- 『SEASONS 第一章〜二章』 作者:Fugu / 未分類 未分類
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〜エピローグ〜
って、もうエピローグ!?もう終わり!?
〜エピローグ改めプロローグ〜
「スグルさ、好きな人いないの?」
「なんだよ急に……」
「いやー、特に意味はないんだけど」
「いない」
「……彼女欲しいとか思わないの?」
「思わん」
「またキッパリと……」
「あのなぁ……何を心配してるか知らんが、オレはそういうのに興味はないからな」
「またまたぁ。そんなこといって、本当はあんなことやこんなことに興味津々! なんやろ?」
「どんなことだよ……」
「本当に興味ないの?」
「……まぁ、全くないってないことはないけどな……。でも、ユウのように飢えてはいない」
「誰がじゃコラ」
「っていうか面倒」
「えー。好きな人とか大切な人がいるっていいことだよー。何ていうのかなぁ……心が安らぐ?」
「聞くなよ……」
「まぁ本当にいいものなんだって。どうせスグルのことだから好きな人の一人もいないんでしょ?」
「ぶっちゃけ、好きってのがよくわかんねーんだよなぁ……」
第一章『異世界への旅立ち』
「分からない、かぁ」
「こいつ性格荒みまくってるからなぁ」
「うっせ」
オレ達は、いつものように学校から帰っているところだった。
「まぁ恋が芽生えるのは人それぞれだからねぇ」
「ぷぷ。それだけスグルがお子様っちゅーわけやな」
「万年独り身野郎にだけは言われたくないな」
「な、なんやてー!?」
ユウの叫びは無視して、オレは話をショウに振った。
「そういえば、ショウ達は付き合って何年目だったっけ?」
「えーと、今年で五年目かな」
ショウは指折り年数を数えた。五年前というとまだオレ達が中二の時だ。
「中学からだったか」
「おれらと知り合った時からもう既に付き合ってたんやもんなぁー。でも、そんなに長く付き合うてて飽きたりせぇへんの?」
「えー、好きなのに飽きるわけないじゃない。僕は楓ちゃん一筋です」
「一途やねー。雪が聞いてたら飛びついてきそうやな」
と、後ろのほうから何かが接近してきた。
「あん? なんだ?」
「ショウちゃーん!!」
ボフッ
一人の少女がショウに飛びついた。
「ほ、ほんまに飛びついてくるとは……」
「噂をすれば、か……」
いつものことなので、オレはさっさと先を歩く。
「ショウちゃんショウちゃん、今の本当!?」
「って、聞いてたんかいな!」
「あはは。本当だよ。僕には後にも先にも楓ちゃんだけだよ」
「ショウちゃん……」
後ろの方がなにやら桃色空間になっているが、気にしない。いつものことだ。
「おいスグル、このバカップルをどうにかせぇ」
「ほっとけ。いつものことだ。気にするだけ損だぞ」
「ショウちゃん、大好きっ」
チュッ
「うわわわ、楓ちゃん!」
突然のキスに、ショウでさえうろたえている。
「人前でそれだけのことを……。腕を上げたな、雪……」
「へっへー」
(や、へっへー、じゃなくて……)
「くぅっ……人前でイチャイチャするなー! 独り身の辛さを考えー!!」
程なくして、いつものように独り身のユウがキレた。
「わっ、秋ちゃんがキレたぁ」
「だから気にすんなって。お前こんなことで毎回キレてたら、身が持たないぞ」
「う、うるさいっ! っていうかお前も独り身やろ!なんでこの辛さがわからへんねや!」
「だからオレは興味ないんだって」
オレはさも当たり前のように答える。
「キイィィーー!!」
ユウが奇声をあげた。これもいつものことだ。
「はいはい、奇声あげない」
「全く。秋ちゃんも春ちゃんもみっともないんだから」
「って、オレを一緒にするな!」
「うぅ……」
「ユウも泣くなっ」
(はぁ……。何でこの一団はこうも疲れるんだろうな……)
後ろのほうでショウも困惑顔を浮かべていた。
(ショウ……お前だけは味方であってくれ……」
「そんじゃ、おれはここまでやから。また明日ー」
「おう」
「「じゃあねー」」
「くそぅ、二人してハモリおって! 嫌味か!!」
「ユウ、しつこい」
オレに次いで二人の(バ)カップルも、うんうんと頷いた。
「お、お前らなんか死んでまえー!!」
泣きながらユウは走り去っていった。
「やっとうるさいのがいなくなったか」
「何気にひどいね、春ちゃん……」
「いつものことだ、気にすんな」
そう、いつものことだ。ユウが泣くのも、このカップルが人前でイチャつくのも……。
「それにしても、雪はどの辺からつけてきたんだ」
「失礼な。ボクはつけてなんかいませんっ。帰り道で偶然君達三人組を見かけたからとんできたんじゃない」
「の割りにはグッドタイミングだったな。話の内容も聞いてたみたいだし」
「ほら、ボク耳はいいから」
「どうだかな……。でも、お前らっていつも一緒に帰んねーの?」
「なんで?」
「や、なんでって……付き合ってんだろ?」
「今一緒に帰ってるよ」
「そうじゃなくて……二人だけで帰んないのかってこと。だってお前らいつもオレ達四人で帰ってんじゃん」
「ほら、やっぱり人は多いほうが楽しいし。それに、今日は僕が掃除当番だったから楓ちゃんには先に帰ってもらったんだよ」
「雪は待たないのか?」
「待つよー。でも今日はボク用事があったから」
「え……ちょっと待てよ……」
(おかしい……おかしいぞ……)
「……一ついいか、雪?」
「いいよー。あ、でもスリーサイズはちょっと答えられないかなー」
オレは雪の下品なギャグをサラリとかわし、尋ねた。
「用事があって先に帰ったはずのお前が、何で今ここにいてオレ達と一緒に帰ってるんだ?」
「やだなぁ。忘れ物があったから学校に取りに戻ってたんだよ。用事はこれからで……」
そこまで言って一瞬絶句。
「あぁーー!!」
そしてすぐさま叫び声をあげた。
「ぼ、ボクこれから用事があるんだった!さ、先に帰るね!!」
言うが早いか、雪は全速力で走り去っていった。
「じゃ、僕は楓ちゃんがちゃんと帰れてるかどうか心配だから送っていくよ」
「あ、あぁ」
簡単に返答すると、ショウは雪の後を雪以上の猛スピードで追いかけていった。
「……忙しいカップルだな……」
一人になったオレはとぼとぼとそのまま帰路へとついた。
高校三年生になって早四ヶ月。高校生活最後の夏休みも終わり、無事二学期を送り始めたオレ達だっ
た。帰るときのメンバーは決まって四人。オレとユウ、それからバカップルの二人だ。
ユウ。本名は天秋勇、あだ名はユウ(雪だけは秋ちゃん)。中学二年の時に大阪から引っ越してきた。クラスが一緒で、妙に気が合う奴だったから、オレ達はすぐに親しくなった。驚いたことは、こいつの親父さんとオレの父さんが昔友人だったこと。母さん同士も仲がいいみたいだけど。そんなこともあってか、オレ達は更に親しくなった。その後、中三でもまた同じクラスとなり、高校でもめでたく三年間同じクラスだ。
(こういうのを腐れ縁っていうんだよな……)
ショウ。本名は冬海翔、あだ名はショウ。高一の時に一緒のクラスになった。始業からしばらくはいつも一人で、ショウからも別に親しくなろうとはしなかった。見るに見かねてオレ達が声を掛けたんだけど……最初は睨みつけられ全く相手にされなかった。ま、そんなオレ達が何で今みたいな親しい関係を築けたかと言うと……。
結果を言えば、袋叩きにされていたところを助けたから。なぜ袋にされていたか、それには理由がある。ショウの家は金持ちで、豪邸に住む富豪だった。その所為で中学時代、カツアゲに会った。それも、当時親しくしていたと思っていた奴らから。ショウの話を聞くと、そいつらはショウに声を掛けた時から計画を立てていたとか。まぁ……その時はショウ自信が返り討ちにしたんだけど。その時のショックで、ショウは心を閉ざしてしまった。
ショウを袋にしていた奴らはその時のカツアゲをした奴らだったらしい。数が多くてショウだけじゃどうしようもなかった。それを助けた。だから、ショウも心を開いてくれた。それが今の関係を築いた経路。が、どうも意外なところにオレ達とショウの接点があった。なんと、ショウの親父さんもオレの父さんと、さらにはユウの親父さんとも友人だった。例のごとく、母さん同士も知り合いだ。
(今考えても、なんて偶然……)
……世の中なんて、意外に、狭い。
雪。本名は雪村楓、あだ名は雪(ショウだけは楓ちゃん)。奴も高一の時に同じクラスになった。見ての通り、ショウの彼女だ。どうやら二人は幼馴染らしく、昔から一緒にいたとか。付き合い始めたのはお互いに異性を意識し始めてからしばらく……。それが中学の時だった。カツアゲの件で心を閉ざしてしまったショウだったが、唯一雪にだけは心を開いた。入学当初は雪がショウに自分以外に心許せる友人を作って欲しい、ということで一人にさせていたようだった。オレ達が親しくなってからは安心したのか、雪もショウにベッタリ。祈願の友人制作も無事に完了し、雪にとっては万々歳だった。
あ、それとこいつ、極度の方向音痴。
(考えてみると、ショウも雪も三年間クラス一緒なんだよなぁ。……しつこい奴らめ)
オレ自身、そんな関係を嫌だと思っているはずもないが。
そしてオレ。本名は春日優。人はオレをスグルと呼ぶ(雪だけは春ちゃんだが……)。生まれてすぐに父さんを亡くし、今まで母さんと二人で暮らしてきた。ユウと知り合うまではオレ自身ショウのように心を閉ざしていた。父さんがいないという引け目からか……それとも、オレだけ友人と楽しく過ごすことは母さんに対して悪いと思っていたからか……。どちらにしろ、ユウはオレの友人第一号だった。妙に気が合ったといっても、オレが心を閉ざしていたことに対してユウに叱咤され、オレもそれに対してイラつき、ユウと大喧嘩した。両者相打ち。結果として、喧嘩を通してユウの想いが伝わったのか、自然にユウと親しくなった。
ショウのことが気にかかったのは……多分昔のオレを見ているみたいだったから。ほっとけなかったから。ま、今ではそんなこと微塵も感じさせない一同にまでなったわけですが。
一つ気にかかったのは、父さんのこと。父さんのことについて知っているのは、さっきも言ったようにオレが生まれてすぐに死んだこと。それと。オレの父さんとユウ、ショウの親父さん達三人が仲が良かったこと。
……それだけ。生前に何をしていた人なのかも母さんは教えてくれない。ユウの親父さんにもショウの親父さんにも会い、父さんのことを聞こうとしたが……やっぱり何も教えてくれない。
(何だ……何なんだ……? オレに言えない事……言えないのは、言えばオレが悲しむから……? それとも別の何かなのか……)
「……考えてもしょーがねぇや。さっさと家帰ろ」
と、帰ろうとしたその瞬間、いきなりオレめがけてもの凄い勢いで人が飛んできた。
「な……ひ、人!? う、うわああああぁぁぁぁ!!」
ドガーーーーーーーンッ!!
「ぁぁぁぁ……」
「しまった……!」
というような声が聞こえたような気がしたが、そのままオレは気を失ってしまった。
目を覚ますとそこは近所の公園だった。オレは公園のベンチの上で横になって寝ていた。
「あれ……。オレいつの間にこんなとこに……」
のそっとペンチから起き上がる。
「……まぁ……いっか。考えるだけ無駄だ。帰ろっと」
オレは公園を後にして家へと向かった。
「ただいま」
「おかえりなさい。遅かったのね。もう八時よ」
父さんが亡くなってから、オレは母さんと二人で暮らしていた。もっとも、亡くなってからと言ってもオレは覚えちゃいないわけだから、オレにとっては然程支障はなかったが……。
「あー……なんか公園で寝ちゃってたみたいで……」
(っていうか、オレ公園なんて行った記憶がないんだけどな……)
「ふふ。きっと疲れてたのね」
「んー……多分そうなんだろな」
「ご飯はどうする? 疲れてるんだったら、もう寝る?」
「そうだなぁ……。うん、寝るよ」
「分かったわ。お休みなさい」
「……あのさ、母さん」
「え?なーに?」
「……やっぱりいいや。お休み」
「?」
首をかしげる母さんに背中を向け、オレは二階の部屋へと向かった。
「父さんのことなんて、いまさら聞かなくてもいいか……。今すぐに知りたいわけでもないしな。それよりも……ねむ……」
呟きながらベットに横になると、やはり疲れていたのかすぐに眠りについてしまった。
「……さい……てください……」
「ん……」
なにやら声が聞こえた。
「起きてください、スグル様」
「へ……?」
眼を覚ますとそこには一人の男性が立っていた。歳は30代前半あたり。
「おはようございます。といってもこれはあなたの夢の中なんですが」
この人何言ってんだ? ここがオレの夢の中……?
「……は? 夢? ……あれ……? ここどこだ!?」
周りを見回しても何も無い。いるのはオレと男だけ。
「え、夢の中って……ここオレの夢なの……?」
少し混乱気味。
「その通りですよ。」
「ちょっまっ……オレの夢ってどういうこと? っていうか、あんた誰!?」
「落ち着いてください。仰るとおり、ここはあなたの夢の中です。私の名前はゼルデューク。ゼルとでもよびください」
「ゼ、ゼルデューク……。」
「そうです。覚えてくだされば光栄です」
いったい何者なんだろう。オレの頭の中はそのことで一杯だ。それにここがオレの夢って……。
「時間が無いので手短に言います」
なんか深刻そうな……。
「あなたにとっては唐突過ぎて話が飲み込みきれないかもしれません。こちらの世界の話ではないのですから……」
こちらの世界? どういうことだ……?
「あなたには、これからあちらの世界……陽冥国に来ていただきます」
なんだ、その酒みたいな名前の国は。それにあちらってどちらなんだよ。
「そしてあなたは、選ばれし者。我等の世界を救ってくださる勇者なのです」
……え?
「お、いおい……オレが勇者? は、話が見えないんだけど……」
「申し訳ありませんが、今はご質問を受けている時間が無いのです。全ては向こうの世界でお話しましょう」
「拒否権は無いってか……」
「……申し訳ありません」
「ふー……。じゃあ……これだけは聞かせてくれよ。何で……何でオレなんだ?」
ニコっと笑い返答するゼルデューク。
「それは、あなた様があの方のご子息だからですよ」
あの方……? 父さんのことか? それとも母さん……?
「そろそろ時間のようです。あなたを『繋ぎの空間』へと誘いましょう。」
パアァァァッ……
急に辺りが光りだした。
「それでは、後日また会いましょう。全てはそこでお話します。」
「あぁ……」
後日、と言われたが、実際本当にまた会えるのか全く保証はない。
「では後ほど……」
だんだんとゼルデュークの体が光の中へと消えてゆく。
そして眩いくらいの光となってオレを襲う。
「く……眩し……」
突然家の中が光で溢れた。
「な、何……?」
どうやら光源は二階のようだった。
「スグルの部屋……?」
急いでスグルの部屋へと向かう。階段を駆け上ると、やはり光はスグルの部屋から出ていた。
「スグル!?」
急に心が不安に駆られ、急いでスグルの部屋の扉を開けた。
「ま、まぶし…っ」
部屋中に光が満ち溢れている。
「スグル……? スグルは!?」
徐々に光がその勢いを失っていく。
「スグル! スグル!!」
返事はない。そしてついに光は消えた。部屋を見渡してみても……その姿は見当たらなかった。
「いない……。スグル……」
(まさか……まさか……)
嫌な考えが頭をよぎり、そのまま呆然とスグルの部屋で立ち尽くしていた。
「ん……ここは……?」
眼を覚まし起き上がって見ると、そこは見渡す限りの平原であった。
「見事に何も無いとこだな」
辺りを見回しても特に目に付くものは無い。
「それにしても、さっきの夢はなんだったんだろうな……」
ぶつぶつ呟きながら歩き出して数分。
「ふー……何にも無いな……ん?」
あった。
よく見てみるとそこには一軒の家が建っていた。
「こんなとこに家が……。しかもあれは……オレの家!?」
そう、それはまさしくオレの家だったのだ。
「何でオレん家……。まぁ、オレん家なんだから入ってもいい……よな?」
理不尽なことを言いながらオレは家に入ろうとした。
「うわっ」
確かにそれはオレの家だった。だがそれは、オレの家とは見事なくらい何もかも逆なのである。まるで鏡にでも写したかのように。
「へー、左右逆かぁ……。中も逆なのか? 入ってみるか」
自分の家とはいえ、夢の世界。何が起こるかわかったもんじゃない。
入ってみた。思ったとおり、中も全て逆だった。外が逆なんだから構造上全部逆じゃないと家崩れちゃうから当たり前なんだけど。
「母さんは……居るわけないか……」
いつも家にいるはずの母さんがいないことの違和感を抱きつつ、台所、洋間、和室、風呂場、トイレetc……と見てまわった。いつもとなんら変わらぬ情景。違うのはただ1つ、逆なだけ。残った最後の部屋、オレの部屋への扉を開けた。
「なんか逆だと変な感じだな……」
そんなことをいいつつ、部屋を見てまわした。
「別に逆なだけで変なところは……ん?」
見るとぼんやりとパソコンが光っていた。
「おかしな……ま、この家自体おかしいから別に大したことないんだけどな」
呟きながらパソコンに近寄った。
バチッ!
「痛っ!」
突然電撃のようなものが全身を通り抜けた。
「なんだ今の……ぐ…あ、頭が……」
次いで、激しい頭痛がオレを襲った。
「い……いてぇ……」
激しい頭痛に見まわれる中、ちらりとパソコンを見やると先程以上に光が増していく。
「ぐぁ……わ、割れる……」
光が徐々に強くなる。
「くっ……わぁっ!」
体が見えない何かに引っ張られる。
「な、何だ……?」
段々パソコンの方へと引き寄せられる。
「おいおい……まさか……」
パソコンのキーボード手前まで来るが、引っ張る力(引力)は一向に収まらない。
「……画面に入る、なんてメルヘンチックなことは言わないよな……」
誰が『言う』のかは知らないが、未だに引力は収まらない。
「ぐぅ……しゃれじゃなく頭いてぇぞ……」
頭痛に気絶しそうになりながらも何とか自我を保ち、これから起ころうとするメルヘンな出来事に対抗すべく、もがいた。
と、急に体が軽くなった。
「う、浮いた!?」
足が地面に付かない。
「こ、これも夢なのか!?」
もっとも、頭が割れるように痛い夢なんか御免だが。
そんなことを思っても、体は宙に浮いたまま。プラス、引力も収まらないんだから……。
「うわー! 手が! 手が画面に!」
右手が画面に吸い込まれた。
「こんなリアルな夢なんて……うわっ!」
遂に頭が光の中へ。
「陽冥国……? まさか、これで陽冥国とか言うところまで行くのか!?」
そんな叫びもむなしく、体はパソコンの画面の中へ。
「パソコンの中ってこんなに眩しいのか……?」
頭がずっぽり画面の中へ入り、オレは光に包まれた。と同時に、頭痛の激しさに気絶した。
「うぁ……」
頭がガンガンする。
「くそ……まるで二日酔いみたいだ……」
(……酒なんて飲んだことないけど)
一人でつっこみ、辺りを見回してみるが特に何も無かった。
「これって……」
さっきの場所が頭に浮かぶ。
「えっと……無限ループ?」
見渡す限りの草原。さっきと同じ。
無限ループ、と考え、ついでにさっきの激☆頭痛を思い出すとうんざりした。
「今度あの痛みが来たら流石のオレでもヤバイぞ……」
痛む頭を我慢しながらオレは無限ループにならないことを祈りながら再び歩き出した。
第二章『出会い』
草原を歩いていると、後方がなにやら騒がしい。
「あ?」
振り返ってみると、こっちに凄い勢いで何かが向かってくる。
「あれは……人か? 女の子みたいだな……。何かに追われてんのか?」
女お子の後に無数の何かが見える。結構大勢いるみたいだ。
「んーと……」
女の子のうしろで女の子を追っかけているもの……。
「……はぃ?」
それは
「バ、バッタぁぁ!?」
そう、バッタなのだ。巨大なバッタが10匹前後。全長160cmくらいの巨大なやつ。
「だ、誰か……」
女の子は必死で逃げている。こっちに向かって。
「なんかヤバそうだな。女の子辛そう」
バッタ……。バッタを見た率直な感想。オレはこの世で一番虫がきらいなのだ。それをあんなでかいバッタが……。
次第に近づいてくる女の子とバッタ。女の子は助けてあげたいけど、バ、バッタが・・・。
「あっ」
女の子は蹴つまづき、前方に派手に倒れた。
「うわ! あの倒れ方ヤバそう……」
猛ダッシュで駆け寄って無事を確認する。
……すぅ……すぅ……。
(ね、眠ってる……?)
「はぁ……息絶えたのかと思ったよ……」
ドドドドドドド!
っと、バッタも段々近づいてきたみたいだ。
「ここはオレも逃げないとバッタの群に轢かれそうだな」
バッタとの距離が200m、150mと近づいてくる。
「よっ」
掛け声とともに女の子を抱きかかえた。
「っととと。この子、随分と軽いんだな」
思ったよりも軽く、勢いをつけすぎて後に倒れそうになった。
「さってと。とっととこの場所からトンズラしますかね」
オレは女の子を抱えてその場を走り去った。みるみるうちにバッタとの距離を広げていくオレ。
「……オレってこんなに足速かったっけ」
何か変だ。
女の子軽いし。っても、人一人抱えてるというのに、いつもよりも早いオレの脚。そういえば、心なしかいつもよりも目も耳もいいような気がする。
「まぁ、いっか。早いに越したことは無いし」
一気に速度を上げて一気に草原を駆け抜けた。
「ふぅ……ここまでくりゃ大丈夫か」
大樹のふもとで女の子をおろし、楽な体勢で寝かしてあげた。
「……上着くらいかけてあげるか」
自分の上着を一枚脱ぎ、女の子にかけてあげた。
それにしても、この子なんでバッタなんかに追われてたんだろうな?バッタに恨まれるようなことでもしたんか?
いや、それよりも。
あの子確か片手に杖持ってたよな。ってことは、おそらく魔法使いかなんかだろ。それなのになんで腰に剣を……? 護身用かな。それにしてはさっきのバッタの大群のときに使ってるようには見えなかったし、ピカピカなところを見ると一回も使ってないような気もするな……。うーん、謎の多い子だな。
「う……うーん…。あ……れ……?」
「お、目が覚めたか」
「キャッ!」
不意に声を掛けられて少し驚いている模様。
「おはよ」
「あ、お、おはようございます……」
礼儀は正しい子のようだ。
「あの……あなたは……?」
「通りすがりの高校生。気にすんな」
「こーこーせー……? えっと……あの、もしかして助けてくださったんですか?」
「あぁ、助けた……のかな。君バッタに追われてたし、転んでそのまま寝ちゃうし、とりあえず危険だったからその場から離れた」
(あの場にいたらオレも危険だったからな……)
「ばった……? ジャッカリーのことですか?」
「じゃ……な、なに?」
「あの巨大昆虫のことです。」
「あ、あぁ……あれね……」
思い出して少し気持ち悪くなった。
「それよりも、ご迷惑をおかけしました。本当にありがとうございます」
「だから気にすんなって。それよりも、派手にこけたっぽいけど、怪我とかしなかったか?」
「あ、はい! 大丈……いたっ……!」
膝がひどく真っ赤になっている。足首もひねったようだ。
「何が大丈夫だよ。ほら、見せてみろって」
膝はどうやら擦っただけで、出血が少し。足首を少ししねった。
「いたっ!」
「足首はくじいただけみたいだな。膝はどこかで消毒できればいいんだけど……」
「あの……」
「あー、大丈夫大丈夫。無理すんなって」
自分の服をビリッと破き、包帯代わりに膝に巻いた。
「とりあえずはこんだけかなー。あとでしっかりと消毒するんだぞ」
「あ、あの……」
「さってと! 立てるか?」
手を差し伸べて立たせてみる。が
「あぅ……」
足首が痛むようだ。
「立てないか。仕方ない。ほら、おぶされ」
女の子の前に背を向けてかがんだ。
「え?あのー……」
「ほれ。怪我してんだから遠慮なんかすんなよ」
「あ、ありがとうございます」
頬を少し赤らめてオレに覆いかぶさった。
「よっ」
勢いよく立った。
「……お前さ……」
「は、はい!?」
急に声を掛けられて驚いてる様子。最初と一緒じゃん。
「お前さ、軽いよな」
「え……あ……ぅ……その……ありがとう……ございます……」
しどろもどろでお礼を言った。
「凄く軽い。さっき抱きかかえた時もそうだったけど、運びやすい」
「だ、抱き……っ!!」
どうやらこの子は赤面症をお持ちのようだ。さっきからオレが発言することに対して顔を真っ赤にする。
「ちゃんと飯食ってるか?」
「ご飯はちゃんと食べてます。多分栄養も考えて取ってます。」
「多分かよ……」
会話しながら歩き出した。
「あぁ、そうだ。名前、教えてくれよ。オレ、スグル。春日優」
「あ、フィズです。フィズ=レイナード」
「やっぱ日本人じゃないのか……」
でも言葉は通じるんだな……。
「日本……」
「あー、気にすんな。こっちの話だ。見た感じここ地球じゃなさそうだしな」
こんな平原、地球にはない。何よりあんな巨大なバッタ……ジャッカリーとか言ったか。あんな生物は地球に生存してない。しているはずもない。
「もしかしてスグルさんって日本から来たのですか?」
……は?
「え……お前地球知ってんの!?」
「あ、いえ……」
「や、知ってるんだろ!? 今自分で聞いたじゃないか!」
「あぅ……そのぉ……」
「なんだ、ここは地球なのか?」
「いえ……ここは陽冥国です」
「陽冥国……」
夢の中でゼルデュークとか言う男が言ってた国か。
「なぁ、お前ゼルデュークって奴知ってる?」
「え!?」
今までで一番驚いた表情だ。
「な、なんであなたがお師匠様の名前を……」
「へ? 師匠?」
「は、はい……。ゼルデュークというのは私のお師匠様の名前です」
「えーと・・・フィズとかいったか。フィズ、そのお師匠さんのとこまでオレを連れてってくれないか?」
「え……?」
呆気にとられた表情。
「オレさ、そのゼルデュークって奴にこっちの世界に連れてこられたんだよ。っていってもわかんないかな……」
「いえ、わかります。私は……お師匠様にあなたを探して連れて来いと言われましたので」
「へぇ……」
何と言う偶然だろう。
この世界に着き、ジャッカリーに追われてる女の子を助け、その女の子がオレを異世界にと飛ばしたあの
ゼルデュークって奴の弟子で、その弟子はオレを探してて……。
「偶然って面白いのな……」
ポツリと呟いた。
「え?」
フィズには聞こえていないようだ。
「ま、そうなれば一石二鳥だ。お前の手当ても出来るし、お師匠さんにも会えるし」
「イッセキ……?あ、あの!」
「ん?」
「け、怪我のことなんですが……」
「あーあー。そんなに酷くないからすぐ直るよ。」
「あ、いえ……そうではなくて……」
「何だ。はっきり言えよ。」
「あ、あの……」
もじもじとはっきりしない。
「ええい、イラつく奴だな!3秒以内に言え!3・2……」
「あ、あの! 私自分で怪我が治せます!!」
「……え?」
「わ、私……回復魔術使えるんで自分で……その……怪我……治せます……」
顔を真っ赤にしてそう言った。恥ずかしさ最高潮のようだ。
「えーと……魔術?」
メルヘンワードを聞き返した。
「はい……。スグルさんはこっちの世界に来て間もないようですので知らないかもしれません……」
申し訳なさそうな表情で言った。
「いや、そりゃ知らないけどさ……。とりあえず回復できるわけだ」
「は、はい……。先に言わないですいません……」
「なんだー。そうならそうと早く言ってくれればいいのに」
「ご、ごめんなさい……お、重かったですよね……?」
「オレ、軽いって言わなかったか?」
「え?あ……」
思い出したようで、顔が真っ赤に染まった。オレはゆっくりとかがんで傷が痛まないようにそっと降ろした。
「そ、それでは……」
フィズは目をつぶって精神統一を始めた。
「……」
オレも黙ってその様を真剣に見やった。
「清らかなる生命の水よ、失いし力とならん―アキュア!!」
フィズの体が淡い緑色の光に包まれていく。
と、膝の辺りに光が集中し、オレのまいた服の切れ端が徐々に解け、傷口を露にした。
「……」
呟きながら初めて見る魔術に見入っていた。
傷が光だし、その傷口が塞がっていく。ものの1、2分で完全に傷口は塞がった。
「……ふぅ……」
「……スゲーなぁ……」
凄い、としか言いようが無かった。
「あ、あはは……まだまだ未熟で、全然うまくいかないときもあるんですよ」
「でも今のはうまくいったんだろ? なんか神々しいっていうか……とにかく凄かったよ」
「あ、ありがとうございます」
赤面しながらお礼を言った。
「さ、後は足首の捻挫だけだな」
「あ、それなんですが……」
赤面がさらに少し紅潮した。
「ん?」
「今ので魔力使い果たしちゃって……その……」
もじもじとしながら、小さく呟いた。
「……もう、今日は魔力使えなくて……」
「……お前、おかしな奴」
「え?」
「ま、いいや。ほれ」
さっきのようにフィズの前にかがみ、おんぶ要請(?)を出した。
「ほ、本当にすいません……」
耳まで真っ赤にしてそう謝った。
「気にすんな」
そういってまたフィズをおぶった。
(てか、こいつ軽いからおぶっても全然重くないしな)
「で、どこいけばいいんだ?」
「バギラスという王国です。そこの城にいます」
「城ってことは、結構身分高い?」
「はい。国王補佐をしてます」
「……実は凄い人の弟子だったんだな……」
「えへへ……」
得意げな笑顔。
「じゃ、さっさとそのバギラスとか言う城に行くか」
「はい!」
「ん。いい返事だ」
「ふぅ……」
だいぶ歩いた。しかし城は影も形も見えない。
「あの……大丈夫ですか?」
後でフィズが心配そうに聞いてきた。
「あぁ。別に重くて疲れたわけじゃないから安心しろって。ただ単に全然城が見えないからため息吐いただけ」
「そうですか……」
フィズの表情は晴れない。
「それよりさ、本当にこっちの方向で合ってんだよな?」
「はい。それは間違いありません」
断言。
「ん、分かった。オレこの辺の地理全く知らねぇから、方角は全部フィズに任せた。」
「はいっ!」
相変わらずいい返事だ。
「でも、流石にちょっと歩きつかれたな。どっかで一休みするか」
「そうですね」
少し歩くと木があちらそちらに立っていた。一番大きな木を見つけて、その下で休むことにした。
「それにしても、この辺には色んな生物がいるんだな」
遊牧か、と思わせるほどそこかしこに生物がいる。どれもオレの見たことない生物ばかりだ。
「はい。国の学者に発見されてる種類だけでも何万といます。この国周辺でも二千種類以上はいると言われています。」
「いっぱいいるんだな」
よく見ると、そこらじゅうに入るのは小動物ばかりだった。
「……可愛いなぁ……」
「え?なんですか?聞こえませんよ」
「あ、い、いや! 気にすんな! はははは!!」
「?」
(あぶね……オレが小動物好きだなんて知られたらギャップありすぎて引かれる……)
オレは必死に話をそらした。
「そ、それにしても、小さいのが多いなぁ。で、でかい奴とかはこの辺にいないのか?」
……動揺してるのバレたか?
「えぇ。ここら辺には小さいのしかいません。大きいのだと街を襲ったりする可能性があるので、封印魔術近づけないようにしてるんです」
(バレてない見たいだな……)
「魔術って凄いんだな」
バレてないと分かり、本心を言った。
「スグルさんの世界にはいないんですか?」
「んー……いるにはいるが、まず環境が違うからなぁ。草原なんて滅多にないし。動物だってこんな自由に外で遊んでないよ。人が飼ってたり、施設で飼ってたりするだけ」
「そうなんですか……。少しかわいそうです……」
「確かになー……。でも、飼い主と言ったって色々いるわけで、物としか見てない奴だっていれば掛け替えの無い家族と思ってる奴だっている。飼われている奴も然りだ」
「飼われている動物もご主人が好きというわけですね」
「そういうこと。一緒に居たい、って言う奴もいるわけだから、全部が全部かわいそうってわけでもないな」
「そうですね。生きるもの全てには心があるんですね」
目を閉じて胸に両手をおき、優しく呟いた。
「あぁ……」
(なんでだろうな……こいつの言葉には何か暖かいものがある……)
ド……
「……?」
なにか聞こえる……。
「どうしました?」
「……何か……聞こえないか……?」
「え……?」
「なんだ……?」
ドド……
「これは……足音……? ……なんか走ってくるような……」
「もしかして……」
「何か……分かったのか?」
「音は聞こえないのですが……もしかしたら……ジャッカリーかも……」
ドドドド……
「ジャッカリー……って、あのでかい奴らか」
ドドドドド……
「まずい、近づいてくるぞっ! 悟られたか!?」
「いえ、おそらく徘徊しているだけだと思います。どこかに身を隠せばやり過ごせるかも……」
「身を隠すか……。木が多いから木陰だな。いくぞ」
すっ、と立ち上がったがフィズは立たない。いや、立てないのか。
「そっか。立てないんだったな。よっ」
おんぶをしている時間が惜しかった。いわゆる『お姫様抱っこ』という奴でフィズを抱きかかえた。
「え? えぇ!?」
驚いているようだ。耳まで真っ赤。
「あ、あの……!?」
「驚いてる暇はない。さっさと移動するぞ。」
「は、はい!」
音はオレ達が歩いてきた方向から聞こえるようだ。目的地に向かう方向には木がそんなにない。
「ちっ……少し道を外れるか……」
仕方なしにやや右側にある木々の仲へと身を隠すことにした。
ドドドドドドド……
「やばいな……このままじゃ見つかっちまう……」
どんどん近くなる轟音。もうフィズにも聞こえるだろう。
「……よし」
意を決してオレは近くにあった気の前に立った。
「あの……何を?」
「いいか、絶対にオレから手を離すんじゃないぞ」
「え……?」
そういってお姫様抱っこからおんぶへと体勢を変えた。
「よっ!」
この世界に来てから上がった身体能力を信じ、ジャンプ&手近な枝に捕まった。
「ひゃああぁ!!」
さっきよりも大きな悲鳴。
「絶対に離すなよ!!」
「は、はい!」
泣きそうな声だった。念を押すとオレに捕まる力がぎゅっと強まった。
「よし」
ちゃんと捕まってることを確認し木を登った。
「よっ……と。ふぅ……。ここまで登れば大丈夫か。おい、大丈夫か?」
ぐったりしていた。
「ま、無理もないか……」
とりあえずぶら下がったままだと危険なので安全な体勢にした。
「きゃっ!」
狭い足場でお姫様だっこは前に重心がいってしまって、かえって危険。なので、普通の抱っこの感覚でフィズを抱えた。
(う、うわっ、顔が近い……)
「あ、あの!!」
フィズの顔はオレの頭の後ろにあるので顔は見えないが、経験上おそらく顔は真っ赤だろう。
「す、凄く……は、恥ずかしいんですけど……っ!」
後半は恥ずかしさのあまり声が小さくなっていった。
「が、我慢我慢! オレだって恥ずかしいんだから!」
「うぅ……」
それからしばらくフィズは顔を真っ赤にしていた(多分)
ドドドドドドドドドド!!!
「うわ、近っ!」
木の真横を通っていった。見やすいところからジャッカリーが通り過ぎるのをやりすごした。
「……行ったか……」
ドドドド……
「あの数はやばかったな……。あれに捕まったら命無かったかもな」
「あ……はは……」
フィズの笑いにも力が無い。どうやら洒落じゃなく危なかったようだ……。
「ま、なんにしろ無事でよかった。さ、降りるか」
こういうものは登るよりも降りる方が幾分危険。オレはそれを熟知していた。
「いいか、ぜっっっっっったいに手を離すんじゃないぞ。降りる方が登るよりも危険なんだ。この高さから落ちたら、それこそ洒落にならんぞ」
「は、はい!!」
うむ。今までで一番いい返事だ。
ぎゅっと力強く握られる。これなら落ちないか。
「よっ……」
得てして、こういうときに限ってアクシデントというものは起こるわけで……。
バキッ!
「……は?」
足を乗せた枝がお約束のように折れた。一気に体勢が悪くなる。
「きゃあ!」
とにかくフィズの安全が先だ。そう思い、辛い体勢ながらも必死でフィズを守った。
「くっ!!」
背中に居たフィズを前に持ってきて腕で包み込む。必死で前へと持ってくるようもがき、フィズを庇った。
ドオオオオオオン!!!
「って、そこまで音大きかったら死ぬわぁ!」
実際はドスッといった感じの効果音。
「ぐ……」
背中から思いっきり地面へと叩きつけられた。
「フィズ……フィズは無事か!?」
腕の中のフィズを見やった。こっちに体を向け、必死にオレの無事を確認する。
「スグルさん!? 大丈夫なんですか!!?」
「フィズは無事みたいだな・・・対してダメージないよ。よっ」
体を起こした。
びきびきっ!
「ぐぁ……」
激痛が体に走った。
「スグルさん!?」
「そ、そんなに大丈夫じゃないかも……」
少し目に涙を浮かべて、苦笑いをしつつそう答えた。
「けど、そんなに高くなかっただろ」
「普通、あの高さから落ちたら無事じゃないですよ……ひっく……」
泣きながら指を刺す。枝が折れているところを見やった。
「……結構高かったな……」
いまさらながら血の気が引く。これも身体能力向上のおかげかな……。
フィズを見やると立たずに足をさすっていた。
「お前……足怪我したのか?」
「ちょっと落ちたときに打っちゃったみたいで……」
「立てるか?」
「え、と……いたっ!」
「全く……お前の足の方がオレよりも重体じゃねーか……」
「だ、だって……だって……スグルさん私を抱えたまま落ちたからぁ……ひっく……」
フィズは再び泣き出してしまった。
(はぁー……どっちが重体よりか、今はフィズに泣き止んでもらう方が先決だな……)
「ほら、オレは大丈夫だから。もう泣き止んでくれよ」
「うぅー……全然……大丈夫そうじゃない……です……」
泣いてオレの体を心配してくれるのは嬉しい。けど……。
「でも、早くこの場を離れないとさっきオレが落ちたときの音聞いてジャッカリーが戻ってくるかもしれないだろ」
「でも……でも……ひっく……」
うー……泣き止んでくれないか……。
「……わかったわかった。どっかで休んで安静にするから。それでオレは大丈夫だから。なっ?」
とにかく今は泣き止んでもらわないと。
「はい……」
やっとのことでフィズが承知し、そして周りを見回して大きな木を指差した。
「あそこの木まで歩けますか……?」
「あぁ……」
とは言ったものの、一歩一歩進むごとに体が痛む。歩くことがここまで辛いのは初めてだな……。
「それより、お前の方は足大丈夫なのか?」
俺を支えながら歩くフィズだが、明らかに右足を庇いながら歩いている。ていうか、オレを支えられてない
んだが。
「で、でもスグルさんのほうが重体ですし……」
「だから、オレは大丈夫だって。それよりも、お前の方がそんなことして悪化したらどうするんだよ」
「魔術で直りますけど……」
「あ……」
(そういえば魔術があったっけ……)
「そうだとしても、今はお前の方が重体だろ。直るにしても、わざわざ痛い思いすることない」
「で、でも……」
(結構頑固な奴だな……)
仕方なく、オレは強行手段にでることにした。
「おい、フィズ……。あれなんだ?」
「え?」
オレはフィズが顔を向けている方と反対の方向へと指差した。当然、何もない。
「よっ」
フィズの一瞬の隙を突いてオレはフィズを抱きかかえた。お姫様抱っこ再び。
「え? あ、ちょっ……スグルさん!?」
「っ……!っくー……効くなぁ」
体中がびりびりと痛みで痺れる。
「お、降ろしてください!」
フィズが必死でもがく。
「だーめ。お前はこうでもしないと無茶するからな」
(まぁ、かくいうオレも無茶してるわけだが……)
「す、スグルさん!!」
「NOだ。こうなったら足が治るまでずっとこうして運んでやる」
「え……?」
フィズの顔がいつものように赤くなる。
(って、今のはオレの方が恥ずかしいな……)
二人して顔を赤くし、それからは両者とも無言だった。
「ふぅー、やっと着いたか……」
やっとのことで大木の元までたどり着いた。
(あんなたった少しの距離でこんなに疲れたのは初めてだ……)
少し周りを見渡し、何もないことを確認してフィズを降ろし、その横に座った。
「それにしても……ジャッカリーにはしてやられたな。まさかいきなりあんだけ来るとは思わなかった……」
「太刀打ちできればいいんですけど……」
「フィズ、魔術でどうにかなんないのか?」
「私攻撃魔術苦手ですし……」
「その剣は?」
「え?」
そういってフィズが背中に持っていた剣を見やった。
「あーこれですか……。実はこれ、私まだ使ったことないんですよ」
苦笑いを浮かべるフィズ。
「むしろ使えないんですけどね」
そしてそう付け加えた。
「使えない? じゃあ何で持ってるんだ?重いだけだろ」
「持っているのは護身用なだけです。もしかしたら使えなくても使わなきゃいけない時が来るかもしれないから……そういってお師匠様に渡されました。それと、特殊な魔術がかかっていますから、重みはほとんどありません」
「ふーん……その杖じゃダメなのか?」
常に手にも持っていた杖を指差した。
「杖では殴るだけで威力がありませんし……」
「まぁ杖で殴り倒そうとしても無理だろうな……」
「でも、私ダメですね……魔力も切れてしまって、もう魔術使えないのに剣使わないで逃げてばっかりで……」
「違うだろ」
「え……?」
「お前が剣を使わないのは相手を傷つけたくないから。攻撃魔術が苦手って言うのも多分嘘なんだろ。使いたくないってだけで」
「……」
「魔力が切れたのは多分自分を回復したりサポートしたりするのに使い果たして……攻撃も出来るはずなのに相手が傷つくのを見たくなくて……。例えそれがどんな怪物であっても、傷つけたくない」
「…………」
「まぁ実際に戦闘を見てもいないオレが言うのもなんだが……多分お前はさ、優しすぎるんだよ。優しすぎるから相手を傷つけたくない。傷つけられない」
「なんで……なんで分かるんですか……?」
「なんでだろうな。オレも分からない」
「……スグルさんの言うとおりです。私は傷つけたくないんです……それがどんな生物でも。さっきのジャッカリーがいい例ですね」
「……」
「攻撃魔法ももちろん使えます。苦手なのは本当ですけど……それでも自分のみを守るくらいには使えます。でも……私は使えないんです。使いたくないんです」
「……優しいね、フィズは。うん、その優しさは凄い良いことだと思う」
オレは努めて優しく振舞った。
「でも、優しいだけじゃダメなんだ。中には、フィズの命まで狙ってくる相手もいる……。それが動物のように自分の身を守るため襲い掛かってくる奴もいれば、故意にフィズを殺すために襲ってくるやつもいる。前者ならこっちが逃げれば相手も追ってはこないと思うけど、後者はきっと逃げても追いかけてくる。そんな奴にまで優しさを出していたら、フィズが殺されてしまう」
「……」
「オレが言いたいのはな。優しさも大事だ。凄く大事なんだけど、時には勇気も出さなきゃ」
「勇気……?」
「そう、勇気。自分の命を守るために、相手と戦う勇気も必要なんだ」
「勇……気……」
フィズはその言葉を確かめるように呟いた。
「すぐには無理かもしれない。でも、そのことを忘れないで欲しい。優しさだけじゃどうにもならないこともあるんだ。それこそ、命を落としかねない。……フィズが死ねばみんな悲しいよ」
「……」
「フィズの父さんも……師匠のゼルデュークも……」
「はい……」
フィズも分かってくれたようで、こくんと頷いた。
「と、いうわけでだ。その剣をオレにくれないか?」
「え……?」
急に話題を変えた所為か、フィズがどんな顔をしていいのか迷っていた。
「剣、使えないんだろ?」
「は、はい」
「相手、傷つけたくないんだろ?」
「……はい……」
「じゃあ決まりだ。フィズは敵を傷つけたくない=敵を倒せない。だから代わりにオレが闘ってフィズを守る」
「え……?」
「ほら、貸してくれよ。オレは今物凄い恥ずかしいこと言って顔から火が出そうなんだから」
オレは顔を真っ赤にしてフィズから顔をそらして言った。
「あ……」
フィズも理解したのか、顔を赤らめた。
「あの……その……あ、ありがとうございますっ! ど、どうぞ!」
「お、おうっ」
フィズから剣を受け取った。そして鞘から刀身を取り出し、軽く振ってみる。
「……軽いな」
(確か魔術がかかってるって言ったっけ……)
「それじゃ、確かに預かった」
「はい」
オレは剣を鞘にしまい、武士のように左腰に差した。
「守ってください、スグル君……」
「……え?何か言ったか?」
「あ、い、いえ! なんでもないです!」
フィズは何か呟いたようだったが、小さすぎて聞き取れなかった。
「? まぁいいか。そんじゃ、そろそろ行くか」
「え? もう行くんですか? もう少し休んだ方が……」
「ダメだ。このままここに居たらいつまでたっても城へ着かない」
言いながらスッと立ち上がった。が……
「ぐぁ……」
体中にびりびりと痛みが走った。
「ほ、本当に大丈夫なんですか?」
「くぅ……ま、まぁなんとかなるだろ……。フィズ、お前歩けるか?」
フィズも立ち上がろうとしたが、足の痛みで立ち上がれないようだった。
「ちょっと……無理みたいです……」
「しゃあないな」
フィズを再びお姫様抱っこで抱える。
「あ、あの!」
「ん?」
「こ、これ凄く恥ずかしいんで……その……ふ、普通におんぶの方が……」
「……」
意識するとこっちも恥ずかしくなってきた。
「わ、分かった」
いったんフィズを降ろし、再び背中へと乗せた。
「……本当にすいません」
「……お前、そのすぐ謝るのやめろよ」
「あ……」
「悪い癖だ。別に、オレはこれっぽっちも悪いなんて思ったことないからな」
「はい、すいませ……」
ギロッ
睨みを利かせるとフィズはビクッとすくみあがった。
「はー……あのな、そういう時は『ありがとう』でいいんだよ」
「あ、ありがとう……」
「そうそう。そんじゃ、出発するか」
足取り軽やかに……とは行かないが、オレ達は城へ向けて出発した。
「あの……あ、ありがとうございますっ!」
背中から、フィズの謝礼が聞こえた。
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2004/09/22(Wed)20:24:30 公開 / Fugu
■この作品の著作権はFuguさんにあります。無断転載は禁止です。
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■作者からのメッセージ
第二章、追加しましたー。
最初新たにスレ作って二章書いてしまいました(ぁ
現段階で第三章まではもう練ってあるんですが、読み直してみるとなんか無理やりな部分多いですね(^^;
精進します。
それでは、楽しんでいただければ幸いです。