オリジナル小説 投稿掲示板『登竜門』へようこそ! ... 創作小説投稿/小説掲示板

 誤動作・不具合に気付いた際には管理板『バグ報告スレッド』へご一報お願い致します。

 システム拡張変更予定(感想書き込みできませんが、作品探したり読むのは早いかと)。
 全作品から原稿枚数順表示や、 評価(ポイント)合計順コメント数順ができます。
 利用者の方々に支えられて開設から10年、これまでで5400件以上の作品。作品の為にもシステムメンテ等して参ります。

 縦書きビューワがNoto Serif JP対応になりました(Androidスマホ対応)。是非「[縦] 」から読んでください。by 運営者:紅堂幹人(@MikitoKudow) Facebook

-20031231 -20040229 -20040430 -20040530 -20040731
-20040930 -20041130 -20050115 -20050315 -20050430
-20050615 -20050731 -20050915 -20051115 -20060120
-20060331 -20060430 -20060630 -20061231 -20070615
-20071031 -20080130 -20080730 -20081130 -20091031
-20100301 -20100831 -20110331 -20120331 -girls_compilation
-completed_01 -completed_02 -completed_03 -completed_04 -incomp_01
-incomp_02 -現行ログ
メニュー
お知らせ・概要など
必読【利用規約】
クッキー環境設定
RSS 1.0 feed
Atom 1.0 feed
リレー小説板β
雑談掲示板
討論・管理掲示板
サポートツール

『イヴの一生  第一話〜第四話』 作者:白桜 / 未分類 未分類
全角9654.5文字
容量19309 bytes
原稿用紙約32.5枚
第一話 『戦争』

イヴと呼ばれる少女は、いつもの病棟で遠い空を見上げていた。
「私はね、きっと鳥。空がないと、飛ぶコトもできないの」
「……イヴ、空がなくなるコトはないだろう?」
「なら先生、空はなくならないの?」
「それは……」
クローン人間、世の中ではそう呼ばれるのだろう。
国が極秘で創り、そして育てている“人間”。
そして洋介は医者としてではなく、学校の先生として招かれた。
「ならイヴ、私は?」
「先生は魚」
「水がないと生きられない?」
「ううん、空気がなくても生きていける」
すでに見た目は16,7には見えるが、人間の年にして4才。知能はまだ4才だ。
そのためか、思いついた生き物に自分を重ね、また、他人を重ねる。
小さな頃、自分がヒーローだと思い込み遊んでいた子供の様に。
「イヴ、ちょっと難しいかも知れないが魚は水の中にあるわずかな空気を……」
「先生、今は魚、どうでもいい」

***

「どうだ、洋介、イヴの様子は?」
浅野は洋介の研究室にノックもせずに入ってきた。
「あ、浅野先生、おひさしぶりです。すみません、急に呼び出しちゃって」
「いいの、いいの。いやー、イヴのコトが心配でね。親心っつーの?
 あとプライベートなんだしよ、先生とかいいから」
浅野はクローン人間に一般から先生をつける、という意見を出した人物だった。
イヴを人間らしく育てたい、誰よりもそう思ってくれていた。
「イヴは相変わらずですよ。ココロと身体のバランスが取れてない、っていうか……」
「そんなバランスが取れた子供はいねぇだろ」
「いえ、なんていうか、外見の成長が早すぎる」
「あぁ、クローン羊も老いが早かったというしな」
「羊じゃわからないですよ、確かな知能指数までは」
「そうか……まぁ、創られた人間なんて前例がないコトだもんな」
浅野は椅子に座りおもむろにタバコを取り出した。
「浅野さん、イヴはいつまで病院に?」
「どうかね。まぁ外に出すコトについては禁止されてないんだから連れ出しちゃえよ。
 正直、イヴを創っちまった人間としては、いつまでもイヴを病院には置きたくない」
「確かに歩いてたりするだけなら普通の人間と何もわからないですからね。
 でも、人間として自然な産まれ方をしていない」
少しトゲを残した言い方だった。浅野はだるそうにタバコの煙をはく。
「洋介、お前はこだわるよな。人間との差に」
「まぁ、過去に触れたコトのない“人間”ですから」
「そんなの、産まれ方ひとつだろ」
「いえ、オレはへそのついた鳥は飼いたくないですよ」
「おい、イヴをへつのついた鳥みたいな言い方をするな」
「それは私たちが人間だからですよ。人間は結局自分が人間であるコトをほこってる。
 私たちが羊なら、クローン羊をどう見るか。一般の人がイヴをどういう目で見るかわかるはずです」
浅野はまだ長いタバコを消して洋介の方を見た。
「……洋介。前々から聞きたかったんだケドな」
「どうしたんですか?そんな改まって……」
「お前、このプロジェクトどう思ってる?」
洋介は顔色を変えた。
「なんですか、そんなコト。国から雇われ、国家公務員として快適な生活ですよ」
「ウソつけ。それにそういうコトを聞いてるんじゃねぇよ。
 お前はイヴを人間として見てやれてないだろ」
「いえ、イヴは好きですよ、人間として。でも、人間じゃない。
 結局は遺伝子が人間と同じ“人間”という生命体なんです。
 浅野さんには悪いと思いますが、“人間”を普通の人間と同じ様に育てる……。
 ペットの飼い主が「なんでうちの子を周りは人間の様に見れないの?」と言っている様な……」
浅野は苦笑した。
「つまり、だ。イヴをペットの様に鎖でもつけて育てろ、って言いたいのか?
 なんでイヴをお前は人間として見てやれねぇんだ!?」
浅野は興奮気味に洋介に問いただした。
「イヴを人間と言い切れば、少しでも疑念の残っているオレには偽善です。
 それに、浅野さんの気持ちとは別に、国はイヴを人間として育てる実験をしているだけだ。
 オレにはまるで人間が大自然に対して戦争を仕掛けた様に思うんです」
洋介の冷静な話し口調で浅野も少し冷静になり答えた。
「戦争か。この戦争、人間様が勝っちまったらおしまいだな。
 人間は人間を創れる。大自然にも勝った。お次は星でも創るぞ、か」
「はい。けれど、こうも考えられませんか?
 イヴが人間として育たなければ、自然界は自然界であり続けられる」
「それもひどい話だな。結局イヴは犠牲になるためだけに産まれた。
 そしてそんな犠牲者を、オレは創っちまった……」
またタバコに火をつけ浅野は続けた。
「だけどな、実験はイヴだけで終わったりやしねぇよ、人間様は勝つまでやるぜ」
「いえ、終わらせるんですよ、それが自然界から産まれた人間の礼儀だ」
「終わらせるって……お前、なんか考えでもあるのか?」
「ええ、ここまで回りくどく説明したのもイヴに対して親バカな浅野さんに
 客観的な状況を把握してもらうためです」
「いや、そんなオレ批判はいらねぇから。でもオレに話すってコトは……」
「はい、この作戦には浅野先生の協力がないと何もなりたたないんです。
 正直、日本政府を敵にまわすコトになりますが……自然界を敵に回すよりはよっぽどいい。
 もちろんリスクを伴う話なので、ムリに参加してもらう訳にはいきません。
 けれど、イヴの様な犠牲を出さないためにも協力していただけますか?」
洋介は真剣なまなざしで浅野を見た。
「……わかった、話だけでも聞こう」
浅野はまたタバコを消した。

この瞬間、本当の戦争が始まった。


第二話 『戦争開始』

大々的に雑誌の表紙をイヴが飾った。
それは、科学誌でもなく、少年誌のグラビアだった。

「国は、すべて後手に回る。完璧な先制攻撃を打ったから」

洋介の起こした戦争はたちまち日本政府に広がった。
イヴプロジェクトの責任者であった水田は声を荒げた。
「アイツ…どういうつもりだ!イヴを世間の目に触れさせて……」
それに対しイヴの情報操作を担当する小山は冷静だった。
「イヴの老いの速さを狙ったんでしょう。
 世間の人は異常なスピードで老いていくイヴを見ることになる」
イヴは極秘プロジェクトであったため、政治家ですらほとんどの人がその存在を知らなかった。
おかげで、雑誌を販売前に差し止める様な動きはまったくなかった。
「小山!お前は何をやってた!?情報に関する担当だろ!?
 ちきしょう、国の力を舐めるなよ……即効にタレント“イヴ”を消してやる」
「水田さん……それが、どうもそうはいかないみたいです。
 うまく仕組まれてますよ、洋介くんに」
その昼のワイドショーは先日行われたというTVの収録の話でもちきりだった。

“女優水城 彩、隠し子”

「タレント・イヴだけをどうにかすればいい話じゃなくなってますね」
小山は淡々としていた。
洋介の先制攻撃は少年誌がスタートではなかった。
「イヴがTVを見ながら言ったんだ。『この人が私のお母さんだ』って。
 充分に考えられる説だった。国はきっとイヴを綺麗な子にする必要があったから」
国としてもイヴがどういう“人間”として育つかわからなかったため、
外的要因による精神崩壊などを極力なくす必要があった。
そのため、誰からも温かい目で見られる様なルックスを創り出すため、女優である水城の遺伝子を使用した。
そして、そのコトは作戦を明かした日に浅野の口からも語られた。
この番組は『ガンになりやすい遺伝子を持つ人』という、最近よくある医療系エンターテイメントだった。
そこに、浅野が遺伝子を調べた医者として出てきて何も知らない顔でこう言うのだ。
「実の親子じゃなかったらクローン人間ですよ、こんな似た遺伝子は。
 これはもし本当に子供じゃないのなら学会で発表しようかと……」
そもそも浅野は国にクローン人間誕生をまかされるほどの人間だ。
世界的な地位も、もちろんあった。
つまりTVからしたら世界的な医者が認める『人気女優に隠し子発覚』。
放送しない手はなかった。
そして番組の最後で厚いレポートを手にした浅野は言う。
「2人の遺伝子について学会で発表できる準備ができています」と。
これは世間に対しては『じゃあ本当に親子なんじゃ……』と思わせるだけだが、
日本政府からすると『宣戦布告』だった。
同じ様に影でクローン人間を育てている国はあるだろう。
ただ、どの国も世間に対する道徳的理由から“最初の国”になるのを恐れた。
もし、その疑いがある国が見つかれば、迷わず持ち上げるだろう。
小山はどう情報を操作するか迷った。
「“タレント”イヴを消せば世間は水城の事務所がイヴを消した、
 と思ってくれるだろうが……そうすれば浅野がマスコミを利用し動くだろう。
 イヴと浅野を両方消すと、さすがに最近のマスコミは何かに気付く。
 そこでマスコミを国から情報操作をすれば、政治家は何かに気付く。
 そこで政治家を操作すれば、マスコミは気付いたコトを確信する……。
 さすがにすべてのマスコミを操作するコトはできない。
 だからといって浅野や洋介を消せば、あのレポートは世に出回る。
 世界中で今、最初のつるし上げ国を求めている中、今はまだ芸能ニュースで済んでいるが……」
すべてほおっておけば、タレント・イヴは普通の人間じゃないスピードで老いていく。
小山は様々な案を浮かべ、様々な解決策を思い描き始めた。そんな矢先だった。
部下の1人が走りこんできた。
「水田さん、小山さん、あのレポート、すでに学会に提出されたそうです……。
 しかも“あまりに似すぎている遺伝子”として……。皮肉たっぷりですね」
小山はつぶやいた。
「敵は世界かぁ……洋介やるなぁ」

洋介はイヴの“普通の先生”として雇われた。
“異常なまでに計算されつくした頭を持つ人間”を普通の先生として雇った。
戦場は刻々と動いていた。

第三話 『世界が動く時』

学会のことがテレビで報道がされた。ニュースキャスターは困惑した顔で討論する。
「水城さんの問題ですが……結局クローン人間がどういう風に創られるかもわからないですし……」
「そうですね。ただ、今回の件がそうとは言いませんが、
 アメリカについで日本がクローン人間を創る可能性は高かったんです。
 日本は宗教観がなく、だが金と技術はある。ある種での抵抗は一切ない」
「でも顔は似てると言えば似てますが……クローンというほど似てないんじゃ……」
「クローンの最初、っていうのは今みたいなものではなくて。
 木に他の木の枝をくっつけ成長させるじゃないですか。挿し木ってヤツです。
 あれがクローンの原点と考えれば“似過ぎている”遺伝子って現れそうじゃないですか。
 それに一卵性双生児の双子は同じ遺伝子でも環境によって顔は変わってしまいますしね」
「……ある意味、隠し子であるコトを願いたいです。では、CMです」
雑誌でも頻繁にクローン人間が取り上げられた。
「子供は両親の遺伝子が掛け合わせ産まれるため、似過ぎている遺伝子は有り得ない。
 ところが、一卵性双生児ならば同じ遺伝子ではないか。だが年が合わない。
 すると、やっぱりクローン人間ではないのか……。
 もしくは、水城はアメーバの様に細胞分裂するのか」
“お堅い”まま終わるとクローン人間ではないと証明されたとき責任問題に発展する、
そう考えた日本の週刊誌は冗談まじりに書いた。
世界各国からも日本の政府に声明が発表された。もちろんそのすべてが否定的なものであった。
さらには妙な宗教団体からのクローン人間賛成運動まで行われ、世の中のニュースが一転した。

「大問題じゃねぇか、洋介ー。毎日取材の電話で大変だぞ」
浅野は笑いながら言った。
「まぁ、正直自分でもここまでになるとは思ってませんでしたケドね。
 なんか、映画AKIRAみたいに妙な支持団体までいますから。
 ただ、世の中に一石投じられた。これだけで充分ですよ」
「ところで、イヴは?アイツ知能が4歳で良かったよ。
 もしもっと上だったらこの騒ぎで精神的にどうなったコトか」
「なんか世間が自分の話をしてる、ってことには気付いてるみたいですケドね」
洋介は席を立ち、イヴが出たTVの録画ビデオをまわした。
TVではイヴがいつもの4歳児の様な話し方で話す。
「確かにこの人からお母さんを感じたの……」
出演者も笑いながらイヴに言う。
「大先輩水城さんに『この人』って!
 でもイヴちゃん、可愛いから男性陣は君を守るよ!」
いつもの様に司会者の芸人は軽いテンションで話す。番組途中の浅野のVTRで
「この遺伝子は有り得ない。検査で使った部分の遺伝子はすべて一致している。
 細かく調べれば少しは違うのだろうが……」
というのにも
「水城さん、若さ求め分裂するのは脳の中だけにしてください」
と、軽い調子で流す。
今や世界的問題となってしまったこの放送のせいでこの芸人は
「発言が軽率でした」
と謝罪のコメントまで発表した。

「で、洋介、次の手は?」
「まぁ予定通りイヴには出演依頼が殺到してますケドね。
 ただ、元々新人タレントで次の出演は決まっていなく、
 さらにこんな騒ぎで公の場に姿を現さないのは別に不思議ではない。
 世界の政治家や科学者からの依頼もやっぱり政府が勝手にカットしてくれてますし」
「お前、そこまで読んでたのかよ……ホント怖いヤツだな。で、だから次の手は?」
「あんまり、イヴを疲れさせたくないんで、動きませんよ」
「なっ、そんなことでいいのか?」
「こっちが動かない間も国は勝手に他の国と戦ってますし、妙に手を打たなくても……」
そんな矢先だった。付いたままになっていたTVにテロップが流れた。

『女優の水城彩さん、ビルから飛び降り自殺』

「……洋介?」
「これは……やられた。殺されたんだ、国に」
「水田……、いや、小山だな!」
浅野は携帯を取り出し、小山に電話をかけた。元同僚、当然電話番号くらいは知っていた。
「小山!お前、人を殺すなんて!!」
「何言ってるんですか、この問題を苦に自殺、あなた達のせいでしょう。
 しかも、勝手にイヴを商品にして。
 わかってますか?クローン人間にも人権はある。
 あなた達はイヴを商品の様に世間に見せしめたりして」
「やはり……お前が殺したんだな!!」
「それより久しぶりに電話くれましたね、今度お茶でもどうですか?」
「ふ……ふざけるな!!」
浅野は電話を切った。
「……ち、ちきしょう。アイツ人間をなんだと……」
「浅野さん、絶対小山さんが支持を出したんですか?」
「ああ、アイツがお茶に誘ってくるなんて有り得ない!!」
「……?よくわからない根拠ですけど小山さんと長い付き合いの浅野さんが言うなら。
 それより、これからが問題ですよね。イヴは表に出ざるを得ない」
「ん?なんでだ?その方が根拠なくないか?」
「いえ、今まではただの疑惑だったんでイヴは『水城さんのことを考え』表に出なかった。
 ただ、水城さんが亡くなって外に出ないのは明らかにおかしい。
 現段階でイヴは新人タレント、守るものもなくなった」
「だが、お前はそもそもイヴの老いてく姿を世間に見せるつもりだったんだろ?
 だったら別にどのタイミングで出してもいい準備はあったろ?」
「ええ、でもこんなすぐにまたイヴを公の場に出させなきゃいけなくなるなんて。
 正直、あるコトがわかってからイヴを外に出したかった」
「なんだ、あるコトって?」
「イヴがなんで急な年の取り方をするのか、ですよ。
 言うなれば報道されてる通り、イヴは一卵性双生児と同じ遺伝子構図なのだから、
 なんでこんなに年を早く取るのかわからない。だから浅野さんに調べてもらおうと……」
「ああ、調べてもいいが、調べて結果がでても結局何も変わらなくないか?
 それに、4年調べてもわからなかったことがそんな早く解決するかどうか……」
「浅野さん、イヴの遺伝子は水城さんだけの遺伝子ではないんですよね?」
「ほぼ、水城さんの遺伝子だが……違う部分も確かにある」
「それは……?」
「それは……」
浅野は事細かに洋介にイヴが産まれた経緯を伝えた。
「そうか、それで……浅野さん、次の手が決まりました」

戦争は、なおも続く……。


第四話 『チェック・メイト』

イヴは外を見つめていた。何か、悲しい顔をして。
「どうした?イヴ?こんな夜遅くに」
呼び出しボタンで呼ばれた洋介が優しい口調で話しかける。
「……お母さん、死んじゃった?」
洋介は思わずコトバにつまった。
そういったコトは誰もイヴに口にするはずがなかった。
「な、なんていうか、そうだな。もう会えないかもな」
「そう……死んだらどうなっちゃうんだっけ?」
「んー、お星様になって空からイヴを見ててくれるんだよ」
「そう……じゃあ夜のお空は明るくはずよね……」
いつもと変わらない空。
「今日は……ちょっと雲が多いから」
洋介はあわてて答える。
「お母さんは雲に隠れちゃうの?じゃあ雲ってなんでできるの?」
「え…えっと……」
浅野が笑いながら入ってくる。
「天下の洋介様もイヴ相手には全然だな。
 いいかい、イヴ、雲はね、お星様がどこかおでかけしてる時、
 おウチにドアをする、そのドアなんだよ」
「へー、じゃあ雲がいっぱいの日はみんなおでかけかー」
「そう、きっとお星様のお休みの日なんだよ」
「じゃあじゃあ、なんで雨は降るの?」
「それは……ドアが壊れ……てるっつのも変だよな、洋介」
「天下の浅野様、どうにかしてください」
戦争の中、ひさしぶりに温かい時間が流れた。

「小山、お前の予定ではイヴは表舞台に出てくるんじゃなかったのか?」
「その予定だったんですケドね、思ったよりも世間は好意的な様で。雑誌によると
 『イヴは騒ぎが大きくなり、人が死んだ、という重大性が忘れられないため』
 に出てこないそうです」
「洋介も下らんでっち上げをマスコミに流したもんだ」
水田は外を見つめる。
いつもの様に報道と思われるワゴン車が数台止まっている。
「……ん?お、おい小山!!」
小山がかけより外を見る。
「あれは……洋介君とイヴ……それに、浅野じゃないですか」
報道陣の前に3人が姿を現した。
「一体どういうつもりだ!!おい、外に出るぞ!!」
水田は慌しくスーツを着込んだ。
「いえ、その必要はありませんよ、TVさえつければどうせ……ほら」
TVは一斉に現場の生中継へと変わる。
「えー、イヴさんが出てきました!!そして浅野教授も一緒です!!」
カメラのフラッシュがたかれる。イヴはまぶしそうに下を見る。
「みなさん、静かにしてください!!これから大切なお話をします!!」
洋介が叫んだ。報道陣は静まるが、カメラのフラッシュは止まない。
「ここにいるイヴは、今、クローン人間ではないか、と言われています!!」
洋介にフラッシュがたかれる。報道記者たちは封を切った様に質問をする。
「あなたは誰ですか!?」
「急に我々の前に現れた理由は!?」
浅野が少々緊張気味に声を出す。
「いいから、いいから。今からすべて話しますから!!」
報道陣が静かになるのを見て洋介が話し出す。
「私はイヴの育ての親……とでも言えばいいんでしょうか。
 そして、私は今回の件があるまでイヴのコトをただの孤児としか思っていませんでした」
小山が頭をかしげた。
「あれ、クローン人間と知ってた方が洋介君にとって都合がいいと思いましたが……」
「おい!!何をのんきに観察してる!!今すぐ行って止めるぞ!!」
「水田さん!!やめてください。私は洋介君の話が聞きたいんですから」
小山は水田を黙らせた。洋介の会見は続く。
「ただひとつ、言えるコトは、水城さんとイヴは、指紋が違います!!」
洋介の一言に専門家として浅野が入る。
「一卵性双生児でも指紋は確かに別のものとなります。
 けれど、クローン人間ならば指紋は一致すると……まぁ前例がないので一概には言えませんが」
小山がコトバをにごす。
「あれ、クローン人間と言えど100%遺伝子を一緒にはできないのに。
 そんなの浅野が一番よく知っているじゃないか。
 報道陣も指紋までは一緒にできないコトくらい簡単に調べられる。
 なんでこんなその場しのぎのコトを……」
水田は何か言いたげな表情で小山をにらむ。
小山はそんな水田を無視して独り言を続けた。
「あー、そういうことか。私たちは何の知識もありませんよ、って気取ってるんだ」
だが、そんな独り言を聞いていたかの様にTV画面の洋介は話す。
「けれど、もちろん私たちも何の知識もないワケじゃない。
 遺伝子を100%一致させる技術は今のところないと知っている。
 逆に言えば、まだこの国には遺伝子を完全に一致させる技術はないです」
小山がまた不思議そうに頭をかしげる。
「あれ、今度は自分で矛盾したコトを言ったぞ……」
水田が遂に声を出す。
「おい!!今のはどう聞いても『日本はクローン人間を創っています』ってコトじゃないか!!」
「水田さん、そんなコトは洋介君たちが一番知ってるじゃないですか。
 別にいつ口にしてもおかしくなかった。問題は話の趣旨なんですよ」
水田は真剣にTVを見つめる。洋介は続ける。
「イヴは、クローン人間です。これは浅野先生の調査からも証明済みだ」
それを聞いた瞬間報道陣が一気にフラッシュをたく。また質問が飛び交う。
「さっきクローン人間は指紋が一致するはず、との発言がありましたが、
 結局どっちなんですか!?」
「話が読めません!!簡潔にお話願います!!」
洋介が口を開いた。
「イヴは……今、4歳です。産まれてから4年しか経っていません。
 これは、浅野先生が骨から年齢を調べてくれてわかりました」
報道陣が一斉にイヴの方を向く。
「4歳……?有り得ない。どう見ても10代か、それより上だ」
報道陣がざわめき立つ中、洋介はイヴを見てうなずいた。
イヴもおどおどしながら洋介の顔を見る。
小山がTV画面に向かって手をたたいた。
「わかった!!洋介君はただ報道陣をパニックにさせたいだけだ!!
 状況がつかめない人間は場に流され動く。
 そうすれば報道陣は回り道をしてしまい、自分たちはまた時間をかせげる!!
 水田さん、行きましょう!!私たちが話をまとめればいいんです」
「話が……まとまるのか?こんな状況で」
「そこは私にまかせてください!!行きますよ!!」
2人は急いで報道陣の前に向かった。
そして小山が大声で話し出す。
「いいですか、みなさん、この人たちが言っていることは全部でたらめで……」
浅野は待ってましたとばかりに口を開いた。
「あれ……水田先生に小山先生、どうしたんですか?」
洋介も口を開く。
「え、水田先生も小山先生も殺人事件の担当ではないですよね……?
 むしろ、なんでこんな場所にいるのかもわからないです」
「……!!」
小山は初めてすべてをつかんだ。
初めから自分たちをおびき寄せるコトが目的だったのだ、と。
確かに、自分たちが普段いる場所は昔同じ組織であった浅野はよく知っている。
だからこの場所を選び、そして自分たちはまんまと出てきてしまった。
浅野は口を開いた。
「水田先生に小山先生は、元々有名な科学者さんで……でも急に表舞台から消えましたよね?」
洋介も話し出す。
「そりゃ、国でも極秘の問題じゃ自分たちの代わりに弁解に行ける代理なんていないですよね。
 場に流されて、いつか顔を出すと思ってましたよ」
水田と小山にフラッシュがたかれる。報道陣はしっかり顔をおさえた。
逃げられない、報道陣は世界中から簡単に情報を得られる位置にいる。
洋介は口を開いた。
「本当にパニックになったのは、誰でしょうね」

戦争は、急激にその姿を変えた。


2004/09/17(Fri)18:05:49 公開 / 白桜
■この作品の著作権は白桜さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
更新してみた。
一話を書き足して、読みづらくなりm
四話、思いっきりわかりづらく書きました。
小山の気持ち、わかっていただけましたら幸いで。
ちなみに三話の謎は、持ち越しです。
この作品に対する感想 - 昇順
感想記事の投稿は現在ありません。
名前 E-Mail 文章感想 簡易感想
簡易感想をラジオボタンで選択した場合、コメント欄の本文は無視され、選んだ定型文(0pt)が投稿されます。

この作品の投稿者 及び 運営スタッフ用編集口
スタッフ用:
投稿者用: 編集 削除