- 『『北中の悪魔』 written by Mio Saeki』 作者:桐生七紫 / 未分類 未分類
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原稿用紙約11.7枚
県立北神(ほくしん)中学校、通称北中。文章じゃ解らないから言っとくけど、読みは「きたちゅう」じゃなく「ほくちゅう」。ものすごくサッカー部が強くて、文化部が音楽部と学芸部の二つしかない。他校はもっと多種多様な文化部があるそうだけど、そんなことは別にどうだっていい。
あたし、こと冴木澪(さえき みお)は、こんな感じの学校で、ごくフツーの女子中学生として2年間過ごし、今年でついに3年生となった。みんなと同じよーに、みんなに合わせるよーに、制服のスカートの丈を少し膝上にしてみたり、ストパーをかけてみたり、等々……色々やった結果、今やあたしは、学校内ならドコに行ったって全く目立たない、「その他一般」の生徒の1人となっている。
まぁ、ただ1つ違うことがあるとすれば…
ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ(足音)
……ホラ、聞こえてきた。
あたしは半ばうんざりしながらも、鞄に教科書やらノートやらを突っ込む作業を続けた。
そう、今は下校時間。帰りのホームルームが終わって、それぞれ部活に行ったり帰ったりする時間。…ちょっと考えれば、次の場面が解っちゃうくらい、ありきたりで単純なワンシーン。
ガラッ(ドア開けた音)
「みーおーっ! 迎えに来たぜーっ!」
……そう。言わずとも解る、↑コレ(酷)のこと。
あたしは反射的に「来んでええわっっ」と叫ぶようにして怒鳴り、唖然とする周囲の人の目を気にしないふりをして、鞄に教科書の類を突っ込む作業を続けた。廊下ではあたしに思いっきり拒絶された彼、コレ、こと飛鷹匠(ひたか たくみ)がモノスゴイ暗いオーラを流出させ始めた。最早それは目に見えるくらいの密度で流れて……ぁ、ヤバ、教室に入ってきた。
「澪ぉ、冷たいねぇ。折角カッコイイ彼氏が待ってるってのに」
今のは友人の宮下愛理(みやした あいり)。去年くらいまで飛鷹匠ファンクラブ(通称・親衛隊)のメンバーだったんだけど、ふとしたキッカケから、匠と同じサッカー部の岩城誠(いわき せい)に惚れちゃって、「当たって砕けろ!」タイプの彼女はそれからすぐに告っちゃって…で、現在、二人は所謂「付き合ってる」っていう関係になっている。
「彼氏じゃねぇって!」
あたしは思いっきり否定し、ちゃっちゃと鞄の留め具を留め、鞄を肩に担ぐ。相思相愛っていいね、愛理。なんて、内心でちょっぴり岩城と愛理を羨んでみたりしながら。
最初に言ったとおり、北中はサッカー部が強い。それは一人一人の技術の高さだけじゃなく、チーム全体の雰囲気の良さ……ミスをしたって、それを引きずらせない雰囲気があるからだ、と思う。
……何でこんな話をここに持ってきたかっていうと、何を隠そう、彼…飛鷹匠こそ、そんな北中サッカー部を率いるキャプテンだからだ。他校では「北中の悪魔」って恐れられてる、と聞いたことがある。
いつもはふざけてて軽い感じの彼、けど試合が始まれば、それは敵にとっては悪魔そのもの。実際に一度見たことがあるんだけど、最早それはいつもの匠じゃない。サッカーの鬼だ、あれは。北中の悪魔、っていうあだ名も頷ける。カッコイイし、文武両道……とはいかないけど、サッカーが北中の誰よりも巧いのは確かだ。シュート率はほぼ100%といっても過言じゃないと思う。
……あたしに思いっきり拒絶されて廊下から物凄い密度の暗いオーラを流出させている奴と同一人物とは、ちょっと信じられない。
「ホレ澪。ダーリンのとこ行ってやんなって。かわいそーに、いじけてんぞ〜?」
しかしコイツ、顔だけじゃなく声まで笑ってやがる。他人事だと思って。
「だから、彼氏でもなければダーリンでもねぇって;」
即答で弁解し、あたしは教室を出るべく、颯爽とドアに向かう。
愛理にじゃあね、と手を振ろうと思って振り返ってみると、クラスの男子が頼むような目でこっちを見てる……ぁ、何かテラスの方から殺気が……(汗)多分こりゃ親衛隊だろう。ううむ…怖い。
「……んじゃぁ仕方ない、哀れむべき生贄は、『北中の悪魔』の餌食となってきましょうか…」
はぁ、と溜息をついて、あたしは相変わらず暗いオーラ流出中の彼の元へと向かう。
「おーっっ! 逝ってらっしゃーいっっ!!」
愛理が思いっきり明るく言い放つ。こいつ、絶対楽しんでる。ニコニコ笑いながら手を振る愛理、そしてそれに見送られるあたし。もう怒る気にもならない。あたしは諦めて、後ろ手に手を振った。
「……、お待たせ、匠」
あたしは廊下でいじけてる匠に声を掛ける。すると一瞬にして変わる匠の表情。こいつ、ホントに中3か? 幼稚園児じゃないのか? こんなのに親衛隊がいることすら信じられなくなってくる。けどもう…突っ込む気にもなれない。最早この動作はお馴染みのものとなってしまったから。
「よーっし、じゃあ帰り道デートといくかぁっ(ハート)」
「いや、部活はどぉしたよキャプテン」
「……ぁ」
おいおい、と突っ込みを入れつつ、照れ隠しのように笑う匠を眺めていた。てか、ちゃんと部活に行ってくれないと、彼ら(サッカー部員、特にクラスの男子の)が可哀そうだ。あまりにも。
……で、結局匠は部活に行ってくれることになり、あたしは1人で帰れるかと思いきや、近くで見学させられることになった(「俺のカッコイーとこ、澪に見しちゃるからっっ」by匠)。断ろうと思ったけど、何故か断れなかった……。
辺りを見回せば、やっぱりいたいた、親衛隊。毎日「キャー○○様―っ」とか「○○くーんっ」とか、同じよーな声援を黄色い声で送り続ける。よくもまぁ、毎日飽きないこと。別な意味で感心しちゃう。……まぁ、サッカー部、カッコイイ人多いからねぇ。あたしのタイプじゃないけど。(そもそもあたしに好きなタイプっているのか? という疑問には、目を瞑ることにしよう。)
中でも一番の人気は、何と言ってもキャプテンの匠だ。「俺の彼女は澪だっっ」と公言しているにも関らず、この人気は一体何よ。って。
フッとグラウンドの方を向いたら、匠がこっち見てニッコリと笑いかけた。ドキン、と心臓が跳ね上がる。ビックリした。いきなり目が合うんだもん。
1つ上の姉・雫(しずく)の話によると、匠のカッコ良さは、何とビックリ……入学当初から評判になっていたらしい。(同じ学年なのに、全然気付かなかった。)漫画に出てくる「カッコイイ人」ほどじゃないにしても、彼に憧れたりする人数は相当なものだったらしい。
あたしらが2年生になって後輩ができると、「匠先輩ファンクラブ」とかってやつができたとか。それが今の親衛隊のもとになったとか。(別に興味はなかったんだけど……雫姉に「今3年の飛鷹匠って知ってる?」って聞いたら、長々と彼についての情報を語ってくれた。っていうか雫姉、どっからそんな情報を手に入れたんだ?)
そんな彼が、ある日突然、何の接点も可愛らしさもないし目立ってもないあたしに、「ずっと好きだった、付き合ってくれ」みたいなことを言ってきて。ビックリして固まったあたしが「え、えーと」とか言ってる間に、何か勘違いされて。
で、「付き合ってる」っていう関係まがいの、今の状況に立たされているわけだ。そういう面で、ホント……苦労はつきない。親衛隊には目をつけられるし。まぁ、殆どが後輩だからね。先輩に目をつけられるよか、マシだけども。菜穂を敵に回したのは痛かったな〜。
でも……別に匠の傍にいるの、嫌じゃない。匠は匠でいっぱい話題持ってるし、話面白いし。一緒にいて退屈しない。…ってことを、この前愛理に言ったら、『やっぱ飛鷹君のこと好きなんじゃな〜い?』なんて言われた。
いや、んなわけない。鞄に道具を入れるのが遅くなった、ってのも指摘されたし。それは薄々、あたし自身も自覚してはいるんだけど。愛理に言わせれば、『さりげなく、かつ無意識に、愛しのダーリン・飛鷹匠を待ってる』んだそーだ。それこそ、有り得ない。あたしに限って。(……ていうか愛理、ダーリンっていうのをやめて欲しい。)
ピッピーーーーッッ
考え事をしていたあたしの耳に、けたたましく鳴り響くホイッスルの音が飛び込んできた。
どうやら部員を2つのチームに分けて練習試合をやってたらしい。みんな汗だくだが、どっちが勝ってどっちが負けたのか解らないくらい、良い顔をしてる。
……と、匠がこっち見て、ブイサイン出してニッコリ笑った。多分勝ったんだろう。凄いシュートでも決めたのか?
……ぁ、匠の活躍見てないや。帰り道でその話題振られたらどうしよう。って考えてる間に、匠はどっかに走っていった。
でも、練習試合も終わったってことは、もうすぐサッカー部の活動も終わるんだろう。一般の部活動が終わるのも、もうそろそろのはずだし。そしたらまた匠が「澪―っ!」なんて、語尾にハートをくっつけて言いながら、あたしのとこに走ってくるに違いない。部活後の、疲れと充実感の入り混じった、実にいい笑顔を浮かべながら。
その匠に、「好きだよ」なんて言ってやったら、匠は一体どんな顔をするんだろ。言ってみよぉかな?
「匠、好き―― ―……って!! ちょっと待て、何考えてんだあたしはっっ!!!////
『澪も鈍いねぇ、そんなん恋に決まってんじゃんっ!』
不意に愛理の言葉を思い出す。あたしが匠に惚れてる? ……冗談じゃない。そんなの、あたしは絶対に認めない。この胸のトキメキは、きっと……『北中の悪魔』飛鷹匠が、あたしにかけた魔術のせいだ。絶対そうだ。……と、信じたい。
End..
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2004/08/22(Sun)20:32:20 公開 /
桐生七紫
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■作者からのメッセージ
初投稿作品を、ちょちょいっと直しました。
テーマ“初恋”、「もしや実話?」なんて思えるような感じにしたつもりなのですが…如何でしたでしょうか。
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