- 『戦場の歌姫『読みきり』』 作者:鈴鹿 / 未分類 未分類
 
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原稿用紙約6.6枚
	
	 時は2150年。
 国は時とともに変わり、そして人にも変化を及ばせた。
 日本とアメリカの交渉が決裂し、それを境に・・・。
 戦争となったのである。
+戦場の歌姫+
 ・・・日本・・・
 男達は次々と戦場に兵士として派遣された。
 一方、家に残されている女子供達は、アメリカ兵に捕まる者もあったり、兵に盾突くものもあった。
 ―捕まれば奴隷になる
 ―盾突けばころされる
 どちらに転んでも、最悪の事態は免れられないはずだ。
 
 そして、これは一人の少女と、その弟の物語である。
 
 ある、ぼろぼろのトタン屋根の家でのこと。
「姉ちゃあん・・・はら、へったよう」
 と、元気のない声で言う少年。彼の名は「トオル」
「我慢しなさい。もうじき、ママが何か持ってきてくれる」
 コロコロ・・・と石を蹴飛ばしながらトオルの姉、ミヤコは答えた。
 彼らの父親もまた、兵士として派遣されたのだった。
 ・・・そして、戦場での死を戦場に派遣された医師からミヤコは聞いたのだった。
 
「パパは、いつかえってくるの? 」
 トオルは、まだ5歳。
 自分の父親が死んだことも、戦争の大変さも、まだ、何もわからない。
 ミヤコは胸がぎゅっとしめつけられるような苦しみを感じた。
「・・・きっと、いつか・・・帰ってくるわよ。きっと」
 今は、それしか言うことができないだろう、という思いを胸にミヤコはいった。
「それより、トオル。もう寝なさい。夜が更けてくるわ」
 そういい、ミヤコはトオルを寝かしつけた。
「風が 唄うのならば ゆりかごから 見える月が 君を守ってくれるから・・・♪」
 ミヤコが、ぼろぼろの薄い布団にトオルを寝かし、そして優しい声で子守唄を歌った。
「ルルルル・・・ルルル・・・・ルルルル・・・・」
 その翌日。
 トオルは姉より早く目が覚め、外に出ていた。
「あっ」
 その時、向こうから人が走ってくるのが見えた。
「水城のおじさん!! 」
 その人は、ミヤコたちを世話してくれていた、優しい水城おじさんだったのだ。
「た・・・大変だ! ミヤコのおっかさん、米兵に撃たれて・・・」
 おじさんがハッと気づいたときには遅かった。 
 「トオル」にそのことを話してはいけなかったんだ・・・と、後悔してももう遅かった。
 トオルはカッと目を見開き、戦場へ向かった。
 一時間後。
「トオルっ、トオルー! 」
 ミヤコは、トオルがいつまでたっても戻らないので心配になっていた。
「ミヤコちゃん! ミヤコちゃん! 」
 そう叫びながら近づいてきたのは、水城おじさん。
 こちらに向かって、手を振っている。
「おじさん、トオルが・・・・」
 ミヤコがそこまで言いかけたときだった。
「と・・・トオルちゃん、まだ戻ってきてねぇのか?! ・・・・トオルちゃん・・・さっき、戦場のほうへ行って・・・・・」
 おじさんが俯きながら言った。
「・・・・ありがとう」
 そういい残し、ミヤコはその場を後にした・・・
「・・・トオル? トオル・・・」
 そこは米兵、日兵の死体でいっぱいだった。
「・・・こんな、こんなこと・・・」
 周りを見ながら歩くミヤコ。そして・・・
「トオルっ!! 」
 木の陰に、倒れこんでいるトオルを見つけたのだった。
 しかし、トオルの細い、白い腕は赤く染まり、眼は半開きだ。
「・・・ね・・・ちゃん・・・・? 」
 今にも消えそうな目でトオルが問いかけた。
「そうよ・・・私よ・・・。・・・死んじゃ・・・いやっ! トオル! 」
 ギュッとトオルを抱きしめるミヤコ。
「ぱ・・・ぱ・・・ま・・・・・・・」
「ま・・・」
 ガクッと、体中の力が抜けていく。
『トオル』
『たった一人の・・・私の弟・・・』
「風が・・・唄うのならば ゆりかごか・・ら・・・見える 月・・・が っく・・・君を・・・守ってくれ・・・る・・から・・」
「ルルルル・・・ルルル・・・ルルル・・・。ルルルル・・・ルルル・・・・」
 泣きながら、子守唄を一生懸命唄うミヤコ。
「ルルルル・・・ルルル・・・ルルルルル・・・・っ・・・」
 涙が、あふれてきて前が見えない。
「トオルーっ!! 」
 そう、空に叫んだ。
 「トオルを返して」と・・・
 でも、もう後戻りできない。
 バンッ・・・
 戦場の歌姫は、戦場に散った。
 でも、なぜかミヤコは最後まで・・・
 笑っていた。
終わり
 
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2004/08/07(Sat)15:21:26 公開 / 鈴鹿
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■作者からのメッセージ
初めまして。
鈴鹿(すずか)です
読みきり書いてみました。
長いですが、ここまで読んでくださってありがとうございました!!