- 『ストレッチマン 読みきり』 作者:ストレッチマン / 未分類 未分類
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「まもなく京都行き、ひかり2号が発射いたします。お乗りの方は・・」
夏の厳しい陽射しがさしこむ東京のある駅。朝の通勤ラッシュの時間のため学生やスーツを着た社会人達があわただしく行き交う。
(こうして見てると人間って蟻みたいだな・・・)
私は駅のホームの白線の上に乗りながらそう、思った。
15年。私がその15年で何一ついいことなど無かった。ただ我慢するだけ。言われたとうりにするだけ。私はただ機械のように言いなりになってきた。有名私立高校の合格もきまった。親はバカみたいにはしゃいでた。・・・私のことなんか何にも見てないくせに。ただ娘が有名私立高校に入ったという肩書きができたことに喜んでいる。馬鹿馬鹿しい。実に馬鹿馬鹿しい。
「まもなく急行あざみ一号が駅を通過いたします。白線の内側まで・・」
さて、決意は決まっている。あとはタイミングよくここから落ちればいい。
何一つこの世に未練などない。これは復讐なのだ。あの冷酷な親に対する。
いろんな思い出・・・といっても悪い思い出しかないが、走馬灯というやつだろうか、頭にいろんな情景がフラッシュバックしてきた。小学校のころ、ガリベンと男子にイヤガラセをうけたとき、母はこう言った。
「アナタの勉強に支障が出るなら、学校には行かなくていい・・・」
その日から私は学校へ行かなくなった。誕生日やクリスマスには参考書をプレゼントしてくれた親。ずいぶん教育熱心ですこと。
私が死んで悲しむ人などいない。親は泣くだろう。だって娘が自殺なんてレッテルを貼られる上に鉄道会社からの莫大な金の要求。
はは、いいきみ。もうどうでもいいや。落ちればいい。ただそれだけ。
その時、私の目の先・・向こうのホームに目がとまった。
いや、目がとまらないほうがおかしいだろう。何故ならいい年したおっさんが全身タイツをはいて駅で電車を平然とまっているんだから。
「なんなのあの人・・キチガイ??」
「キモー。ちかよらないほうがいいよ。」
周りからの批判や差別の目にもかかわらずその男は平然と立っている。
まるで自分は世界で最も尊敬されているかのように自信に満ち溢れている。
その時、男はなにかに気がついたように慌てて駅の階段を下りていった。
そのすぐ3秒後、息切れした男(もちろん全身タイツだ)がこっちのホームへ来た。来なくていい。なぜだかすごく腹が立つ。殴りたい。
男は汗を激しく噴出しながらこっちへ向かってくる。頼むから来るな。
100万払えばその男を消すといわれればすぐさま依頼するだろう。
たとえ借金をしてもだ。それほど男は腹がたつ。なんかオーラが。
ドッテン!!こけた。自分のタイツにひっかかって。
周りの人々が笑いをこらえている。サラリーマンもこらえるのに必死だ。
しかしその男は恥らう様子も無く、汚れをはたいてホームへ来た。
「いやー、参った参った!ころんでしまった!」
・・・独り言?いや、あきらかに私に話しかけている。新手のイヤガラセだろうか。すごく恥ずかしい、いやもう本当に。
「君、ここに新幹線あざみ一号はとまるかね?」
答えたほうがいいのだろうか・・、無視すると後が怖そうだ。
「いえ、とまりませんけど・・・」
男は頭をかきながら(全身タイツ)参ったなーとつぶやいている。
思い出した。私はこんなヤツにかまっているヒマはない。今から通過する新幹線に轢かれて死ななければ。そう、死ななければ。
「ぼくさぁ、3チャンネルの教育番組のお兄さんなんだ!」
ああ、この男はどうして私を苦しめるのだろうか。怒り爆発だ。
「うっせえ!今人生について考えてんだ!!話しかけんな!」
男はビビってのけぞった。
「ご、ごめん・・」
モジモジ
モジモジ
「・・・てめぇさっきからなにモジモジしてんだ!!ムカツクんだよ!」
私はキレやすいほうではない。だが、この男、人を怒らせる才能があるのかもしれない。
「あ、あいわんとゴートイレ・・・」
何故英語を使うのか不明だが、トイレに行きたいらしい。
「さっさと行けばいいじゃねーか・・」
怒る気もうせる。人生の負け組というのはこういうものなんだなぁ。
しかし、私は考えた。全身タイツでどうトイレをするのだ?
「ちょ・・あんたどうすんのよ!!」
「ぬ、脱がして!!!」
ああ、どうする。私は何故こんなことをしてるんだ・・。みんなの視線がつきささる。
「ええい、どこだチャックは!!」
私はタイツのチャックを探す。あった!!背中の一番上だ。
「早くぅ・・・早くぅぅ〜」
男は内股でモジモジしている。このモジモジのせいでチャックがうまく下ろせない。
「くそ!下ろせない!!」
思ったよりチャックは硬い。このままではこの男、駅で失禁という大惨事が起きてしまう。そうすれば私も新聞に・・・それだけは勘弁だ。
「もれる〜〜〜〜〜!!!!」
その時、ごつい手が私の手を支えた。
「私も手をかそう。君一人じゃ無理だろう?」
笑いをこらえていたサラリーマンだった。バーコード頭が風でふわふわしている。すると周りにいた人々も手を差し伸べてきた。
「こんな落ちぶれた男、ほっとけねーよ!!」
「そうだよ!私たち見てられないよ!!」
「ワシもこんなダメ男はほっておけん!!」
みんなの力がひとつになった。周りからはガンバーレ!ガンバーレと声援が飛ぶ。みんな必死になってチャックを下げる。
「せーの!!!」
「ファイトぉー!!」
「いっぱーーーーつ!!!」
チャックはぎりぎりと音を立て少しずつ下りる。
「もうちょっとだー!!がんばれー!!!」
バチン!!
チャックは外れた。
「や、やった・のか?」
「やったんだよ私たち!!」
次々にあふれる歓声。拍手の嵐が私たちを包む。なにかひとつのことをみんなでやり遂げる。何故私はこんな簡単ですばらしいことにきずかなかったんだろう。死ぬなんて馬鹿馬鹿しい。実に馬鹿馬鹿しい。こんな気分は生きていなければ味わえない。今日はなんていい日なんだろう・・・。
「変なおっさん!よかったな!さ、早くトイレに・・・」
男の股間とその地面に水溜りが出来ていた。
「ごめん!もらしちゃった!!」
プッチンと私の血管が切れた。
「うせろぉぉぉ!!!!!!」
男はフットンだ。おまけにあざみ一号にはねられ星となった。
あれだ。アンパンマンにやられるバイキンマンのあれ。
今日私はいろいろ体験した。貴重な体験だった。生きる価値、それは考えようによっていろいろ変わる。私はもう、2度と死のうなんて考えない。
だって、協力してなにかをやりとげるという素晴らしい感覚を覚えてしまったから・・。
私は家に帰ってこう言った。初めて発する言葉・・・
「ただいま」
私は悪夢を見た(現実なのだが)
寝る前にTVをつけると、妙な番組がやっていた。
それは、ストレッチマンという番組だった・・・・
「さあみんなー!!ストレッチの時間だよー」
その言葉が永遠と私の頭をぐるぐる回っていた
終わり
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2004/07/18(Sun)12:50:59 公開 / ストレッチマン
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■作者からのメッセージ
つ、疲れたー!!
つーわけで初小説投稿です。
ここの作品はどれもレベルが高くて、私など足元にも及びませんがなんとか頑張って生きたいと思います・・・。
作品のほうなんですがそのまんまのギャグ一直線です。読み返してみると不自然な所がちらほらと・・・(汗
間違った所があればアドバイスお願いします!!