- 『森と林』 作者:小田原サユ / 未分類 未分類
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全角1513.5文字
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原稿用紙約5.45枚
森と林
家の近くに林がある。そこは嘗て森だった。
昔、私の家の近くに3人姉妹の女の子達が住んでいた。その子達と私と姉は仲が良かった。
いつも私達は同じ場所に居た。そう、森。そこは、人通りの少ない場所にある。
毎日、日が暮れるまで帰らなかった。時には、8時頃まで遊んでいて親に叱られた事も。
森はいつでも広くて、木の香りがして心地良い。夏には夏の、冬には冬の景色が感じられる。幼い私は、ずっとこのままでいられると思っていた。
しかし3年前、仲が良かった子達は引っ越してしまった。私は別れ際に会えなかった。何故、会えなかったのかは覚えていない。そして、転校する少し前にくれた白いマフラーだけが手元に残った。
私は、何も言えず、何も渡せないまま別れた。
気が付くと時間は過ぎ、いつの日からか私は森へ行かなくなった。勉強の事、部活の事で時間が無かったから。
今年の3月30日、猫が一匹亡くなった。
死体は綺麗だった。生き物は魂が無くなると物になってしまうらしい。猫の少し開いた瞼を手で閉じて、少し触った。どんどん冷たくなっていくのが判る。
その日、私は森に行った。手にはスコップと新聞でくるんだ猫を持って。
景色は昔とほとんど変わらない。ただ、とても狭く見える。雑草が前より少し生い茂っていた。森は、絶対的な何かが違っていた。あの日の場所は、林へと変わっていた。
私は日の当たる場所を探した。それはすぐに見つけた。新聞紙を近くに置き、重いスコップでそこを掘る。涙はでなかった。途中、隣のおばさんに声を掛けられたが無視をした。
小さな穴が掘れた。そこにそっと猫を置く、そして、もう一度触ってみる。さっきより冷たい…
私はスッと立ち上がり、見えなくなるくらいまで土をかぶせた。その時、昔の事を少し思い出した。
小学校5年生の時、私はお祭りが大好きだった。毎日がお祭りだったら良いのに、と考えていた。その夏の日も、私は友達と一緒にお祭りへ行った。夜店の金魚すくいやかき氷など、とても魅力的で目を奪われる。その日も楽しいはずだった。
その日、私は浴衣を着ていた。お祭りだけあって、人は多かったが、浴衣を着ているのは少なく小さい子ぐらいだった。もちろん、友達も着てはいない。
突然、私は恥ずかしくなった。周りの人の視線が笑っているように感じて、一人だけ浮いている感覚だった。
その日から私は大のお祭り嫌い。周りばかり気にするようになった。
しばらく私は、その場でボーっとしていた。この場所だけは絶対に変わらないと思っていた。裏切られたような気がした。
林を出て家に帰った。帰り道は、軽くなったはずの腕が重い。
家に付くと、姉が帰ってきていた。「猫が死んだ」と姉に言うと、姉は何も言わずただ泣いていた。私はその場に居づらくなって二階に行った。
ベットに横たわり、同じ事ばかり考えている。「なぜ私は泣いてないんだろう」と。嫌なヤツだなぁなんて。
不意に、森の記憶がよみがえる。それと同時に、猫の横顔が見えた。
今も、目をつぶれば顔もにおいだって思い出せる。手を伸ばせば感触も伝わってくる。幻覚じゃない。
何も忘れたくないし、忘れられない。今日は、今だけは。
全ては変わりはしない。そのはずなのに…私は…どうして…
夕日が沈んでいく。
窓から風が吹いて、瞳から雫が落ちた。
fin
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2004/07/28(Wed)15:44:42 公開 /
小田原サユ
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■作者からのメッセージ
この作品、実は学校の夏休みの宿題の課題の作文…だったんです。
「大切にしたいもの」というテーマの中に「ふるさとの風景」という項目があって、書き始めたんです。でも、書いていく内に、コレは小説の方が良いなぁと思って小説にしてみました。
作者未熟者なので、文章的におかしいところが幾つかあるかもしれません。その時は、ビシッと叱ってください。
では、ご意見・ご感想待っています。