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『あなたは僕が見えますか?[読み切り]』 作者:千夏 / 未分類 未分類
全角2865文字
容量5730 bytes
原稿用紙約9.9枚
彼と出会って私は変わった。とても、とても怖くなった。
あんなに自分に恐怖を感じたことは、一度だってなかった・・・


「遅刻しちゃう。今日も学校・・・サボろうかな」
私がそう思っている時、信号が赤になった。
「最悪。今のでもう行けなくなった。学校なんてくだらないし」
私は腕にしている時計をちらりと見て、時計をしている方の腕をポケットに入れた。
私の最近の口癖は「くだらない。訳わかんない」だ。世の中腐ってる。頭がいいのの何がいけないの?人間、顔で判断されてしまうの?訳わかんない。私を見てよ。私だって存在してるのよ!・・・少し思うだけでこんなにも嫌味が口から出そうになるのは、正直自分でもうんざりだった。
ふと横を見ると、小さな少年が信号を待っていた。風変わりな服装だった。全身真っ黒で、瞳には光りがなく何も映していない。気持ち悪い。私は斜め後ろへ下がった。少年から少しでも離れるように。
少年がこちらを向いた。目が合った。私はすかさず目をそらした。
小さな音が私の耳へ聞こえた。
「・・・ねえさ・・・るの?」
私はその音の方向がどこか分かって、背筋が凍った。
少年の声だった。
「お姉さん、僕が見えるの?」


私はその場からいち早く離れるように、全力で走った。どこだか分からない場所まで来てしまった。
「どこだろう、ここ・・・?」
私は手を膝につき、下を向いて背中で息をした。
「ハアハア」
人は全然通っていないし、通る気配もない。ビルが隣りになっていて、薄暗い。誰も使っていないような道だ。とりあえず見覚えのある景色を探して、首を回した。
「キャアアアアア!!!」
叫んだ。口から声が出てしまった。
後ろには、小さな黒い影があったのだ。今度はしっかりと見えた。
少年のドス暗い瞳に、私の歪んだ顔が映っていた。


「やめて!やめて!お願い何もしないで!!!」
叫んで、後ろへ一歩ずつ下がった。
(トン)
ビルに背中が当たった。「ヒィ」と声が出てから、少年は口を気持ち悪いくらいにニィっと曲げて、言った。
「お姉さん。何もしないよ。僕はね、お姉さんのような人にしか見えないんだ。お姉さんみたいな・・・」
私はビルにへばり付いた。来るな来るなと念じた。動けない。手足は震えるだけで動かなかった。
「欲望の固まりみたいな」
私は怒りが一気に爆発した。震えが止まり、少年の頬をバチンと叩こうとした、その時。
(パァアン)
振りかざした腕を少年はいとも簡単に掴まえた。何者なの?この子。人間じゃないわ。
「僕はお姉さんの願いを五つ叶えてあげるんだ」
そう言うと少年はどこから出したのか、メモ帳を取り出した。そして、私の顔を見て口をニヤリとさせ、言った。
「このノートに五つ願い事を書くんだ。それが現実になるから。でも六つ以上書いたらダメだよ。お姉さんが終わってしまうから。それじゃあ、またこの場所に明後日来るから、メモ帳を返しに来てね。絶対だよ。約束だよ」
私は何も言えず腕を掴まれたままでいた。いきなり腕が下へとブラリと垂れ下がり、少年は消えた。
「なんだったの・・・」
私は少年の残したメモ帳を持った。そして、一度地面へと叩きつけ、その後拾った。
「本当だったらどうするのよ」
私は家へ帰った。


机の上にメモ帳を置き、一ページ目を開いた。ただのメモ帳だった。
「叶うわけないじゃない!バカみたい!!!」
私はそう言って、少ししてから引き出しからペンを取り出した。ペンをくるくると回し、「嘘だ嘘だ」と言い聞かせ、手を動かした。
「学校一可愛い女の子になりたい」
私は書いてから「ありえない!絶対にないわ!くだらない!!!」と言ってメモ帳をドアの方向に投げた。メモ帳がドアに当たって、下へ落ちた。ペシッと言う寂しい音を残して。
私はベッドに横になり、
「・・・くだらない」
一言言って、眠った。


「おはよう青木!可愛い!!!」
私は教室の隅で密かに「カッコイイな」と思っていた佐伯君に声をかけられた。
「お・・・おはよう・・・」
私は何がなんだか分からなくて、周りを見まわした。すると、色々な人が私のほうを見ていたのだ。
数人の女子が話しかけてきた。
「青木さん、おはよう。失礼かもしれないけど、私今まで青木さんの顔知らなかったみたいなの。可愛いね!」
私は「え?」と思って、バッグの中に入っている鏡を見た。けれど、何も前と変わっていなかった。変わらず、・・・不細工な顔だった。なぜ可愛いなんて言うのだろうか。私はバッグに鏡をしまおうとした。
(カタッ)
何かが落ちた。メモ帳・・・。もしかしてメモ帳に書いたから・・・?
今日一日、私は可愛いと言われながら家へ帰った。


私はメモ帳が本当なのだと思い、二つ目の願いをメモ帳に書いた。
「成績が全校トップになりたい」
私はメモ帳に頼ってみることにした。全然勉強をしないでいた。
翌朝、抜き打ちテストがあったが、全然苦労しなかった。スラスラと解けていった。
三つ目の願い。
「告白されたい」
朝下駄箱に行くと、ラブレターが三通、花が一本入っていた。カッコイイと評判の男子に、声をかけられ、交際を申し込まれた。そして昨日のテストの結果が返ってきた。満点だった。
四つ目の願い。
「お金が欲しい」
いつかに送ったハガキが当たっていた。現金五万円。母親からお小遣いを貰った。二万円。
「本当なんだ・・・。本当なんだ・・・」


最後の願いになった。
「最後だからちゃんと使わなきゃね」
私はメモ帳をポケットにいれて、ペンも一緒に持った。いつでも使えるように。
廊下を歩く時ふと横を見ると、何人かの女子が噂話をしているのが聞こえた。
「青木とかいってさー、訳わかんないんだけど。何?あれ。精神科行ったほうがいいんじゃないの?調子乗りすぎー。今までのあんたはどうしたって感じ」
私はメモ帳を取り出した。
「私のことを侮辱する奴全員に、何か悪い事が起きてほしい」
私は「ふふん」と鼻で笑って見せ、その場を通り過ぎていった。
私はメモ帳を見て、
「もう一回書いて、叶ったら消せばいいよね」
そう思った。瞬間、背筋が凍った。
あの時の少年が、窓際で私のほうを見て、黒い瞳で心の奥底まで見透かしているようだった。


「どうして!なんで!願いは五つって言ったよね!?お姉さん・・・欲は満たされたんじゃないの!?」
私はもう少年なんて怖くなかった。
「いいじゃない。別に」
少年は私のほうを見て、淡々と話した。
「僕が、なぜこんなことをしているんだと思う?僕は、欲が満たされ、これ以上ないってくらいに、幸せになってほしかったんだ。それで、こうなれば認めてもらえるって、努力する力を持ってほしかったんだ」
少年はふっと消えて、メモ帳もなくなっていた。
「なに今の」
私は家へ帰った。


学校へ行くと、私は誰にも見られなくなった。
昨日までの自分はどこへ行ったのだろうか。少年の言ったことをふと思い出した。
「こうなれば認めてもらえるって、努力する力を・・・」
私は今日一日何にも力が入らなかった。
家へ帰って、勉強をした。昨日までのことを、現実にするために・・・
2004/07/16(Fri)23:17:26 公開 / 千夏
■この作品の著作権は千夏さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
今晩和!読み切りです!!
今回はいつもと違った感じで・・・。面白いですかね。
ちょっとミステリ風??ってな感じで・・・。
個人的には気に入ってます。
こういうタイプのものってあんまり書かないので。
・・・ではvv
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