- 『Silent game -序奏-』 作者:蓮華 / 未分類 未分類
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原稿用紙約11.25枚
見渡せば限りない血の海。
見上げれば果てしなく続く暗黒の闇。
何も見えず、何も聞こえないこの空間でまた静かに時が流れてゆく。
私は多分、何も知らないふりをしていた人間だったのかもしれない。
そう気付いた時には既に運命の悪戯は始まっていた-----。
いつも通り目覚ましの音で目が覚めた。
時刻は午前6時頃。
眠たい頭を無理やり起こさせ、ベッドから出た。
リビングへ行くと、もう既に親が朝食を取っていた。
「おはよう、未来。朝食がもう出来てるわよ。」
お母さんはいつものように優しい笑顔で迎えてくれた。
テーブルの方に目を移すと温かいご飯が置いてあった。
お父さんがもう食べ終わり、コーヒーを飲んでいたので未来も席に座り朝食を取り始めた。
「遅くまで起きてたみたいだけど大丈夫なの?」
心配しているような眼差しでお母さんが尋ねた。
「大丈夫よ、心配しないで。明日から中間テストが始まるからね。つい遅くまで起きてしまったの。」
「勉強も大切だが、体調管理もちゃんとしろよ。」
「そうよ、未来。あんまり無理しないでね。」
まさにドラマに出てきそうな理想の家族だった。
優しい親に恵まれた環境。
父親は日本でも有名な病院に勤めている医者で、母親は元弁護士。
当然その一人娘である未来は裕福な環境で育てられてきた。
今日も何の問題もなく、未来は食事を終え、学校へ向かった。
外は雨。
生徒達が傘を差しながら優雅に歩いている。
教室に入ると、賑やかだった雰囲気が一気に静かになった。
未来の通う学校はお嬢様しか通えない有名女子校だ。
もちろんのこと学力には申し分なく、この学校を卒業すると自然に有名大学へ行けることが決まったのも同然と言われていた。
その中でも未来はトップクラスでも一目置かれている生徒だった。
学校始まった以来の秀才と称えられ、まだ17才というものの、どんな難関大学の入試でも満点を取ってしまうほどだった。
まさに女性、いや、人間の憧れと言うべきだろう。
未来はゆっくりと席につくと、一人の友人が近づいてきた。
友人、と言っても目が合うと軽く話をするだけだけれど。
「おはよう、未来。今日から中間テストだけど、調子はどう?」
「いつも通りって感じね。でも今回の数学が心配かな?」
「未来なら大丈夫よ。きっと。期待してるね!」
そう言うと友人はどっかに行ってしまった。
入れ違いに担任の教師がやって来た。
「調子はどうだ?」
いきなり近づいて来たかと思えば、突然お馴染の言葉を出してきた。
「いつも通りですよ、先生。」
未来は微笑んで見せる。
これだけで普通の教師は安心した表情を見せ、ため息をつく。
「そうか。まぁお前なら大丈夫だろう。期待しているからな。」
教師は未来の肩を2,3回叩き、どっかに行ってしまった。
そしてチャイムが鳴り、生徒達は席についた。
つまらないHRが長々と続く中、未来は秘かにため息をついた。
毎日、こんな会話から始まる生活が嫌になる。
いつもいつも勉強、勉強と言われ、まるでそれだけの人間みたいな。
未来はゆっくりと周りを見渡した。
可愛くオシャレした女の子、楽しそうに友達と話している女の子。
そう言う人達にいつも憧れていた。
“私も皆が過ごしているような日々を過ごしたい-----!”
何時しかそう思うようになっていた。
周りの人達から見たら贅沢な願いなのかもしれない。
成績優秀、眉目端麗、そして裕福な家庭。
人間が望む全てのものを手にしているような未来にとってはつまらない願いであるだろう。
気がつくといつの間にかHRが終わり、テスト用紙が配られていた。
テスト開始のチャイムが鳴り、生徒達は一斉に問題を解き始めた。
そんな光景をしばらく他人事のように未来は見ていた。
数分経った後、頭を横に振り、皆と同じように問題を解き始めた。
テストがようやく終わり、ふと空を見ると何時しか晴れて虹が出来ていた。
皆が賑やかに教室から出ていく中、未来は静かに席を立ち教室から出た。
家に向かい歩いていると、小さな段ボールが目に付いた。
中を覗いてみると、まだ生まれたての子犬がお腹を空かして鳴いていた。
「捨てられたの?」
子犬に訊ねてみてもただ尻尾を振るだけだった。
このままでは死んでしまうかもしれない。
そう思った未来はすぐさま近くにあったコンビニに行き、牛乳を買った。
急いでさっきの子犬の所へ向かい、未来の手のひらにミルクをかけ子犬に飲ませた。
子犬はしばらくその光景を見つめていたが少しずつ舌を出してきた。
「あははっ!くすぐったいよ!」
必死に子犬は私の手を舐めてミルクを飲んでいる。
ふと、思ってしまったけれど、こうやって心の底から笑ったのは久しぶりなのかもしれない。
知らぬ間に未来の瞳から一筋の涙が流れた。
「あれ、どうして涙が・・・??」
服の裾で涙を拭いてもまた新しい涙が流れるだけ。
それに気付いたのか、子犬はペロリと目頭を舐めた。
「励ましてくれてる・・・の・・・??」
子犬は尻尾を大きく振りながらワンッと吠えた。
そしてまた心の底から笑えたような気がした。
日が傾き始めたのも気付かないまま、未来はしばらく子犬の頭を撫でていた。
「未来?あなたそこで何をしているの?」
急いで振り返ると、未来の母が呆然とした目で立っていた。
一瞬、何が起こったのか分からなかった。
子犬は微笑みながら尻尾を振っている。
母は子犬がいることに気がつき、大きくため息をついた。
「あなた・・・もしかして学校の帰りにいつも、この子犬に会ってたの?」
「違う!たまたまここを通りかかって・・・。」
言い訳が出てこない。
しばらく2人の間には気まずい沈黙が流れた。
意外にもこの沈黙を破ったのは母だった。
「そう。なら良いけど。勉強に支障がないようにね。帰りましょう。」
母は未来の腕を強く握り、速足で引っ張っていった。
後ろを振り返ると、子犬が寂しそうに鳴いていた。
未来は今すぐにでも子犬の元へ駆け出したい衝動になった。
しかしそれは同時に母親を裏切ってしまう行為でもある。
子犬の姿が見えなくなるまで未来は子犬をただ、ただ見つめていた・・・。
母に引っ張られながら、未来は後悔の渦に巻き込まれていた。
信号が青へと変わり、沢山の人が大急ぎて渡っていく。
突然雨が振りだしたせいか、視野が徐々に狭くなってきていた。
「ほら!早く走るわよ!もうすぐ赤になっちゃう。」
母がやっと未来の腕を掴んでいた手を離し、走っていった。
過ぎてしまったことを今さら善人ぶってもしょうがない。
未来も後から母親について行くような形で走った。
いつの間にか信号が赤になっていることにも気付かずに。
母は心配になって後ろを振り向くと、やっと信号が赤になっているのに気がついた。
横を見ると、未来の所へ知らずに走ってきている車が見えた。
「未来!危ない・・・っ!!!」
母親はそう叫びながら未来の元へ走った。
「え・・・??」
全てがスローモーションのように思えた。
未来は母親に抱きつかれ、その数秒後に激しく振る雨の中大きな音がしたのを聞いた。
母が飛び込んできた反動で2人は地面を強く打った。
反射的に閉じていた目を開けると、そこには真っ赤な血が流れていた。
「おかあ・・・さん?」
ゆっくりと起き上がると、その血の出所は母の頭だと分かった。
「ねえ、冗談でしょう・・・??」
母の体を揺すっても、ただ大量の血が流れるだけだった。
「私のせいだ・・・。」
もし、私がちゃんと信号を見ていれば。
もし、車が来たことに気付いていれば。
こんなことにはならなかったのに。
ふっ、と意識が途切れ、母の横に倒れた。
雨は2人を包むかのように降り続いていた・・・。
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■作者からのメッセージ
えっと、長い序奏でした(汗)
ここまで読んで下さった方々、有り難うございました!!
初めて小説を書いたものですから、正直自信がありません。
しかし、皆さまの意見を聞きながら勉強していきたいと思っています。
出来るだけ頑張って更新を続けたいと思っておりますので、温かく見守ってくれたら嬉しいです♪