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『どうしようもなくダルい朝はコーヒーを飲め』 作者:ベル / 未分類 未分類
全角2673文字
容量5346 bytes
原稿用紙約8.2枚

ピピピピッピピピピッ

暗い闇を照らすように、太陽が空へと昇り始める頃、機械的な高い電子音がリズム良くなり始めた。
時計から発生する電子音は止むことなくひたすらなり続けている。
通常なら電子音に気付いて誰かがスイッチを切るはずである。
が、その時計が置かれている机の横の布団には、ゆるやかなウェーブヘアーを描いた女性が一人、静かに瞼を閉じて眠り続けていた。
時計の短針と長針が指し示している時刻は6時半、そしてアラームの針が示していた時刻は6時。
10分もなり続けている時計は、誰にもスイッチを切られる事なく、ただ沈黙の空間を揺らすばかり。

不意に、ドアの向こうから「起きろよ」とこの沈黙の空間を破るように声が聞こえ、その声が終ると同時に女性は瞼を開いた。

「……」

瞼をこすり、無言のままうるさく鳴り響く電子音を止め、大きく欠伸をした。

「あふ……あ」

大口を開けた欠伸を終えると、ようやく時計の時間に眼をやった。

「あら……もうこんな時間。学生時代もだったけど、朝弱いのは直らな……あふ」

言葉が途切れて無意識のうちにまた大きな欠伸が一つ。
間延びした絶対に他人には聞かれてはいけない声が、沈黙の空間を埋め尽くした。

「いけないいけない……早く支度しないと」

あーあ、今日もあの人の寝顔見られなかったな

チラリともう隣の布団を見てみると、そこはもぬけの殻であり、ただ掛け布団がめくられているだけであった。女性――藍原 香里はチっと舌打ちをすると、タンスに手を伸ばした。

フラフラと右に左に揺れながらも、何とか細い木製の階段をユックリと下りてゆく。壁に頭をぶつけながらも階段を降りると、ガラス張りのトビラに近づき、ドアノブをまわした。力なくドアを倒れ掛かるように押し、ドアの向こう側へ入ってゆくと、後ろ手にドアノブを引っ張った。小さなカチャンと言う音と共に、女性はドアの向こうへと消えて行く。暫くすると、シャワーの音が激しくなり、そのシャワーの音を追うように鼻歌が聞こえてきた。気持ち良さそうな鼻歌が止ると、同時にシャワーの音もピッタリと止った。

湯気で曇ったガラス張りのドアの向こうで、ドライヤーのうるさい音だけが鳴り響く。そのドアが、ゆっくりと開かれると、先ほどのパジャマ姿の寝癖バリバリのソレとは全く違うものであった。服装もキチンとOL姿の制服に着替えられており、寝癖も完全に治まっていた。

「さて、今の時刻で大体7時といった所かしら……」

一人呟きながら、廊下を歩いていると、美味しそうな匂いが漂ってきた。
ハムエッグとウィンナーと思われるであろう匂いが、実に食欲をそそる。

「あー、早く食べないと」

パタパタと小さくかけて、食卓へと向うと、そこには調理場でエプロン姿が良く似合う男が、なれた手つきでフライパンを操っていた。気持ちの良いほど焼ける音と、香りがその空間一体を満たしていた。

「おはよう、香里」

コチラを見向きもせずに声をかけてきた。

「おはよう〜」

まだ目が覚めていないのかとぼけた声で返事を返した。

「あー、そこのテーブルに今日の分のお弁当おいてあるから」
「毎度毎度、ありがとうねぇ」

と、気疲れしたお父さんのような声を出しながら、精一杯その男の背中を手を合わせておがんだ。いや、別に拝む意味は無いのだろうが。毎朝お弁当を作ってもらえるとするならば拝みたくなるのだろう。最初のうちは自分でご飯を作っていたのだが、仕事の忙しさが原因で小説家と言う時間に暇がある彼に全てを押し付けてしまっていた。今では自分よりも料理が上手くなっている。

冷たいと言う事なかれ。

しょうがない。そう、しょうがないのだ、と。心の中で香里は小さく言い訳をし、全てを自分の中で納得させると、イスへと着いた。

「ほい、朝のコーヒー」
「あ、ありがとね〜」

視界の上のほうから男のコーヒーカップを持った手だけが出現し、机にソレを置いてからまた視界から消えていった。湯気が立ち上がり、天へと立ち上るサマを見続けると、あったかいコーヒーに口をつけた。
体の芯まであったまる。と言う言葉があるが、今まさにそんな状況なのだろう。
飲んだコーヒーが全身を程よくあっためてくれた。

「出来たぞ〜」

皿を両手に持ちながら言い、机に置くと男もイスに着いた。
作っているときもそうであったが、ホントにいい匂いがプンプン漂ってくる。
「いただきます」と二人で両手を合わせて、少しコゲの入った茶色いウィンナーをハシでつかんだ。

毎朝毎朝、なんとも美味しいものか。

そこいらのヘタなレストランや茶店では絶対に食べれないような美味しさが口いっぱいに広がった。

「もう、最近同じばっか起きてるわねぇ」

口を動かしながらもリモコンに手をつけ。チャンネルを変えてみるがどれも不祥事や何らかの事件ばかり。こうも同じ事しか放映していなかったら飽きてくるだろうが、何故か飽きられない。
そりゃ情報を得るためだから仕方ないけど、ニュースとは不思議なもんだ。

「政治家達も少しは何か対策立てようとは考えないワケ?」
「ハハッ、まぁ政治家っていうのはどれも金儲けの事しか考えてないからなあ」

ハムエッグをほおばっていた男は笑いながらテレビに眼をやった。

「それもそうよねぇ……て」

男の言葉に無理矢理納得した香里は視覚に入った時計に眼をやると、目を丸くさせた。途端、イスから立ち上がり、お弁当を掴んだ。

「もうこんな時間じゃないの!?」

時刻は7時45分。会社へと着かなければいけない時間は8時。
かなり難しい状況を瞬時に判断すると、「ご飯いらない!」と駆け出しながら大声で叫んだ。玄関においてあったカバンをひっつかむと、大急ぎでヒールをはき、玄関を力強く開けた。

雲ひとつ無い晴天。
真っ青な空を見て、思わず良い天気、と言ってはいたが「いけないいけない!」と大急ぎでカバンから車のカギを取り出した。

「いってきまぁす!」
「いってらっしゃ〜い」

エンジンの掛かる音と共に、車が一度大きく上下に揺れた。
細かく振動しながら車はバックをし、道路に出ると恐ろしいほどのスピード違反で家から遠ざかっていった。

大丈夫かな、と玄関で自分の妻の車が小さくなっていくのを見送ると、ため息交じりで玄関を閉めた。

「さて、締切3週間前、そろそろネタ考えないとな」

昨夜も徹夜でネタ出しを考えていた夫は手に持ったホットコーヒーを一気に飲み干すと、眼がパッチリと覚めた。

「やっぱりどうしてもダルイ朝はホットコーヒーだな、ちと熱いが」

2004/09/12(Sun)18:31:46 公開 / ベル
■この作品の著作権はベルさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
GOAさんの言うとおり、三点リーダーのトコと、改行を補正しました。コレで何とかなればいいんですけどねえ(ぇぁ)まあ、これからも頑張ってそこを気をつけて書きます。
では、改めて。ではでは〜
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