- 『四宮と由美』 作者:霧 / 未分類 未分類
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原稿用紙約12.9枚
高校生になると、市内の学区がなくなるから、見たこともない人がやってくる。当然だけど、それだけいろんな性格の人がいる。
私は、15年間の人生の中で一番地味な人間に出会った。
私、西村由美の中学時代は最高だった。クラス内では私が皆の中心にいたと思う。クラス内で私と話さない子がいないほどだった。人気者……自分でいうのはどうかと思うけど……だったんだ。それでいて、誰も陰口など言わなかったと思う。
男子に3回も告白されたから、こんなナルシストみたいなこと言えるんだと思う。とにかく私は母校の皆が好きだった。皆っていうのは言い過ぎかもしれないけど。
高校生になってもそれはほとんど変わっていない。むしろ、私と気が合う人が増えた。最高。このクラスでは私と話していない人なんていない……。皆が皆、私に話し掛けてきた。
……あれ?違う、皆じゃない……。
でも……こんな子、いたっけ?
四宮 隆行(しのみや たかゆき)
四宮は誰とも話そうとしなかった。何しろ私が話し掛けてないんだから、当然他の誰も話し掛けていない。
別に珍しくもない。中学の時もそういう人間はいた。その人たちはたいてい誰とも話さないまま一年を過ごすけど、その時は私が話し掛けたことでクラスの輪に入り込めた人が多かった。ていうか、その人たちは全員そうだ。
だから、今回の場合だって、私が話し掛ければ、クラスに入れられる。そう思っていた。
「四宮隆行!」私が叫んだ。クラス内の目線が私に向いた。でも、私だからこの行為は許される。
「なんだよ」冷めた反応。私はちょっとひるんだ。
「……体育祭のダンスの役、四宮だけ決まってないから……」
「一番楽な役にしといて」間髪いれず。
なによそれ。でも、ここでキレちゃいけない。
「そんな役ないよ。皆同じくらいの感じだよ」
「じゃあ、余ったのでいい」
そういうと、四宮は教室を去った。そのスピードの速いこと……。
「なにあれ」ミク。
「キョーチョーセーがないよな」前田。
「つーかキモい」千沙。
「由美、気にしないで、あんなのほっときなよ」明美。
「ニキビ多すぎだっつの」金田。
「キモい上になんか陰気くさいし」坂本。
言い過ぎ……。でも、それを口には出せない。クラスの皆が四宮の出て行ったドアを睨んでいた。こんな状況じゃね……。
耐えられなくなって、私は教室から抜け出した。
四宮に対してむかついたけど、クラスの皆にも嫌悪感はあった。とても変な気分だった。クラスメートに腹を立てるなんて初めて。
「四宮って、中学からあんな感じだったの?」帰りに朋子に聞いてみた。
「うーん、明るい方じゃなかったけどね。それでも話されれば普通に受け答えしてたよ」
「変わったんだ」
「変わったね」
何が彼を変えたんだろう……。
「四宮、可哀想だよね、一人でさ」私が言う。
「それ、本気でそう思ってんの?」
「思ってるよ」……じゃなきゃあんなことしない。
「ねえ由美。あれのどこがいいわけ?」
……なんか勘違いしてない?
「私、別に四宮のことが好きとかそういうんじゃないよ。ほら、四宮って一人で可哀想じゃん。だから、クラスに溶け込ませたいだけだよ」
「そういうの、結構迷惑かもよ」
そうかなあ……。でも、やっぱり一人は寂しいと思うよ……。
それから、私の関心は四宮一点に集中した。
「四宮、ここ教えて」
「早く役決めてよ」
「次のテストって……」
「ちょっと、四宮」
話のネタはたくさんあったけど……。
「うっさい」すぐに切られた。
だけど、今日はそれでも食い下がらない。
「四宮、ほら、ダンスの役早く決めてよ」
そう言って、無理やり役のリストを見せた。
実際は、主役はもう決まったので、選択肢は3つしかなかった。それも、全部兵隊程度の役。だけど、四宮に決めて欲しかった。少しでもクラスに参加してほしかった。だけど返ってきた返事は……。
「うっさい」
かちんときた。
「四宮って寂しくないの?いっつも一人でさ」
「うっさい」
「友達いないんでしょ?」
「うざってえんだよ」
「…そんな……そんな言い方ないじゃ……」
「由美ちゃん」四宮じゃない。前田だった。
「なんでそいつに肩入れすんだよ」
なんでって……四宮が、一人だから……。
ハッとした。クラスの皆が私を軽蔑にも似た目つきで睨んでいた。私は凍りついた。
「もうほっとけよ。そんな最低な奴」
皆が一斉に座りだしたのは、始業のチャイムのせいだと、しばらくして気が付いた。
私が涙ぐんでたこともね。
その日は、誰とも一緒に帰らなかった。これも初めて。だけど全然うれしくない。
次の日、朝の教室はいやに騒がしかった。私はそこに入って呆然とした。
「なにこれ……」思わず呟いた。
黒板に、色とりどりのチョークで何か文字がかかれていた。あまりの派手さに何かイベントでもあるのかと思った。
しかし、近づいて見てみたらそれは大きな間違いだった。
死ね!四宮!
由美ちゃんを泣かした豚男!
消えちまえ!クズが!
つーか、人間?ニキビキモいし。
私が、人気者すぎたから?私が、四宮と話して泣いたから?一体誰がこんなことを……。
一文一文で字が違う……。きっと、皆が……」
「四宮隆行のことをうまく表現していますなーー……なんちゃって」ミクだった。ふざけて言ったつもりだろうけど、残酷な一言だった。
「アンタが書いたの?」私の声は震えていた。
「え、違うけど。でも、いいじゃん別に」
私の顔を見て、ミクは慌てて付け足した。
「消せるしさ」
本当に、これを消せるっていうの……?
その時、教室のドアが開いた。四宮が来た。
「おっ、来たじゃん」前田だ。
「せーの」
「死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!」
「やめて!」私が叫んだ。時間が、止まった。
「ちょっと、ひどすぎだよ……」
「……とにかく、由美ちゃんに謝れよ」金田が言った。
四宮が、私を睨みつけた。
「お前が、仕組んだ、のか……」
「ちが……」
四宮は教室から走り去った。
「待って!」
私は、四宮のあとを追いかけた。
バカップル誕生じゃん……。
由美ちゃんてああいうのタイプだったんだ……。
そんな声が、教室から聞こえた。だけど、戻って否定している暇はない。私は階段を駆け下りた。
「由美!アンタ何やってんの?」朋子とすれ違った。勿論止まって説明なんかできない。私はひたすら走った。
四宮は、下駄箱にいた。下駄箱で、泣いていていた……。私も。でも、涙をふいて、こう言った。
「四宮隆行!」
四宮が私を見た。私も四宮を見た。
「な、んだよ」
「どこ行くのよ」
「帰るんだよ。帰って、退学届書いて、退学」
……は?
「何言ってんのよ」
「学校つまんねーし、前から考えてたんだよ。で、さっきお前があんなこと仕組んだからさ。決心した」
「私は何もしてない!」
「知ってるよ。でもいい口実になった。友達に裏切られた、なんてな」
「大体、退学なんて、親が許すわけ……」
「親?俺の父さんは去年死んだ。残った母さんは生活費ヤバイくせに『バイトなんてしなくてもいいから高校いきなさい』だぜ。そこまでして学校来たってしょうがないだろ。しかも面白くねーし」これが、四宮の変わった理由……。
「でも、退学届出すにしても、皆ときっちり……」
「俺に謝れってのか?俺は何も悪い事してねえぞ。お前が勝手に俺に……バイトのことでそれどころじゃないのに……話し掛けてきて、で、勝手に泣いて、他の連中が勝手に盛り上がっただけのことだろ」
そうなんだ……。私は、勝手にお節介を焼いていたんだ。朋子のいったとおり、四宮にとってあれは迷惑だったんだ……。
「ごめんね」心からそう思った。
「お前に謝られてもさ。あいつらが謝らないと」四宮が言う。
その時。
「四宮!アンタさっさと教室戻りなよ!皆アンタに謝りたいって!」朋子が駆けて来た。
え?私は朋子に駆け寄った。
「どういうこと?」小声。
「アタシがあいつらを説得したの。四宮の家庭の事情暴露して、由美は確かにお節介だったけど、ここまで仕立て上げたのはあんたたちだって言ってさ。馬鹿ばっかりだからすぐ納得したんだよ」朋子も小声。
「四宮の事情、知ってたの?」
「知ってるよ」普通に言う。
「なんで教えてくれなかったの?」
「アンタが聞かなかったから」平然と言う。
そういえば朋子はおしゃべりではない。余計なことはしゃべらない性格だ。
「四宮!とにかく戻ろう!退学届はそのあと考えたら?」
「退学届?」朋子が突っ込む。話がややこしくなる。
「あとで話すから」
「いい。帰るよ」四宮はそう言ったが、私と朋子が四宮をがっちりと捕まえた。
「女を待たせない!さっさと行く!」朋子が四宮の腕をひねった。
「分かった、行くよ、行くから離せ!」四宮はこの台詞を待っていたようだった。
朋子と私が手を離すと、四宮は階段を駆け抜けていった。
「あいつ、笑ってるよ……」
ホントだ……。四宮、やっぱり嬉しいんだ……これできっと友達出来るよ。私達が第一号だけどね。
結局、一番分かってたのは朋子だった。四宮の家庭の事情も、私の親切が、四宮にとって迷惑だってことも、それに、皆をまとめるコツもね……。
でも、私だって少しは分かってるよ、朋子。やっぱり、人は一人じゃ生きていけないよね。(おしまい)
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2004/08/23(Mon)18:54:26 公開 / 霧
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■作者からのメッセージ
前のタイトルが分かりにくかったので変えさせていただきました。他は変わってません。「変わったのか」と思った方(特に卍丸様)、申し訳ありません。