- 『宝くじ(ショート)』 作者:高師 / 未分類 未分類
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宝くじが当たった。
それも一等の宝くじが。
今までの人生、男はお金などまったく縁のない生活を送っていた。
平々凡々な生活。
平凡こそ自分にふさわしいと思っていた男にとって、これは非常に恐ろしいことではないのかと思っていた。
あまり趣味がない男のささやかな趣味は、宝くじを買うことだった。
当たらなくてもいい。夢を買えればいいという感覚で男は宝くじを趣味としていた。
出世を望まず、とりあえず死なないだけの生活が出来ればいいと考えている男にとって、その金を使う道は容易には思いつかなかった。
さて、何に使おうかと男は思案した。
まず頭に出てくるのは、酒、女だろう。
しかし男は酒は飲まず、女にも興味が無かった。
では、何か事業を始めようかとも思うが、男にはどのように事業を始めればいいかわからないし、その意欲も無い。
そんな男が、事業なんて始めたら借金だらけになるだろう。平凡な男にとって、借金が出来るのは非常に嫌悪するべき事柄だった。
事業を起こすことも頭から消去する。
では土地を買うのはどうだろう。
この宝くじの賞金で買えるだけの土地を。
それなら損はするかもしれないが、借金を抱えることは無い。
しかし男はそれも考え直した。
もし自分の土地を持って、そこで何かが起こった場合、自分にマイナスが降りかかることになる。それは忌避すべきことだ。
男は土地を買うことも、頭から抹消した。
価値のある美術品を買うのはどうだろう。
別に偽者でも、男が宝くじを買う前よりマイナスになることは無い。
宝くじで夢を買ったわけだから、その余韻を形として残す絶好のものではないだろうか。
男はそれを考え直した。
もし盗品を捕まれたらどうしよう。
男に災厄が降りかかることになる可能性がある。
男は美術品を買うことも頭から消した。
銀行に預けるのはどうだろう。
まさに平凡な考え方ではないだろうか。
しかしそれすら、考え直した。
まず、銀行が潰れるかもしれない。
それはそれでいい。
しかし金があることによって、甘えが出てくるかもしれない。
平凡な男には、自堕落な生活に陥ることは好ましくない。
可も無く、不可も無い生活が一番好ましいのだ。
男はその考えも捨てた。
条件は、男が今の状況よりも下にならないことである。
全て、パッと使うことが一番ではないだろうかと思ったが、酒は飲めず、洋服にも興味が無く、車の免許すら持ってない男にとって、買いたいものなど咄嗟には思いつかなかった。
男は悶々と考え、それでも思いつかず時間は刻々と過ぎ去っていく。
何ヶ月か後、男は会社で仕事をしているときに、会社の同僚に話しかけられた。
「宝くじの賞金使ったのか?」
同僚は、男が宝くじを当たったことを知っていた。
男は答えた。
「使ったよ」
同僚は興味津々の態度で、男に尋ねてきた。
「何を買ったんだ?」
「宝くじ」
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2004/10/08(Fri)14:43:23 公開 / 高師
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■作者からのメッセージ
う〜ん、あまりコメントする事は無いのですが。
ショート作品書いて見ましたw