- 『ブラッディ・ソ・リッド』 作者:you / 未分類 未分類
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プロローグ
俺は一体何人もの血を吸ってきたのだろう。
そう、俺は吸血鬼。一族の名を汚したくない為に、血を吸ってきた。
でも、時々不信感を持ったりする。だって、一族の王が死んでから、仲間が荒っぽくなり、しかも仲間をも襲うようになったのだ。
それで、次は誰が王になるかを決める為に争いを始め、吸血鬼たちはあちこちの世界へと旅立った。
俺は本当にコイツだ、と思っている奴じゃないと受け入れない。
血液恐怖症の人間も、亜人も皆吸血鬼を恐れながら日々を暮らしていた。
こういう体験をしたことはないか?目の前に吸血鬼が現れ、そして、紅い色を目の当たりにすることを。
誰もが嫌な、紅――。実は後悔している。吸血鬼になんてなりたくなかったと。
血を吸って何の得があるのかも分からない。
だけど、亜人……いわゆる獣人は、人間を守るためにあちこちの世界に居るという。その獣人は強力な魔術を持ち、魔術を身につけ、人間と共存している。
また、こんなことを見たことはないか?吸血鬼が吸血鬼の血を吸っているところを。
俺はそれを聞いたときは、体が拒絶した。
小さい頃から、暗い闇の中の黒い森に住んでいて、仲間からは嫌われている。
でも、俺は今日まで耐えて生きてきた。そして、俺も森を去り、大舞台へ向かうことにしたのだ。
それは、輪舞曲都市(ロンドシティ)。
音楽が有名な街とか、賑やかな街とかいわれている場所へ。
そこは世界の中でも大都市で、人間と獣人が仲良く暮らしているらしい。俺はその話を耳にして輪舞曲都市へと踏み出した。
だが、夜はとても不気味な街らしい。
吸血鬼は夜に現れるので、輪舞曲都市には住んでいる者が多いから多くもの
吸血鬼が襲いに来るとか。もし、俺がその一人になるかもしれない。
俺のプライドが許さないためか、いつの間にか輪舞曲都市の門の前に居た。
しかし、その時は夜だったので、人と獣人は多分家の中に入ると思う。夜襲われることが多いだからだろう。
哀しい詩が聞こえる。吸血鬼をこの世の敵とする意味の哀しい、詩……。
俺はしばらく門の前に立った。
ここは、一族が一番集まりそうな所。しかし、獣人も居るわけだから油断は――。
『貴方、どうして輪舞曲都市に来たの?まさか、遅いに来たの?
私は獣人だから、吸血鬼は恐れませんが、人間の気持ちは、
私には分かりません。だけど、きっと貴方たちを恐れているのは分かりま す。お願い……襲わないで』
何だ、頭の中に妙な声が聞こえた。しかも、何か涙にじんでいる人の声みたいだった。
だけど、俺は血がないと生きていけれない。すっと、王からそう教えられてきた。
何年も生きてるから、人間と獣人がどのように生きているのかよく分かる。
今の声は、今後ずっと忘れないと思う。
過去と、現在。そして未来は、変えられるのだろうか。
そして、いつか吸血鬼は滅んでしまうのだろうか。
俺は一族の名を汚したくない。誰であろうと、汚した奴は許さない。
『どうして、吸血鬼は生まれたのですか?
獣人は世界が生まれたと同時に生まれたと聞いているけれど、
貴方は他の一族とは違う考えを持っているんですね。
そうでしょう?輪舞曲都市は誰もが愛している街なんです。どうか、お願 い……』
また声が聞こえた。
どうして生まれたのか、俺にも分からねぇよ!いつの間にかここに居るんだから。
夜の空を見上げると、星が一つもなく、ただ唯一照らす光、月が支えている。
でも、俺は生きていかないと意味がないんだよ。
それは理由は俺にも分からないさ。
だけど、必ず意味を見つけてみせる。
そう、思いながら――。
第一章
リザは朝起きると必ず窓を開ける。
すると、鳥たちがリザの所へ集まってくるのだ。これは、体が勝手に動くのか…。
今日の夜、輪舞曲都市で100年の一度の祭りがある。神風ゼピュロスが祀られているこの街は、戦争もしたことないし、賑やかでいい場所だった。
だけど、この祭りの日になると何人もの人間や獣人が吸血鬼に襲われるのだ。
でも何故輪舞曲都市ばかりを襲うのか。村や町にもたくさん居るはずなのに……。
獣人が持つ魔力によって、何とか日々を送っている。
鳥たちが飛びだって行くと、リザは笑いながら窓を閉めた。そして、リザは朝食を早く済ませ、親友の所へと走っていった。
「遅いよ、リザ。アンタ獣人のくせに足遅いの?」
「オイッ!獣人でもねェくせに言うんじゃねーよ!」
カガリとエ・デン。この二人とは小さい頃からの親友で、昔はよく三人で悪戯をしていた。でも、今になってから、自由に外は出られなくなってしまった。
だけど、輪舞曲都市内はいいらしいのだが、大地に出たら最後。
必ず吸血鬼に襲われてしまうらしい。でも、三人は信じていなかった。
カガリは、闘技場で魔物と戦っているらしい。それも、たくさんのお金(ルク)が入るのだ。
リザも最初はそれを仕事にしようと思っていたことがあった。
でも、きっと魔物は逃げ出すだろう。
リザの両親は約5万年前に吸血鬼に襲われてしまって亡くなっている。リザは母が庇ってくれて助かった。
獣人は不老不死なので、何年も生きられるので、リザは10万年は生きている。
その日から、彼女は吸血鬼を恐れるようになった。
それで、いつか仇を取ろうと思っているのだ。
カガリとエ・デンはそんなリザと毎日笑って生きているんだ。仲間だから……。
エ・デンは一応盗賊らしい。ご先祖様が盗賊だったので、エ・デンも修行をしている。
だけど、輪舞曲都市の物を盗ることはなかった。価値のない物が多いからだった。
だから、いつか旅に出て財宝を持ち帰ろうと夢見ている。
「ごめんな、リザ。だけど、いつか一緒に盗賊になってくれる?
カガリは剣士で、リザは魔術師。結構いいチームになると思う」
「ははは。面白い盗賊になりそうだな。それ俺乗ったぜ。
俺は魔法剣士でも、剣士でもいいぜ。自由気ままな旅がしたい!
それで、リザが魔術師。三人一緒に財宝をガッポリ持って帰ろう」
リザは爆笑しそうになったが、口で何とか止めている。
カガリとエ・デンは幼馴染だった。
だから、カガリとエ・デンの両親は大親友らしくて、一緒に住んでいる。勿論、カガリとエ・デンも一緒だ。この二人は何でも出来ていた。カガリとエ・デンはもう立派な夢を持っていて、今それに向かっているのだから。
(でも、私にはまだ夢はないんだよね。何年も生きているのにさ……)
今三人は街のど真ん中に居た。毎日ここで待ち合わせをしているらしい。
リザは魔法の調合を仕事としている。いつか人間が剣技や魔法を身につける時が来た時のためにと、調合しているみたいだ。
――人間には魔法も剣技も身につけていない……と云われ続けていたが、数少ないが、持ち始めたのだ。例えば、輪舞曲都市ではカガリとエ・デン。
輪舞曲都市ではこの二人しか居ないと有名だった。
「カガリ、エ・デン。良ければ、魔術も教えようか?
結構精神力や集中力も居るんだけど…。
そのかわり、生まれつき身につけている属性の魔術しかいけないんだけ ど、人間は」
「勿論、覚えたい!そして自慢してやるんだ」
「俺も、剣技だけでは駄目だと思ってたんだよね」
魔法は、調合したものと、あと精神力や集中力があれば、人間でも覚えられるらしい。
リザが初めて発明したものだ。
人間にも獣人にも、生まれつきに属性が付いていた。
それは、無限大にあるために、さすがのリザにも何種類あるのかは知らない。
知っているのは火、水、氷、命、風、空、光、闇のみだ。
リザは科学者ではないが、結構世界について詳しい。カガリとエ・デンにいつも教えている。
でも、何故人間は身に付けている属性しか魔法を得られないのか。
それは人間が持っている魔力が弱いからだ。
獣人は、不老不死の力と、魔力が生まれつき優れていた為に戦いにも強い。
――その時、新聞配達の人が大声を上げた。そのせいで、街の人たちは道に集まってきた。
(一体、何なの?凄いニュースでも入ったのかなぁ?)
「号外―!号外ー!!」
「何ですって!?この輪舞曲都市の中に吸血鬼が!?」
「今日はせっかくのゼピュロス様の祭りなんだぞ!?
ゼピュロス様に傷が付いてしまう!」
三人はハッとした。今日に限って吸血鬼……しかも今まで襲ってきた奴よりも強いらしい。リザは新聞を拾い上げて記事を見、グシャグシャに新聞を握った。
(これで……仇を取れる!お父さんとお母さんが吸血鬼に血を吸われて……。
絶対に許せない。死んでも許すことに出来ないこの世の敵だよ)
カガリとエ・デンも新聞を拾い上げる。
と、吸血鬼のニュースの他にも気になる記事を見つけた。
「近頃、『宝石泥棒』がゼピュロス大陸に出没し始めている。
しかも、ソイツは女で価値のある宝石しか盗らないのだが、
変装を得意とする大怪盗……。えらいニュースだぜ。
吸血鬼と何か関係があるのかも知れない」
「カガリ……。そうかも知れないよ。だって、吸血鬼にも、
輝く宝石ぐらいは所持してるはずだし、アタシらも持ってる。
きっと何かあるよね?」
カガリとエ・デンが疑問を持ち始めた。
大昔、吸血鬼の宝石を奪ったり、人間たちが持っている宝石を奪ったりする大怪盗の女性が居たと聞いていた。
それは、吸血鬼の方が恐いけど、宝石泥棒に殺される人も数多く居るらしい。
これは、輪舞曲都市の中にいるらしい吸血鬼と、宝石泥棒がここに襲ってくるかもしれない。
輪舞曲都市には、獣人はたくさんいるけれど、宝石泥棒は素早く奪うみたいだ。
吸血鬼も、宝石泥棒に警戒しているらしい。
変装を得意とする彼女は、一体何人もの人を殺し、宝石を奪ってきたのだろうか。
実は、吸血鬼は自分が持っている宝石を傷つけられたり、奪われたりすると、死んでしまうという。これは、宝石泥棒と協力すべきかもしれないが、殺される可能性もあるわけで、味方に出来ない。
そして、人間や獣人たちはしばらく立って落ち着き、仕事の準備や祭りの準備などを始めた。三人はこれから一緒に話し合いをするみたいだ。
実は、この世界は時間を過ぎるのが早くて、夜はあっという間に来てしまう。
だから、人間も獣人も吸血鬼を恐れているので、早く祭りの準備をしたりしている。
リザたちはベンチに座って話し始めた。
「宝石泥棒って、思えば人間、それとも獣人?
私は獣人だけど、人間の気持ちなどはよく分からない。
だけど、宝石泥棒は何となく分かる気がするんだ」
「え?人間か獣人か分からないのに?」
「うん……。でも何となく心の中に突き刺さってくるような感じ」
リザは、青い大空を見上げた。
(あの空もいつか、闇に染まっていって、滅びていくのかな……)
第二章
早くも話している間に昼になった。
リザたちは街の中にある酒場で食事をとることにした。別に、酒を飲むわけではないが、酒場で食べれるということである。
輪舞曲都市の中に吸血鬼が居るなんて有り得ない。
最近、宝石泥棒も出没するようになって、吸血鬼はまた宝石泥棒に殺されるのだろうか。たとえ血を吸う敵だとしても殺して奪ったり、奪って死なせるのもいけない。
三人は酒場に足を踏み入れて席に座った。
『宝石の祝福亭・パール』という名前の店。リザたちはここの常連だった。
(もしかして、ここなら変装が得意な宝石泥棒はここに来るかもしれない……)
吸血鬼は真昼には一切姿を現さないって言うし、宝石泥棒は特に吸血鬼を狙う。これも何か偶然とは思えない。きっと宝石泥棒は吸血鬼が輪舞曲都市に居ることを知っているはず。
「よぅ、お前等か。常連さんで来てくれるからとてもありがたいぜ。
今朝の新聞見たか?吸血鬼と宝石泥棒の記事だよ!ソイツは特に吸血鬼の宝石を狙う らしいぜ。しかも、輪舞曲都市に来るかもしれないしな。
あいよ、いつものやつ」
「有り難うございます。覚えててくれたんですね。
マスターは誰とでも仲良く出来ますし。
『宝石の祝福亭・パール』……とても素敵な店名ですよ」
「それはほめられるとこの店を辞めるわけにはいかねぇな。
人間と獣人が唯一仲良く暮らせる街だもんなぁ、此処。
そういえば、カガリとエ・デンって、うまくいったのかい?」
カガリとエ・デンは顔を赤くした。二人は少し歳は離れているけど、幼馴染で、昔は一緒に悪戯したり、リンゴ泥棒なんてしてた。
今はそれも思い出の中。リザには楽しい思い出なんてない。
あるとしたら、両親が殺されたという過去だけ。思い出とは言えない。
でも、今はカガリとエ・デンが居るし、思い出が一つ出来た。
人生の中で一番心に残ったのかもしれない。二人と出会うまで心を開かなかった。
宝石泥棒も吸血鬼の話も誰もが信じている。
リザたちはようやく食べ始めた。
(パール……真珠って意味だっけ。マスターにはいつも世話になってるしなぁ。だから、宝石泥棒と吸血鬼が来たとしても私が守らないと、この街を……。カガリもエ・デンも飽く迄、人間…私は獣人。やっぱり住む世界が違うのかもしれない)
「リザ。何ぼーっとしてんの早くしないとアタシが全部食べるからね。
ユリグリンピースとキャットアプリコットの盛り合わせサラダだよ。
誰もがこれだけで満腹になるんだヨ!」
「エ・デンはよく食うから太ってんじゃねーの?」
「うっ。アタシは食っても食っても太らないんだよ!身長162センチで小 さいけど!カガリはどーなのさ?これだけじゃ満腹にならないくせに」
「あぁ。実を言うとまだ物足りない。俺は身長187センチだぜぇ?お前チ ビ」
リザは思わず「アハハハハ!」と声を出して笑ってしまった。
リザは、一度もこういう風に笑ったことがなかったから、思いっきりだったのだろう。
(何だろう、この感情。カガリとエ・デンが笑わせてくれるみたい)
エ・デンはチビと言われてとても悔しがっていた。
彼女は意外と我慢強いのだが、カガリに言われると容赦しないみたいだ。
「おいおい。酒場でケンカはナシだろ。オレ様の店が壊れてしまうじゃない の」
「別にいいんじゃねーの、マスター?オレ等は大人。
あいつ等は輪舞曲都市を守る者として今は面白く生きてるんだから。
まぁ、店は壊れないだろうよ」
マスターと一緒に働いている親友が言った。
そして、他の客も一緒に乗っていきなり笑う出した。
(だから輪舞曲都市って好きなんだよね。笑いが耐えない街。音楽の街……)
今日は今まで一番いい思い出になったのかもしれない。
その日リザたちはずっと酒場に居た。
そして、夜になると、お客たちがいっせいに外に出た。マスターも、さっさと片付けて店を閉めることにした。リザとカガリとエ・デンも酒場を出た。今年の祭りはさらに盛り上がりそうかも。踊ったり歌ったり。
でも、リザはあんまり踊るのは好きではなかった。見てる方が楽しいのだ。
実は、リザがまだ少女時代の生活を送っていた頃は踊り子だった。
両親がダンスを教えてくれてそれに踊りに興味を持った。
両親が殺された後すぐに踊り子を辞めたのだが。両親のことを思い出してしまうからだろう。でも、やっぱり踊りって楽しいものなんだ。
「カガリ、エ・デン。私もう帰るね。窓からちゃんと見るから」
「なーんだ。残念だなぁ。アタシこの祭りが終わった後正式に盗賊になるか もしんないのに」
エ・デンは残念そうだった。
リザはカガリとエ・デンに手を振って自宅に帰った。
今夜、吸血鬼と宝石泥棒が出てくるかも知れないから、私だけでもこの街全体を見ておかないと何か皆殺されてしまうそう……。
そして、リザは家に帰ってきてすぐに窓を開けた。
もう既に祭りは始まっていた。神風ゼピュロスを祀る祭りで、今年もこの輪舞曲都市を護ってくれるようにと願う、笑いの祭りなんだという。
でもリザはこの祭りを何度も楽しんできた。
踊りはもう出来ないけれど、リザには見るという楽しみがあるのだ。
夜中――。でも祭りはまだ続いている。
きっとカガリとエ・デンも飲み食いしてるだろう。
(いいなぁ。もう一度踊り子に踊ろうかなぁ。でも、魔法の調合の仕事も辞められないし。吸血鬼と宝石泥棒に皆が襲われたら私のせいになってしまうかもしれないし……)
――その時、窓から見ていたリザの目の前に何か飛んでいるものをリザは目にした。
最初はただの鳥かと思っていた。
でも、鳥は夜飛び回ったりはしないから、違うと思っていた。
(もしかしてこれは……ヴァンパイア!!?)
リザはすぐに窓を閉めて、その後しりもちをついてしまった。
(あぁ、どうしよう大変だ。ついに吸血鬼と遭遇してしまった。街の人たちはまだ道のど真ん中で祭りやってるし、気づいていないと思うけど…。こんなに静かに飛べるなんて思ってもみなかった。でも、実物を今夜見てしまうなんて有り得ない―!!)
「お前の声を聞いて、ここに来た。
昨日の夜、俺に呼びかけてただろう?俺はその声を頼りに今日来た。
……血、吸わせてくれ」
リザは静かに怒りを表していった。
(血を吸わせろ!?冗談じゃねぇ。誰が……)
「私の腕はねぇ、テメェみたいなやつを殴る為にあんだよ!!!」
窓から入ってきた吸血鬼を、リザは殴った。
リザはキレると口調が荒くなり、一発相手を殴ってしまう。
吸血鬼は殴られたせいでもないが、見る目と喋り方が優しかった。
(ヤバ……私吸血鬼を殴っちゃった?)
吸血鬼は凄いダメージを受けたようで気絶してしまったようだった。リザは気絶している吸血鬼を抱きかかえて呪文を唱えた。
「ご、ごめんなさいっ!キレるとこういう性格になってしまうんです。
あぁ、頬が赤くなってるすぐに冷やしてあげるから」
『氷の大地を蘇り、癒しの力を表さん――……ロザ・キフェンス!』
これは、治癒効果の魔術。どんな傷でも治す唯一の治癒魔法なのだ。
リザは汗ダクダクだった。だって、吸血鬼を本気で一発殴ってしまったのだ。世界の敵でも言われている吸血鬼を、この手で殴ってしまって、その後キバを向けられて……。
(ゼピュロス様、私の性格を直すことは出来ないでしょうか?今吸血鬼に遭遇してしまって吸血鬼を殴ってしまったのです。きっと彼は私の血を吸うに違いありません。無理にもないんです。私の性格のせいで一発……)
吸血鬼が目を覚めた。リザはそれを見てギョッ!と反応した。
何か、言いたいようだった。
「さっきはいきなりで、御免。もうお前を襲わないよ。
でも、お前の声が確かに聞こえたんだよ。輪舞曲都市を襲うなって。
一族の名を汚したくなくて血を吸ってきたけど、お前のおかげで、一族に洗脳されて たって今分かった。俺はキリク。お前は?」
「私は……獣人のリザ。両親が吸血鬼の親玉みたいな人に殺されてしまって 今は魔法の調合を仕事として一人で暮らしてます。親友二人と毎日酒場に 行って語り合ってます」
「これは許してくれないかもしれないんだけど、ここに一緒に同居させてく れないか?
絶対輪舞曲都市を襲わねーから。絶対リザを守るから…。
時々、性格破綻者になってしまうかもしれないけど。いいか?」
「いいですよ。彼方は一族にただ洗脳されてただけなんでしょう?
たとえヴァンパイアだとしてもキリクさんだけは違うみたいですね。
宜しく」
「せっかくだけど、その約束は今日までだね」
妙な女性の声が聞こえた。
宙に飛んでいる綺麗なセイレーン。宝石泥棒だ。
祭りは既に終わっていて皆寝ている頃だった。輪舞曲都市は夜の時間が長いから、宝石泥棒と吸血鬼は来ると思っていた。
(あぁ、神風様。今度は宝石泥棒に遭遇してしまいました。彼女は吸血鬼が持つ宝石を奪う吸血鬼の次の敵なんです。今年は無事に祭りが終わって良かったですが、私の人生は今日で終わるかもしれません。きっと、私にバチが当たったんだと思います……)
「私は宝石泥棒のサンドラ。そこに居るヴァンパイアの持つ宝石を奪いに来 たのさ。ソイツが持っているのはスコールパール(雨の真珠)。
この世の中で最も珍しい宝石。そこの獣人。さっさとヴァンパイアを渡 せ!」
「嫌!キリクさんには私の約束を守って欲しいんです。
ただ一族に洗脳されていただけなんです!だから、来ないで――!!!」
その時、キリクが持っているスコールパールが光りだした。
サンドラは宝石の光る光が嫌いだったので、サンドラに凄い影響を与えた。
雨の真珠は、雨の神様が宿っているという最も珍しい真珠。
白真珠よりも黒真珠よりも、どの宝石よりも輝く宝石なのだ。
キリクはただ光っているスコールパールを見ていた。
「くっ―!スコールパールにこんな輝きを持つなんて……。
まぁいい。今日のところは引き上げてやるよ。
だが、次は二人の命はないと覚えときな!私はその間たっぷりと宝石をい ただいておくから、心の準備でもしておくんだな!」
宝石泥棒のセイレーン・サンドラは翼を広げて夜空へと去っていった。
リザは気絶していた。
それを支えていたキリクは、そのまま一緒に眠った。
第三章
吸血鬼は、宝石が命。獣人は、目が命。人間は――分からない。
私はいつも考えていた。
いつか、自分たちは消えていくんだなって……。
だけど、消えるのが怖い。それまでにやりたいことが出来るのかも怖い。
昨日の夜、宝石泥棒が家に来てから、吸血鬼とも同居することになってしまったのだけれど……。
スコールパール。それが、キリクの命の源。奪われたり、傷つけられると死んでしまうって、それは本当らしい。
翌朝、リザはキリクをベッドに寝かせていた。
そして自分はキリクより早く起きて、朝食の準備をして、洗濯している。
(あぁ、どうしよう、大変だ。昨日の夜、とんでもないものを見てしまった。吸血鬼と遭遇してしまったり、宝石泥棒に出くわしてしまったり……。神様、私はどうすればここから脱出できるのですか?)
リザは洗濯物を干しながら心の中で呟く。
(だって、誰もが大声で叫ぶのが当たり前じゃない。だけど私はあまりにも驚いて声も出せなかったんだよ?でも、キリクって言う吸血鬼、何か凄い優しい人だなぁ。私の血を吸おうとして私が一発殴ってしまって、それで……性格が良いっていうか、抵抗しなかった)
リザは何だか嬉しそうだった。
今日も朝が眩しく光っている。そういえば、吸血鬼は光が――。
リザははっと思い出して慌てて洗濯物を早く干し、ベッドの方へ向かった。
どうしよう、光が当たってるはず。キリクが死んじゃう……!!
そして、リザはバッドの方へ着く。
「あ、おはよう。光が眩しくて起きにくいな。
言っとくけど、俺は朝も真昼も平気だぜ?吸血鬼だけど、俺は特別強いみ たい」
「あぁ、良かった。えっと、昨日のことなんだけど、
宝石泥棒のサンドラって、ずっと貴方のことを追ってるの?
スコールパールって、凄い珍しいみたいだし。
人間や吸血鬼、獣人を殺して宝石を盗るか、素早く奪っていくか」
「そうだ。
俺の宝石は、生まれたときスコールパールを抱えて生まれたんだとさ。
アイツは俺の仲間を何人も殺してきたんだ」
キリクは平気だった。リザは大きな息を吐いた。
でも、リザは何だか恐れている目をしていた。
サンドラは、美しいセイレーンだが、裏はとんでもない宝石泥棒……。
セイレーンは、この輪舞曲都市には居ないけど、きっと他の村や町は居ると思う。
きっと、サンドラは噂を聞いて流れて輪舞曲都市にやってきたのだと思う。
(私にだって、宝石ぐらいは持ってるよ。黒真珠、ラピスラズリ、ルビー、オリハルコン、ダイヤモンド、ヒスイ、トルマリン、オパール、トパーズなどなんて持ってるのが普通なんだ。輪舞曲都市は宝石の街とも呼ばれていたんだから。だから、私の宝石を持っていけばいいのに、何でスコールパールなんか狙うの?よっぽど珍しいんだね……)
「そうだ。朝ごはん出来てるよ。――血じゃなくて悪いけど」
「いいや、血じゃなくていいよ。毎日だったら口が変になるからな。
リザ……ありがとな」
リザは礼を言われて嬉しそうだった。
そして、キリクとリザは朝食を食べ始めた。
流れゆく者たちはきっとサンドラやキリクの様に、過去があることを拒んでいる。
そして、現実から逃げようとしている。
私もきっと、逃げていると思う。
出来れば、そう思いたくないけど。
第四章
(そう言えば、私ってキリクのこと名前しか知らないんだよね。キリク、最初は強盗吸血鬼かと思ってたけど、案外いい奴じゃない)
食事を終えてリザがあと片づけをした後、リザはソファに座って大きくため息をした。
昨日の夜、本当に自分の家に吸血鬼と宝石泥棒がやって来てしまったんだ。
サンドラ……またキリクを狙いに来て、スコールパールを盗られたりしてしまったら、死んでしまうことになる。
実を言うと、リザはキリクの顔をはっきり見ていなかった。
昨日の夜は急だったし、今日の朝は顔も見ないで話してなかったし――。
キリクは椅子に座っていた。
アイツは自分のことを性格破綻者だと言っていたけれども、優しいし、違うんじゃ?
雨の真珠はキリクが司っている。
スコールパールは、雨を司ることが出来る宝石らしくて、伝説の三つの宝石の一つとも言われているらしい。でも、キリクは教えてくれなかったけど、リザはスコールパールという存在があることは知っていて、宝石の本も持っていたので知っている、
過去から逃げる、サンドラとキリク。何だか、似ている感じがするなぁ……。
流れて輪舞曲都市に来ているのなら、リザは歓迎していた。
だが、ただ偶然ではないと思う。
吸血鬼は何人もの人間や獣人の血を吸ってきて、血液恐怖症の人でもお構いなくやってしまう。
(キリクは確かに私の血を吸おうとした。でも、私の声が聞こえたって、どういう事?私は誰にも呼びかけてないし、あの夜中は既に寝てたはずなのに、寝言でも言っちゃったのかな。でも、そんなにキリクに聞こえる声で言ってないはず。直接キリクの頭の中で響いてきたか。キリクはあの夜、何処に居たのだろう。聞いてみよう)
「ねぇ、キリク。聞きたいことがあるんだけど。貴方、一昨日の夜、何処に 居た?」
「俺の中で聞こえたのは、確かにリザだった。直接頭に響いてきた。寝言だ ったのかもしれないけど、それは『願い』のようなモノだったんだ。
えっと、一昨日の夜は、輪舞曲都市の入り口に居たぜ」
「そうなんだ。私が呼びかけたのは、本当なんだね。教えてくれて有り難 う」
今度はちゃんと二人は顔を見合わせた。
キリクは瑠璃色の眼をしていた。リザは、金色の眼をしていた。
その時、リザはドキッと感じた。
(な、何なの?今の感情……。さっぱり分からない)
ピンポーン、ピンポーン。インターホンが鳴った。
(あ、もしかして、カガリとエ・デンがやって来たのかも。どうしよう、此処に吸血鬼が居るっていう時に来て見られちゃったら通報されて連行されちゃうよ……!!)
キリクが出ようとしたが、すぐにバレてしまうのでリザが慌てて出た。
そして、リザはキリクに隠れるようにと言い、玄関のドアを開ける。
「おはよう。ねぇねぇ、知ってた!?昨日の夜中、吸血鬼と宝石泥棒が同時 に現れてたっていうニュース!今朝の新聞で見たんだけどさ、宝石泥棒っ てセイレーンらしいね!――あれ?何でリザそんなに汗かいてるの?今の 季節は秋だヨ?」
「えっとね、お客様が来てるんだ。しかも、遠い遠い親戚の。
ホラ、カガリとエ・デンにも前教えたでしょ?おじさんとおばさんが居る って」
「怪しい。怪しすぎるぞ、リザ。上がらせてもらう」
「ちょっと待ってよ!!」
カガリとエ・デンが家の中に入ってきた。
(あぁ、神様。どうすればいいのでしょう?このままではキリクと私は連行されてしまいます。カガリとエ・デンは親友なのは分かりますが、分かってくれるの?)
そして、カガリとエ・デンは台所までやって来た。リザは慌てて向かった。
キリクは普通に椅子に座って本を読んでいた。
あ〜あ、これでおしまいだ。と、リザはへなへなになってしまった。
カガリとエ・デンの二人はキリクを見て唖然としていた。
もう、リザは泣きそうになっていた。瑠璃色で、黒髪のカッコイイ吸血鬼・キリクはこの場で輪舞曲警察に捕まってしまうのか……?
「き……キリク、なのか?オレだよ、カガリだよ!ホラ、数年前に『嘆きの 森』で会っただろ!?しかも、小さい頃からの親友じゃねぇかよ!!」
「カガリ――。久しぶりじゃん!なぁなぁ、もしかして、リザとも知り合い なのか?」
「知り合いも何も、酒場仲間だし、毎日一日を暮らしてる仲間だよ!」
「嘘ー!?カガリが言ってた吸血鬼って、この人のこの人の事なの!?」
「皆!一体どういう事なの!?」
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2004/09/05(Sun)14:10:02 公開 / you
■この作品の著作権はyouさんにあります。無断転載は禁止です。
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■作者からのメッセージ
こんにちは。
第四章更新しました。
今回、急展開に入ってきました。
カガリとキリクの関係とは?
キリクに聞こえたリザの声はこの先どんな展開を迎えさせる事になるのか?
また感想やアドバイスをくれると嬉しいです。