- 『【醜蟲蜘猟疾/集中治療室】読みきり』 作者:トマト伯爵 / 未分類 未分類
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全角3272.5文字
容量6545 bytes
原稿用紙約10.8枚
*警告*
この作品にはスプラッタ・虫・グロテスク・気持ちが悪い・暴力的・インモラル・殺人的と云ったありとあらゆるマイナスの描写が含まれています。とりあえず壊滅的です。耐性・免疫のない人はご遠慮下さい。また、ご使用は用量・用法をお守り下さい。当方は責任を負いかねます。
【醜蟲蜘猟疾/集中治療室】
気持ち悪い……。
部屋は既に怪異と成り果てていた。
白かった筈の壁は黒い《何か》によって埋め尽くされており、絶えずうぞうぞと動き回るそれは渇いた音を立てている。かさかさと、かさかさと……。
逆に床からは湿った音が鳴り続けている。
元は畳だった筈のそれは何時しか<ミミズ>の養殖場のように化している。
こちらも絶えずほふく前進のような動きを続け、時にぶつかり、時には絡まって水音を立てる。
絡まりあったそれは高みを目指すように合わさり、山を作り、ビチビチと音を立てながら天井を目指す。
俺は固まっていた。
ベッドから目覚めるとこの状態だったのだ。
一体どうしろというのか。床は一面ミミズに埋め尽くされていて、とてもでは無いが一歩を踏み出せるような気がしなかった。
呆然と、白痴のように口をあけてベッドに座る俺の手の平にぶちゅりと潰れる感触が広がった。
「ヒィッ――!」
ウジだ。蛆虫がベッドの上に何百何千何万という単位で蠢(うごめ)いているのだ。
手にべちゃべちゃとぬめりのある感触が走る。唯でさえ空っぽだった頭にさらに混乱が押し寄せる。
蛆はミミズと同じ様に音を立てながら、ゆっくりとこちらに寄って来た。
「あ、あ、ああ――あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁあ゛!!」
恐らくシーツであった場所を掴むと、一気に捲り上げた。蛆は一丸となって吹き飛ばされる。
どうだ参ったか。てめえら蛆なんかにこの俺が、俺が――――
その<シーツの下>だ。本来ならベッドの核ともなるスポンジが入っている筈だというのに、そこにはゴキブリが異様な数でひしめき合っていたのだ。
俺は悲鳴を上げた。世界に絶望した奴だってこれほどには出ないだろう。
ミミズもゴキブリの大群に比べればどうという事はない。俺は床に降り立つとそのまま椅子を掴んで振りかぶった。
グチャッ、メキャッ。
そんな音と共にゴキブリが潰れていく。手に感じる感触が嫌悪感を引き立てる。飛び散った体液が顔にかかった時には世界が終わったかと思った。
二度でも三度でも、とにかく振りかぶってはぶつけまくる。何時しか服はびちゃびちゃに濡れて、俺は一日にして数千はゴキブリの野郎をぶち殺していただろう。
肩は強張り呼吸も疲れる。一体何故こんな事になったのか。頭は胡乱として、嫌悪感さえ薄れてきた。
だと云うのにこいつらは俺を助けてくれやしない。それどころか更なる追い討ちをかけやがる。
床にいたミミズどもが俺の足を伝って這い上がろうとしてくるのだ。気持ち悪い、止めろよ。
また椅子が役に立つ。いや、それ所か、俺はもう素足のまま踏み潰すという暴挙に出た。
ぐちゃ、みちゃ、ブチブチ…………。
「は、あは、ざまあみろ。……チクショウ」
山のようになったミミズの残骸。水気が多いせいか絨毯はびちゃびちゃと濡れている。
ああ、服を着替えたい。それが俺の今の、芯からの要望だった。冗談じゃない、その為なら人だって殺してやりたい気分だった。殺し損ねた幾つかの蛆やミミズが服の中に入って元気に動き回るのだ。疼痛が走り回る。
一歩歩くごとに、裸足の足は何らかの肉片を踏み締めて音を立てる。天井や床はピンクや透明の黄色やらの体液が染み付いている。
「くそ、ファブリーズなんてこれじゃ効かねえぞ」
悪態を吐く俺に悪夢はまだまだ続く。
今度は壁だ。これまでで一番多いであろう強敵が飛び立って襲い掛かってきたのだ。
「ぐぉおお――ムゴッ!」
うっかり口を開けていたらその中に真っ黒な正体不明の蟲が入ってきた。慌てて吐き出そうとしたのが悪かった。歯にぶつかったそれは見事潰れた。
「!! ぐぇぇぇええ!」
いったい何をしたって言うんだ。これまで人に危害がかかるような悪事は一度だってした事がない。
こんな悪夢めいた目に会うなんて、俺はもしかして狂っちまったんだろうか?
ぶぅぅぅぅううううん――
何千という羽音の大合唱。その低い音はハウリングでも起こしているのか異様な音を立てている。だというのに俺の家族は一度たりとも来やしねえ。
こうなったら手当たり次第だ。
とにかく平たいもので壁に押し付ければ一度で十以上の蟲が潰れ死んだ。
不思議と疲れは消えている。殺してやる――ただそれだけの事に神経が鋭敏化する。
振る。潰す。斬る。
異様なほどの興奮が襲った。俺の息子はエレクトしてテントを張っている。
血は熱いほどに滾って口から笑みがこぼれた。
「は、死ね死ね死ね氏ね子ね四ねよ!!」
吹き飛ぶクソ蟲。飛び散る命の体液。俺は興奮した。最高だ。俺がてめえら一匹残らずぶっ殺してやるぜ。
何時までも俺は椅子を持っていられなかった。そっちの方が壊れたのだ。仕方がないからタンスの引き出しとかを使って殺した。引き出しの中にまで入っていたのには驚いたが今更だ。
殺害して殺戮して……やっとのこと俺は安住の部屋を取り戻した。
暫くして、ぐじゅる……ぴちゃ、ぐじゅる……と音を立てて廊下を歩く音が聞こえた。
新たな敵だ。俺は休む暇すら与えられていない。
『お゛櫂兄ぢ喉ゃ゛ん゛? 一体バビニア゛ッダ呉の゛?』
驚いた事に何かを不明瞭に話している。
……気持ち悪い。俺は机まで戻ると一本のペンを掴んだ。製図用とか云って高い金額がした金属製だ。相手は随分と大型らしい。これは覚悟がいる。
『お゛兄ち旗ゃん職?』
俺は勢いよくドアを開ける。そして次の瞬間今度こそ絶叫をあげた。
虫の方がヨッポド良かった。蛆なんて可愛らしいくらいだった。
目の前には人間がいる。いや、人間の内臓を全てぶちまけた怪物がいるのだ。
胃が吹き出てありえない所に目玉がある。ピンク色の内臓が怪しく光り、血液が脈動してい。るのが見えた
――止めろ。
『お゛櫂兄ぢ喉ゃ゛ん゛?』
――気持ち悪いんだよ。
「ぁぁぁぁあああああああああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!」
それから目を背けて、ひたすらペンを振り下ろす。
これが人の感触か。これが内臓というものなのか。
それはありえないような気持ち悪い、だが必死と分かる叫びを上げた。
『ビヒャアアアアアアアアアアアアアア!! ギガッ!』
動かなくなるまで振り下ろす。痙攣をし続け、もがき苦しむそれも最後にはゆっくりと活動を停止した。
……助かった。
それだけが胸を満たしていた。そして俺はゆっくりと目を閉じた。
――――それが本当の悪夢になるとも知らずに。
次に目が覚めたとき。
そこは<普通の>部屋だった。ただ部屋の様子は違っている。
シーツは千切れ、ベッドはスポンジが千切れ跳びあちこちに行き、絨毯は無茶苦茶に切り刻まれていた。
壁には穴が空き、染みはなく、代わりに血がついていた。
あれは……夢じゃなかったのか?
手はかさかさと乾いていた。見てみれば真っ黒になっている。
観察してみれば分かる。それは血液だ。
じゃあ、あのグロデスクなバケモノは…………。
「うわぁぁぁああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛――――!!」
そこには俺の大切な妹が、原形を留めずに死んでいた。
それを見て、俺は現実を受け入れるのを止めた。
…………。
…………。
……PiPiPiPiPi !
PiPiPiPiPi !
『ただ今留守にしております。ピーという発信音の後、お名前と用件をお話ください』
『スマねえ! お前に渡した薬間違えた! 大丈夫だとは思うけど呑んでねえよな!?連絡頼む!』
tu- tu- tu- tu- tu- …………。
Fin
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■作者からのメッセージ
読んだ人間も気持ち悪がるかも知れないが、書く人間はもっと気持ち悪い……。
なんせ、小説書くときには情景を想像してから書くので、モザイクなしのスプラッタ見てるみたいです……。
二度と書く事はないでしょう。感想お待ちしております。
今回のお題。「麻薬はやめましょう」