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『少年A』 作者:蘇芳 / 未分類 未分類
全角2031.5文字
容量4063 bytes
原稿用紙約7.15枚
夕闇に響く、一発の銃声。
最初はただの衝撃。そして顔面にぶち当たった物が床だと理解するのに、数秒かかる。
やがて襲い来る痛みの奔流。
情けなく叫び声を上げ、悶えるようにして転げまわる。
動けば動くほど血は溢れ出し、痛みはやがて身を焼く熱に変わる。
死ぬんか。
俺はもう死ぬんか。
死にたない。
生まれて初めてそう思ったのを、よく覚えている。

「なんや翔ちゃん、もう死んじまうのか?」
旧友の冷たい、まるで感情というものが宿らない視線が俺を刺す。
霞がかった視界で捕らえた物は、そいつの手に握られた黒い塊。
よくドラマなんかで見る。でも外国の警察じゃあ、あんな玩具なんか使わん。
日本の警察だけが使ってるニューナンブとか言う銃だ。
装弾数は六発。重量は1キロちょい。
45口径の鉛の軟弾頭を撃ち出す奴だ。
「? コイツか?」
俺の視線は、どうやらそれに注がれていたらしい。
なんで高校生が銃持ってるとかいう理由じゃなくて、なんで実銃なんつーケッタイなもん持ってるのか。
そんな単純な理由で。
「コイツなあ、警官にもらったんや」
「……っ」
貰う? 警官に?
「なんやバイク乗っとったらギャーたれてきよる。むかついたもんで一発殴ってやったら倒れよってな。
なんやメンドくさなったもんで、マウントとって殴ってるうちに動かんくなってな。蹴っても起きへん、そいで銃パチって逃げてきたんよ」
そして再び俺のほうに、その銃口を向けた。
ライフルの彫り込まれた銃身が微動だにせず俺を捕らえ、その撃鉄がガチリと起こされる。
シリンダーが回転し弾丸を装填。セーフティを解除し、その引き金に指をかける。
ホントにエアガンと変わらん。
撃つ時も、エアガン感覚で撃つんやろな。
そないな事して楽しいんか?
俺はおもろないと思うねんけどな、どうなんや?
「…ぃ……なん、よ」
「聞こえへんわ、マッポ来る前に撃たせてもらうで」
押し込まれる引き金。
甲高い銃声と、鼻をつく硝煙の匂い。
飛び散る脳漿と鮮血が地面に花を咲かせ、司令塔を失った体がビクビクと痙攣する。
頭の上半分を消し飛ばされ、もの言わぬ俺の体を爪先がつつく。
「なんや、もう死んじまったんかい」
つんつんと何か得体の知れないものでも突付くように、爪先で死体を蹴る。
ああ、ホントに死んでもうたか。
ほんま、楽なもんやな。
ただ人が死ぬところを見てみたかった。
アニメ、ゲーム、ドラマ。空想の世界じゃ、いくらでも人なんざ死による。
そんなんやない。ただ純粋に死体ゆーものが見とうて、バカスカ撃ってみた。
知らないガキ、知らないオッサン、知らないオバン、知らない爺さん、知らない婆さん。
知らない人間をいくら殴っても、いくら殺しても何も感じへんかった。
ただ逆に虚しい。
頭上半分ふっとんで死によるか、胸に風穴空くか。
そんなもんや無い。
死体ゆーもんは、もっと綺麗なもんやった。
少なくとも、俺のしっとる死体は綺麗なもんや。
んで残った一発、俺のよく知っとる奴に使った。
おかしなもんや。
死体は綺麗なんや、せや、今しがた死んだ奴なんざ、最高に綺麗なんや。
でも、なんなんやろうな。
この頬を伝うのは、一体なんなんやろな?
誰か教えてくれや、なあ後生や。
頼むで教えてくれや、なあ翔ちゃん。
声聞かせてくれや、もう一度、俺のこと睨んでみいや。
なあ、口あらへんやん。
口どないしたんよ。
目もあらへんやんか、これじゃ見えへん。
耳も、鼻も、なんもあらへんやんけ。
どないしたんや? なあ、答えてくれや。
あ、俺が握っとるのって、銃か?
せや、警官殺してもうたんや。んで盗ってきたんや。
じゃあ、なにか?
翔ちゃん殺したんは俺なんか?
いんや、んな事あらへん。
確かにオッサンやらは殺した、でも友達殺すなんてしいへんよ。
でけへん、俺には、んな事でけへん。
なあ、なあ。
起きてくれよ、また二人で棒高でもやろうや。
翔ちゃん凄かったやん。5かそんくらい軽く跳んで、先公らも誉めとったやん。
翔ちゃん、そんときだけ生きてるって顔しとったやん。
それに翔ちゃん死んだら、サツキどうすんねん。
翔ちゃん、サツキと居る時だけは幸せな顔しとった。
サツキも幸せな顔しとった。なんや、泣かせへん言うたやんか。
翔ちゃん壊れてもうたら、サツキが泣くで。
なんや、よお聞こえへんよ。
翔ちゃん、声、聞かせてくれや…。






翌年某月某日。
当時17歳の少年Aに、死刑判決。
三浦裁判官長曰く、「反省の色が見られない。証拠、事実。ともに揃った状態で嘘を吐き続けた事は、遺族や被害者に対しての冒涜である。この死刑判決が間違っていると言うのであれば、自身の良心に尋ねてみればいい」
そして間を置き、
「被告人、少年Aを死刑に処す」
そして死刑執行。
少年Aこと茨木翔哉は、十三階段を上り、首に縄を掛けられても言いつづけた。

「なあ、翔ちゃんに会わしてくれや。もっかい跳びいくんよ、翔ちゃん凄かったやん。もっかい跳ぶべよ、なあ翔ちゃん」

end
2004/08/19(Thu)20:55:51 公開 / 蘇芳
■この作品の著作権は蘇芳さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
サイコ? うーん…不明だす。
なんつーかオチガ意味プーって感じ。
酷評でもいいので付けてくださいm(_ _)m
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