- 『メイドロボ誕生秘話 (読みきり)』 作者:GOA / 未分類 未分類
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原稿用紙約10.15枚
金持ちの道楽が産んだ人型アンドロイド。現代科学の粋とご主人のキチガイが具現化させた存在。
それがこのわたし。型番号NT-17。試験運用のために人前では名前が必要になった。そこで型番号をイニシャルに見立てて名前が与えられる。
長瀬登兎子、それが今の私の名称である。
制作スタッフは多目的介護ロボとして人々に貢献できるものを目指し、一方資金出資者であるご主人はメイドロボの完成をもくろんでいた。双方の意見はいつも真っ向からぶつかり合い平行線をたどる。
漢のロマンだと言い張るご主人、スタッフとの討論はいつも絶えない。
介護ロボとして外見は柔らかく、親しみやすくというコンセプトで女性型である事に満場一致。ご主人もスタッフも何一つ不満はなかった。しかし、ご主人の趣向は周りからかけ離れたものだった。
推定年齢は十七歳前後で制服を着用、容姿はあどけなさが残る童顔、幼児体型。
さらに詳細を述べていくご主人に一同を唖然とさせながらも、誰にも止めることのできない気迫がそこにはあった。
基本技能を付けてはいけない。仕事は何をやらせてもゆっくりで一度で成功してはいけないというものだった。力も無く、運動神経も切れている事がベストらしい。
そんな役立たずの、どこに使い道があるのかと疑問があがる。
私の思考パターンからも同じ解答を導きだしていたが。
本人いわく、教える楽しみがあり、調教しがいがあるほうが萌えるのだと言い切った。
もちろんスタッフ一同猛反対を唱えるが聞く耳を持つご主人では無い。
しかし、現実的にも妥協せざる得ない状況であった。私の基本スペックゆえである。
人工知能アユミ(製作者の名に由来)は163テラバイトの記憶容量を誇るが人間一人分の記憶と思考パターン(人格)を記録するには足りなかった。さらに自己学習機能と意思判断を円滑に処理するためには半分以上の空き容量を必要としたからだ。記憶パターンは人格優先か基本技能優先かに意見は分れ、ご主人が人格優先なのは言うまでもない。
スタッフ側でもいろいろ揉めたがこのプロジェクトの最高責任者である高塚亜弓博士の後押しで結果的には人格優先で決まった。
人とのコミュニケーションで人工知能がどこまで人間らしく近づけるのか試したいのだという。
問題点は他にも山ほどあったが、その中でも体型を確立するまでが一波乱だった。当時の回想録を参照するとこうだ。
頭部は人工知能アユミを包み衝撃を吸収する必要があったため、大きな輝照坊主を連想させるような頭でっかちだった。
機械工学主任の話によれば機能的な理想図を追求すると遠くからでも確認できるように全体を赤く塗り、望遠機能を特化させて視界をモノアイにし、角をつければ完璧だと主張した。カラーリングを赤くすることで通常より三倍の働きを期待できるらしい。科学的立証はないが精神面では大いに期待ができるのだという。さらに角を付ける事によってリーダー機としての伯をつけ、後々生産されるであろう量産期とオリジナルとの差別化を図るのだという。
アーム部分は作業に応じて換装できるマルチギミック方式(多目的義手換装システム)を採用して、基本アームは三本ヅメに高出力レーザーメスとマニュピレータを搭載するというものだった。ボディ部分は動力部として、重い各パーツを動かすために、どうしても大型のジェネレータになってしまう。さらに各種、機関を詰め込むと寸胴ドラム缶のようなゴツイ胴体、その総重量を支えるため、更に厳つい脚部が必要になり、大型ジェネラータ一つでは、その全体を賄いきれなくなった。背中にバックアップとしてサブジュネレータを搭載するという形で完成の目途が立つ。
1/6スケールのモデリングのお披露目に内部スタッフ(主に人工知能担当の職員)一同奇声をあげる。あのご主人ですら驚きを隠せなかったという。
誰もが冗談だと思うそのデザイン。その基本性能を嬉々としてプレゼンしていく機械工学主任は毅然とした態度で最後に。
「これがどんな局面下においても対応できる、汎用型モ・・・ 介護ロボなのです」
と締めくくった。真っ先に反論したのはもちろんご主人だ。
「ふざけるな、誰がどう見てもシャ○ズ○ックだろそれは!却下だ。却下。今すぐ、作り直せ」
「お言葉ですが、燃える機体を作れとおっしゃたのはあなたです。私なりにふさわしい思うデザインにしたのですが、お気に召しませんか」
「あたり前だ。俺は永遠の漢のロマン、萌える機体を期待して、お前に託したんだぞ。それを・・・」
「これ以上に男のロマンを語れる存在はありません。もしかして白い悪魔の方がお好みでしたか」
「そういう事じゃないの、岸田博士。私の手掛けた人口知能は女の子なのよ。いくらなんでもそんな、ごつい形じゃ。かわいそうというものよ。もっと女の子らしい機体にしてほしいのだけど」
高塚博士も話に加わる。
「なるほど、それは失礼。ではアフロダイ○とかヴィーナス○を機体のモデルにすればよかったのですね」
「ちがうわ。ヴァル○オーネとかエ○アルとかよ。」
「これはお詳しい。なるほど高塚博士もヴィジュアルにこだわるんですね」
「私も一応女ですから。かわいいものとか奇麗なものの方が好みだわ」
「かなり厳しい注文です。ああいうデザインは機構状いろいろと問題点が」
「邪魔でなければ、私も手伝うわよ」
「そうですか。それなら何とかなるかもしれない」
机をおもいっきり叩き無理やり注目を集める。
「いい加減にしやがれ、お前ら。人を無視して勝手に話を進めるんじゃねぇ。俺が作りたいのはメイドロボなんだよ。メ・イ・ド・ロ・ボ。マル○とか○リオみたいなやつを言ってんだ。ゴルァ! そこんとこ理解してんのか雇い主は俺なんだよ。金、出してんのも俺だ。つべこべ言わず注文通りに作りやがれ!」
「誰か他の人を探す」「降りてもかまわないが」
二人の博士は見事にシンクロして、ご主人を冷ややかな目で見返した。
「─―わかった。俺の納得いくものができたらお前達の言分を認めてやる。その後ならMSでもなんでも作らせてやる。これでいいだろ。ちくしょう」
「いいでしょう」「承知した」
こうしてご主人の要望通り、今の私が作られる事になった。
二人の個性的な天才は本物で次々と開発される新技術によって不可能とされた不足部分が次々と補われていった。内外スタッフも意気揚々として作業に着手した。遂に一つの結晶となって完成する。
各機関の最小化や軽量化に加え、強度と柔軟性をぎりぎりまで高めることにより、小柄な人型まで縮小を成功させた。
結果、偶然的にも、皮肉的にも人並みの力と強度しか持ち合わせていなかった。全身を覆う人工皮膚は優れた耐水性と絶縁性に優れ、限りなく人間に近い生活が営めるものとなっていた。
仕上げに日本有数のからくり技士による造形技術によって本物以上といわれるほど人間に近い体が完成した。
その愛らしき姿にご主人はもちろん、スタッフ一同喜びと感動を称えあった。
そして今日、私は試験運用のため、ご主人と同じ学校、同じクラスに配属されることになる。
クラス担任につれられて長い廊下を歩く。新しい仕事が私を待っていた。
このことはまだ、ご主人も知らない。案内通りに教室に入ると好奇の視線を浴びた。もちろんご主人も驚いている。簡単な説明を受けて自己紹介を促される。思考パターンが検索されて、場と雰囲気に合った言葉を選び出す。最適な行動パターンとセットで動き出す。わざわざ檀上の前に立ち、そこに両手をついて深呼吸をする。振りをする。
全体を見渡して。
「ガル○はなぜ死んだのか。・・・以下略」
ギ○ンの演説だった。クラス全体が騒然と静まり返り、演説が終った後もその支配下にあった。
そんな中、唐突に。
「ジーク○オン」
と叫ぶご主人が笑顔でこちらを見ていた。細工したのが誰だかすぐに理解する。
ご主人を見ていると、なぜか動き出すプログラムがあった。顔の筋肉が弛緩し笑顔を作る私がそこにいた。再度、挨拶の検索をかける。また、同じものが引っかかったが、すぐに破棄された。
どうやら学習機能は正常に機能しているらしい。
「長瀬 登兎子といいます。特に秀でた長所も短所もありませんが。皆様のお役に立てるようにがんばります。こんな私ですがよろしくお願いします」
プログラム通り丁寧かつ完璧なお辞儀をしたが反応は思わしくなかった。
それぞれの表情は苦笑するので精一杯のようだった。
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2004/09/10(Fri)23:49:00 公開 / GOA
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■作者からのメッセージ
二作目です。完成したのはこちらの方が先でしたが、ネタがネタなので・・・
投稿しようか迷いましたが、やってしまいました。
ストレートな描写とギャクで勝負です。
私の好みもろバレですね。
こんな作品ですが楽しんでもらえれば幸いです。