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『鈴の音色 【読み切り】』 作者:神夜 / 未分類 未分類
全角7914.5文字
容量15829 bytes
原稿用紙約24.05枚





     「鈴の音色」




 ――リン。

 時折、窓の外から聞こえるその鈴の音色が、気になって仕方なかった。
 だけど、聞こえてすぐに窓を開けても、その正体を見ることできなかった。
 あの鈴の音は、一体何が鳴らしているのだろう――。


     ◎


 バレないように、親から全面的に禁止されている友達の原チャリにニケツするための三カ条。
 一つ。家を出るときは満面の笑みで自転車でどっか行って来ると言う。
 一つ。必ず自転車に乗って出掛け、近くの公民館の裏に見つからないように隠す。
 一つ。家に帰り着いたら、如何にも自転車を漕いで疲れ果てましたという表情をする。
 それを駆使すればおそらくはバレないはずである。現に俺自身がバレていない。……たぶん。
 そして、休日の朝っぱらから携帯に電話がかかって来た。面倒なのでいつも設定を変え忘れているため、大音量で電子音が響いて飛び起きた。
 慌てて通話ボタンを押し、ぼやける頭で通話口を耳に当て、開口一番にアホな声が響く。
『ヘイ! おれらさぁ、パチンコ屋にいるんだけどよ、お前も来るだろ? てゆーか来いよ、来ないと殺すぞコラあっ!  ゲフンっ。と言う訳で、抽選八時からだから遅れずに来いな。ああそうそう、川田がそっちに原チャリで迎えに行くから乗せて来てもらえ。公民館で良いんだろ? じゃあ、もうちょいで川田着くと思うから急げよ。じゃあな』
 断っても良かったが、久しぶりにスロットをしに行きたいと言うのが本音だった。
 早速三カ条の出番である。着替えを済まし、顔を洗い、ベットの棚に隠してあるヘソクリ八万の中から二万だけを引っ掴んで財布に入れながら玄関に向かう。途中、仕事に出掛ける両親と遭遇したので「友達とビリヤードに行って来る。ああ、うん、自転車で」と言い残して薄汚れたスニーカーに足を突っ込んで外に出た。
 自転車小屋にある、中学校から高2の今現在も愛用している自転車に跨る。高校の番号が書いてあるステッカーが貼ってあるのはご愛嬌で。公民館までは自転車で二分ほどだ。滅多に使われないそこは絶好の隠し場所である。以前、駅からパクってきた原チャリを隠していたのもそこだ。
 公民館の裏手に自転車を止め、鍵をかけて道路に出た所に、ボッボッボッボッボッビィイィィイイィィインッボッボッボッボと改造まる出しの原チャリのエンジン音が近づいて来る。朝靄の中から参上したのは、黒のZXを乗り回す川田である。百八十の長身と百二十キロを越す巨体。(中学の頃はバスケで絞ってあり九十キロ、しかし高校でバスケを止め、ビールを煽り出したせいで腹が出た) 俺の身長が百七十で体重が四十七の約五十。俺より横幅が二倍ほど大きい男である。よく「お前が二人揃ってやっと川田になるなあ」と言われたモンだ。
 そしてその川田は、絶対に高2には見えない。もう三十です、とか言ってもたぶんバレないだろう。その長身と巨体でサングラスかけて煙草咥えてりゃ尚更だ。
 あ。
「煙草忘れた」
 つぶやく俺の声に、川田が言う。
「向こうで買えばいいだろ。おお、そうだ。グッモーニン、おっさん」
「やかましい、おっさん言うな」
 そうなのだ。つまるところ、川田のことを三十とか言いつつも、ぶっちゃけ俺も老けてたりする。いや、たぶんそれは坊主頭と伸ばしている無精髭のせいなんだと思う、そう信じたい。でもたぶん、初対面の人に言わせれば「嘘!? お前高2!?」になるだろう。友達によく言われる言葉が「お前がアッチ系の人みたい」、どっちだよチクショウ。
「早く乗れって。もうすぐ時間やばくなるから」
「ん、了解」
 川田の原チャリの後ろに座り込む。ZXはシートの他に羽があるから乗り易い。エイプの後ろに乗ったときは運転者が下手だったのもあり、ものすごい揺れで支えるものがない尻が落ちそうになって死ぬかと思った。
 その分、この川田は運転がめちゃくちゃ上手い。そして安全運転だ。今まで俺が乗った中で、たぶんコイツが最高だ。加えてたぶん、喧嘩もコイツが最強だ。タイマンで負けたなど聞いたこともないし、そんなヤツに俺が絶対に勝てるはずもないし、金属バット持ってても負ける気がする、てゆーかファミレスのハンバーグセットに乗ってるパセリと喧嘩しても俺は負ける自信があるぞ上等だこの野郎。
 合計で百七十キロが負担する訳で、原チャリの出だしは何気に遅かった(いやまあ、普段川田一人だけでも出だしは遅いのだが)。そんなこんなでパチンコ屋に向かい、友達四人と合流、今日は必勝の予感がするっ! と各々で語り合い、いざ抽選をして並び直し、店内に入ってスロットコーナーのスーパーハナハナの前に座り、ロケットスタートが来ますようにと千円札を献上する。

 ……まあ、一から十まで書き記しても良かったのだが、そうなると本編が短くなるので省略。

 結果から言おう。
 えっと、負けました。うん、大負けです。俺の財布の中、七百円だけ残して空っケツです。二万全部吹き飛びました。俺の夢と一緒に吹き飛びましたとさ、めでたしめでたしだよ感動じゃいクソ、目から涙がチョチョギレるぜバカヤロー。ちなみにその日、俺の他の五人中、勝ったのは二人だけである。その二人の後ろに置いてあるメダルの詰まった箱をどうやってかっぱらうかと相談している内に日が暮れ、全員がお開きとなる。
 最終結果発表。俺を含める四人の負け金額、合計で七万五千円。二人の勝ち金額、合計で十二万八千円。……は? って感じッスよね、マジで。馬鹿かっつーの、一人がマジで十万も出しやがった。そいつから飯代をカツアゲし、全員で近くにある吉野家で丼を食った。その頃にはもう夜空には星が瞬いていて、店内にある時計はすでに八時を指していた。
 そろそろ帰るか、と言うことになる。川田の原チャリの後ろに跨り、皆方向が違うのでそこで別れた。ちなみに川田と帰る方向は同じであり、付け加えるのならコイツは今日、二万八千円勝ちした裏切り者である。
 夜風をハイビームで切り裂きながら走り、途中で巡回中のパトカーに遭遇。パトライト光らしながら追っ掛けて来る。
「やべえって俺あと一点しか残ってねーんだよっ!」と叫びながら川田は全速力で逃げ出す。しめしめ、天誅じゃざまあみろって言うかお前ちゃんと逃げ切れよ、別に俺に害はないけどいろいろ面倒なんだよ、もしかしたら今日買ったばっかの煙草没収されるかもしんねえだろ、そうなったらどうやって生活して行けばいいのよ奥さん、そうだそこだ、右ストレート、行け、カウンター! おっしゃ突っ切れーっ!!
 裏道に入り込み、警察から逃げ切った。地元の勝利だと二人で大笑いする。
 やがて公民館に辿り着く。原チャリの後ろから下り、親指を立てる。
「サンキュ、んじゃ明日な」
「おう、じゃあな」
 そう言って、川田の原チャリはボッボッボッボッボッビィイィィイイィィインッボッボッボッボと過ぎ去って行く。そのテールランプを見えなくなるまで見送り、やがて踵を返す。ブツを隠した公民館の裏へ回り、ポケットから鍵を取り出してロックを解除する。
 自転車の方向を変えようと悪戦苦闘していたそのとき、


 ――リン。


 鈴の音が、耳に届いた。
 動きを止め、耳を澄ます。
 遠くで川田の原チャリの排気音が響き、そしてもう一度。

 ――リリン。

 間違いない。時折、窓の外から聞こえる鈴の音だ。
 猫か何かの首輪だろうと思って最初は放っておいたのだが、ある日突然気になり出した音色。音が聞こえてすぐに窓を開けて絶対に見つけることができなかったその正体。二万の敵討ちとして、今日はこの音の出所でも突き止めてみようか。どうぜこの時間帯じゃいつ帰ったって一緒だし。
 そう心に決め、自転車をその場に残し、歩み出そうとしたその瞬間、頭上から鈴の音が盛大に響いた。
 ――チリン、リリリンッ、リン。
「……――え?」と上を向いた瞬間にはすべてが遅かった。
 上から降って来た何かに、一瞬で押し潰された。
「ぐぇえあっ!」
 蛙のような叫び声を上げてその場に倒れ込む。
 背骨が鳴った、足が変な方向に曲がった、手が何か柔らかいものに触れた、体の上に何かが覆い被さっている。
 うわ、うわっ、何か俺、人間では不可能な体勢してない!? ねえ、ちょ、ちょっと! 誰かこれ写真に撮って! 撮って撮って早く撮って! ぜってーにギネス載れるって! 早く早く! あっ、あっ、今ゴリっていった、ゴリって! て、てゆーかアイタタタッ、ヘ、ヘルプミィ……。
 やっとのことで体勢を立て直し、全身が痛む中、ゆっくりと身を起こす。一体何が落っこちて来たと言うのだ、看板か、飛行機か、車か、川田か。どれでも許さねえぞちくせう、鈴の音も聞こえなくなっちまってるし。もしこれが可愛い女の子から許してやっても良いが、中年おっさんなら絶対に半殺しにてしてやる。パセリにも勝てないがだいじょうぶ、この世は元気があればなんでもできるっ!!
 そして、いきなり元気があってもどうすることもできない状態に陥る。
「…………うそぉ、マジで……女の子、だよ…………」
 体に覆い被さっていたもの、それは白いワンピースを纏った一人の少女だった。
 細い手足、抱き締めたら折れそうなほど華奢な肩、緩やかな頬のライン、綺麗な茶髪の髪、目は閉じてはいるが、たぶん漫画で表現するのなら腹が減って目を回した女の子って感じだろう。ぐるぐる線が回っていそうな雰囲気だ。
 呆気に取られていた。どう対処していいかわからない。どうするのが正解だ? 救急車を呼ぶ? それとも警察? もしくはこのまま家に連れてく? 物語始動五秒前? てゆーか、この子誰……?
 改めて観察し、それに気づいた。胸の中にある何かが、音を立てた。
 少女の首に、首輪がしてある。赤い首輪だ。そこに一つの鈴と、ネームプレートが引っ付けてある。ネームプレートにはただ【ミーナ】と書かれており、そして、俺の手が無意識にその鈴に触れていた。
 ――リン。
 これだ、と思う。これこそ間違いない。時折聞こえていたあの鈴の音色は、この少女のがしている首輪の鈴だ。
 しかし何ゆえ首輪などしとるんだ? どっかのペットか? いやいや、人間をペットって……って家畜少女!? 人間売買!? アブナイ大人の世界!? ……あほぉ、ここは日本だぜ、ジャパニーズだよ。ここは俺の近所だよ、そんなことあってたまるか…………信じて良いよね? 我が町。
 そんな思考を繰り広げる俺の前で、少女の腹の方からぐうぅぅうっと何とも変な音がした。たぶん、腹の虫だったと思う。
 腹が減って行き倒れ、ねぇ。物語の展開前じゃ願ってもないシチュエーションだ。が、それを無視してもこのまま放っておくのは俺の人道に反する。可愛い年下の女の子には常に優しくあれ、これ俺のモットー。注意・ロリコンではない、断じてない。必死に否定すると怪しいのでここで止めておく。
「しゃあねえか」
 確かこの近くにコンビニがあったはずだ。
 意識があるかどうか知らないが、少女に言い聞かせる。
「いいか、絶対にここにいろ。何か食い物買って来てやるから。絶対だぞ!」
 少女をその場に残し、走ってコンビニに向かった。公民館から家とは反対の方向に走って三分、コンビニの明かりが照らす駐車場に辿り着く。自動ドアを抜けて中に足を踏み入れ、店員の「いらっしゃいませー」を軽く無視する。
 何を買おうかと迷ったとき、ふと唐突に財布の中身が七百円しかないことを思い出す。いいのか、俺。ここで七百円を使えば残りのヘソクリは六万だけだ。訳もわかない少女のために金を支払うのか? 高々七百円? ちゃんちゃら可笑しいね、笑わせる。一円を笑う者は一円に泣く、つまりは七百円を笑う者は七百円に泣く、のだ! え、なに? 少女を見捨てる者は少女に泣く、だと? ……む……言われれば……し、しかし……ええいクソ! 好きにしろ好きにっ!! 知るかってんだチクショウっ!!
 とか何とか考えいる内に、手の中には鮭おにぎりが一つ、焼きたらこマヨが一つ、シーチキンが一つ、お茶のペットボトルが一つ、ついでにコーヒーの缶が一缶、揃っていた。それの代金を支払うと残りの残金が百円だけになった。何か良いことが起こりますようにと目的が途方もなく違うが、それでも募金箱に全財産を入れる。
「ありがとうございましたー」という店員の声を背に、全力疾走。公民館の裏へ。そこに、まだ少女は倒れていた。どうするかと一瞬だけ悩んだ後、鮭おにぎりの袋を開けて少女の鼻の前にふらふらと漂わせてみた。しかしすぐにこんなんで起きれば苦労はいらないと思い直そうと、って起きたよ。
 少女が目を開けた。虚ろな視線がおにぎりに辿り着いたその瞬間、がばりと起き上がり、俺の手からおにぎりを強奪して一心不乱に食べ始める。何だかその光景が、無性に可愛かった。
「美味いか?」
 何となくそう聞くと、少女は食べる手を止め、俺に視線を向けてくる。
 不思議な感じがした。何か、よくわからないけど、この少女の瞳が、少し――
 やがて少女はにっこりと笑って肯き、またはぐはぐと食べ始める。その姿を見ながら、俺はただ、ま、いっかと思う。
 少女の小さな口が動く度に鈴が澄んだ音を鳴らす。その鈴のことを訊いてもいいものか。もしかしたらこの少女はとんでもない事件か何かに巻き込まれているのではないか。力になってやれることは、何かないだろうか。って、つい数分前に逢った子に対してどんな考え抱いてんだ俺は。
 目の前で少女が咽た。ごはんを喉に詰まらしたらしい。
「馬鹿、ちゃんと噛め!」
 コンビニの袋からお茶を取り出し、フタを開けて少女に手渡す。と、少女はそれを勢い良く飲み、やがて「ふぅ」と年寄りみたいな息を出した。それから俺の方を見て、またにっこり。しかしすぐに寂しそうな顔をする。どうしたのかと思うと、少女の手にはおにぎりがなかった。そういうことか、と思い、今度はシーチキンを取り出し、袋を開け、少女へ渡す。それを受け取った少女はにっこり、そしてはぐはぐ。
 あ、何か良いなこういうの。そんなことを思い、俺は袋の中にあるコーヒーを取り出し、プルタブを開ける。中身を一口だけ口に含み、今度はポケットから煙草のパッケージを取り出し、一本だけ咥える。パチンコ屋のカウンターからアレ(ピー音)して来た百円ライターで火を点け、煙を吸い込む。
 リン、と鳴る鈴に視線が行く。ついでにネームプレート。この子の名はミーナ。変わった名前だと思う。何かもっと訊いた方がいいのかもしれないが、今はそっと食事をさせてやろうと思う自分がいる。
 ミーナはおにぎりを食べながらお茶を飲み、俺は煙草を吸いながらコーヒーを飲む。のんびりとした時間だった。
 妹がいたらこんな感じなのかな。良いな、こういうの。のんびり生きて行くのがやっぱ一番だよな。この少女はまるでその典型みたいだ。猫みたいに気ままで、ほのぼのしてて、でもどこか変わっていて。見習いたい、と密かに思う。
 やがて、ミーナがまた視線を向けて来る。どうやらおにぎりがなくなったらしい。
「おっし、今度は焼きたらこマヨだ」
 そう言って、俺は口に煙草を咥え、コンビニの袋を振り返る。
 中から焼きたらこマヨを取り出し、袋を開け、ほれ、とミーナに差し出す。

 そして、そこにはもう、ミーナはいなかった。

「……――え?」
 咥えていた煙草が地面に落ちる。
 お茶のペットボトルだけを残し、そこからミーナの姿が消えていた。
 どこか遠くで、リン、と鈴の音色が響いていた。
 気づいたときには、俺の手の中にネームプレートが一枚、握られていた。
 そこには、こう書かれている。
 ――【ミーナ】――



     ◎


 数日後。

 あれから俺はミーナを見ることも、鈴の音色を聞くこともなかった。
 ただ、それでもいいか、と思う。ミーナは猫のように気まぐれなのだろう。たぶん、もう、俺のことなんて忘れてしまっているのだろう。
 だから、いいのだ。また縁があれば逢えるだろうし。それこそどっかでまた、行き倒れているかもしれないんだから。
 さて。俺は今、自分の部屋にあるデスクトップ型のPCに向き合っている。小説のネタが一向に浮かばない。一応、趣味は小説を書くことである。まあこの顔でそんなことを言っても似合わないだろうか知ったこっちゃねぇ、おれぁ小説書くのが好きなんだコンチクショウ。
 それで、半年ほど前に辿り着いたこの小説投稿掲示板【登竜門】。ここでずっとノンストップで長編ばっか書いては投稿して来たのは他の誰でもないこの俺だ。それで生き抜きしようと思い、これからしばらくは短編で攻めようと思ってます、と啖呵切った割にはネタがねえ訳です、はい。
 しかしこんなにも早くネタが尽きるとは思ってもおらず、結構ピンチです。さっそく長編を投稿するだけの気力も根性もガッツもねえ訳で、どうしようかと真っ白な画面に向き合っている、ということだ。
 はあ。何かネタはねえもんか。面白いネタ、恐いのでも切ないでもほのぼのでも何でも良い、とにかく使えるネタプリーズギブミィ。
 完全に行き詰まり、このまま干乾びてしまうのではないかと思ったそのとき。

 ――リン。

 窓の外で、あの鈴の音が響き渡った。
 条件反射で立ち上がり、窓を開け放つ。が、そこには何もなかった。
 がっくりと肩を落とす。何を期待していたのだろうと思い、窓を閉めようとしたその瞬間、いきなり何かが部屋の中に飛び込んできた。
「うおっ!?」
 驚いて仰け反り、飛び込んできた何かを凝視する。
 ベットの上に座っているそれは、一匹の茶色い猫だった。
「何だ猫かよ、脅かすなっつー…………おい、マジかよ……っ!」
 その猫は、首に赤い首輪をしていた。そして、そこには鈴が付いている。
 リン、と鳴る、あの鈴である。
 俺の体が自然と動き、部屋の中を引っ掻き回す。どこだ、どこだ、どこにしまった!? あの、あのミーナのネームプレート、俺は一体どこにしまってしまったんだ!? 部屋の中がぐちゃぐちゃになった頃になってようやく、財布の中に入っていることを思い出した。ネームプレートを持って振り返ると、やはりまだベットの上に茶色い猫はいた。
 ゆっくりと近づくが逃げる気配がない。それどころか近づいて来る。
 手が触れる距離に達したところで、俺はしゃがむ。猫がその膝の上に乗って来る。間違いない。あの首輪で、あの鈴だ。だったら、これが――
 首輪に、ネームプレートをはめ込む。カチッと音が鳴って完全に一致した。
 すると猫は起き上がり、ジャンプ一番で窓際へ辿り着く。
「あ、おい! ま、待ってくれっ!」
 なあっ。
 嬉しそうにそう鳴いて、猫は青い空の下に消えて行った。
 俺はいつまでも、その姿を見送っていた。

 遠くで、鈴の音色が聞こえる。


 ――リン。


     ◎


 ネタを思いついたのはその瞬間だった。
 ぐちゃぐちゃの部屋を掃除することもせず、PCに向き合ってキーボードを叩く。
 ノンフィクションの小説だ。
 題名は……よし、そうだな。
 ふむ。これしかねえべ。



       ――《鈴の音色》――



                         作者・神夜



                                 END






2004/09/22(Wed)19:46:22 公開 / 神夜
■この作品の著作権は神夜さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
さてはて。初めまして、《神夜》と書いて《ゴッド・ナイト》と読む新参者です。
こちらには先に《神夜》さんという名前の方がいますが、別人です。
嘘です。神夜は一匹です。ごめんなさい。
ゲフンっ、ゴフぇえぇえぇえンンッ、あ゛あ゛グふ……。
改め、初めましての方は初めまして、お久しぶりの方はお久しぶりです。
やっとこさオフの長編が一段落、気晴らしに何か書こうと思い、書いてみたのがこの小説です。
ぶっちゃけ、すっげえ楽でした。もう、何にも考えずただひたすら在りのまま書くっつーのは本当に楽でした。
テーマは『何だかよくわからないけどほのぼのする物語』です。『切ない』で二作書いたので、久しぶりに戻ってみようっていうことでこうなりました。ちなみにこれ、主人公のモデルは完全に自分です。付け加えるのなら、これ、実話です。……いや、半分だけ(当たり前。  先日、スロットで大負け(二万負け)こいて帰っている途中に閃きました。もちろん公民館の裏で。
登場人物も名前だけ変えてそれっきり、そのままです。だからもし親に見られた大ピンチ。原チャリもスロットも大ピンチ。世界仰天です。それで、自分、パセリに負けます。あ、そうそう。そのパセリに負けるというコメントは、自分の神である秋山瑞人氏のとあるコメントの中から頂戴したお言葉です。嘘でしょ秋山さん、あんなに恐そうな顔しているのに……パセリに負けないで! イリヤ早くアニメ化して! 早く新作読みたいッス!!
……失敬、取り乱しました。自分で読み返しても「本当によくわかんねえなぁ」と。何を伝えたかったのか、自分自身でもわかりません。もしこの小説を読み、誰か、何か感じたら教えてください。それが答えになるでしょう。
……って、イカンな、今日の自分はテンションが高くそしてアホだ……やはり長編終ったヤッホー!鏡月なっちゃん割りだイエー!煙草二本吸いだオラー!が効果抜群で脳みそ焼ききれてしまったらしいです。
そんな訳で、お礼を。
読んでくれた皆様、ありがとうございました。もしよろしければ感想、ご意見、指摘などを頂けるとこれ幸いです。
そして、また別の物語で出会えることを願い、
窓の外から聞こえる鈴の音色に耳を傾けるゴッド・ナイト……じゃない。神夜でした。

(誤字修正とバニラダヌキさんへのお詫び。感想の欄、コメントミスしてました。『作品』ではなく『感想』でした。『作品』だったら完全にやべえじゃん、ということです、誠、すいません)
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