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『Who am I?  1〜4話』 作者:九邪 / 未分類 未分類
全角15344文字
容量30688 bytes
原稿用紙約47.9枚
 西暦20××年。人は更なる高みに上った―― 
 先人たちの思惑とは違い、工学はあまり発展を遂げず、車が空を走り、一瞬にして別の所に移動できる装置や、万能のロボットなどは今だ発明されていない。
 が、その半面飛躍的に進歩した物。それが生物学だった。先ほど言ったように万能のロボットなどない。仕事が増え、人手が足りなくなる中、新たな労働者として新生物の開発に乗り出したのがその始まりだった。その結果できた物が、
 『遺伝的に異なる動物を使用した人為的合成獣』<キメラ>である。
 免疫等が弱い生物を強くし、後世に残すのには強い生物と合成するのが手っ取り早い
その為、地上最強の動物 我々“人”が被験体に選ばれるのは当然の事だった。一般市民に声をかけ、細胞の提供を受けこのプロジェクトは完成した。いつの時代も優れた化学は人体実験を通してこそなのだ。
 『キメラ』は人の知能に加え、その動物特有の“力”が備わっている。(犬のキメラは嗅覚が鋭いと言った風に)しかし、反面人為的な合成の結果生まれたため免疫力等が人に比べて弱く、平均寿命は人の半分ほどという欠点がある。
 『キメラ』の扱いは今でも議論されているが今のところ、“動物”以上“人”以下の存在となっている。『キメラ』が生まれて間もない頃は奴隷のように扱われていたが、動物の力も持つ彼らが一気団結し、反乱を起こせば人といえど苦戦を強いられる。そのため、反乱を起こされる前に『キメラ』を奴隷から開放したのだ。
 今現在、『キメラ』は世界の人口の四分の一を占めている。
 今のこの快適な暮らしは人の知恵と『キメラ』の力で築かれた物だという事を忘れてはならない。



一話.【さよなら、日常】――Good by every day――


 栄司は軽く溜息をつき『人類の歴史』と書かれた本を閉じ、ベットに投げる。本の重さと落下の衝撃でベットが上下に軋む。
「人も動物だろ。キメラも犬も猫も人間も同じじゃないか」
 どうやら最後のほうに書かれていた“動物”以上“人”以下の存在という一節が気に食わない様子。栄司は不機嫌なままその本を分厚い本が納まっている本棚にそっと戻す。本を詰め込みすぎて中々入らなかったので気合を入れて思い切り押し込む。少し本が破れる音がしたがきっと気のせいだと自分に言い聞かせ、座っていたベットから飛び起きる。
 軽やかに階段を下り、大分古くなった冷蔵庫から食パンを一斤取り出す。カビが無い事を確認し、トースターに放り込む。焼けるまでの時間が勿体無いので洗濯物を取り込みに玄関を開け外に出た。もうすっかり日は昇り、さっきまで暗い部屋の中にいたので眩しさに少しよろめく。
「やぁ、おはようエーシ」
 陽気な声が聞こえ、そちらの方を振り向くと向かいの家の玄関でブロンドの髪の毛の外人が手を振っていた。
「おはようディーン」
「今日はいい天気だね」
「暑すぎるくらいだよ。丁度今、洗濯物を取り込もうと思ってたんだ」
 栄司は顎で庭に干してある洗濯物を指す。
「エーシはスゴイね。そんな年で一人でちゃんと生活できてるから。僕はお嫁さんがいないと生きていけないよ」
 ディーンは笑顔で言ったが栄司は苦笑いだった。
 ディーンは朝のロードワークに出かけるそうだ。気が付かなかったがジャージを着ている。玄関からディーンの奥さんも出てきた。二人は栄司に別れを告げ、東の方向に走り出した。
 庭に干してある洗濯物を早々と取り込む。両手一杯で何とか持ちきれる洗濯物の量に、何故一人暮らしなのに毎日こんな洗濯物が出るんだ? と疑問に浮かべながら足で玄関のドアを開ける。丁度パンの焼きあがる音が聞こえた。迷った末に洗濯物は後で、先に朝食を摂ろうと決める。冷蔵庫から賞味期限が疑わしいマーガリンを取り出し、パンに塗りたくる。“こっち”に来てからもっぱら朝はパンだなぁと思う。ご飯を食べたのはいつだろうか。多分、この前の日本帰国以来食べてない物だと思う。アメリカにも米はあるが、栄司の好きな味ではない。どことなくパサパサとしていて、どうしても好きになれなかった。そんな事を思いながらパンをかじっていると捲るのを忘れていたカレンダーに気付く。日付は九月三日(日)のままだった。
「え、と。今日は九月二十日か。二週間以上も捲っていなかったのか……」
 ここに来て今日でもう二年になる。ここ――アメリカの言葉はもうほとんど覚えた。独学で良くここまで喋れるようになったもんだ。
 栄司には親がいない。遠い昔に死んだそうだ。親戚に引き取られ、アメリカに来たのが二年前になる。親戚のおじさんは結構な資産家でアメリカに来てからは何不自由の無い生活をしてきた。が、二年前突然強盗が押し入り一家全員が死亡。襲われることなど無いだろうと高をくくって警備システムをケチったおじさんの負けだった。買い物の途中だったため生き残った栄司は施設に引き取られそうになるが、施設は嫌だ、と脱走。現在簡単な仕事をしつつ一人暮らしを続けている。子供が――栄司は今、十四歳――できる仕事なんかないと思っていたが、十二年前の憲法の改正で子供でも出切る仕事がいくつか生まれた。生活用品などは隣の部屋の人たちに分けてもらった。近隣に優しい人が住んでいて良かった。
 栄司は自分の身の上を考えると笑いが出てきた。自分は運が良い、と。顔も覚えていない両親の死は特に悲しくもなかった。おじさんの家での生活は不自由はなかったが、同時に面白くもなかった。しかし、今の一人暮らしは毎日が楽しい。自分で働き、自分の力で生きているというところが。無論おじさん達の死を喜んでる訳ではない。おじさん達皆が殺されたと聞いた時は本気で泣いたものだ。
「けど、もうちょっと、なんかこう……スリルが欲しいなぁ」
 誰に言うわけでもなく栄司は口に出した。ここは自由の国アメリカ。そして、無法者の天国でもある。ギャング、裏組織、マフィア。入りたいとは思わないが、何かスリルが欲しいと栄司は強く願っていた。それは彼が無類の読書好きだからというのも理由の一つ。
「有り得ないとは分かっているけど……」
 そう呟き、自分が夢見るスリルたっぷりの世界を、本を読むことで栄司は実現させようとした。本棚に手を伸ばし、何でもいいから取ろうとするが如何せん、全部読み飽きたということに気付く。
「……仕方ない。生活費切り詰めてなんか一冊本を買いに行こう」
 と、本を買いに行こうとしたとき、ある事に気付いた。今までなんでこんなにゆっくりできたんだろう? 毎日が休日のような気分だったような。
 栄司はさっき破り捨てたほうのカレンダーを見る。九月五日(日)。
栄司はずっと日曜日の気分で毎日を過していた。それに気付くと、栄司の顔は段々と青褪めていった。
「仕事……。……二週間もサボってた…!!」
 本当に五秒くらいだったと思う。栄司はマッハのスピードで作業服に着替え、仕事場へと向かった。言い訳を考えながら。





 クビにされなかっただけでもマシと思うことで、栄司は必死で惨めな気持ちを抑えていた。もちろん社長は大激怒。一ヵ月間無給というのは当然なのかもしれない。今日だけでも休憩無しで、一日ぶっ通しで働くという拷問を食らった。栄司は働き者なのでクビにはされずにすんだが今度から目をつけれるだろう。コツコツと積み上げてきた信頼が音をたてて崩れ落ちた。
「あ、そうだ。本……」
 この期に及んでも本のことが頭に浮かんだ。ギリギリの生活で、テレビなど置けるはずもなく本だけが唯一の娯楽だったからだ。
「どうしようかな。ただでさえ一ヶ月無給なのに」
 悩みながら栄司は本屋へと歩を進めていた。やっぱり買おう。と決心した時すでに本屋の前にいた。もちろん本人は気付いていなかった。
 本屋の中に入る。すでに常連と言えるほど店に来ている栄司に店長が声をかける。軽くお辞儀をしてから再び店の中を回る。特に面白そうな物はなかった。しかし、ここまで来て何も買わずに帰るというのはどことなく損をした気分になる。だから栄司は必死に何かないかと探した。
 三十分経っても何を買うか決めかねている栄司に店長が話しかけてきた。
「エーシ。さっきから迷ってるようだけど、どんな本が読みたいんだい?」
「う〜ん。ファンタジー……かな?」
「それならこれはどうだい?」
 店長はカウンターから一冊の本を取り出した。
「あまり有名な作家じゃないんだけどね。とても面白かったよ。掘り出し物だね、これは。一応店にも出したんだけど無名だからか全然売れなくてね。引っ込めたんだよ。誰にも読まれないで捨てられるくらいならエーシ、君にあげよう」
 栄司はとても嬉しかった。何度も何度も店長にお礼を言い。その本を手に、店を後にした。
「トマス・アンダーソン作【One】 確かに聞いた事ない作家だな」
 でも面白ければいいか、と栄司は鼻歌まじりで家路へ向かう。
 辺りはすっかり夜になっていた。時刻は十一時を回ったところ。あたりに人影はなく、何も聞こえないのが帰って不気味だった。アメリカでこんなにも静かなところは珍しいだろう。それが夜でも、だ。
「通り魔にでも出くわしたら大変だ。さっさと帰ろう」
 ――ドン
 そう思って駆け出そうとしたところ誰かにぶつかった。突然の事なので栄司はその場に尻餅をついた。相手も同様だった。
「すいません、大丈夫ですか?」
 栄司はその人に手を伸ばした。暗くて顔は良く見えなかった。がその時、今まで消えていた街灯が突然点いた。
 ぶつかったのは少女だった。栄司と同じくらいの年であろう彼女は、銀とも灰色ともいえる白い髪、栄司より少し低い身長、透き通るような白い肌の美しい少女だった。
――白光の美少女。そんな言葉が頭に浮かんだ。何かの本で読んだのだろうが。
 栄司が一番驚いたのはその少女の表情だった。ぶつかった事に怒っているわけでも、痛がっているわけでもなく、微動だにせず栄司のことを見つめている。良くも悪くも人形のような少女だった。
「あ、あの大丈夫だった?」
「……似てる」
 少女は立ち上がりながら呟いた。
「え?」
 栄司が尋ねようとしたら、少女が栄司の袖を引っ張った。
「こっち……。隠れて」
 栄司は訳が判らなかったが少女の言われるままに家と家との間の狭いスペースに入り込み、並べられたゴミ箱の陰に隠れた。
「ちょ、ちょっと何を――」
「シッ。黙ってて」
 少女のなんとも言えぬ威圧感に押され、栄司は黙ってその場に居た。
 しばらくすると、バトラーを着た男たちが栄司たちの近くに来て何やらしだした。体の影で隠すように持っている物。それは銃だった。栄司は何事かと、一層パニックになる。
「どこに行きやがった」
 一人の男がそう言って、辺りを見回す。どうやら誰かを探しているような感じだ。
「チッ、発信機に気付いたようだな」
「畜生……!!」
 男はそう言うと、手に持っていた物の引き金を引いた。男の手に握られていた銃から音も無く何かが飛び出し、栄司の隠れているゴミ箱を打ち抜いた。紙一重で弾丸は栄司を逸れていった。
「とりあえず帰るぞ」
 男たちは帰っていった。
 栄司は口をパクパクさせていた。少女は相も変わらず、表情一つ変えずにいた。この状況で何も動じずボーっとしている少女がなんだか栄司は怖くもなった。
「き、君は一体?」
 こう少女に問いかけた瞬間から栄司にとっての【日常】はどこかへ行ってしまい、少女にとっての【日常】、栄司にとっての【非日常】が始まりを告げた。
 時計の針が十二時を指し日付が変わった。九月二十一日は栄司の両親の命日だった。



△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼



2話.【少女の名前】――What’s your name?――



「ごめんなさい」
 栄司に対して少女は一言謝った。
「君は……追われているの?」
 少女はこくんと頷いた。心臓の鼓動が段々とゆっくりになってく。栄司は深呼吸をして、心を落ち着かせた。夜の澄んだ空気は美味しかった。
「え……と。そりゃまた何で?」
「……分からないの」
 少女は栄司の問いかけに一言、そう答えた。栄司は耳を疑った。
「へ?」
「分からないの。なぜ自分が追われているのかが」
 栄司は少女の目をジッと見つめる。
――嘘をついているような目じゃない、かな
もう十二時になって、辺りは本当に真っ暗だった。さっき点いていた街灯もまた点滅しだした。こんな時間に子供二人で夜のアメリカは危なすぎる。いつ襲われるか分からない。
どう見てもこの少女が悪者で、さっきの人たちが正義の味方には見えなかった。きっとこの少女は何も悪くない。
 立ち去ろうとする少女を止め、栄司は言う。
「あの、さ。僕の家に来なよ。もう暗いしさ。危ないよ?」
 少女も先ほどの栄司のように栄司の目をジッと見つめる。こんな美少女に見つめられると照れるな、とか思いながら、栄司は答えを待つ。
「……いいの?」
「うん。暖かいコーヒーくらいなら出すよ」
 少女は栄司を信じたのか、
「じゃあ、行きましょう」
 と言った。





「さ、上がって」
 結局栄司の家に着いたのは十二時半を回った頃だった。もう冬だという時期に夜道を歩いてきたので栄司は体の芯まで凍えていた。きっと、少女も。まぁ、そんな素振りは見えないが。
「ちょっと待ってて」
 昨日買ったばかりコーヒーメイカーを使いコーヒーを二人分作る。一つはすぐに見つかったが、中々コップがもう一つ見つからない。棚の奥に恥ずかしそうに隠れているのをやっとの思いで見つけ、コーヒーを注ぐ。
「はい」
 少女にコーヒーを手渡す。少女は素直に受け取る。
「ありがとう」
 狭い一部屋でコーヒーをすする二人。栄司は暖かいコーヒーで何とか体の震えを止める。コーヒーを半分ほど飲んだところで栄司は話しだす。
「君はあいつらに追われている理由が本当に分からないの?」
 少女はコーヒーをすすりながら首を横に振る。
「君は何も悪いことをしていないよね?」
 これにも首を横に振る。栄司はホッとした。もしこの少女が悪者だとしたらどうしようかと思っていたからだ。もし、本当の悪者ならここで首を縦に振るわけがない、という考えは奥にしまった。悪いことをしていないのに何で追われているのかな、と考えながらコーヒーをすすっていると
「私――」
「え?」
「私には記憶が無いの」
「記憶が?」
 少女は驚くべきことを口にした。そして栄司もまたとても驚いた。漫画や小説だけでしか聞いた事もない様な記憶障害者。しかし、それは勝手な栄司の先入観だった。こんな所にそんな人はいる訳がない、という。
「いつからの記憶がないんだ?」
「昨日」
「き、昨日!?」
 栄司は素っ頓狂な声を上げる。少女はこくんと頷く。
 コーヒーがなくなったようなのでまた入れてあげる。少女は「ありがとう」と言った。
「それだったらどうしようもないな……」
 少女は申し訳ない様子など少しも見せなかった。相変わらずの無表情。気付いたのだが彼女の眼にはまるで生気がない。白と黒の玉が穴にはまっていると言った感じだ。虚ろというのはまた違う。本当に生気がないのだ。……多分。
「あ、忘れてた。君の名前はなんていうんだ?」
「それも、分からない」
「えぇ! 名前も?」
「私が覚えてるのは昨日目が覚めた時、一人の女性に「逃げなさい」と言われた事だけ。それ以外は何も……」
「逃げなさい、か……」
 栄司は悩む。この少女は本当に何も知っていないようだ。せめて名前だけでもあればよかったのに。
「名前、思い出せない? やっぱりないと不便だろ」
「それなら、あなたが付けて」
「ぼ、僕が? 君の名前を!?」
 少女は例の如くこくんと頷く。実際、これが一番栄司を悩ませた。まさかこの年で名付けをするとは思いもしなかっただろう。しかも女の子だから尚更。英語の名前など付けれるはずもないから、日本語で付けることにした。
栄司は必死で家の中を見渡し、使えそうな物がないかを探す。そこで、部屋に飾ってある絵に気付く。菜の花畑の絵だ。これは使えそうだと、とりあえずキープ。
「菜の花、か。いい感じなんだけどな。何かあと一つ欲しいな」
 そういった瞬間自分の手に持っているものに気付く、さっき本屋の店長から貰ったトマス・アンダーソンの【One】というあの本だ。何気なく表紙を見てみると、サブタイトルに『She is moon girl』〜月の少女〜と書かれていた
「月、か……菜の花……菜の花、月……そうだ!!」
 栄司は思いついた。我ながらいい名前だと思う。そういえば知り合いのある男性が子供に付けるといっていた名前に似ているな、と思った。その人は『ゴッド・アイランド』という会社を建てたらしい。まぁ、そんなのはどうでもいいのだが。
 栄司は顔を輝かせて自分の考えた名前を少女に言った。
「菜月(なつき)。菜月ってのはどうだ?」
 少女は別段嫌がりも喜びもせず。「それでいいわ」と言っただけだった。それで少し不機嫌になった。
「あのさ。菜月はどこか行く宛とかあるの?」
「行く宛?」
 コーヒーを飲むのを途中でやめ、栄司のほうを見る。
「そう。だって、このまま一生逃げ続けるわけじゃないだろう? 誰か助けてくれる人とかさ。そういう宛はないの?」
「……考えもしなかった」
 やっぱりそうだ、と栄司は心の中で呟く。この少女はどこか抜けてる。天然とはまた違うのだが。……いや、同じか?
 全く行く宛がないと言い切った少女はまだコーヒーを飲み続けている。このままだったらいずれ少女は捕まってしまう気がする。栄司は自分が何か力になれないかと必死で考えた。
「そうだ……。菜月、行く宛がないんだったらさ僕と一緒に旅をしないか? 旅と言っても知り合いのおじさんの家までなんだけど」
「知り合いの……おじさん?」
「そう。科学者なんだ。周りの人たちからは変人て呼ばれてるけど、とてもいい人さ。僕も色々助けてもらってるから。ね、どう?」
「あなたの言うとおり私には行く宛がないわ。とりあえず、同行する」
「よし。そうと決まれば早速準備を」
 栄司は奥の棚から色々と旅に必要な物を出し始めた。その横に置いてあった大きな鞄に順々にそれを詰め込み始める。その作業を菜月は退屈そうに見ていた。
「けど……」
「え?」
 荷物を詰め込む作業の途中、菜月が急に声をかけてきた。
「けど、何でそこまでしてくれるの? あなたには何も関係はないのに」
「何でって言われてもな……」
 そのあと栄司は自分がどれだけ本の中のスリルに満ち溢れた世界に憧れてきたかを菜月に話しはじめた。言い終えると菜月は少し怒ったような(と言っても、変わらず無表情なのだが、感じ的に怒ってるような気がした)顔をして言った。
「これは本の中のように何もかも巧く行く様になってないわ。あなたも、本当に死ぬかもしれないのよ」
 そう言われると栄司は何も言えず、その場に俯いてしまった。しかし、栄司はすぐにパッと顔を上げ、菜月に言った。
「けどさ。困ってる人を放って置けるわけないじゃないか……!」
 それは菜月が特別キレイなのも理由にあるが、それだけでないのは勿論だった。
菜月は栄司の顔を、目を見つめる。栄司は少し不安の混じった顔をして。菜月は見つめていた。
「どうなっても知らないわよ……」
「望むところさ」
 そう言って栄司はとても強い笑顔をみせた。
 コーヒーのおかわりをしようとした時、何やら下が騒がしかった。続いて、何人もの人が階段を上がってくる音が聞こえてきた。
「こんな時間に誰の客かな?」
 足音は栄司の家の前で止まった。ドアを蹴破るような音。そして、慌しく栄司と菜月のいる部屋にさっきの男たちが乗り込んできた。先頭に立つ、片目に眼帯をした大きな男が地の底からのような低い声で喋り出す。
「やっと見つけたぞ、お嬢ちゃん」
「ったく手間かけさせやがって」
 サングラスに、黒いバトラー、手には銃を持った男は口々に言った。
 男は栄司の隣で怯えもせずにコーヒーをすする菜月の手を掴み、無理矢理立たせた。
「さぁ、来い」
 突然の事で一瞬我を忘れていた栄司は、すぐに我に返り、男たちの元へと行った。
「ちょ、ちょっと待てよ!」
 栄司はそう言って、菜月の手を掴む男の腕を掴む。男は自分の腕をいきなり掴んで来た栄司を見て、
「何だ、このガキ。邪魔だ!!」
 と、栄司の手を振り払う。栄司は衝撃でその場に倒れこんだ。栄司は男を睨みつけ、再度立ち上がろうとすると。
「なんだぁ、その目は?」
 と、怒鳴りつけ、手に持っていた銃を栄司のほうに向ける。栄司は男が銃を向けてきた瞬間にピタリとその場に立ち尽くした。汗が流れてきて、背中を濡らす。さっきまでの威勢はどこにいったのか、栄司は何も言えず、何も出来ず、ただその場に立ち尽くした。
 ――これは本の中のように何もかも巧く行く様になってないわ。あなたも、本当に死ぬかもしれないのよ
 菜月のこの言葉の意味が今やっと分かった気がした。
 いつまでもその場に立っている栄司を見て男は言う。
「あぁ、金か? 金が欲しいんだな?」
 男は栄司に向かって札束を投げつけ、豪快に笑う。
「これで満足かぁ?」
男は菜月を連れて大声で笑いながら去っていった。栄司は男たちの巨体、その手に持つピストルを見てから足がすくんで動けなかった。
一度こっちを振り返った菜月と目が合ったが、菜月は何も言わなかった。
 栄司は自分が情けなかった。さっきまでスリルに満ちた冒険をただ楽しい物とばかり思っていた。しかし、現実は楽しい事ばかりではない。とてつもなく怖かった。そして、その恐怖のため、少女を守れなかった自分がどうしようもなく情けなかった。



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3話.【恐怖を乗り越えて】――Fear is overcome――



 栄司は誰もいなくなった部屋でまださっきと同じ場所に立っていた。ピストルを突きつけられ、少し脅しの言葉を聞いただけで何も出来なくなった自分に腹が立ち、男が置いていった札束を思い切り叩き付けた。無論それで気が収まるはずもなく、やり場のない気持ちが溢れ、目から流れ落ちた。
「僕は……何がしたかったんだろう……」
 本の世界に憧れて、現実の事に怯えて。僕は何がしたかったんだろう。僕は何を望んでいたんだろう。その答えも見つからず、栄司は泣き崩れた。
「僕は……僕は……!」
 もう涙も出なくなるほど泣いたあと、栄司は床に置いてある本に目が留まった。そう、トマス・アンダーソン作【One】だ。少女に名前をつける決定的な要因となった本。思えばここから全てが始まったのかもしれない。あの時 本を買おうと思わなければ、あの時 迷わずにさっさと本を決めていれば、あの時 店長に呼び止められずに店を出ていればきっと菜月には出会わなかっただろう。そんな、この本を菜月に名前をつけたあのときと同様に捲ってみた。物語は訓練次第で魔法が使えるような世界。そんな中で主人公と相棒が、依頼人の頼みを聞き、事件を解決していくと言うストーリーだった。本を閉じようとした時、本の一文に目が止まった。
 ――恐怖を覚える事は恥ではない。その恐怖に負け、次の一歩を踏み出せぬことこそが本当の恥なのだ。
 衝撃。目から鱗(うろこ)が落ちた。このページを開き、この文を読んだことは果たして偶然なのか。いや、偶然でも何でもいい。栄司は真実に気付いた。
 ――そうだ。僕はまだ戦っていない。何もしていない。僕はまだ、戦える!!
 栄司は立ち上がり、引き出しから何かを取り出してポケットに詰め、勢いよく玄関から飛び出した。まだそんなに経っていない、遠くへは行っていないはずだ。





「ったくよぉ、手間掛けさせやがって」
「……」
 菜月は何も表情を変えない、周りを厳つい男に囲まれ、まるで連行されているように歩かされているにも関わらず。菜月は前だけを見て、決して怯えてはいない。
「おい、嬢ちゃん。ただ歩いてるだけじゃ暇だからよ、何か喋れや」
「……」
 男は菜月の顎をつかみ、無理矢理自分と顔を合わさせた。
「おい、あんま俺をナメンじゃねぇぞ」
「……」
 怯えも怖がりもせず、何の反応も示さない菜月が面白くなかったのか、別段何もせず顎から手を離した。
 もう二時を回っている。辺りからは何も聞こえない。昼間の喧騒が嘘のような静けさだ。人も虫も草も木もみんな眠っているような感覚に陥る。聞こえるのは男と少女の歩く音。
「あのボウズ、薄情な野郎だったなぁ?」
 その話題を振られると、菜月は男を睨みつけた。
「おお、悪い悪い」
 男は謝りながらも意地の悪そうな笑いをずっと浮かべていた。
 意外とお喋りなようで男は歩きながらずっとペラペラと引っ切り無しに菜月に話しかけてきた。菜月はその全てに対して無言か「そう……」とか簡単な返事しか返さなかった。男も段々面白くなくなって、次第に何も話しかけなくなった。
「さて、ここだ。後三十分ほどで迎えの車が来る」
 男は腕時計を確認しつつ場所も確認し、そう言った。

 10分ほど経ったところ、遠くから車輪の音が聞こえてきた。
「あん? 少し早すぎるな。手回しのいいこって」
 男がそう言ったので、菜月も耳を澄ましてみると確かに車輪の音が聞き取れた。が、少し小さいしエンジン音もしない。車ではなく多分……
「何だ? 自転車じゃねぇか。こんな夜中に自転車に乗ってるなんてどこのどいつだ?」
 自転車に乗った何者かはどんどんこっちに近づいてきた。どうやら乗っているの子供のようだ。自転車の人は菜月を囲む男たちのところに向かって来ている。男たちは必然的に道を空けた。その自転車に乗った人が男たちと菜月の横を通り過ぎようとした瞬間。
「菜月ッ!!」
「――なッ!!」
 一瞬の事だった。自転車に乗った少年は菜月を一瞬でつかみ、自転車の荷台に乗せ、走り去っていった。菜月は驚くほど軽く引き上げられた。
「クソッ! あのガキか。追え、追え!!」
 男達がピストルを構えたのを見て、栄司は道路の横の藪を突き抜け、隣の車線に出た。藪の枝が少々引っかかり頬を裂いたが、ピストルに比べれば何のことはない。
 男達も少年の乗った自転車を追って、隣の車線に出た。見ればはるか前方に自転車が見えたが、すぐにカーブで見失った。
「追え、追うんだ!!」 
 男はピストルを夜空に向かって撃ち鳴らしながら大声で叫んだ。男たちは出せれるだけのスピードを出して走っていった。
「……もう大丈夫かな?」
少年はそう言って、自分と菜月に被せていた黒いマントを取った。
「やっぱり、あなただったのね」
「やぁ、久しぶり……」
 そう少しばつが悪そうに言ったのは栄司だった。二人は意外とさっき男達が待ち合わせをしていた場所の近くにいた。真相はこうだ。栄司が菜月をつれて反対車線に出て自転車から降り、闇に溶けるように黒いマントを被り、リモコンで動く自転車を走らせてあたかももう遠くへ行ったと思わせる。男達がそっちへ行くのを見てから、もう一度藪を抜け反対車線に戻る。これが栄司の作戦だった。作戦は見事成功した。単純な作戦ほど成功しやすい物だ、と栄司は考えていた。
「よく、あんな自転車があったわね」
「いっただろ? 僕の知り合いのおじさんは科学者だって。発明もしてるんだ」
「そう……」
 二人はとりあえずその場を離れた。菜月が言うには間もなく迎えの人達も来るらしいからだ。近くの公園に入り、ベンチに座る。
 栄司は隣に座った菜月にもじもじとしながら話を切り出す。
「あの、さ。ゴメン。あの時、何も出来なくて……」
「私の方こそ……ごめんなさい」
 てっきり、罵られるものだと思っていたのに、菜月が謝っているではないか。これはどういうことだ、と栄司は目を丸くしていた。
「私はてっきりあなたも、あの人達の仲間だと思っていた。あなたと私は赤の他人なのに引き止めてまで家に招いて、あんなに親切にしてくれて、どう考えても不自然だったから、きっとあなたもあの人達の仲間だと思っていた。けど信じてあなたの家に行ってみたわ。だけど、あなたの家にあの人たちが来た。やっぱりってその時に思ったわ」
 栄司は何も言わずに聞いていた。菜月はまだ独白を続ける。
「けど、違った。あなたは私を助けてくれた。身の危険も省みずに」
「あの――」
 栄司は何かを言おうとしたけど、言葉が詰まった。何を言えばいいか分からなくて。
「ごめんなさい」
「え? 何でまだ謝るのさ?」
「あなたは私を命懸けで助けてくれた。そのことはとても感謝してるし、嬉しいはずなのに、私はどんな顔をすればいいか分からないの……」
 この時、栄司もやっぱりか、と納得した。この少女は感情が無いんじゃなくて、感情を表せないだけだ。感情を、喜びも、怒り、哀しみ、楽しみも知らないのだ。
 この問に答えは無いと思った。嬉しい時の表情など千差万別。だけど……
「笑ってよ」
「え……?」
 聞き返してきた菜月に対して栄司は笑顔で言った。
「君が笑うと僕も嬉しい」
 その言葉を聞いても、菜月はしばらく無表情だった。ダメか、と栄司が諦めた時、菜月はフッと笑った。笑ったと言うより微笑という感じだが、その方が合ってるなぁと心の中で思っていた。菜月の笑い顔は、綺麗だった。形容の仕様が無い。ただ一言、綺麗と。
「どうしたの?」
「い、いや何でもないよ」
 君の顔に見惚れていたなんて口が裂けても栄司には言えなかった。栄司は深呼吸して気を落ち着かせ、菜月と目を合わせて言った。
「約束する。もう、僕は絶対に恐怖に負けたりなんかしない」
 一瞬呆気にとられていたが、栄司の真剣な表情を見て、ゆっくりと頷いた。
「だから、菜月も約束してよ」
「何を?」
「僕のことをさ、“あなた”って呼ぶのやめてくれる?」
 栄司は意地悪そうに微笑みながら言う。菜月はコホンと咳払いをしてから、
「これからよろしく栄司」
「よろしく、菜月」
 辺りは変わらず暗かったが、栄司が心に決めた誓いの炎はとても明るく燃え盛っていた。
 恐怖を乗り越えたその先に栄司が見た物は、天使の微笑だった。願わくば二人の旅路が無事であらんことを。旅は、始まったばかりだ。



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3話.【旅の始まり】――The beginning of a trip――



「で、頭(かしら)。こいつら、どうすんですかい?」
「ったく。何でこんなところにガキがいんだよ」
 やれやれ、という様な素振りを見せ、男は大きく息を吐く。その吐いた息からは悪党面に合わないキシリトールの良い匂いがした。そんなこと考えてる場合ではないがそれにしても似合わない匂いだと思う。
 今、栄司と菜月は幾人かの大男に囲まれ、身動きが出来ずにいる。どいつもこいつも紳士といえる顔ではない。そもそも何故こんな状況に陥ったかというと、それは昨日の公園から始まる





「じゃあ、そろそろ行こうか」
「そうね。彼らが帰ってくる前に早めに出た方がいいものね」
 栄司は耳を澄ましてみるが、何も聞こえない。どうやらあの男たちは相当遠くまで行ったようだ。出発するなら今の内だ。
「そのおじさんの家はどこにあるの?」
「カリフォルニアさ」
 菜月は少し黙り込み、なにかを考える。
「ここからそう遠くはないわね」
「ああ。多分、急げば今日中に着くと思うよ」
「けど、交通機関は駄目よ。彼等の組織の情報網は半端じゃないの。歩いていきましょう」
 栄司は初めからそのつもりだった。どっちにしろ今の時間帯じゃ電車なんて来るわけがない。話し合った結果、道路も危険だという事で山道を行く事にした。栄司は菜月のことを心配し、反対したが結局それ以外に良い手は思いつかなかった。栄司はしっかりと荷物をまとめてきていたので食料その他の心配はあまりしなくて良さそうだ。
「行こう」
 二人はほの暗い山の中に歩を進めていった。雲に隠れていた月が出てきたためか山の中は歩くのに苦になるほど暗くはなかった。初めは一歩一歩慎重に歩いていたが目が慣れてからはごく普通に歩けるようなになった。
 栄司は木の枝を慎重に掻き分けて進んだ。毒虫や蛇が潜んでいるとも限らないからだ。だが、そんなことをしているのも初めの内だけだった。驚いたことに栄司よりも菜月の進む速度のほうが速い。だから栄司は置いていかれないよう枝のことなど忘れて必死に走って追っていった。





「言い訳は聞かないよ、コーダ。正直に言いたまえ『QCW―DG』の捕獲に失敗したのだね?」
 薄暗闇の中、奥で回転椅子に座った男が尋ねる。男は後ろを向いており、顔を確認できない。が、その声、態度からは有無を言わせぬ威厳が感じられる。コーダと呼ばれた男は何も言われる前から汗だくになっていた。
「は、はい! 申し訳ありません! 邪魔が入りまして……」
 コーダは声の震えを必死に止め、弁解をする。だが奥の男は途中で話を切る。
「その邪魔をした相手というのは14歳の少年だろう? しかも、おもちゃ相手に2時間も追いかけっこをしてたそうじゃないか、おい?」
 冷ややかなその声を聞く度にコーダの震えは激しくなっていく。コーダの額の汗が頬を伝い、流れ落ちる。どうしてこんな事になったのだろう。この任務を達成したあかつきには昇格が待っていたというのに。
「もういい。……行け」
「え?」
 コーダは顔を上げる。今しがた言われた言葉が信じられなかったから。
「もういい、と言っているのだ」
 任務を失敗した者には容赦がない、と言われているのにこんなにあっさりと許してくれるとは。コーダは安心と喜びで胸が破れそうだった。
「つ、次の任務こそは絶対にこなしてみせます!!」
 コーダは声高らかにそう言って、部屋をあとにした。部屋に一人残った男はポケットから携帯電話を取り出し、ある人物の番号を押していく。数秒の呼び出し音のあと相手の人物が電話をとる。
「“アキレス”か? 今、何をしている?」
『ボスですか? 今さっき任務が終わったので次の任務に取り掛かろうとしています』
 落ち着いた口調で相手が答える。
「緊急任務だ。コーダを消せ。簡単な任務もできん役立たずだ」
『いつものようにボスがお消しになられては? 任務失敗者への制裁はボスの楽しみではないですか』
 アキレスは怪訝そうに尋ねる。今の今まで任務を失敗した者へ手を下さなかったことはなかった。それが彼の楽しみであり、趣味だからだ。男の右腕であるアキレスは何度も残酷な仕打ちを受ける部下の姿を見てきた。
「俺は今、忙しいのだよ」
『……分かりました。早急に任務を遂行します』
「よろしい」
 男は電話を切った。薄暗い部屋の中で男は一人、いつまでも笑っていた。
今日もまた、この組織の組員が一人減った。





「菜月、大丈夫か? 寒くないか」
「ええ、平気よ。それより栄司、あなたのほうこそ大丈夫? 震えているわよ」
  栄司は大丈夫さと強がってみたが実はかなりやばい。なぜ菜月は平気な顔をしていられるのだろう。これは感情云々の問題ではない気がする。栄司の案で取り敢えず暖をとることにした。このままでは凍えてしまう。
 持って来た荷物からマッチを取り出し、枯れ木を集め火をつける。原始的だが自然の火の方が暖かい。二人は焚き木を囲むように座る。こんな時間だから山から煙が出ていることに気付く人はいないと思う。
「菜月はさ、寂しくないの? 記憶がなくて」
 栄司の問いかけに対して本気で分からない、といった調子で菜月は答える。
「別に私は記憶がないことで悲観した事はないわ。といってもなぜ私が追われているのかということだけは知りたいけれど」
「今日はこのまま休もう。こう寒くちゃろくに動けないから」
「……わかったわ」
 栄司は荷物から毛布を二枚取り出し、一枚を自分にもう一枚を菜月に渡した。凍えるほど寒かったけど焚き木のすぐ近くで毛布に包まっていれば何とか我慢は出来た。栄司は暫く星空を眺めていたけれどやがて眠りについた。


「――司、栄司」
 誰かに呼ばれ、揺り動かされているような感じがして栄司は目が覚めた。どうやら菜月が起こしたようだ。時間はまだほとんど経っていない。栄司は眼をこすりながら菜月になぜ起こしたか問おうとしたら
「静かにして。周り、誰かに囲まれてるわ」
 栄司の眠気は一瞬にして吹き飛んだ。
「だ、誰に? もしかしてあいつらか?」
「違うと思う。けど決して良い人たちではなさそうね」
 確かに耳を澄ませばあたりに人の気配があるような気もする。菜月は良く気づいたもんだ。
「……どうする?」
「下手に動かないほうが良いと思うわ」
 やがて周りの人の気配はどんどん近づいてきた。もう足音が普通に聞こえるほど近くに。そして藪を掻き分け5人ほどの大柄の男達が姿を現した。
「驚いたぜ。こんなところにガキがいるなんてよ」
「こんな時間にこんな場所にいるなんてちと変だぜ」
「取り敢えずお頭を呼んでこようぜ」
 男のうちの一人はいま来たのと逆の方向に走っていった。





 そんなこんなで今に至るわけである。
「取り敢えず連れてくぞ。こんな時間にこんな所にいられちゃな……」
「へい」
 ボスだと思われる男が命令を下し、男達が反応する。栄司はとっさにやばいと思い菜月の手を引き、逃げようとする。
「菜月、逃げよう!」
「おい、待ちな!」
 栄司の手をつかみ、逃げるのを阻止しようとする。栄司は何とか振り切ろうと手足をバタつかせ暴れまわる。
「おとなしくしねぇか!」
 後頭部に強い衝撃を感じ、栄司の意識はそこで途切れた。
 










2004/10/25(Mon)17:12:05 公開 / 九邪
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■作者からのメッセージ
HEY! どうも九邪です。
ようやっとネタ思いついたんで更新しました。三話坊主にならなくてすみました。あぁ良かった。
今回はちょっと場面の変更が多くて分かりにくいかもしれません。けど、こうにしかならなかったんです(泣
私事ですが最近洋楽にめっさはまってます。特に70〜80年代のバンドに。LED ZEPPELINやDEEP PURPLEなどです。話が横に逸れましたが、これからもお願いします。
では、感想、アドバイスなどよろしくお願いします。
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