- 『てのひらを太陽に』 作者:琉海 / 未分類 未分類
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原稿用紙約5.65枚
僕の世界が終幕の緞帳を降ろそうとしていた。
小さな体。
草原を想わせる細くて流れる髪。
白い肌。
からかうとすぐに怒りだす、幼い仕草。
愛らしい声。
愛しい瞳。
愛しい人。
総てが僕の世界に、欠かせないもの。
総てが僕の世界。
僕の世界が、終幕の緞帳を降ろそうとしていた。
◆◆◆◆
遡れば二年という年月。
言い表せば長く、思い返せば短い時間。
僕らが出会ったのは二年前の秋のこと。
ささやかな虫たちの協奏、真夏の炎天から抜け出したばかりの心地よい空気、頬を撫でる優しくも何処か切ない風。
そんな、映画や小説のストーリーなどの憧憬からは遠くかけ離れた街の見慣れた場所で出会い、惹かれ合い、互いに見せ付けあうように愛し合った。
僕の歯車が壊れた・動き出した日。
縋る事を忘れた僕と、縋る事を知らない彼女が他人を真に必要と思えた……今となっては愛すべき巡り合いにも思える。
財力の少ないフリーターの僕を気遣い、彼女はあまり遠出を好まなかった。
気遣いは嬉しいがやはりそれでは収まりがつかない。
もとい、格好がつかない。
僕は、僕の世界で生きていく為の数少ない武器である自分の車で、多少の金を工面しては行ける範囲でのデートを繰り返した。
楽しい。
幸せであると、実感する。永遠に焦がれる毎日。
これほどに陳腐で、これほどにつまらない言の葉しか紡ぐことの出来ない自分の幼さなど僕は気づきもせず、青い時間を過ごしてきた。
二年。
正確には一年九ヶ月と少し。
僕の世界──彼女が死んだ。
世界に僕一人しか存在していないかのような絶対的な消失感。
窓際に座って頬杖をついて、ずっと変わらないメンソールの煙草に火を灯しては、消し、灯しては、消す。
四角く象られた外の世界は雨の礫で轟音を轟かせ、その激しさは隔絶されたこちら側との境界線を打ち破ろうとしていた。
責めているようにも思えた。
「幸せにならなくちゃいけないのかな」
閑散とした部屋で涙混じりに呟いた言葉。いつか彼女が言った言葉。
否定的な言葉に思える。
しかしそれを否定する術を知らなかったのも事実。
僕らは一時の喜びを“幸せ”と名づけて長く短い時を歩いてきたのだとしたら、それは幸せとも恐怖とも言えない暗い道なのではないかと───今更になって───想うのだ。
これが望んだ幸せの終局だとしたら、永遠など必要としない。
僕が望んだのは永遠などではなく、未だ見ぬ明日なのだと、漠然と理解させられた。
まだ半分も吸っていない煙草の火を消した。
『キープ・オンリー・ワン・レディー』
“一人の女性しか愛さない”
彼女にいつか伝えようと吸い続けていた煙草の銘柄の由来。
欠けたものばかりの僕の、精一杯の虚勢にも似た格好付け。
果てしなく、果てしなく、果てしなく。
僕は……その明日に焦がれる。
僕の世界が終幕の緞帳を降ろした。
照明が消え音が絶え消沈し、総てが暗闇に帰した。
幾度外界を眺めようと、打ち付ける雨は一向に止む気配を見せず……
空を見上げても、太陽はその輝きをちらつかせる事を忘れてしまったかのように静かに雨雲の向こうで寝息を立てていた。
起こすのも忍びない。
せめて夢に僕を想い浮かべてくれないか……てのひらを太陽に掲げた。
光が生んだ闇──煙草に火を灯した。
闇を畏怖し、虚勢を張っては煙草の火で小さな明かりを創る。
その明かりがまた、大きな光を灯してくれることを信じて────。
光は闇を生み
生まれた闇を・光が灯す。
その輪廻の果てに────。
「さようなら」
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■作者からのメッセージ
はじめまして!琉海(るうみ)といいます!
かなり緊張してますが……とりあえず投稿してみました。
なんでもいいとは思うのですが、オリジナルの投稿は初めてでして少しばかり思案しました。
内容はどういうものがいいんだろう……とか。
結果、短い上に少し寂しい雰囲気になってしまいましたが、自分的には元気付けの作品です。自分への(苦笑)
批判でもなんでも、糧にしたいので感想いただけたらなぁと思う次第です。
拙い文章を最後まで読んでくださった皆様、ありがとうございました!
それでは^−^