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『灰色の空』 作者:秀慧 / 未分類 未分類
全角959.5文字
容量1919 bytes
原稿用紙約3.6枚
いつからだろう。
空に色がなくなったのは。

どんなに悲しくても、
どんなに落ち込んでいても、

見上げれば、青い青い空があった。
どんな悩みも吹き飛ばしてくれるような、青い青い空が。

なのに今は。
見上げても、灰色の空。
何故だかわからないけど、私の中から青い空は消えてしまった。




公園の隅にあるベンチに腰掛けて、私は灰色の空を見上げていた。
今日こそは、青い空が戻ってくるのではないか、なんて期待を持ちながら毎日この空を見上げる。
それが日課になっていた。そんな日は決して来ないのだろうとわかっていながらも。

「どうしたの」

いつの間にか私の隣に少年が座っていた。
足をぶらぶらと揺らしながら、視線だけは真っ直ぐこちらに向けて。
私が答えないでいると、ちょこんと首を傾げたりしてみせた。
しつこく話しかけてこようものなら一言で会話を終了させるつもりでいたのに、
少年はそんな動作で巧みに私の言葉を催促してきたのだ。

「空に色がなくなったのよ」

仕方無しに答えた。
我ながら端的、むしろ意味不明な言葉だ。

「なくなった?」

少年は足を静止させて、同じ言葉を繰り返してきた。

「空から色がなくなったの?」

「………」

「ねぇ」

「…そう言ってるでしょ」

苛立ちながら言葉にしたせいか少々きつく言い放ってしまった。
一瞬びくっと身体をこわばらせて、少年は初めて私から目線を外し俯いた。
そして重い沈黙の後、ぴょこんとベンチから飛び降りて。
そのまま行ってしまいかと思いきや、私に背を向けたまま少年は言った。

「なくなったってどういう意味?」

「文字通りよ。昔は青かった空が、今は灰色にしか見えないの」

「灰色?」

「そう、灰色」

うーんと小さく唸り、次はくるりとこちらを振り向く。

「色がないってどういうこと?」

「…え」

「灰色だって、灰色っていう色でしょう?」

「………」

「例えば、真っ白に見えてるとしても。それは、白色っていう色がある…ってことじゃないの?」

少年は、真っ直ぐ私の目を見つめてそう言った。
私もその視線を受けとめ、真っ直ぐ見つめ返した。

どれくらい経ったかはわからないが。
またもやくるりを踵を返し、そのまま走り去っていく少年。
その後姿を私はずっと、見えなくなるまでずっと、ずっと、目を逸らすことなく見つめていた。
2004/08/29(Sun)20:59:36 公開 / 秀慧
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