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『理由、いるの?』 作者:紅汰白 / 未分類 未分類
全角1030文字
容量2060 bytes
原稿用紙約3.55枚
 ねえ、どうして私はここにいるのかな。 

 耳の奥に心地良く響く、鈴のような声で、機械が声を発した。
 その機械は、とても大きかった。広い、無骨な機械だらけの部屋の一番奥に埋め込まれていた。
「はあ?」
 機械の傍に立っていた少年が、素っ頓狂な声を上げた。

 たまに、本当にたまにだけど、そう考えるんだ。どうして私はここにいるのかな、てさ。
 
 機械が、少年に向かって控え目に質問をした。
「そうだなぁ……。そんなこと、誰にも分からないさ。だって、それを決めるのは僕にはできない。君が決めるしかないのさ」
 きっぱりと、少年は言い切った。

 いや、別にね、それくらいは分かるよ。でも、私は動くことができないし……。

「じゃあ、いつかここから連れ出してあげる」少年は一旦言葉を切り、そして、「そして、一緒に野原を走ろう。約束だ」

 ありがとう……。


  *  *  *  *  *

 また、夢を見ていた。
 もう千年以上も昔のことを夢に見るなんて、自分も随分と年を取ったものだ。……結局、あの約束は果たされることは無かった。
「はは……」
 自嘲するように笑っても、もういってしまった人間は帰ってこない。なぜならば、彼女はもうここにはいないのだから。

 コンピューターの人工知能を人間の体に移す、という行為は、約束の直後に人間同士が馬鹿馬鹿しい大戦争なるものを起こし、人間が全滅した――若干名の人間は、惑星移民を始めていたから無事だったろうが――ことにより不可能となった。
 いま地球にいるのは、大戦争前に人間にダウンロードされたコンピューターだけ。

 今頃人間は、どっかの惑星でのたれ死んでいるところだろ。
 そうでなくては、彼女が―アスカが死んだ理由を見つけられない。
 彼女は移民船に乗せられて、どこかにいってしまったのだから。
 自分に連絡もよこさないということは、死んだことにしたいからだ。

  *  *  *  *  *

 ぶうん…。
 小さい起動音を立てて、一台の巨大コンピューターが作動した。
 コンピューターはしばらく泣いているような音楽を流し、そして、また動かなくなった。
 しかし、コンピューターのモニターには、こんな文章が浮かび上がっていた。

 君がここにいる理由は、神様にしか分からない。
 だから、神様になってやる。

 わたしがここにいる理由。
 それは――
 誰にも分からない。

 だって、生きるのに、死ぬのに

 理由、いるの?



 とある惑星で。
2004/09/16(Thu)16:39:35 公開 / 紅汰白
■この作品の著作権は紅汰白さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
 書いていて途中で訳がわからなくなりました。

 おかあさんと〜シリーズ(ちなみに、今度二作はおとうさんと〜、残り数作品をぼくらと〜にしようと考えています)が余りにも鬱かったので書いてみたんですが……
 駄目です、やっぱこういう作品しか描けません、短編。

 
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