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『空白の空に青い絵の具を。』 作者:林 / 未分類 未分類
全角2424.5文字
容量4849 bytes
原稿用紙約14.4枚




「そんなに、傷ついてどうしたの」






「けんかしたの、ボクと」







「なかなおりしたの?」






「ううん」





「なかなおりのおまじない、おしえてあげよっか?」





「うん」
















愛してあげましょ、ボクもワタシも、タマもポチも。


































悪魔が天使に恋をした。



なんてことはない、それだけである。


黒い翼を持つ者が、白い翼を持つ者に恋をした。


「そんなに傷ついてどうしたの?」
「けんかしたんだ、ボクと」

そう、と天使は頷いて、血で黒ずんだ腕に顔を埋める悪魔に救急箱を差し出した。
悪魔は一瞬、顔を上げた。

「なかなおりしたの?」
「ううん、まだ」
「なかなおりのおまじない、おしえてあげよっか?」

いっぱいの笑顔で天使は言った。
悪魔は頷いた。

「あいしてあげましょ、ボクもワタシも、タマもポチも」
「タマとポチって、誰?」
「あたしのおともだち」
「そうなんだ」
「言ってみて?」
「あいしてあげましょ、ボクも、ワタシも、タマも、ポチも」
「そう」

にっこりと天使は笑うと、白いワンピースをふわりと広げて白い床に座った。

「なかなおりできた?」
「わかんない」
「あのね、あいしてあげましょって、ずっと思ってないと、だめよ」
「むずかしいね」
「むずかしいの」

小さな白い羽をはたはたと天使が動かすと、雪のような羽がひらひらと空中を舞った。





悪魔は、いつしか、天使と仲が良くなった。



天使は金色の瞳を輝かせて、春の野原で花をつんだ。
悪魔は漆黒の瞳を幸せに泳がせて、夏の砂原で砂のお城を造った。
天使は白い羽を羽ばたいて、秋の稲穂の上を飛んだ。
悪魔は黒い羽を羽ばたいて、冬の雪原に春の種をまいた。





「仲直りできた?」
「ううん、まだ」

にこり、とバツが悪そうに笑う悪魔に、天使はいつも笑顔で言った。

「愛してあげましょ、ボクもワタシも、タマもポチも、ね」










何回も桜が散って、何回も季節が過ぎた頃。






悪魔は悪魔の世界にいた。

天使は天使の世界にいた。



悪魔と天使の間で、他愛もない、後に年表にすればたった一行の、戦争が起きた。

白い羽と黒い羽を持つ者達は、互いを血で染め合った。




「今日も、友達が死んだ」

テンシ ニ コロサレチャッタ。

悪魔は言った。
身の丈の倍はある黒い羽をたなびかせて、悪魔は腰に、人を殺す道具を下げた。

悪魔は、悪魔だった。

これは比喩で、悪魔という名前の者が、悪魔みたく人を、天使を殺していった。










今日も、悪魔は剣をかざして、走っていた。
地面を蹴る。
斬る。

蹴る。
斬る。

避ける。
斬る。

叫ぶ。
斬る。



悪魔は、肘まで真っ赤になった腕を見て、痛い、と、思った。
傷はないのに、どうしてだろうと、思う。



また、ボクはボクとけんかしたんだ。



悪魔は、自分が斬り殺した天使達の真ん中に立って、思い出した。


「愛して、あげましょ、ボクも、ワタシも、タマも、ポチも……」







今日で戦争は終わりだった。
つまり、今日、お日様が西へ沈むとき、悪魔が勝って、天使は一人も居なくなるはずだった。


悪魔達が、居たのは天使達の最後の生き残り達の村だった。

悪魔の隣で、他の悪魔達が、幼い少女を庇っていた女の天使を刺し殺した。


血の吹く音がした。これで天使は居なくなった。



悪魔は目を剥いた。
ゆっくりと、地面に倒れる最後の天使は、悪魔に言葉を教えた天使だった。















何故か、分からなかったけれど、悪魔は仲間の悪魔達を殺していた。
何故か、分からなかったけれど、たまらなく熱くて、どろどろしたものが、口からこみ上げて、叫び声となって、
それが空から雨見たく下に落ちて、悪魔の握っていた剣にもかかった。


そうしたら、悪魔は黒い翼を広げて、叫びながら、地面を蹴っていた。




悪魔と天使の死骸の真ん中に悪魔はいた。

白いワンピースを血で真っ赤にした天使を抱き上げて、悪魔は座り込んでいた。


「……なか、なおり……できたの?」
「出来ない、出来ないんだよ。痛くて、痛くて、たまらない」


悪魔は言った。
彼の血で濡れた手で、天使の金糸の髪を撫で付けると、そこだけ赤くなった。


天使は、細い手をゆっくり伸ばして、悪魔の頬に触れた。

「おまじない、……覚えて、る?」
「覚えてるよ」

微笑むと、天使は言ってみて、と言った。
悪魔は言った。

「愛して、あげましょ、ボクもワタシもタマもポチも」
「まだ、痛い?」
「痛い」
「愛してあげましょって、思わなきゃ」
「やり方が分からないんだ」
「じゃあ、あたしが、愛してあげる」
「え?」


悪魔は、天使の手を握った。


「愛してあげる。あなたもお空もお花もタマもポチも愛して……あげる。ずっと……ずっと」
「うん」
「……大好きよ、あなたも、お空も、お花も、みんな、みんな、大好きよ」
「うん」
「ずっと、一緒に、愛して……あげる……」

にこり、と天使は微笑んだ。
悪魔は言った。


「もう、痛くない」




天使は動かなかった。






悪魔は、初めて泣いた。



ずっと、ずっと、ずっと、雨の日も、晴れの日も、春も、夏も、秋も冬も、泣いた。

血で濡れた地面に、花が咲くころ。
悪魔がいたところと、天使が死んだところには、小さな花がぽつんと咲いた。










悪魔は、野原で天使に会った。


「なかなおり、できた?」

天使はいたずらっぽく微笑んで尋ねた。
悪魔は、黒い羽を折りたたんで、答えた。


「もう、痛くない」

天使の暖かい体をぎゅっと抱きしめて、悪魔は言った。

「みんな大好きだよ。キミも、空も花も、世界も、みんな大好きだよ」







天使は、微笑んで、謳うように言った。

「愛してあげましょ、ボクも、ワタシも、タマも、ポチも、みんなみんな」






悪魔は、笑って、天使をもう一度抱きしめた。


もう、どこも、痛くはなかった。
















2004/07/09(Fri)22:50:30 公開 /
http://business1.plala.or.jp/aim/ryokuin/
■この作品の著作権は林さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
初めまして、林といいます。
なんというか、すごく衝動的に書きました。ほんとうに今までで一番早く書き上げました。
なんと言っていいか分かりませんが、どことなくツッコんでください、参考にしたいです。
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