- 『繰り返し』 作者:カックロ / 未分類 未分類
-
全角1807.5文字
容量3615 bytes
原稿用紙約6.55枚
「ねー? マーマ。パパ、どこへ行ったの? 今日は、遊園地連れて行くっていっていたじゃない。ねぇ、パパ、どこ? 」
小さい頃、母のエプロンの端をクイクイと引きながら、聞いたのを覚えている。
そんな俺の声を聞き母は、くるり、と振り返っていった。
「……どうして、こんな人のこと心配するの……? あなたには、もうパパなんて、パパなんていないのよ」
上からツー、と滴る……涙? ……いや、違う。
「ママー、この赤いの、なぁに? 」
その赤い液体がなんなのかを、俺は1年後知ることになる。
「……ぱーぱ……」
……俺は、3歳にして人が死ぬのを目の当たりにしてしまった。
――不幸の少年である、と言えよう。
10年後の今、俺は13歳。あのときの母親は、今だ逃亡生活を送っている。
新聞を広げて全ての記事に目を通す。
「・・・8時か、そろそろ行かなくっちゃ、な」
パタリ、くしゃくしゃ、と新聞をテーブルの上に置く。
「行ってきます」といっても返事も何も返ってこない家を、出た。
一刻も早く、アイツがつかまってほしい。
「……俺の願いは、それだけだ」
フッ、という笑みを浮かべ、俺はバスに乗った。
クッ、いまさら後悔しても遅いんだろうか。
また同じ運命路を見なくてはならないなんて。
つり革につかまり乗っている途中、バスの揺れで、俺は女の人にぶつかってしまった。
「あ、すいません」
ふ……とこちらを見た女の人は、背は低く、フードをかぶり、前髪を伸ばしていた。目はみえない。……キツイ、オレンジの香水の臭いがする、奇妙な女。
「どうも……」
暗く重く響くような声。女の人の声とは信じられない。
「ん? あの臭い……」
もっと、早く気づけばよかったのに。
ああ、自分を責めたくなる。
「ま、いっか」
そういい俺はバスを降りる。中学校前の郵便局のところのバス停だ。
……悔しい。
何もせず、見ているだけなんて。
「・・・・だれか、見ていたような・・・・? 」
気のせいと思い、俺は中学校へすたすたといく。
ああ、行かないで。お願いだ。
――でも、もう俺の叫びも届かない。
どうしてあの時守ることができなかったんだろう。
――約束を。
「おはよう、美沙」
美沙。俺の彼女。
「おはよう! ……今日のデート、忘れないでよっ」
俺と美沙は今日、デートの約束をしていた。
「ああ、わかってる」
……でも、俺は行かなかった。
行けば、あんなことにならずにすんだかもしれないのに……
「おい、今日、遊べるか? ゲーセンいくんだけどさ」
そう声をかけてきたのは仲のよいグループの中心的存在、純。
俺が、あのとき「あ、今日彼女とデートなんだ」って、ことわっておけばよかったのに・・・
「ああ、いいぜ。今日、暇だし」
ああ、遂に約束を破ってしまった。
もう、この回り始めた運命の歯車は止められない!
「あ、しまった。今日美沙とデートだっけ。――まあ、一回くらい、いーやっ」
見ているだけというのはなんとも酷だ。
そして、放課後。
俺は仲間との約束で、ゲーセンに向かった。
すると、ゲーセンには、今朝バスでぶつかってしまった女がいるではないか。
近づくな。近づくな。念じても、届かないのが余計悔しい。
全てを知っている、自分が。
「あ、今朝ぶつかっちゃった人……」
そういい、声をかける俺。
「ああ、今朝の……」
女はそして、俺の鞄についているネームを見た。
「ふぅん……。来て、ジュースおごるわ」
そういい、女は俺を外に連れ出した。
やめてくれ、見たくない!
誰か……誰か!
女と俺は裏路地に入る。
「ちょっと、どこいくんスか!? 」
ああ! 逃げてくれ!
「……地獄……」
女がそういい終わらないか終わったかのうち、ザシュ、という音を立て、辺りに血が飛んだ。
「ふふふ……バイバイ、私の可愛い息子……」
血塗れたナイフを手に、女は消えていった。
「く・・・そぉ! 」
ああ、ついにとめることができなかった。俺を。
また同じ輪廻をくりかえすだけ。――キリがない。
俺はただ見ているだけ。俺が死ぬのを。
悔しさ、儚さ、……憎しみ。
それだけが俺を包み込んでゆく。
「いやだ、死にたくない! 」
その叫びは、闇に吸い込まれていった。
「ふふふふ……、アッハッハッハッハッハッハ」
奴は、奴は……
悪魔の使い魔だ。
-
2004/08/18(Wed)14:17:33 公開 / カックロ
■この作品の著作権はカックロさんにあります。無断転載は禁止です。
-
■作者からのメッセージ
作者からのメッセージはありません。