- 『散りゆく花に、かけるコトバ。 【改正版】 第一話』 作者:白桜 / 未分類 未分類
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「例えば、それを不幸だと思ったら、私の居場所はなくなるから。」
ひどい作り笑いだった。
その顔を見れば、きっと誰しも彼女が不幸だと気付いてしまうほどに。
19歳という年にして、どれだけのモノを背負ってきたのだろう。
同じ年のボクは、そのコトバを聞いて何故だか身体が強張った。
そのコトバは、昔聴いた歌にも似ていた。
『この目さえ見えなければ、この耳さえ聞こえなければ、失うものなど何もなかった』
はっきり言えば、彼女は不幸だった。
両親は物心もつかないうちに離婚し、数年前父親は交通事故で死んだ。
母親からは虐待を受けていた。
「私ね、お父さんっ子だったんだ。でもね、お母さんも好き」
お母さんを好き、と思うしかなかったのだろう。
数え切れない絶望を、少しでも良い方向にとらえるしかなかったのだろう。
そういうスベテの苦痛が、彼女を自傷行為へと走らせていた。
その傷は、自分の存在を、今の精神状態を、目に見える苦痛を、すべて表す傷だった。
夏なのに長袖を着る彼女は笑いながら言った。
「ゴメンね、来年こそ海行けるよぅにがんばるから」
いつだっただろう。彼女と出会った当初、なにげなく海に誘ったときだった。
「私ね、肌弱くて太陽の下はちょっと…」
その日も暑くて、なのに彼女は長袖で。
そのためか、あまり不思議には思わなかった。
「そっか。じゃあさ、映画とかなら平気?」
こうしてこぎつけた予定だった。
その時のボクは彼女のコトを本当に“興味ある子”としか見ていなかった。恋愛とは、遠い位置にいた。
一緒に映画を見た帰り、外に出てみるとひどく雨が降っていた。
あとから聞いた話なのだが、雨の日はやけに傷がきしむらしい。
そのために何となく、彼女は自分の左手首をおさえたのだった。
「どしたの?」
「え、いや、何となーく」
と、何気なく手を離した彼女の左手首は、赤くにじんでいた。
「それ…どしたの?いつ切った?」
特に、何も考えていなかった。
さりげない優しさでもアピールしたかったのだろうか。
傷口を見ようと左手の袖をめくろうとした、その時だった。
「やめてよ!!」
ひどい剣幕で手をはたかれた。
いつもはあまり喜怒哀楽を出さない彼女は、ただうずくまった。
雨でよく見えなかったが、確かに彼女は……泣いていた。
「…ゴメンなさい。ホントに、ゴメンなさい」
ボクは何も言わずにおとなしくなった彼女の手首をめくった。
正直、最初はその傷に気味の悪さすら感じた。
もう何年自傷をしているかわからないほどデコボコとした傷だった。
彼女は泣きながらこう言った。
「ゴメンね、こんな手じゃ……一緒に海なんて行きたくないでしょ?」
−−枯れそうな花を守りたかったのか、ただの偽善なのか。
それは今もわからない。
ただ、気付けば彼女を強く抱きしめていた。
抱きしめてしまえば、彼女のスベテを一緒に背負うコトになるのもわかっていた。
けれど、離せなかった。
「オレなんかじゃ、きっと救えないだろうケド……」
こうして、今のふたりが始まった。
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2004/09/17(Fri)18:30:08 公開 / 白桜
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■作者からのメッセージ
昔、書いた作品で、どうしても今書き直したくなりました。
思い入れ深い作品です。
先が早く読みたい人は、過去の作品を……見ちゃ嫌です。
ただ、ストーリー的にはちゃんとより深く変わりますから!!
ところで、作品を同時に2つ公開するのは良かったのでしょうか?
注意書きを読む限り、そういったコトはなかった様なので……
もしダメならばすぐに削除いたしますので、レスの方よろしくお願いいたします。