- 『私が此処に居る意味「読みきり」』 作者:カックロ / 未分類 未分類
-
全角1063.5文字
容量2127 bytes
原稿用紙約3.75枚
私などという存在はこの世に必要なかった。
ただ置物のように、世間の人の目には映らないもの。哀しいものだ。
私は存在するのか、それが私にはわからない。
私は自分の存在を確かめる旅に出た。
私の誕生日は5月6日。その日の記憶を探る。
人間とは、思い出せないだけで記憶はあるというものだ。
私は結構記憶力がいい。……うっすらと、映像が見えてきた。
ほぎゃーほぎゃーっ! 赤ん坊の泣き声。母親の「これからよろしくね」って声。208……あの病室から。
私はそっと入ってみる。可愛らしいとも、不細工ともいえない変な顔の赤ん坊の私。
「ここに私の存在はある?」
と、私は問いかける。赤ん坊の私はぶんぶんと首を振った。
「ここにはないのか……」
私はまた、次の旅に出た。
目を開けたら、そこは保育園。
「そうか、ここ、私が通ってた保育園」
ぱたぱたぱたと誰かが走る音がだんだん近づいてくる。ふと下を見ると、ソコには私のスカートのすそをひっぱる小さい頃の私が居る。
「ここに私の存在はある?」
小さい頃の私はぶんぶんと首を振った。
「そう……」
私は、きゅ、と目をつぶった。
次のたびにでるために。
私が立っているのは、小学校の廊下。
キャハハハハッ! かん高い笑い声。頭に、キンキン響く。
遠くを見つめると、廊下の端っこに私を見ている小学生の私がいる。
「ここに私の存在はある?」
遠くに居る小学生の私は、「いいえ」とつぶやくかつぶやかないかくらいにほんの少し口をあけいった。そしてぶんぶん首を振る。
「……」
そして、また。次の旅。
ここはグラウンド。中学校の。
グラウンドで野球のマネージャーをやってる私が居る。こっちを見てる。
「ここに私の存在はある?」
野球部の私はじっと私を見つめる。そしてまた首を振る。
「ここにもないのね……」
まだみつからない。……あれっ?
わ・た・し・が・い・な・い
何で気づかなかったんだろう。
ここに、いたのに。
あってきたのはどれも、「過去の私」
じゃあ、今の私は……
ここにいる。
「見つけた……私が此処に居る意味……」
すっと目を開けると、そこは私の部屋。鏡に映った私。
「ここに私の存在はある?」
「……見つけたよ」
聞こえた気がした。見えた気がした。
絶望という階段をおり始めていた私。
それを救ったのは、私。
道を正してくれたのも、私。
今の、私。
私が此処に居る意味。それは私が生きるという証拠だった。
今まで見てきた「私」がそうだったように……
終わり
-
2004/08/30(Mon)18:29:51 公開 / カックロ
■この作品の著作権はカックロさんにあります。無断転載は禁止です。
-
■作者からのメッセージ
作者からのメッセージはありません。