- 『きっと、どこかに』 作者:櫻司 / 未分類 未分類
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全角2555.5文字
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原稿用紙約12.85枚
気の遠くなるような
遥か彼方に
貴方を想っている何かが
いるかもしれません
ついに僕は見つけました。
僕の愛すべきヒトを。
そのヒトを見つけたのは、全くの偶然でした。
とても美しく、真っ直ぐに物事を見ることができる瞳を持つ女性(ヒト)です。
この女性(ヒト)ならきっと僕のことも真っ直ぐ見てくれるかもしれません。
もちろん、その女性(ヒト)は僕の存在を知りません。
だから、僕は想いを伝えるために旅立ちました。とても長い旅です。
僕の周りはとても反対しました。到底受け入れられるはずがない、と。
僕も受け入れられるかなんて、自信はありません。
受け入れられなければ、それで諦めようと思っていましたし、『ストーカー』になるつもりもありません。
でも、どうしても想いを伝えたかったのです。
未確認飛行物体を確認。
応答は?
ありません。見たこともない形状をしています。
威嚇射撃を許可する。
威嚇射撃・・・効果なし。なに・・・電パ・・・ガイ・・・・ガガ。
やっと到着したその女性(ヒト)がいる星は、僕の知っている言葉ではうまく表現できませんが、
青く輝く、とても綺麗な星でした。
望遠鏡でのぞいて見ていたものよりも、本当に綺麗な星でした。
でも、大気圏に入ったとたんに、沢山の紙飛行機に囲まれてしまいました。
これでは安全に着陸できません。
電波復帰。
飛行物体は依然応答なし。B108(ヒトマルハチ)より北北東に進行中。
避難警報を発令。
H-A487機、六部隊の出動を要請。
要請許可。部隊の到着後、退避を許可する。
了解。
僕を取り巻く紙飛行機の数はどんどん増えていきます。
何か誤解されているようです。
そういえば、この星は宇宙連盟に加盟していない、と
父が言っていましたっけ。
どうやら不正入星だと思われてしまったようです。
無許可で入星してしまってすいません。
でも、僕はあなた方に危害を加えるつもりはありません。
飛行物体より応答あり。
確認に失敗。
構わん、そのまま追尾、場合によっては攻撃を許可する。
誤解はうまく解けなかったようでした。
沢山の石が投げられました。
僕は想いを伝えたいだけなのに。
そういえば、この星の人たちは沢山の戦争をしすぎてしまった、と
母が言っていましたっけ。
そのせいなのでしょうか。
沢山の戦争のせいで、この星では訪問者は侵略者と
最初からみなされるようです。
でも、あの女性(ヒト)なら、
あの宇宙(そら)を真っ直ぐに見上げた女性(ヒト)なら、
きっと。
飛行物体、WQ354地点に着陸。
何か出てきたら攻撃だ。
・・・何かとは・・・。
『何か』、だよ。
生体反応確認。出てきます。
僕が外に出ると、沢山の石が飛んできました。
あまり痛くはありませんでしたが、とても悲しくなりました。
あの女性(ヒト)と目が合ってから、
いえ、宇宙(そら)を見上げた彼女を僕の望遠鏡が捉えたにすぎませんが、
それから僕はこの星のこと、言葉、沢山勉強しました。
重力が僕の星より小さいので、多少身体がむくみました。
でも、とても早く動けました。
あの女性(ヒト)は、少なくとも僕から見た彼女は、
お世辞にも美人とは言えませんでした。
でも、僕は彼女の美しく、真っ直ぐな瞳に捕らわれてしまったのです。
生命体、民家に入ります。
有事法に基づき、戦闘区域を確保。戦闘体制維持。
地上での銃火器の使用を許可する。
了解。
『家』のなかには、とてもかわいい、真っ直ぐな目をした女の子がいました。
でもあの女性(ヒト)は見当たりません。
僕の言葉、解りますか?
女の子は、怯えたように、小さく頷きました。
一人?
女の子はまた頷きました。
僕、この女性(ヒト)探しているんだけど。
僕は自分の星から持ってきた立体(ホロ)映像(グラム)を見せました。
この人・・・
女の子はゆっくりと立ち上がり、奥の『部屋』からとても古い本を持ってきてくれました。
この人・・・?
女の子は一枚の色あせた『写真』を、震える指で指しています。
その中には確かに、少し年をとったあの女性(ヒト)がいました。
この女性(ヒト)、どこにいるか知ってる?
近くの丘の・・・。
ありがとう。何か・・・怖い思いをさせてしまったみたいで、ごめんね。
女の子は目が落ちるのではないかというくらい、驚いた顔をして僕を見つめました。
あのね!
僕が出て行こうとすると、女の子が叫びました。
もう震えてはいません。真っ直ぐ僕を見ています。
今、銀河暦(G.C.)8045年なの。西暦999999年のときに銀河暦(G.C.)1年になって、
・・・うん、ありがとう。
だから・・・、これ、持っていって。
僕は小さな、とても小さな手から、『花』を受け取りました。
生命体、出てきます。
安全圏は確保してあるな?
はい。船は放置する模様。
ものすごい速さで南南西の丘の方に向かっています。
その方向には?
墓地しかありません。
よし、まだ試験段階だが、M26-NTの使用を許可。
戦闘機以外、民間人を含む総員退避。
いつの間にか、紙飛行機やヒトはいなくなっていました。
そこからは町並みや夕日がとてもよく見えました。
そして、僕の愛した女性(ヒト)の名前が刻まれた石が、
異質なモノのようにそびえたっていました。
そびえたっていた、という表現はおかしいかもしれません。
僕の方が、その石よりはるかに大きかったのですから。
石には彼女の名前にも、数字が彫ってありました。
D.C.2003―D.C.2078
僕の想いを伝える旅は、僕にとっても長い旅でしたが、
この星の人間(ヒト)にはさらに長すぎる時間だったようです。
貴女は僕のことを知らないと思います。
でも僕は貴女を遥か彼方から想っていました。
美しく、真っ直ぐな瞳がとても好きでした。
できれば、貴方にも僕のこと、貴方が探していた僕の星のこと、
沢山知ってほしいです。
そっと、大きすぎる手で『花』を置きました。
目標確認。M26-NT投下します。
僕が見た最後の景色は、彼女が愛したと思われる夕焼けや町並み。
そして、ひとつの紙飛行機でした。
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■作者からのメッセージ
読んで頂いて、ありがとうございます。
書きたいことを、ひたすら書いた作品です。
楽しんでいただけたなら幸いです。