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『フィールディング・ザ・リッパ−1』 作者:バーロー / 未分類 未分類
全角2333.5文字
容量4667 bytes
原稿用紙約8.25枚
薄暗い部屋の中。刃を研ぐ音だけが規則的に聞こえてくる。
部屋の真中だけはスタンドの灯りで照らされており
そこにはナイフを研ぐ少年の姿があった。
クランプで固定された砥石が置いてある。
砥石の長さは20センチ、幅は8センチ程度だろうか。
少年は静かにゆっくりと、しかしブレードの角度を常に一定に保ちながら
ナイフを研いでいた。
左手の人差し指と中指をブレードに添え、ナイフを往復させる。
ナイフを研ぐ際、第一のポイントは角度を一定に保つことである。
ブレードの角度は一般的に15度から30度。
角度を小さくし、薄く研げばナイフは切れ味を増し
角度を大きくし、厚く研げばナイフは鉈のようにタフになる。
厚く研ぐか、薄く研ぐかは用途と好みによって違ってくる。

今、少年が研いでいるナイフは刃渡り13センチのフォールディングナイフだ。
細身で切れ味の鋭そうなこのナイフは殺しにはもってこいだろう。
ナイフには折りたたみ式のフォールディング、鞘つきのシースタイプがある。
少年はナイフを研ぎ終えるとオイルを塗る。
じっとナイフを見つめる少年。ブレードにその貌が映し出される。
その相貌は美しかった。類稀なる美貌の持ち主といってもいい。
いかにも艶のありそうな黒髪は少しカールがかっており、
切れ長の双眸とその奥にある瞳は黒真珠を思わせる。
薄く口紅を引いたような唇はやや腫れぼったく
しかし官能的な魅力があった。
ブレードが不気味な光る。その光が少年の脳裏に沈んでいる
忌まわしい記憶を蘇らせた。
少年――明は思った。人間とナイフは良く似ている。
上手く研げば切れ味の鋭く、あるいはタフになり
下手に研げば切れ味が悪いナマクラになる。

7年前のあの日・・・・・・
「明!早くこっちへ来なさい!」
母、登美子のいつものヒステリックな呼び声。
日曜日には必ず行う伝道。
太陽がギラギラ輝く日でも、大雪が積もった日でも繰り返させた。
38度の熱を超す風邪を引いても、それは休むことなく続いた。
行く先々の家の住人達は眉を潜め、母子達に侮蔑の眼差しを送った。
話を聞いてもらえずに断られることなどしょっちゅうだった。
そんな日がいつも続くと明は脅えた。
ヒステリーを起こした登美子の八つ当たりが待っているからだ。
自分の母の登美子は間違いなくナマクラだろう。

明が伝道の時間にほんの数分ほど遅れたというだけで
この狂信者は三日間、飯も食わせず水も飲ませず、熱湯を浴びせ
ゴムホースを二つに折ってガムテープでグルグルに巻いた鞭で
身体のあらゆる部分をめちゃくちゃに、紫に変色し、腫れあがるまで打った。
頬を打たれる衝撃と激痛。脳天に響き渡る苦痛。
少年にとって、それが日常だった。

明は母が大嫌いだった。登美子の神経質そうな顔に、やかましい金切り声。
ロクに手入れもしない髪の毛はとっくの昔に艶を無くし
所々白髪が生えていた。
見ているだけでこっちが苛立ってくるような女。
世間に毒を撒き散らすだけの屑虫。
一緒にいるだけで胸糞が悪くなってくる。
ある時、明は学校の図書館から本を借りてきた。
どこにでもあるような本だったが、その本の中には怪談に纏わる話が描かれていた。
登美子はいつものようにギャアギャアとわめきちらした。
「この本は悪魔の本よッッ!神への冒涜だわッ!」
いつものお決まりの台詞。狂信者ほど性質の悪いモノはない。
明はそんな登美子に侮蔑と冷笑を持って冷ややかな視線を送った。

登美子にはそれが神経に触ったらしく、登美子は明の目の前で
本を破り捨てると燃やしてしまった。
破られ、燃やされ、灰になった本。
何故こんな女が自分の母親なのか。
愚かでヒステリックで生きる価値もないような、
こんな女から自分は生まれたというのか。
そう思うと腹の底から殺意が湧いてくるのがわかった。

いつもの八つ当たり。何かを叫んでいる母親。
登美子の口の端からは唾液の泡が垂れ、唾が飛んだ。
眼は充血し真赤なヒビが入り、普段青白い顔は赤黒く変色していた。
明は髪の毛を捕まれると鞭で脇腹を打たれた。
脇腹がジンジンと痛む。登美子は鞭を放り出すと明の頬を叩いた。
何度も頬を弾かれ、口の中に血の味が広がった。
明はポケットをまさぐった。・・・・あった。
どこにでも売っているような安物のカッターナイフ。
ポケットの中でカチカチと音を立て、カッターの刃が伸びていく。
カッターをポケットから素早く取り出すと明は
自分の髪の毛を掴んでいるの右腕に刃を切り付けた。
カッターの刃が肉に食い込み、腕を切り裂く。
登美子は鋭い痛みを感じ、明の髪の毛を掴んでいた手を話した。
切られた腕を押さえると、押さえた指の間から黒い液体が
ダラダラとこぼれていく。

「人間の血は赤いのに母さんの血は黒いんだね。これはお母さんの身体に
悪魔が居座っているからだよ」
明はテーブルの上に置いてあった頑丈そうな陶器の花瓶を掴むと
うずくまっている登美子の顔面めがけて、ぶん殴った!ぶん殴った!ぶん殴った!
登美子の前歯がへし折れた。花瓶が顎の骨に当たった。鼻が潰れた。
登美子が仰向けに倒れる。その上に明は馬乗りになると花瓶を両腕に持ち替え
振り下ろした。何度も何度も振り下ろした。
明の頬に生暖かい液体がへばりつく。明はかまわず殴った。
鼻腔から口内から登美子の血が溢れ出す。
前歯は全損し口内をズタズタにした。
頬には穴が開き歯が顔を覗かせている。
頬骨はべっこりと陥没し鼻はひっしゃげ、辺りは血の海と化した。
「気分はどうだい。母さん?」
明は花瓶を放り出すと登美子の顔を覗き込んだ。
登美子は肩で息をしながら喘いだ。
さらに殴りつけるとついに頬が折れた歯によってギザギザに裂け、
赤い肉を露出させた。
2004/09/17(Fri)00:27:59 公開 / バーロー
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どうも初めまして。バーローと申します。
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