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『一枚の絵〜最期の傑作〜    【読みきり】』 作者:九邪 / 未分類 未分類
全角3841文字
容量7682 bytes
原稿用紙約12.6枚
 彼は絵を描いている。何も飲まず、食わずに絵を描いている。きっと明日も明後日も描くだろう。一枚の絵を完成させるために。



【読みきり作品・一枚の絵〜最期の傑作〜】


 彼の名前は北神進士(きたがみ・しんじ)売れない絵描きだ。住んでいる借家を丸々アトリエに改造して、食料や画材の調達以外はほとんど外には出ない。部屋の中はまさに、足の踏み場もないほど画材などで埋め尽くされており、失敗した絵が山のように積まれてある。
「チッ、緑の絵の具がなくなっちまった……。買いに行くかな」
 そう言って、筆を机に置き、エプロンを外し、買出しの準備を始める。
「ついでに、飯も買ってくるかな。ここ最近ろくな物も食ってねぇし」
 財布を探す、が見つからない。ここまで汚く散らかった部屋では財布を見つけるのも一苦労する。やっと、積み上げた失敗作の下から財布を見つけ、ホコリを被ったドアノブをあけて外に出る。太陽が、眩しかった。


 『アートマート苅田』いわゆるスーパーマーケットだが、彼のような絵描きが来ても満足するほど画材が揃っている。何でも社長の息子も絵描きだかららしい。こっちにしてみればありがたい話だ。緑の絵の具にもう少なくなってきている絵の具を何本か、それとカップラーメンなどのレトルト食品を一週間分ほどかごに詰めレジに向かう。絵に集中している時は1,2日何も食べない事がある。そういう場合パンだとカビが生えてくるので、パンは買わない。いくつかの生活用品を買っているとき不意に肩を叩かれた。
「こんにちわ。久しぶりね進士君」
「……お久しぶりです」
 進士は伸びきったひげを指でさする。彼女の名は土井朝子(どい・あさこ)進士の幼馴染の人で良家のお嬢様。長いロングへアーと茶色の目が特徴。進士の親はその家の使用人で朝子は自分と同じ年の進士をえらく気に入り、毎日一緒に遊んでいた。ところが、その頃から好きだった絵を進士が描いている時、余所行きの服を着た朝子が来て、その上等な服に進士が絵の具をつけてしまった。進士の親は首になり、両親はそれぞれ働きに出た。進士は親戚の家に引き取られるが、すぐに家を飛び出し、絵描きとしての道を歩む。新しく住みだした家の近くに朝子も住んでいたのだ。
「お嬢様がこんな小汚い俺に何の御用ですか?」
「いや、あのね……お金に困っているんじゃないかと……」
「余計なお世話です。罪滅ぼしのつもりならやめて下さい」
 朝子はひどくショックを受けた顔をした。進士は少し自分の言ったことを後悔しながら
「……では失礼します」
 と、その場を後にした。

「父さんと母さんからか」
 進士は家のポストに入っている小包を引き摺り下ろす。両親からの仕送りだ。月に一度仕事先から送られてくる。不思議な事に弁当も添えられてだ。
「仕送りはいいんだけど、絵が一枚も売れないから、あっという間になくなるんだよなぁ……」
 と、途方にくれていたら玄関の呼び鈴が鳴った。進士は慌てて玄関に出る。
「よう。久しぶりだな。どうだ絵の方は?」
 玄関にいたのは気さくに笑う丸刈りの男性だった。彼は新橋光(しんばし・ひかる)進士の数少ない友人だ。絵の専門学校に通っているときのクラスメートで一番気があった人物。独立して人を避けるようになってからも、光とだけは今も会っている。
「全然だめさ。まだ一枚も売れてない。両親からの仕送りをケチりにケチってやっと一月耐えてるんだから。お前は?」
 そう言いながら、中に上がらせる。散らかりきった部屋だが、何とか座るスペースを確保し、二人とも座る。
「俺は、正直巧く行ってる。今月だけでも五枚も売れたしな」
 少し、遠慮したように光は言う。
「そうか……。頑張ってるんだな。ちょと待ってろ茶でも出すよ」
 進士が立ち上がり茶を入れに行こうとしたのを光は手で制す。
「いいよいいよ。買い出しのついでに寄っただけだからさ。それにお前の家の茶はカビが生えてるかもしれないからな」
「……有り得るかもしれない」
「じゃあな進士。お互い頑張ろうぜ」
「ああ」
 友の絵は売れてる。その事実が進士に俄然やる気を出させた。


 しかし、一月経っても進士の絵は一向に売れなかった。
「なんでだ! 何で俺の絵は売れねぇんだよ……」
 進士は両親に申し訳なかった。折角海外まで行き仕送りをしてくれているのに自分は全然巧く行っていないだなんて。
 気分を一転するために進士は伸びきったひげと髪を切るために散発に行こうと思った。ちょうど今日は仕送りの日だ。

 近くにあった床屋に入る。一回も来たことはないが取り合えずどこでも良かった。中に入ると床屋特有のにおいが鼻に付いた。
「あ、こちらにどうぞ。お客様」
 床屋の人は50くらいの年の人で、たぶん進士の両親と同じくらいの年だ。進士は椅子に座り、髪除けの服を着せてもらった。
「兄さん、お仕事は何を?」
 できれば何も喋りたくはなかったが、これも床屋の仕事なので答えてやった。
「へぇ、それで絵描きをね。兄さん名前は何てゆうの? 聞いてなかったね」
「北神進士……」
 不意に床屋のおっさんのはさみの手が止まった。鏡越しに見ると驚いた顔だった。
「両親はもしかして、靖男さんと春子さん?」
「そうですけど?」
「そうか、君は靖男の息子か・そういえばどことなく似ている」
 床屋のおっさんは進士の驚いた顔に気付き説明をする。
「いや、君の父と僕は友達だったんだよ。……そういえばさっき君は両親からの仕送りで生活してるって言ったね?」
「はい。今日がその日で……」
「おかしいな。靖男も春子さんも海外で事故で死んだと聞いたが」
「!!!!!」
 進士はひどく驚いた。両親が死んだなど信じれなかった。現に仕送りはちゃんと来ている。きっと今日だって。


 家に帰るのにどこをどう通ったか全く覚えていない。気が付けば玄関前に立っていた。郵便受けを見たら確かに両親からの仕送りは来ていた。進士は背中に何か冷たい物が伝わっていくのが分かった。
「おう、進士。お前彼女とかいるの?」
 後ろに光が立っていた。
「いねぇよ。作る暇もねぇし」
「おっかしいな。さっき女がお前の家の郵便受けに何か入れてたぞ」
 進士はハッと我に返った。掴みかかる様にして、光に聞く。
「そいつはどんな奴だった?」
「えっと、確か長い髪の女の子だったぜ」
――まさか!
 進士はその人の家まで駆け出した。
「お、おい進士!」


 土井朝子はまだ家に入っていなかった。家の前のどでかい門を潜り抜けようとしたその時
「お嬢さん!!」
 進士の声が聞こえ、声のしたほうに振り返る。
「お嬢さんが毎月両親からの仕送りと称して金を入れてたんですか?」
 朝子は何も言わず、俯いた。それは「はい」と言ったようなものだった。
「なんでこんなことを?」
――だめだ。俺はお嬢さんの前だと……
「同情ですか? 罪滅ぼしのつもりですか?」
――なんでこんなことしか言えないんだ……!
 朝子は尚も俯いたままだった。
「迷惑なんですよっ!!」
 朝子は振り返り、家の中に逃げるように入っていった。その目には涙が光っていた。
「あ……」
――なんで俺は、素直になれないんだ……


 進士は家に帰ると、玄関の鍵を閉めた。カップラーメンをすすると。何かを決心した顔で絵を描き始めた。仕送りの箱はゴミ箱に入っていた。


 朝子はずっと考えていた。何日考えたか判らない。目を真っ赤に腫らしながら考えていた。
「やっぱりあれはいけないことだったんだわ……。両親と偽ってお金を送るなんて……。私は、最低だわ」
 机の上にある写真を見る。進士と朝子がツーショットで映っていた。二人とも素晴らしい笑顔をしている。
「進士君に謝りに行こう……。そして私の気持ちを伝えよう」
 朝子も決心をし、家を出た。


 朝子が家に着くと、玄関の前に大家さんと光、そして警察までもがいた。
「どうしたんですか?」
 朝子が光に尋ねると
「進士の野郎が2週間前から出てこないんだよ。もうとっくに食料は尽きてるだろうに」
「もしかして、何か事件に巻き込まれたのかもしれませんね」
 そばにいた警官の一言で朝子と、光は青ざめる。
 光は玄関のドア力一杯叩きながら、大声で叫んだ。
「進士!! 出てこい進士!! どうした、何かあったのか!!」


「進士!! 進士!!」
 玄関から光の声が聞こえる。
――うるさいなぁ、静かにしてくれよ……もう少しで完成なんだ。
「こうなったらドアを破りましょう」
 警官がそう言い、みんなでドアに体当たりをし始める。
――もう少し……、あ…と、一筆……
 ドアが壊れる音がした。皆が中に入ってくる。
「進士君!!」
――ああ、お嬢さんの声だ……。この前はすみませんでした……、あなたのために描いたこの絵を……見…て…
「ここか進士!!」
 その部屋に入った人たちは呆然とした。この世の物とは思えない。そう、まるで天使が乗り移って描いたかのような至高の一枚。
 皆がそこで見たのは天井まで届く大きな絵。横に置いてある写真と同じように、いやそれ以上に眩しく、美しく笑う女性の絵。絵の隅には文字が書かれていた。『朝子さんへ僕は君が――』字はそこで途切れていた。
 その絵の前にはまだ筆を握り、椅子に座っている人がいた。絵に負けないくらいに満足した、すがすがしい笑顔でその人は椅子に座っている。


 彼も一枚の絵になっていた――






【完】
2004/07/30(Fri)12:58:43 公開 / 九邪
■この作品の著作権は九邪さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
なんか読み切りを書きたくて書いてみました。
何分あまり読み切りなど書かないもので、至らない部分は多々あると思います。
最後の進士の絵に書いた一言。「朝子さんへ僕は君が――」の続きはご想像にお任せします。
絵に書いてある言葉が『僕』になってるのはですね。……やっぱりああいうのは『僕』かな、と……(意味不でスミマセン
読んでくださった方、感想やアドバイスなどお願いします。
では、また会いましょう。
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