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『ここは地球』 作者:シヅ岡 なな / 未分類 未分類
全角3188文字
容量6376 bytes
原稿用紙約11.8枚

金とセックスとと酒と煙草とヴィトンが好き。
あと、自分の長い睫毛が好き。
それ以外は別にどうでもいい。
嫌いなものなんてない。
好きなもの以外は、全部どうでもいいもの。



来年はもう高校生じゃない。
リカもトモミもケイコも、実はそのことに焦っている。
いっしょに遊んでても、だから最近面白くない。
高校生じゃなくなるってことは、制服が着れなくなるという点においては、少し残念なこと。
制服を着てる時、なんか自分が商品になったみたいな気分。
深夜の美少女ロボットアニメの主人公のフィギュア。
次に生まれ変わるとしたらそれがいい。
小汚い手で撫で回されるのもいい。
大事に箱にしまわれて、キレイなまま燃えないごみになるのもいい。
人間よりは、なんかいい。

もともと痩せ型。
胸がない。
最近、前より、ちぃっちゃくなっちゃった。
マイナスAカップ。
食べ物が、おいしそうに見えない。
男の身体しか、おいしそうに見えない。
だからそれしか、しゃぶらない。
その他に口に入れるのは酒と、酒と、酒と、酒。
18にして、アル中。
蒸発したパパもアル中だった。
今ごろきっとどこかでのたれ死んでる。
bRホストの紘輝に抱かれながら、お父様の死を祝福する。
そんなに遠くない未来、貴方の娘も其処へ行きます!
けれど私達、すれ違ってもきっと気づかないでしょうね!
紘輝に煙草をもらう。
煙のドーナツが、1つ、2つ、3つ。
クチクチクチ。
紘輝が客にメールを打つ。
「こないだ200万使っていったよ。ベスト鴨」
200万、あったら酒どのぐらい買える?
ヴィトンどのぐらい買える?
「ヴィトンはいいけど、だめだよ酒は」
今更。もう有香はアル中だよ。
「有香の身体ぼろぼろになる。煙草ももうちょっと減らさなきゃ」
肺真っ黒。
肝臓も、グチャグチャ。

紘輝がbRじゃなくて、まだホストなりたての下っ端で、毎晩毎晩道で女の子に声かけまくってた時、あたしは17で、制服で一人ふらふら歩いてて、何人か知らない男に囲まれて、路地連れていかれて、やられそうになってた。
あたしなんか助けるから、紘輝はボコボコ殴られて、両目の瞼が青く腫れた。
数え切れないぐらい何本もつっこまれてるから、ゆるいかもしんない、ごめんねーなんて言ってたぐらいで、別にやられてもよかったんだよ、あたし。
ホストでしょ?
顔やばいよ。
馬鹿じゃん。
「歩いてんのしばらく見てて、俺の勝手な一目惚れ」
紘輝のことを、心から馬鹿な男だと思う。
あたしは紘輝のことを好きじゃないし、でも紘輝はどうでもいいものじゃない。
唯一の例外で、この男はあたしにとって一体どっちなのか、あたしは今だに区別出来ない。

「行かなきゃ仕事」
紘輝は殴られてから、目がぱっちり二重になって、それから売れだした。
整形しようと思ってたけど、金なかったから、ちょうどよかった、と笑って言う。
一重の紘輝の顔を、あたしははっきり覚えている。
獣みたいに凄みがあって、今よりも男前だった。
紘輝は毎日仕事に行く前、ベッド脇のスタンドにいくらかお金を置いていく。
良い子にしてろよ。
お酒と煙草と薬はだめだよ。
知らない男にやらせちゃだめだよ。

紘輝の唇はいつも少し乾いていて、それが知らない女に濡らされるのかと思うと、あたしはいつもちょっとだけ寂しい。
だから紘輝の唇ぺろんと一舐めしてからいってらっしゃいと言う。
紘輝は幸せそうに笑っていってきますと言う。

紘輝の車のエンジンの音が遠くなると、あたしは起きて、コンビニに酒と煙草を買いに行く。

ジーンズをはく前に、鏡で全身を見る。
あたしの身体、何時の間にか前よりもっとガリガリに痩せて、気持ち悪い。
飽食のこの国で、あたしは限りなく飢えた様をしている。
紘輝は、一体あたしのどこに惚れたの?
酒ばっかのんで、煙草ばっか吸って、痩せて、紘輝が稼いだ金すぐに使い果たしちゃうこんな女のどこがいい?
長い睫毛?
化粧栄えする顔?
ゆるくても、メスの穴を持ってるから?
急にめまいがして、あたしはその場にしゃがみ込む。
開けて間も無いへそピアスの傷口が少し痛む。
こんな、少しだけの痛みに、あたしは弱い。
背中を滅多刺しにされても、首をはねられても、あたしは泣かない自信があるのに。



携帯から、紘輝以外のメモリーを消した。
どうでもいいと思ってるものを、あたしは何故か、とても大事なものみたいに扱ってた。
それがたまらなく恥ずかしかった。



コンビニの帰り、マンガ喫茶で、オタクっぽい美少女マンガや、エヴァや、ガンダムを読んだ。
カラフルな髪の胸の大きい美少女達は現実と空想の中で涙をこらえて微笑み、いかりしんじ君はただひたすら苦悩する。
敵にやられて宇宙空間を永久にさまよう壊れたガンダムを想像したら、たまらなく人恋しくなって、あたしは急いで紘輝のマンションに帰って服を着替えてていねいに化粧をして街に出る。
今イベントやってるから来ないかと3人組みの男に声をかけられた。

寂しい寂しい寂しい!!!
誰よりも人が恋しい。
街中を叫んで回る。
時々立ち止まって電信柱に吐く。
吐いて吐いて、胃液だって一滴残らず吐いて。
胃が空っぽになると、なんだかいきなり寒くって。
思いきり手を伸ばして、ねぇお願いだからあたしとセックスしてよ、と叫ぶ。
藍色の夜の空は、あたしのこと抱き取ってくれない。
ぐるぐるまわってみると、まわりの景色は、色とりどりの線になって、あたしの周りを取り囲む。
流れ星みたい。
きっと、流れ星が、いっぱいなんだ。
触れてみたいけど、小さな丸いガラスは分厚くて、グーでたたいても割れない。
遠くのほうに、青くてまぁるいものが見える。
多分そのまぁるいものの中には、蒸発したパパや、あたしのこと忘れたママや、リカとかトモミとかケイコとか、紘輝がいる。
あたしはそこに帰りたい。
あたしはそこがとても嫌いだけれど、今とてもそこに帰りたい。
でもそこはものすごく遠くて、あたしは分厚いガラスに顔をくっつけて泣く。


何かにぶつかる。
頬にコンクリートの感触。
ごみの匂い。
へそが痛い。
痛い、痛いよ。
あゆの歌が聞こえる。
さっきから、ずっと聞こえてる。
目を開けると、流れ星は一つも無くて、なんだか世界は灰色だ。
あゆから電話かな。
でもあたしあゆと遊んだことなんてないよ。
もしもし有香だけど、あゆ?
「今どこにいんの何してんの遊んでんの?」
あゆじゃない。
「昨日帰ってないよね?や、遊んでるんだったらいいんだけど、ほんと」
男の声だ。
「電話、何回かけてもつながんなかったからさ、俺心配したんだけど」
あぁ。
「って、もしもし?有香、聞いてる?もしもし」
ひろき。
「もしもし?有香?」
「ひろきむかえにきて」
「どこいんの今」
「わかんない」
「え?どこ?」
「たぶん、地球の外行ってた」
「はい?なんて?」
「さみしかったよ。ゆかひろきの近くがいい」
「え?うん。うん、だから、これからもずっと近くにいるんでしょ、有香は」
「うん」
「俺も同じだけど?ってゆうか今どこよ?」







あたしはふくらはぎをすりむいていて、服のあっちこっちに黄色い染みもついていて、息は死ぬ程酒臭くて、頭は割れるように痛い。
公園のベンチに座って煙草を吸いながら紘輝が迎えに来てくれるのを待つ。
「おっちゃん一本あげようか?」
あたしはまだ寝ているホームレスを無理矢理起こして煙草を吸わせた。
「優しい若者もいるもんでしょう」
ホームレスは何にも言わずに煙草を吸った。
あたしはちょっと考えたけど、やっぱり煙草の箱をポケットにしまった。
アルコールを卒業できてからの話だと思って。

ここは地球。
日本という国の、東京という場所にある、とある公園。
時間は5時37分で、あたしは茶髪のマイナスAカップ美少女。
ガンダムには乗れない、ただの人間。









2004/08/24(Tue)04:49:22 公開 / シヅ岡 なな
■この作品の著作権はシヅ岡 ななさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
ちょっとふぁんたじっくな話を書こうとしてました。でもやっぱり、そういう夢のある話が書けなくって。皆さんの話読んでると、なんかそういうの多くて、影響されたけど、やっぱ無理だったみたいです。だから1話目にして消しちゃった。
でも、これがあたしの世界観なんだなぁ。
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