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『せんそーげーむ。1〜5章』 作者:マジック / 未分類 未分類
全角12479文字
容量24958 bytes
原稿用紙約43.25枚
              
               第一章

あるマンションの一室。
そこにこの物語の主人公が存在する。
彼の名は『黒澤 慎』(くろさわ しん)。
中学3年生。
親に勉強勉強と言われる。勉強がそれ程できる訳ではない彼にとって、皮肉な時期である。
今日は終業式。やっと夏休みが来る訳だが、彼はあまり嬉しくない。
「あ゛〜!かったりィ〜・・・」
ドアを開け玄関に入るなり、慎は大して中身も入っていないカバンを重そうな仕草で放り投げた。
そして、いつもの様に自室の机に向かい、パソコンを起動させる。
セミも鳴き始め、窓の方で風鈴が風流な音を奏でている。
慎は、いわゆる『オタク』の部類に入るのだろう。
帰るなり、夜中までパソコンをする。
それが慎のいつもの日課だった。
慎はいつものように自分のホームページの書き込みを見る。
現実世界では目立たぬ存在の慎だが、ネットではまるでヒーローのように称えられていた。
  7月20日 15:35
  コロッケ:《ここの管理人ってさ、マジすげーよなっ 何でもできちゃうんだぜ?》
コイツはいつもきてくれる常連で、慎の事を自分の事のように自慢している。
  7月20日 15:36
  筋肉満:《みんなっ・・・俺の筋肉を見ろ・・・》
こいつも常連。毎回意味無く筋肉自慢をしている。
  7月20日 15:34
  ジャム:《こんなHPが作れるなんてすごいです!関心しちゃいます!!》
コイツは唯一の女・・・らしい。ネットなので本当かは別だが。
と、書き込みを見ていくと、妙な書き込みがあった。
  7月20日 16:37
  クイシンボ:《あと1時間だよ。http://〜・・・》
「なんだ・・・コレ・・・時間一時間後じゃん。」
慎は不思議に思い、アドレスを検索してみた。
《ウイルスはありません。》
「荒らしじゃない・・・か?」
しかし、まだ迷う。
文章が意味深で、しかも時間が狂ってる。
ここに、どこかホラーじみたものを感じる。
「い〜やっ・・・削除っ!」
と、慎はその記事を削除した。
これで、慎は多少落ち着いた。
・・・が、その時。
  7月20日 16:37
  クイシンボ:《あと一時間だよ。http://〜・・・あと一時間だよ。http://〜・・・あと一時間だよ。http://〜・・・あと一時間だよ。http://〜・・・あと一時間だよ。http://〜・・・》
鳥肌が立った。
どうみても荒らし・・・だが、慎には荒らしに見えなかった。
もう一度、消す勇気は無い。
  7月20日 15:43
  ジャム:《何ですか?荒らしですか??このヒト。。。》
するとここの住人からの書き込みが。
この書き込みが、なぜか心強く思えた。
  7月20日 15:44
  シン:《イヤ、違うっぽい。アドもウイルスでもブラクラでもねぇし。》
慎は急いで書き込んだ。
もう一人ではどうしたらよいかわからない。
外ではセミがジリジリと鳴き続けている。
子供も近くの公園で遊び始めたのか、キャッキャと戯れる声が聞こえる。
  7月20日 15:46
  ジャム:《じゃぁ入ってみればいいんじゃないですか?》
・・・確かにそうだ。
俺は何をビビってるんだろう。
ただ連続投稿してきてるだけだ。時間はきっとバグか何かだろう。
  7月20日 15:50
  シン:《じゃぁ入ってみる》
そして慎は何のためらいもなく、アドレスをクリックした。
【ページが表示できません。】
・・・なんだ・・・ただのイタズラじゃん。
そう思うと今までの自分がバカらしく思えて、噴出してしまった。
「何ビビってたんだろ。ばっからし〜な!俺!」
と小言を言いながら、再びHPへ戻る。
・・・すると。
  7月20日 16:37
  クイシンボ:《はやくおいで。》
体中が凍った。
そこには慎自分自身が、骨を複雑に折られ、グチャグチャになって倒れている姿の写真が添付されていた。
「何だよ・・・コイツ・・・」
とその時、部屋にいるのに一瞬、ほんの一瞬風が顔を煽った・・・気がした。
もう外にはセミの声が聞こえなくなっていた。
子供の声も聞こえない。
日差しまでもが止まってるようにさえ感じる。
【トゥルルルルッ】
と、突然、電話が鳴り出す。
周りに「音」がないため、異様に大きく聞こえた。
慎はすぐさまその電話をとった。
「・・・もしもし!!!」
・・・・・沈黙。
数分・・・経っただろうか。もう切ろうとしたその時。
「・・・よくきたね・・・頑張って。(ガチャッ・・・ツーツーツー・・・)
慎は思わず受話器を手からすべり落とす。
受話器からはモザイクがかった、高めの声が発せられていた。
慎は、恐怖と不安に駆られる。
「どう・・・しよう・・・」
ふと、慎は窓から外を見た。
・・・が、外には不自然な程に誰もいなかった。こんな突然いなくなるものだろうか。
「どこ行っちまったんだよ・・・おい・・・」
慎は不安になり、その場にゆっくり座り込み、丸くなった。
「一人・・・一人だよ・・・俺・・・」
【ガタッ】
と、その時、目線の先にある部屋で物音がした。
慎はビクっと肩を震わせる。
「誰・・・何・・・?」
慎はゆっくり立ち上がると、その部屋の手前にあるキッチンで包丁を手にする。
そして・・・慎は部屋の扉を勢いよく開けた。


              第2章

扉を開けるとそこには想像していた物とは違う・・・ある意味異質な物があった。
・・・いや、いた。と言うべきか。
そこには一人の女の子が横たわっていた。
ちなみに、慎には妹も姉もいない。
その子の歳は・・・慎と同い年、もしくは一個下くらいだろうか。
思わず見入ってしまった。
正直、可愛かった。
黒い髪は肩くらいまで伸びていて、少し小柄な子。
「お、おい・・・大丈夫か?」
慎は思わず声をかけた。
「・・・ん〜・・・ぁ?」
女の子は呻きながらパチリと目を開いた。
「・・・へ?・・・ここどこ?・・・アンタ誰・・・」
女の子は横たわったまま、慎の方を向いている。
「イヤ・・・それはこっちが聞きたいんだけ――」
「きゃぁぁぁぁ!誰よアンタ!!何人ン家に勝手に上がり込んでんのよっ!しかも・・・ほ、ほーちょー何か持って!!!警察呼ぶわよ!!!」
慎が言い終えぬうちに少女は叫んだ。
そういえば、手に包丁を持っているコトをすっかり忘れていた。
「イヤ、これは・・・・」
聞く耳持たず、少女は素早く起き上がると、その部屋を出、キッチンを抜けリビングの方へ走って行った。
周りを見て自宅ではないコトに気がつかない物か。
バタバタとリビングへ着くと、少女はピタリと足取りを止めた。
「・・・ここ、どこ??」
「イヤ・・・俺ン家なんだ・・・ケド・・・」
ゆっくりと後追ってきていた慎は髪をかき乱しながら言った。
「君の家・・・?なんで?」
振り向いて少女は言った。
「まずは状況を―――」
【ガタガタガタッ!!】
またも言い終えぬ内に先の部屋で物音が。
「何・・・?今の音・・・」
少女が怯えたような言い振りで言った。
「わからない・・・見てくるよ・・・」
慎はそう言うと、さっきより軽い足取りで部屋へ向かった。
誰もいなくなって一人きりだと思っていた所に人間が現れたのだ。
心が安心したんだろう。
慎はためらわず扉を開けた。
・・・するとそこには異様に絡まりあった二人の男が。
一人は20歳程度の体格のいい若者。
もう一人は慎と同じ位の歳の男の子だった。
「またかよ・・・今度は二人か・・・」
慎はあきれたような声を出し、二人に手を差し伸べた。
二人はその手に掴まり起き上がる。
「ここどこぉ??」
男の子が言う。
「俺ン家。・・・とりあえずリビングの方に来て。」
言い残すと、慎は一人背を向け、リビングの方へ歩いていった。


「まずは・・・みんな自己紹介を。・・・んまぁ俺からな。」
とりあえず皆を適当に座らせると、慎は立ち上がり言った。
「俺の名前は黒澤 慎。そこの中学校で中3やってる。・・・んまぁこんな感じかな。」
言い終えると、慎はイスに腰掛けた。
「・・・ぁのさ・・・ちょっといい?」
少女は手を上げると、立ち上がった。
「君・・・慎君って・・・まさか「あのHP」の「シン」って人?・・・じゃないよね・・・」
その言葉を聴き、慎は目を丸くした。
「・・・あ・・・あぁ、そうだけど・・・」
慎は少々動揺しながら答えた。
すると少女は歓喜に満ちた表情を浮かべ、話し始めた。
「やっぱり!・・・ぁ、私の名前は『大沢 蜜柑』(おおさわ みかん)!私も中学生で中2デス!!HPでの名前は『ジャム』!・・・あのアド押した途端クラクラして・・・気がついたらここにいたから・・・もしかしたらって!!」
彼女・・・蜜柑は何をそんなに喜んでいるのか、満面の笑顔で訴えた。
・・・内心、慎もうれしかったのだが。
「それ!俺も!!」
少年も手を上げ立ち上がった。
と、共に蜜柑は腰を下ろした。
「俺の名前は『室井 卓也』(むろい たくや)!中1!HPでの名前は『コロッケ』!!俺もアド押して気ィ失った!!!」
言い終えると、卓也も座る。
「そうか・・・あなたは?」
恐らく目上と思われる、若者に声をかけた。
「俺の名前は『大木 堅』(おおき けん)。大工やってる。俺もHPのアド押したらここへ。」
堅はあぐらを組んだまま、静かに言った。
・・・と、一通り自己紹介が終わると、慎はまた立ち上がる。
「・・・皆の共通点は一つ。俺のHPの住人があのアドをきっかけにここに飛ばされたってコトだけだ。・・・恐らく、この町には俺等4人以外に人間はいない。・・・これからは協力して―――」
【コンコン。】
・・・と、後ろで音が聞こえた。
ドアがノックされたのだ。
「・・・私たち以外に人間はいないんじゃなかったの??」
蜜柑がギョっとした声で言った。
【コンコン・・・・】
・・・また。
何度かノックされると、静かになった。
・・・他に人がいるかもしれないのに、何故かみんな出て行く気にはならなかった。
【・・・ゴンガンガンガンガンッッ!!!】
今度はものすごい力でドアが叩かれた。
ドアの叩かれた部分がヘコんでいる。
「確かに・・・俺等以外「人間」はここにはいないのかもな。」
堅があぐらを組んだまま、冷静に言った。
【ガゴンッ!!!!】
ドアが耐えられなくなったのか、ついにドアが外れ、倒れてきた。
そしてその向こうには、腹部がポコリと膨らんだ大男が立っていた。
有に2メートルは越しているだろう。
形は大きいが、着ている服は短パンにランニングシャツ、と子供っぽい。
顔もどこか幼さが残っている。・・・が、確実な恐怖を与える面持ちだった。
「・・・タベモノ、クダサイ。タベモノ、タベタイ。」
大男は、あの声で言った。
電話の・・・あの声で。
慎は震え上がった。


   第3章

言うと、大男は玄関をノロノロと上がり、4人がいるリビングの方まで歩いてきた。
そして、大男は4人を順番に見回した。
「・・・タベモノ、クダサイ。タベモノ・・・」
狙いを定めたのか、堅の方へノシノシノロノロと歩み始めた。
「・・・ぉ、おい!!あんた狙われてるぞっ!!!」
慎は何を思ったのか、つい叫んでしまった。
ハっとなり、口を塞ぐ。
・・・しかし、ヤツは聞こえてないのか聞いてないのか、声の元には見向きもせず、ひたすら堅を見、歩いてきている。
・・・やはりみんな自分が大事らしく、助けに行こうとはしない。
「・・あぁ・・・ダルいな・・・」
堅は呟くとゆっくりと起き上がった。
その男は、今まであぐらを組んでいたため身長がよくわからなかったが、かなり大きかった。
大男より20センチ程度小さいくらいだ。
そして、堅は自ら大男に歩み寄り、対峙した。
互いに睨み合う。・・・いや、実際に睨んでいるのは堅だけ、大男の巨大な目の瞳は二つとも違うほうを向いていて、視覚が定まっていない。
「・・・オラァ!とっととかかってこんかァ!!!」
と、堅は大男に怒鳴り上着を脱いだ。
「おぉ〜!すげ〜!!っつかあれ、「筋肉満」じゃん!?」
卓也は微かに笑みを浮かべ、叫んだ。
確かにすごかった。
堅の上半身の筋肉という筋肉は活性している、鍛え抜かれた肉体の持ち主だった。
そして、堅はスゥと息を吸い込むと続けざまに3発、大男の丘のようにポッコリと膨れた腹部に拳を抉らせた。
「・・・タベモノ・・・クダサイ・・・・」
しかし、大男は効いた様子も無い。
「・・・くっそぉぉぉぉ!!!」
堅は、自分の拳が効かない事に恐怖し、それを振り払うかのようにがむしゃらに拳を放った。
「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
と、殴られながらもゆっくりと大男は手を広げ、その手を振り上げる。
そして。
「うおぉぉぉぉぉぉぶべっ・・・!」
堅は妙な奇声を発し、拳が止んだ。
「・・・きゃぁぁぁぁ!!!!」
蜜柑が嗚咽する。
堅は首を飛ばされたのだ。
大男の振り上げた手はいつの間にか、横になぎ払われている。
堅の、叩かれて歪んだ顔は首から血を噴きながら、弧を描いて床に落ちた。
体も同様、首から噴水のように大量の血を噴き、仰向けに倒れた。
「うげっ・・・」
卓也は目の前で起きた一瞬の惨劇を目の当たりにし、吐露した。
部屋中に血生臭い匂いが立ち込める。
と、その時。
「ダベモ゛ノ゛!!!」
大男は奇声を上げると目をスロットルのようにクルリと反転させ、恐ろしい形相で堅の仰向けになった体に飛びついた。
【クチャッグチャックチャッ・・・】
大男はそのまま、堅の体を食べ始めた。
蜜柑は、もう気絶している。
卓也ももう極限だ。
しかし、慎は冷静にその場を見極める。
そして、考えを巡らせた。
(・・・何か・・・何か回避法・・・!・・・玄関は・・・無理か・・・)
玄関の目の前には食事中のヤツがいる。
極限状態の慎達に、通れるはずもない。
第一、殺されるかもしれない。
(窓だって・・・ここは5階だ・・・飛び降りるなんて不可能。・・・・・・・・・そういえば確か・・・「あと1時間」とか言ってたな・・・この状況を1時間で何とかしろってか!?・・・あと・・・10分程度で一時間か・・・)
慎は眉間にシワを寄せ、険しい表情で考える。
(・・・逃げるコトは不可能。かと言ってこのままここにいても食われるか、タイムオーバーでどうにかなってアウト・・・・・となるとやっぱ・・・)
「倒す・・・・」
慎はボソっと呟いた。
「・・・ぇ?」
卓也は震えた声で言う。
「アイツを倒す・・・それしか俺等が生き残れる方法は無い。・・・っぽい。」
「・・・は!?そんなの無理だよ!!!!!あの人でもダメだったんだよ!?俺等に倒せるハズねぇじゃん!!!」
卓也は半べそで叫んだ。
大男はまだ堅の体をクチャクチャと汚らしく食べている。
「大丈夫・・・俺に任せろ・・・」
そして再び、慎は思考を練る。
(倒すんなら・・・普通に叩いたり殴ったりじゃ無意味・・・やっぱ弱点だよな・・・)
慎は大男を観察する。
「・・・・・・・・・!!」
すると、慎はある事に気がついた。
大男のかがんだ背中が、ムクムクと動いて突起してきていた。
・・・それが弱点だと言う確証は全く無かったが、今はそう思いたかった。
(ぉし・・・チョー単純な作戦・・・っつか引っかかるかわかんねぇけど・・・もうこれ以上考えてられっか!!!)
慎は決心すると、フローリングのカウンターの上に置いてあったハサミを右手で強く握った。
「ぉし・・・ヤツを・・・殺るぞ・・・」
慎は呟く。
ちょうどその時、口の周りを血だらけにした大男は体を完食すると、転がっていた歪んだ顔の頭部を一口で平らげると、慎達3人の方を向いた。
「タベモノ・・・クダサイ・・・」


              第4章


言うと、大男は慎達の方へ向かってきた。
蜜柑は気絶している。
ここに大男を呼ぶのはマズい。
「・・・ぉい・・・卓也君・・・俺の指、このハサミで切ってくれ・・・」
ハサミと人差し指を卓也に差し出す。
「・・・は!?何言って――」
「死にたい?・・・死にたくないっしょ。それだけの犠牲で済むなら惜しくない。」
慎は恐ろしい程冷静だ。
上手く行くかわからない作戦、段々と近づいてくる狂人。そして今から自分の指を切断される。
普通なら泣いてすがる程の境地なハズなのだが。
「・・・早くしろ・・・!アイツにこれ以上接近されたらゲームオーバーだ。」
慎は、狂人から目をそらさず言う。
「・・・わ・・・わかった・・・いくよ・・・?」
卓也は震えている。
男とは言え、中1にはやはり精神的に厳しいのだろう。
そう考えると、慎には恐怖すら感じる。
「いくよ・・・いく・・・本当にいくよ・・?」
右手でハサミを突きつけ、左手で慎の人差指を支えている。
「はやくしろっ!死んじまうぞ!!!?」
突然、慎が吼えた。
「ぅわっ!!!」
【ゴリッ】
卓也は声に驚いた勢いで慎の指を切った。
「ぐあぁぁぁぁぁ!!!痛てぇぇぇ!!!!!」
慎は目に涙を浮かべ、悶え苦しむ。
「ごっごめん!!!ごめん!!!」
卓也は泣きながら謝る。
「っあぁぁ・・・!!・・・・・・・・・・よ・・・し」
何とか慎は痛みを堪えると、微かに笑みを浮かべた。・・・ような気がした。
「ハサミよこせ・・・」
慎は痛みからか、うめくような声で卓也に言った。
すると卓也はコトリとハサミを手からすべり落とした。
顔はうつむいたままだ。
「タベモノ・・・クダサイ・・・」
大男はこっちに向かって歩いてきている。
かなり接近していると言えた。
「ほら・・・エサだ・・・」
言うと、慎は切断した指を大男の後方へ投げる。
「・・・・・」
慎は緊迫しながら大男を見る。

慎の作戦はこうだ。
エサとなる指をヤツの後方へ投げる。
するとそれを追ってヤツは自分たちに背を向ける。
そしてその指を食べ始め、背中が突起してくる。
その突起部を持っているハサミで指す。

いたってシンプルだが、もうこれ以外思いつかなかった。
・・・が。
大男は歩みを止めなかった。
「お・・・おい、早く食えよ・・・指・・・ゆ・・・俺の指!!」
慎はこの時初めて恐怖を覚えた。
大男はどんどん近づいてくる。
「・・・・あれだけじゃ腹ァ膨れないか・・・?・・・なら・・・!」
が、慎は襲い来る恐怖を振り払った。
そして立ち上がると、大男に向かって走りだした。
「ぅあぁぁぁぁ!!これはどうだっ!!!」
言って、慎は大男に飛び掛った。そして、大男の腰に足を絡め、目の前に男の顔を持ってくる。
そして慎は大男の口に、一本指の欠けた手を詰め込んだ。
大男は当然、食い始める。
【バキッバリッガリッ】
「あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
慎は奇声をあげた。
本当なら死んでしまうかもしれない程の痛みだった。
が、慎は食いしばり痛みを堪えた。
「・・・へっ・・・かかったな・・・こんのデブがっ!!!」
涙を流しながら、大男の突起した部分目掛けてもう片方の手に持ったハサミを振り下ろす。


・・・待てよ?この膨らんだ部分が弱点じゃなかったらどうしよう?指してもコイツが死ななかったら・・・どうなるんだろ・・・俺。だってほら見ろよ・・・俺の左手。もうグチャグチャだぜ?採算も無く飛び掛って、バカなセリフ吐いて。んで、死ぬのか?マヌケだな、俺。・・・あぁ、何かもうクラクラすんぜ・・・手ェ食われたしな。これじゃぁ普通に出血多量で死ぬわな。・・・じゃぁどっちにしても死ぬんじゃん。あ〜ぁ、バカしたなぁ俺・・・まぁ、いいや。・・・やるだけやっか!!


【グサッ】
部屋中の音が、空気が、止まった。
その鈍い音を残して。
大男の背中から、滝のように大量の血が逃げていった。
それと同時に、慎も左手を無くしたまま宙に体を投げ出される。
「ゲボガボッ・・・よく頑張ったね。次も頑張ってね。・・・」
その声だけは、慎に浸透した。
「次って・・・俺はもう死んだっつの・・・バァ〜カ・・・」
慎は呟いた。
と、同時に体が床に叩きつけられた。


             第4章

《・・・一面くりあッ!!くくくっ・・・頑張ったね〜〜!・・・まぁ、この程度で死んでもらっちゃ、見てる僕としてもつまんないけど!・・・くくっ・・・この「げーむ」楽しいや!全クリ目指して頑張って!!!・・・》

「全クリ・・・?・・・はぁっ!?ゲームだってか?これが!?ふざけんなっ」

《・・・うるさいなぁ・・・くくくっ・・・キャラクターは黙ってプレイヤーの言う通りにしろよ・・・生意気だなぁ・・・くくっ・・・早くボス倒せよ・・・くくくっ》


―・・・ん!・・・しん!!・・・―
「・・・ん・・・?」
「慎!!」
慎は、ベッドで目を覚ます。
よくあるパターンだ。
慎は横たわったまま、片目を枕の合間から覗かせる。
目の前には、今にも泣きそうな顔をした母親がいた。
・・・そして、後ろには蜜柑と卓也が。
その二人を見た時、慎は絶望した。
先の夢で、今までの出来事は夢ではないと何となくは悟ったが、実際それを突きつけられるとショックは大きい。
「・・・んだよ・・・夢じゃ・・・ねぇのかよぉ・・・」
慎は再び枕に顔を埋めた。
時間は16時50分。
『あの時』から約一時間。リビングで惨劇は起こったのだ。
外はまだセミも鳴いているというのに。こんなにも平和だというのに。
・・・と、慎は一瞬ビクっと痙攣し、今度は布団に顔を埋めた。
(左手・・・直ってる・・・)
食われたはずの左手が、まるでそんな事の無かったかのように完治していた。
そして、左手をさすり感覚を確かめるとベッドから上半身だけ起こし、
「母さん、リビング・・・どうなってた??」
とだけ静かに言った。
確かに、あのままならば相当マズいだろう。
「あの二人も倒れてたんだけど・・・二人にも全く同じ事を聞かれたわよ・・・」
奥で真に向かって二人が苦笑した。
「な〜んにも。変わった事はなかったわよ?」
母が涙ぐんだ表情で優しく言う。
「そっか・・・ありがと、母さん。」
すると安心したのか、母の表情がみるみるクシャクシャになって涙を流し、慎に抱きついた。
「よかった!本当によかった・・・!!」
「か、母さん、大げさだっつの!・・・それに・・・」
慎は赤くなって、蜜柑、卓也のほうを見る。
二人はニマニマといやらしく笑いながら、
「慎君、お邪魔みたいね。親子水入らずで楽しんで!」
(何をだよ!!)
「慎さん、まさか慎さんが・・・マザ(違う!違うよ!?)
言いたい放題言った挙句、二人は部屋を出て行った。
「だぁ〜、んなろぉ〜・・・って母さんもそろそろ離れてよ!」
抱きついたままの母を押し戻すように手で押す慎。
「んもぉ〜、連れない子ね〜!」
あたりまえだっ・・・と心の中で突っ込み、母の後を追うようにして部屋を出た。


それから、慎と蜜柑と卓也は談笑しながら楽しそうに会話し、母は洗濯物をたたんでいる。
後で聞けば、大きな大工の男・・・堅の姿は無かったらしい。
やはり・・・死んだのだ。
が、今はいたって平和な、いつもどおりの日常。
慎は物凄く嬉しかったのだろう。
いつしか時間は過ぎ、6時を過ぎた頃には笑いも尽いて少し現実的な話になった。
「蜜柑ってどっから来たの??」
慎が尋ねる。
「ぇっと・・・北海道・・・てゅかここどこ???」
重大な事を忘れていた。
それは3人がネットで知り合ったと言う事。
それが意味するのは、住んでいる場所が皆バラバラだという事だった。
これでは、帰るに帰れない。
「げっ!遠ッ!・・・ここ千葉だよ・・・」
「ぅっそ!マジ!?・・・どうしょ〜・・・」
蜜柑は肩を落とす。
というより、ホームシックで今にも泣きそうだった。
「・・・で、卓也君は?」
「俺は東京・・・だから、帰ろうと思えば帰れるかな・・??」
卓也はそういうと、熱心に帰る方法を考え始めた。・・・ようだった。
親はもう仕事に出ている。
親にこの事を言うわけにはいかない。
「・・・なぁ、二人とも。・・・今から聞きたくない・・・ような話をするが・・・ちゃんと聞いて。」
と、慎はそんな二人を制し話をし始めた。
真剣なまなざしで二人を見つめる。
「・・・ぅん・・・」
蜜柑は浮かんできた涙をぬぐい、答えた。
「・・・ぇっと・・・あの惨劇は近いうちまた起こる。これはゲームなんだ。」
慎は立ち上がり、傍にあるソファーに腰かけた。
「・・・ゲーム?どういう事??それ・・・」
卓也が不思議そうに問う。
「うん。そのまんまの意味だよ。・・・俺達はあの『戦争ゲーム』を勝ち抜かなければ、元の生活には戻れない。・・・全クリ、するんだ。」
慎は冷静に、かつ恐怖を与えないように話した。
「・・・そんな・・・でも、いつクリアできるのよ??そんなの、永久に続くかもしれないじゃない・・・」
蜜柑が泣きそうな小さく細い声で言う。
確かに、むしろそう思うほうが普通だった。
「イヤ・・・いくらかかっても・・・いつかはクリアできるんだ。」
そう。その確信は「あの夢」が語っていた。

         ―全クリ目指して頑張って!!!―

はっきりとした確証は無いが、あれを信じるより他無い。
「・・・まぁ、ここは慎さんを信じよう・・・そう考えないと、やってられないよ・・・」
「・・・そうね・・・」
蜜柑と卓也も同意した。
それを見、慎は軽くコクリと頷くと話を続ける。
「ならば、あのアドレスをクリックした俺達は、またこの場所で会う運命にある。・・・そこで提案なんだけど・・・どうだろう?クリアするまで、家で待機するってのは。」
蜜柑と卓也は顔を見合わせ、少し沈黙した。
もしかすると、物凄い長期になるかもしれない。
親離れしていない未成年達にとって、これは大きな事だった。
「・・・・・・ぅん、俺はいいよ。どうせまたこうなるんだし。」
と、卓也がしばらくして同意する。
「私も。・・・てゅか、どうせ帰れないし。」
軽く苦笑しながら、蜜柑も同意した。
「ぉし。じゃぁ・・・もう遅いから明日、親に連絡しような。・・・じゃぁ、寝る場所。蜜柑は女だから・・・・」


タノシイタノシイせんそーげーむ。
いつはじまるか、ワカンナーイ。
だからいつでもヨウジンヨウジン。
ネるヒマなんてありゃしない。
ダッテヤツらはいつもいつでもいつまでも。
キミラをコロソとネラッテルww

  第5章

               
―夜―
空は漆黒に染まり、人々は暗黒に包まれる。
誰もが安心し、すべてが静まり返る瞬間。
・・・が、静まらぬ者もまた、存在し。

【ブオンブオンッババババ】
夜を切り裂くような騒音。
バイクのエンジン音。
団地前に集まった暴走族の騒音は、建物に反響しさらに大きく、騒々しく聞こえた。
人数は20人程度だろうか。
バットや鉄パイプを持ち、見るからに暴走族の形をしていた。
・・・そんな所に、無謀にも一人の男。
30歳前後だろうか。
帽子を深く被っていて、よく表情は見て取れない。
が、暗くなっている目元には二つの青白い瞳がギラついていた。
ただならぬ雰囲気を漂わせながらユラユラと歩み寄って行く。
その両手には鉄製バットが握られている。
【カラカラカラ・・・】
2本のバットを引きずり、音を立てて暴走族を威嚇する。
「・・・あぁ?んだコラ!喧嘩売ってんのか!?」
「いい度胸してんなぁ!?おぉ!?」
暴走族はすぐにキレ、バイクで男の周りをグルグルと周り始めた。
「・・・ジャマダ。」
風。
その瞬間突風が吹いた。
それに呼応するようにバイクはコントロールを失い、四方八方に散り、すべて転倒した。
そして、そのバイクに乗っていた暴走族の首はすべてどこかへ殴り飛ばされ、首無し人間と化していた。
恐らく男が、バットで殴ったのだろう。
一瞬の間に20人もの頭を。
血が暗黒の空目指し吹き荒れる。
と、一人の助かったらしいマスクをつけた青年が腰を抜かしていた。
「・・・オマエモ、ナカマダロ。」
男が腰を抜かした若者を見下ろし、恐怖を乗せてその言葉を言い放った。
「・・・ひっ・・・ちがっ・・・」
怯えて声が上手く出ない。
「シネ・・・」
男がバットを振り上げた。
(コイツ・・・人間かよ・・・!!!殺される!!)
ふっと目を瞑った瞬間、その男は肩を何かにつかまれた。
『ギャァァァ!』
雄たけびをあげ、『大きなモノ』は男をつかんだまま空へ舞い上がった。
その姿はまるで『鳥』のようだった。
それも、並みのサイズではない。軽く普通の一軒家くらいの大きさはある。
「ヴォッ・・・やっ・・・たスけっ・・・」
男は突然の出来事に動揺し、怯えた。
男を掴んだまま、『鳥』はあっと言う間に上空へ飛んでいった。
先程まで普通の人間ではなかったような輩が、まるで虫けらのように大きな足の中でもがいている。
動くたびに巨大な鋭い爪が刺さり、肩から出血した。
「ヒっ・・いタ!・・・たすケテ・・・イタイ!」
男はもがいてもがいて。
月の照らす空を見上げている若者は、先程まで強かった男が、今は惨めに見えて仕方が無い。
やがて、もがいている内に男の肩が裂け、魔の手から開放された。
「ギャァ!イタッ!!・・・・グガッ・・・これでジユウ――」
男は落下し、風に煽られながら呟いた。
・・・人々はどう思うだろうか?
あのまま掴まれ、ぶら下がりながら上空のドライブ。
・・・もう一つは、上空で突き放され、
【グシャァッ!!】
地獄への、ランデヴー。
男は、『飛び散った』。


―・・・なぁ、慎。もうそろそろ敵がくるよ?・・・くくっ・・・せっかく教えてあげたんだから、あっさり死ぬなんてないようにね・・・くくくっ・・・ww―

「敵・・・?また・・・あんなヤツと戦うのか・・・?」
―嫌なの?・・・くくっまさかねww君は、このゲームに『ハマった人間』なんだよ?・・・くくっ―
「んなのあるワケねぇだろーがっ!!」
―じゃぁ何であの時、冷静でいられたの?知り合いが食べられてたのに・・・くくっ・・・―
「それは・・・・・・・俺があそこで取り乱したら、みんな慌てるだろうが!」
―くくくくっ!違うねぇ!!・・・僕は知ってるんだ。あそこで何故取り乱さなかったのか・・・それはね・・・―


【ガバッ】
「はぁ・・・はぁ・・・」
慎は汗をかきながら、飛び起きた。
「夢・・・・・イヤ・・・むしろ現実・・・か。」
慎は軽く苦笑すると、顔を引き締め隣に寝ていた卓也を起こした。
「ん〜・・・どうしたの・・・?」
卓也は眠そうに答える。
「蜜柑を呼んできてくれ。・・・これから出かけっぞ。」
慎は、立ち上がり、辺りで武器になりそうな小物をポケットに詰めながら言った。
「何でぇ・・・?まだ外暗いよぉ・・・??」
「・・・『ヤツ』が・・・来る。・・・っぽい。」
慎は不敵に笑い言った。
その言葉を聞き、卓也はこわばり一瞬で目が冷めた。

「ヤダ・・・もうヤダよぉ・・・・」

2004/07/16(Fri)23:02:23 公開 / マジック
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■作者からのメッセージ
色々感想アリガトウございますっ!
これからも感想、もろもろを待ってマス!!

あぁ〜
上手く書けん!!!
・・・っつかネム〜〜ww
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